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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十二章 ユラスへの帰還

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65 親離れ娘離れ



「引っ張り出して!連れて帰るから…。」

小さくも怒りのこもった声でロディアが呟く。


「タチアナどうしたの?この方は?気分が悪いなら医務室行こうか?」

廊下で歩きながら談話をしていたリーブラが気になって寄ってきた。女性が震えていたのでドアのところまで来たのだ。

泣きそうで怒りが勝ってしまった顔が痛々し過ぎて、タチアナはロディアに手に持っていた自分の薄いジャケットを被せた。ロディアが少し驚くが、ここはギャラリーが多すぎる。


サルガスがサラサに伝える。

「娘さんです。」

絶句のサラサ。

「ヤバい親だね…。取り敢えず個室に移りましょう。そっちの部屋に。イータ、お茶準備できる?」

「あ、はい。」





個室に移ったサラサ、サルガス、タチアナ、そしてロディア親子。


「だから……、雰囲気が良かったからいい関係になれるんじゃないかって。」

ロディア父がしどろもどろに答えている。


「いい加減にして!そんなことされたら誰とも会話ができないでしょ!」


「とにかくお父様、せめて一対一とかで紹介したらどうですか?」

婚活パーティーでもないので、サラサが当然のことを進言した。

「先はサルガス君にだけ言ったじゃないか…。でも断るから………」

「そういう意味ではありません…。一対一の時に…」

「そんなことをしているうちに30を越してしまった…。」

「だから何なの?!」

ロディア、怒りが収まらない。


ロディア父は悲痛に言う。

「私まで死んでしまったらどうするんだ…。」

「お父さんの遺産を貰って、会社も売って、後は自分でも稼いで勝手に生きます!!」

ええ?みたいな顔をするロディア父に、ロディアはさらに怒る。

「そうやって、また私の居場所を無くす気?ディナイにも惨め過ぎて帰れないし!!」

「ディナイでも?!」

「父はディナイの社交界で同じことをしたの!!ありえない!」

「え?ディナイってどこですか?」

分からないタチアナがいろいろ詳しすぎるサラサに聴く。

「ヴェネレ人が大半を占める国の首都…。」

それは気の毒過ぎる……。おいおい、父よ。どれだけ余計なことをしたのだ。

「ロディアはいろいろあって知り合いもあまり作らないし…」

いやいや作れなくなったのでは………と思う。


「もしかしてそれで移住してきたとか…」

恐る恐るサルガスが聞く。

「違う、事業で来たんだ!」

もう何を言っても言い訳に聴こえる父の言葉である。


ノックが聴こえ、お茶を出し去ろうとするイータをサラサがそっと引き留めた。イータはどうしていいか分からず、石のように壁に立っている。


「亡くなった母がロディアを心配して、早くいい人を見付けてくれたらって夢の中で…。」

父が切なく語りだした。

「だから何?」

ロディアのブチ切れが止まらない。

「30過ぎたんだぞ!!」

「あの、わたくしも30過ぎていますが何か?」

今度はサラサが冷静に返す。静かなサラサ、怖い。


「ロディアはハンディがあるだろ!」

「………。」

「妻は、膝を悪く生んだことをとても気に留めていて…。」

「障害があっても結婚されている方はいっぱいいますよ。ベガスにもウチの事務所にもいますし。」


「…それだけでなく、ディナイで美人と評判だった母に似ず私に似てしまって…」

「………」

これは娘に対してどうかと思うみんな。

「妻が美人で社交的だった分、ものすごく比べられて…。性格も妻の反対だし………。少しお付き合いの話を出しただけであの男たち………」


「お父様!そこまで!」

無言で顔をあげることすらしなくなったロディアに、サラサがここで判断を下す。

「イータ。ロディアさんと他の部屋に移って!」


しかしロディアは制する。

「もういいです!家を出ます!父とは距離を置きます!!」

そう言って車椅子を動かす。

「ロディア?!」

ロディア父が立ち上がるが、動き出す車椅子を追わせずイータに任せた。





イータは一旦入口付近のフリースペースに連れて行く。タチアナが思わず追いかけて来た。


テーブルを囲んで少し落ち着いてからタチアナはゆっくり話す。

「ロディアさん。先の事は気にしないでください。アーツもここも変な人が多いので、多分みんなロディアさんが思っているほど気にしていないと思いますよ!」

「そ、そうだね…。」

イータは思わず同意してしまう。

ロディアを見る限りシビアでまじめな世界で生きてきたのだろうが、ここでは噂は立てど、(ほか)も相当であるので、伝説が1つ増える程度であろう。それすらロディアは耐えられないかもしれないが、おそらくアーツの脳内とロディアの心の重みはかなり違う。

