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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十二章 ユラスへの帰還

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62 あっという間



しかしチコの願いはかなわず、本国から帰国命令が届く。


ムギが心配して着いて行くと言ったが、ムギは立場上ダメ。デネブ、響は仕事がある。家族といっても微妙な位置で男であるファクトは対象外。


その日の夕方には、チコの介護をしたユラス人女性たちを伴うことにして、ヘリで移動の後飛行機で帰国することになった。あまりに落ち込んでいるチコがかわいそうで、サルガスやタウ、ヴァーゴ、リーブラなど何人かヘリポートまで見送りに行った。


エリスが祈ってくれる。

「チコ、心配することはない。行ってきなさい。天が導いてくれる。」

「はー。」

観念はしているが、気迫が全くない。


サルガスたちが話しているところに、一人の女性が走ってきた。

「チコ様ー!!」

陽烏(ようう)!」

その女性はチコの前まで来て抱き着いた。

「チコ様、私がお供します!」

「何言ってる。学校があるだろ。」

「でも…。」

合間に入るのはエリス。

「陽烏、失礼だ。まず周りの人間に挨拶をしろ。アーツだ。チコや私と仕事をしている。」

「お父様…。」


「お父様?!」

みんな驚く。


「え、あっ。すみません…。私、参宿(サンスウ)エリスの娘の陽烏と申します。藤湾大学医療デザイン専攻3年生です。」

振り向いた女性は少し褐色の肌にクリーム色の髪。そして輝くような青緑や茶の混ざった美しい目を持った女性であった。

「めっちゃかわいー!!」

ファイはあっという間にホレる。


「どうも。私はアーツの代表でサルガスといいます。」

サルガスが礼をすると、陽烏がその目をじっと見入っている。

「こっちもアーツの人間です。」

と、みんな方を一気に紹介すると、全員礼を返した。

「よろしくお願いいたします!」

大勢いるので戸惑いながらも初々しく陽烏は頭を下げた。


「はー。これからどうなるんだ?まさかチコ、このままユラスってことなないだろうな…。」

サルガスが頭を抱える。

「多分大丈夫だと思いますが。チコはユラスだけの役職や関係ではないですからね。」

カウスは安心させるように言う。



その後ろで、勘のいいタウとクルバトは、陽烏の眼が完全に1人に囚われているのが分かった。


はい、サルガスきたーーーーーー!!!!!

と、クルバトは頭で思いながら、全く顔に出さずにみんなと話している。

「ニューサルガス強いな…。」

「は?何のこと?」

リーブラはタウに聞くが、タウは何でもないと2人の様子を見ていた。




***




その翌日夕方、早速ユラスのニュースがアップされていた。


全員、事務局横の会議室で、見入っている。


時差はあるが既にチコは何かの会見や式典に組み込まれたのか、公式な場に参加しているようだった。サダルという男の横に、黄色い民族衣装を着た女性が立っている。ここでもフラッシュだらけで様々なマイクが向けられていた。


「この黄色いドレスの人、チコさんじゃね?」

「おおおおーーーーーーー!!!!」

ユラスの民族衣装のようなものをまとった、毛先がややくせ毛のストレートプラチナブロンドの女性。まさしくチコであろう。カメラを引いた後ろ姿だが、そんな感じだ。それにしてもウチの番長が、あのおどろおどろしい男性社会に本当にいるとは、憐れであり驚きでもある。


中継の会見が始まって前に出るとアップになった。

着飾ったチコさんって初めてじゃないか?と盛り上がっていると、チコは下を向ている上に肩にかけていた大きなショールを頭から顔に被ってしまった。

前を向いても顔がほとんど見えない。

「おいっーーーーー!!!」

「なんだ!このお楽しみのな無さは!!」

漫画なら、普段男みたいな女性が着飾って「おーーー!!」みたいな展開なのに、これはおもしろくない。チコは5分ほどの中継の間、ショールを外すことも腕や首を出すこともなかった。


「まじかー!!」

あれで許されるのかといいたい。発言もなかったし、あんなの影武者でも十分ではないか。本当は逃げ出して、影にすり替わったのかと思うくらいだ。ユラスが許しても、下町ズは許さない。



