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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十二章 ユラスへの帰還

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68 息子との再会



あくる日の夕方の事である。



VEGAの事務所に、少し年配の上品な黒髪の女性と、青年と中年の男性が訪れた。全員スーツなどオフィススタイルで身なりも整っている。


呼ばれたイオニアは、VEGAのスタッフに案内され、客人の待つ応接ルームに入った。


「イオニア…。」

向かってサイド席で少し目の潤んだ女性。イオニアの母である。

「はあ」

イオニアはため息をついてしまった。


もう2、3年顔も見ていない。

大学に入ってからは、お金を出してもらったので大学卒業の挨拶に行っただけだ。

そして、向かいに座る二人の男性にもそれぞれ挨拶をする。

「お久しぶりです。おじさん、タイキ。」


「相変わらずだな…。変わっていないような、変わったような…。」

おじさんが懐かしみ、その孫であるタイキは少し驚いているようだった。

「イオニアは…、なんか雰囲気が柔らかくなった気が…。」

「…そうか?変わらないと思うけれど…。よくここが分かったな。」

「アストロアーツで聞いて来た。」

「まあ、そうか。」


「すごいところで働いているな…。先軍人みたいな人たちが事務所の中を歩いていたぞ。」

おじさんがビビっている。

「はは…。で、用事って?」


客人三人顔を見合わせて、おじさんが話し出す。

「会社の世襲制を止めようと思ってね。」

「…え?」

イオニアは一瞬固まる。

「え?兄は?」

「まず会社の話をしよう。これはゼオナスの希望でね。」

「兄の?」

ゼオナスはイオニアの兄だ。この前「幸乙女」を持って帰った男性だ。

「彼が会社を離れたいと…。」

「はあ?!社長職に就任してそんなに経ってないんじゃ…」


下剋上はどうしたんだ。そんなに早くひっくり返ったら、三日天下ではないか。

「こっちも困ってね。でも今までのゼオナスを見ていたらもう限界かな…と。」

「で、兄は?」

「家出をした…。」


「はあああ?!!!」

さらに訳の分からないイオニアである。下剋上という目的を果たし、気が抜けてしまったのだろうか。

大房に来たのは最期に…とかじゃないよな…と心配事が増える。


「イオニアにも家や仕事を継ぐ気がないことを確認してからでいいって、社長職を降りる準備だけして…。」

「あ、まあいいけれど、そういう問題でも……」

社員たちだっている。

「それで私たちも一度イオニアにも確認したくてね。今、副社長だった私の息子が代理で立っている。弁護士にもお願いしているし、いろいろ整理しないといけない。」

おじさんは祖父の代からの友人で、年下のイオニア父と共に会社を大きくした。現在、息子さんが会社を収拾し、目の前にいるのはおじさんの孫でありイオニア兄と経営を共にしていたタイキだ。イオニア父は現在言葉もなく寝たきりである。

「本人がいないと出来ないこともあるし、実際の書類が動くのはゼオナスが戻って来てからになるが…。」


どうしたらいいのか正直分からない。


「イオニア、ごめんなさい…。私があなたたちに何もできなかったから…。」

息子に謝るこの人の声を聴くとため息しか出ない。

でも、多分この人はこの人で精一杯だったのだろう。ずっと父に見下されてきたのだ。良家の子女だった人が。


「まず、イオニアに実家に戻る意思があるのか確認したくて…。」

会社と実家は近い。兄が戻らなければ自分も手伝うことにはなるかもしれない。


アーツの事が思い浮かぶ。

でも、響のいるここでこれ以上働きたくもなかった。嫌われてはいないと思う。でも、響の心はもう一方を向いてしまったから、多分自分には向かない。

「………」

「……」

みんな沈黙してしまう。


「……戻れません。自分は今まで何もしてこなかったので無知ですし。今更できることもないのでおじさんたちに任せます。」

「…でも君はまだ若いからな。これからどうにでもなることもある。」

「…イオニア……」

タイキも心配そうに見る。

「……あんまり向いていないと思うんです。会社とか。」

イオニアは笑うと、立ったままの一同と席に座り、もう少し話を詰めることにした。




「イオニアどうしたのー?」

お客さんと部屋に入っていったのを見たファイが気になって仕方ない。イータに聞いてみる。


「ご家族たちがお見えになったみたい。」

「え?イオニア本当に実家に帰るの?」

「…どうかな…。」

「引き留めようかな……。」

「でも、最終的にはイオニア次第だからね…。」




話し合いが終わったのか全員が出て来た。

イータに気が付いた客人たちは、挨拶に近付いて来てサラサも含めしばらく立ち話をしている。なんとなくそちらを見てしまうファイ。イオニア行かないでと祈ってしまう。



「なら少しここを見学させてください。」

「どうぞ。またよかったらいつでもお越し下しい。」

サラサがそんな言葉で締めて、客人とイオニアが歩き出す。事務局を見ながら、簡単に事業を話した。経営者らしく彼らはVEGAも河漢事業も知っていた。

ちょうどフェクダや一番大きいクラズがいたため、「イオニアのお母様ですか?えっと…」「友人です」など、イオニアですら既に威圧感があるのにさらに人を殺せそうな人たちに囲まれて、タイキとおじさんは委縮していた。