お父様は「婚活おじさん」…と、クルバトノートに名は刻まれるかもしれないが…。


しかも、ベガス河漢にはアーツとVEGAの職員以外も含めると150人以上のスタッフがいて、賛助会員なども合わせるとかなりの数になる。アーツとVEGAをトラウマにしてほしくない。というか、アーツやVEGA関係を避けたらベガスまで居場所がなくなる。


「そうだよ。ロディアさん!私ここの総務のイータです。」

ロディアが目だけ上げた。

「なんか知り合いもできたみたいだし、ベガスにいればいいですよ!軽く考えましょ!」

「知り合い?」

「俺たち、俺たち!」

タチアナが自分に振り、イータも自分を指してロディアの膝にある両手をしっかり握りにっこり笑う。


「………分かりました。でも父の元は離れます。甘え過ぎていたんです。河漢の寮が空いていたらそちらに移動しようかな…。」

イータが止める。

「河漢は障害のある方にはあまり向かないです。女性で寮に入る人もほとんどいないし…。」

「…生徒のことは気になるけれど……仕事も他で探そうかな…。」

「ひとまず今日はウチに来ません?子供はいるけど、夫には一晩出てもらうので!」

タウ、追い出されるんか。と憐れむタチアナ。

「タチアナ。タウに説明よろしく~。行こ、ロディアさん!あ、ちょっと待って!荷物持ってきて…リーブラと響さんも呼ぼう!あの2人大学通ってるし。」


自分の周りにはいなかった、紫髪のファンキーお姉さんに動揺してしまうロディア。出勤で白のロングワンピースを着ている人なんて初めて見た。考えてみればここは世界が違う。

話が合うのだろうか…。帰りたい……。あ、今日はホテルにでも泊まりたい…。でも、家を出たことなんてないので、どうしていいか分からない…助けて…と思ってしまうのであった。




***




一方、婚活おじさんことお父さん。


「お父様、娘さんの結婚は娘さんの人生です。乗り気でないのに強制するのは親でもアウトです。あんなに大勢を前に嫌がらせもいいところです。

ハッキリいます。最低です!」

「…。下手な鉄砲でも数打てば当たると思って………。」

「的に当たる前に、娘さんの心も評判も打ち砕けてしまいます。」

「…………」


サルガス的には職場も父と近過ぎるのでは?と感じる。河漢と河漢だ。

「おじさん。ずっとロディアさんと一緒に暮らしてたの?」

「…まあ。」

「ロディアさんと離れてみたら?」

「………。」

「結婚よりも人間関係を作ったり自立をしていく方が先だと思います。」

「……でも、ヴェネレ人社会では失敗した…。」

「何も首都の中心で作る必要はありませんよ。アンタレスでも難しいのに。」

サルガスの言葉が痛いほど分かるサラサである。

「まさに。」

ベガス構築も中央区の中心地、エリート層は懐柔できなかった。最初のベガス計画のパートナーは大房でなく本来倉鍵をはじめとするアンタレス中心地だったのだ。


「今日は、ロディアさんは私たちに預けて下さい。」

「……さみしい…………」

しーんとしてしまう。

「妻が死んでからずっと隣にいた…。」

「お父様。少し落ち着いたらまた電話してみてください。ひとまず今日だけよろしくお願いします。」

「……」


あまりにも落ち込んでいて、変な気を起こさないか心配だ。地面にめり込む勢いで落ち込んでいる。たまらずサルガスが言った。

「おじさん、ロディアさんは女性に任せてこっちは飲みに行きましょう!」

「えっ?」

「サラサさんもたまには早めに切り上げて行きます?」

「私も女なんですけど。」

少し不満なサラサであった。




***




そして、ロディア父、サルガス、タチアナ、サラサ、南海の担当者テスとオルテ。


それからタウと、先ほどの事務局の男職員2人、そしてなぜかタウ父。タウ父が来るのでキロン。シグマとシグマに引っ張られていったイオニア。どこにでも現れるクルバト書記官。

最後に、私だけ女子じゃん!とサラサに引っ張られて来たハウメアという、あまりない顔ぶれの賑やかな人数で飲みに行ったのであった。


アーツは酒は飲まなかったが、タウ父とロディア父は熱く飲み交わし、子供が全然言う事を聞かないと嘆いていた。


もちろん子供的には、親が全く話を聞かないと思うのであった。




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