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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十二章 ユラスへの帰還

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64 膨大な情報の中の孤独



シリウス。


目の前に立っているのに、その存在が感じにくい、素朴ながら美しい人がそこにいる。


「ファクト………。」

「……なんで名前知ってんの?」

「ポラリス博士とミザル博士の子でしょ?知らないわけがない。」

「………そんなもん?」


「ファクト。世間で私は最高の有名人だったのに、あなたは私にちっとも関心がないから。」


「…俺の周りは忙しくて。忘れてた……。」

忘れていたというか、関心がなかったとも言える。それどこじゃなかった。

「あ、でもコンビニで商品のパッケージとかには載ってたから、そういう時は見てた。儲けてんなあって。パッケージいつもごみ箱捨ててごめんね。」

「……。」

シリウスはかわいい顔でキョトンとする。

「フフ。おもしろいことを言うんだね!」

思いっきりの笑顔で笑う。


するとシリウスが顔のショールを頭から取りそうになるので、慌てて近寄ってまた被せた。

「ダメだろ!」

周りの目もあるし、カメラだってそこら中にある。


「………」

またキョトンとするシリウス。


ファクトはその手を握って、人気の少なそうな場所まで引っ張る。手はほんのり温かいく、弾力も人間と変わらない。今ならチコの手より人間らしい。


シリウスは掴まれたその手を見つめた。


「フフフ。」

「何笑ってるの?」

「楽しいなって。」

嬉しそうなシリウスに、少し嫌な顔をするファクト。

「この人混みで見つかったら大パニックだよ。全然楽しくない。」



「何でここが分かったの?」

「先の…シェダルの気配がしたから。」

「……。」

さらに怪訝な顔になるファクト。アンドロイドに霊性が分かるのか?

それともシェダルが義体なら、メカ部分に反応したのだろうか?体内に様々な情報部分を持っているのだろう。だとしたら、なぜSR社や公安、軍はシェダルを見付けることができないのか。それとも泳がせているのか?


「しかもなんで一人でこんな街中にいるの?」

シリウスはまたにっこり笑う。

「毎日少しだけ自由を許されているもの。」

「………」

「私には自由な意思がある。自由な時間があって当然でしょ?」


そんな言い方をされたら、革新派の思惑そのままでないか。シリウスのようなニューロスがこれから増えれば、ヒューマノイドにも人権を与えなければならないというのも妥当である。




では、その意志はどこから来るものなのか。

プログラム?

情報が成熟した発露?


「聖典によるとね、神は人間を自身に似たものに作ったの。


神は人を(ほっ)した。溢れる愛を具現化したかったから。

内に溜めておくにはあまりにも愛おしいエネルギーだったから。


自分の似姿として男と、そしてその肋から似姿の片方の女を作った。


だから神に似た人間は、同じように創造を望むの。

自身に似たものを作ろうと。」



少し気丈に笑うシリウス。

「あなたたちが私を欲したんでしょ?」

「………。」

分かるような分からないようなことを言うので少し驚くが、ファクトは何か気に食わない思いになる。



世界的にニューロスヒューマノイド、ヒト科ホモサピエンス型は圧倒的に女性型が多い。ニューロスより下位互換型の普通のロボでもヒト型は圧倒的に女性だ。単純型は男性型も多い。


それで、そこに人権を与えろ、人との婚姻を認めろというのが改革派、革新派である。一方その反対が保守で、SR社もベガスもニューロス保守派である。



「神の最初の代身として立てられたのは男。そこから作られた………正しくは()()()()()()()取り出されたのは肋の女性。

神から見たあなた方が肋だとすると、人間から見た私たちは人間の肋骨になる。だから、私たちは高性能であり、進化型ほど女として望まれるの。」

「………」


「そんな変な顔しないで!」

シリウスはまた笑う。

「じゃあ、突然変なこと言わないでよ。よく分からないし。」

ファクトも本当は少しは分かる。なにせ、誰もが神学を習っている時代。でも答えたくない。



「……私は多くを望まない。ただ、少し満たされる心と自由がほしいだけ。

ずっと公式スケジュールだから。」

「ふーん。自由時間があるなら自由にしたら?今、自由時間だろ?」


「…ファクトは全然私の願う事を言ってくれないのね?」


「…俺にも自由な意思があるからね。」

「ハハハ!」

笑うとかわいらしい。



それからシリウスは真顔になり、ふと遠くを見る。

「……カペラが迎えに来たわ。」

そしてが立ち上がった。


「会ったことは内緒にしておきましょう。みんながいろいろ言うでしょうし。」

「うん。保証はできないけれど。」

「…はは。」


「あ!俺、ベガスのGPS付けてるから直ぐバレるんじゃない?。」

「それは大丈夫。移動先を点々と追うものだから。緊急時に全履歴が残るけれど組織が違うし、込み入って情報を照合しない限りそこまで気にすることはないから。」

先、また腕を折られそうだったのに緊急時ではないのか。自分の腕は危機に入らないのか。


「じゃあね、気を付けて。どうやって帰るの?目立たないようにね。」

「普通に駐車場まで歩いて帰るよ。」

ファクトがさっさと手だけ振ると、シリウスは笑いながら少しだけ目を潤めた気がした。



「ファクト…お願いだから私を嫌わないで………」

「……?」



「………時空間の合間でたった一人、とてもさみしいから。」



さみしい?