それからどこを見せようか迷っていると…


「こんにちはー!イオニアのお友達のファイです。」

「知り合い程度だけど…」

突然現れ自己紹介するファイにイオニアが付け足しておくが、イオニア母はうれしそうだ。

「母です。いつもイオニアがお世話になっています。」

「こいつには、なっていないから……」

「ウフフ、あちらの大競技場周りが今おもしろいですよ。資格習得もできる習い事とかもしてるし学校があります!」

「いい。あっち行こ。」

ファイは大体ろくでもないことしか考えていない。

「あ、でも、移民で来た人たちが行く学校だよな?見てみたいな。今度多分外国人も起用していくんだ。」

全員乗り気になったので、仕方なく連れて行く。ファイの奴、後で覚えておけとイオニアは思う。




みんなに簡単に説明していく。

「そっちが学校。中学校かな?母国で教育できなかった大人も参加している。ベガスでは基本、中学までは全員卒業が義務付けられているらしい。本当はアンタレスだから高校までが義務なんだけど、まあそれは段階的に。

若い人は高卒までは行くかな。よぼよぼのおばあちゃんとかは無理だったりするけど、でもどうにか中学校まではみんな結構頑張ってる。」

「へー。」



一部を回ったところで、会いたくない人に会ってしまう。

「あれ?イオニアさん!」

響とリーブラである。


「お知り合い?」

母が聞くので、イオニアがテキトウに答える。

「あ、友達…。」

すると、講習で奥様に慣れた二人がどんどん聞いてくる。

「お客様ですか?イオニアさんこちらは?」

「…母と、知り合いのおじさんです。」

「初めまして、私は昔馴染みのタイキです。」

タイキは少し緊張して答えた。黙っていれば泣く子も黙る響お姉様なのである。

「わあ!イオニアのお母様?!キレイな方ですね!」

リーブラも喜ぶので、母も小さく笑う。二人も簡単に名前を紹介した。


「何でここに?」

思わず引きつるイオニア。

「さっきここでお香してて。」


「お香?習い頃ですか?」

お香という言葉に母が食いつく。何せイオニア母の実家はお茶の師範。

「いえ、私が講師です。」

「こちらでお仕事を?」

さすが経営&営業畑の人間。おじさんもどんどん聞いていく。

「私は藤湾大学で漢方の講師をしております。お香は親がしていたので少し…。」

「先生なんですね!」

「と言っても、生徒としても通っていますが…。」

響が苦笑いするが、話はさらに盛り上がる。


「え、先生、漢方って…。もしかしてベガスに漢方科とかあります?普通の内科でもらっているけれど効いているのか分からなくて…」

「母さん、もういいよ。」

母、なぜここで聞く。


「いい先生ならご紹介できますよ。先生の病院は中央区の方ですが。」

「ここには病院は?」

「ベガスは外部の先生が多いんです。ベガスにも総合病院があるけれど、ここまで通うのは不便でしょうから。」

あー、やめてくれ!とイオニアが心で叫ぶ。


「待った待った!見学するだけだろ!!そこでおしまい!!!」

イオニアが両者の間を仕切った。

「えー?なんで?」

リーブラが不満そうだ。

「お前と響先生は帰って!」

「えー!」

「俺も早く帰りたい。話を長引かせないでくれ。女同士の話は長引く!」

「イオニア、時間なかった?ごめん…。」

タイキが申し訳なさそうに言うので、イオニアは弁解する。

「違う、友達の中でもうるさい人たちなので話が終わらない…。」

「失礼だね!お客様相手にそんなことしません!」

リーブラが怒る。

「あら、お話好きなの?」

イオニア母が手を叩く。

「先お香って言ってましたよね?香道ですか?それとも…」


これはヤバい。

「あ、まだ早い時間ですし、そこにカフェもあるし女同士で…」

リーブラが乗り気になるが、最終手段でイオニアは母の手を引っ張った。

「おじさん、タイキも行こう!」

「えっ、すみません。また。」

そう言って男二人も急いで着いて行く。

「えー?何々?なんでそんなに嫌がるのー??」

置いてきぼりを食らったリーブラと響はぽつんと立っていた。



息子に手を引かれる母は、その手を見る。

もう何年も触ったことはなかった手は、スマートに見えるのに厳ついその父より大きいので驚いた。

母は少し安心し、そして嬉しく思った。




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