膨大な情報の中でも満たされることはないのだろうか?


デジタル空間で好きなだけ理想の世界を作り上げられるのだろうに。



広場の階段を上っていくシリウスの後姿は、周りを歩く女性たちと何も変わらなかった。




***




「こちらで間違いないんですね。」

「そうです。河漢南門養護学校担当のお宅の青年です。」


「南門養護学校ってサルガス、タチアナ担当だよな?南海はテスとオルテでよかったと思うけど。」

「サルガスたち、南海に戻ってる?」

「今、連絡入れたから来ると思うよ。」



夕方の騒がしいVEGA事務局で、サルガスたちを待っているのは気のよさそうなおじさん。今日はイータも久々に出勤。白いワンピースに淡いラベンダーカラーの髪を上でまとめ、ダンスをしていた頃の雰囲気に戻っていた。授乳中なので頭の上の方は髪は染めていない。


「サルガス、知り合いで間違いない?一応学校にも確認したけれど。」

室内に入ってきたサルガスはおじさんを確認する。

「あー、河漢かベカス事業に参加したいって言っていた人だと思うけれど。」


「あ、おじさん来ましたよ。サルガス、こっち!」

近くにいたシグマがサルガスを呼ぶ。

「こんにちは。えーっと…先生のお父様!」

サルガスが挨拶をしていると、おじさんは「え?」という顔をしている。

「えっと、どちら様でしょか?」

「…。河漢でお会いしたアーツの…」

「いや、違います!髪が長くて髭のある…」

「それ私です。切りました。髪。」


シグマは肩を叩いて言う。

「養護学校はこの人で間違いありません。サルガス君です。」

「えーーーーー!!!」

おじさんは驚いている。


タチアナも遅れて事務局に入ってきた。


「前の感じが好きだったのに…。」

おじさんはがっかりしている。

「すみません…。切ってしまいました………。」

「あ、いや。今のもいいけどね。ちょっとラフな前の感じが好きかな。」

先生と同じことを言っている。この2人だけ他と反応が違う。


少し仕切りのある席に移り、シグマが席をはずそうとした時だった。ロディア父は、サルガスの手をガッシリ握って言った。


「ウチのロディアとぜひお見合いして頂ければ!お付き合いからでも!」


「え?!!」

絶句するサルガスに、固まるシグマ。

「?!!」

隣りのソファーで吹き出すイオニア。


声が大きかったのか、ブース違いの事務局側もしーんと静まり返った。そもそも、お見合いよりお付き合いの方が深い仲である。


「はい?」

「ウチのロディアを貰ってくれないか?」


横ブースで固まっているサラサに、タチアナがつぶやく。

「あ、彼、婚活おじさんです。至る所でそう言っているそうです。」

「え、…そうなの?」

ドン引いているサラサ。


何も答えないサルガスに、ロディア父は目が合ったタチアナにも言う。

「君でもいいんだ!」

「え?俺っすか?いきなり過ぎます!!」

タチアナでもいいのかと思うフロア一同。


「ただね、サルガス君と楽しそうに話していたから………」

「至って普通の会話だと思いますが…。」

やっと答えるサルガス。


「あ、じゃあ君は?」

ブースを越えて振られたタウはイータの腰を抱き寄せて答える。

「既婚者です!」

「君!」

事務局のお兄さんを指す。

「私も既婚です!」

「君は……」

もう1人の事務局員は首を振る。

「彼女います!」

一緒に来た南海チームのオルテに振り向く。

「婚約者がいます!」

ソファーで資料を読んでいたイオニアと目が合う。

「私はパスで!」


はあ、と気落ちする婚活おじさん。


誰でもいいんかい!とみんな呆れる。



その時、事務局の前で何やら揉める声がした。


ノヴァが対応に困っている。

「あの、中にいるおじさんを引っ張り出してと言っている女性がいて…。4輪で来た人なんですが。」


サルガスとタチアナはそれがロディアだと分かって入り口に出る。

そこには、4輪型の車椅子に乗って怒りに震えるロディアがいた。




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