そして、エリスの娘が超絶美人という事も話題に上がっていた。ただし、エリスも恐ろしいことこの上ない立場なので、妄想CDチームは妄想で十分なのである。クルバトノートに新しいキャラやキャラ設定が増えるのが楽しいのだ。『エルフの姫、回復系』が加わり大満足である。

「あいつらはどこまでバカなんだ。」

下らないことに一生懸命になっているメンバーにサルガスやタウが呆れていた。




***




一方、ユラス首都でチコと面会することはなかったが、旧友の帰還にユラスに戻っていたワズンは安心と共に複雑な感情を抱いていた。


中継でチコの姿を見ながらため息をつく。

「ワズン大尉、北メンカル側の撤退が完了しました。」

「分かった…。」


今回の交渉はタイナオス同盟国である北メンカルの人質4人の解放と、生活物資の大量支援、エネルギー供給システム、そして連合国通貨だった。

最初の話は、アジア圏で生まれたタイナオスと北メンカル指導者層の子供も含まれていたが、帰らされたらどういう目に合うか分からない。ギリギリまで粘って子供は引き留めることができた。その他こちらが交渉内容を抑え込んだ理由もあるが、武器ではなく建築物資、ライフライン供給、食糧など。大金が動けば通貨など直ぐ協力組織の足が付く。全体的にあまりにもお粗末だ。


北メンカルのほころびが見え始めていた。




***




そして、もっと驚くことが起きる。



チコはその次の日の朝には帰って来ていたのだ。このままユラス帰省どころか、ほぼとんぼ返り状態。


「え?何のためにユラスに行ったの?」

誰もが言いたくなる。


公式会見などの動画を探しても、昨日みんなで見た動画と、もう1つしか公式な仕事をしていない。同行したユラスの女性たちや、遅れてサダルの元に向かったカストルの方が長居するらしい。

「チコさん、旦那様の近くにいなくていいんですか?」

もう何事もなかったように仕事の準備をしているチコは、「は?」みたいな顔をしている。


「ほら、なんというか。するしないにしても、旦那様と夜を過ごすとか!」

ファイがぶりっ子してかわいく言う。

「あー。なんか夜中まで仕事をしていて、自室にも来なかったし。」

「じゃあ、ユラスでするべきお仕事をしたり、知り合いに会ったり!」

「とくにすることはないな。」

絶対にそんなわけがない。この変化の時に仕事がない訳がない。

「旦那様をサポートするとか?」

「仕事ができる人だし、周りが優秀だから余計なことをしたら邪魔になる。」

そういう問題ではないのに。ファイや周りが呆れてチコを見る。話にならない。


「プライベートで会話はしたんですか?」

ベイドがここだけは押さえてほしいと、熱い目で質問する。

「……」

考えるチコ。

「『体変えたんだな。』って言われた。」

「体??」

体質改善でもしたのか。…クルバトはだいたい事情を察するが。

「それだけ?」

「あとは…『元気だったか?』かな?」

「………。」


「チコさんからはなんて言ったんですか?」

「『いろいろすみませんでした。』と、『体は大丈夫ですか?』くらいは話した。」

「………。」

ベイドたちは唖然とする。6年越しの釈放なのだ。

「そ、それだけ?それは会話というか、挨拶です!!!」

ファイが切なくて泣きそうになる。


大房のオバちゃんの如く、人の結婚の世話をする前にあなたがちゃんとしかるべき相談をされなさい!と一同は思う。ファクトがかすり傷を負ったくらいで、ワーワー騒いでいるのにこれとはどういうことだ。


「今日は河漢の方の話を詰める。忙しいだろ。行くぞ。」

と、チコは動き出す。

「チコ、俺らだけで大丈夫だからチコはベガスで待機していてくれ。いつ何の話があるか分からないし。」

サルガスが止める。

「……私が行った方が話が早いだろ。それにサルガスは少しスケジュールの再管理をしろ。体壊すぞ。」

確かになかなか話が通じない河漢の人間には、地位や力があるチコが出向いた方が早い話もある。でも、今すべきことでもないし、アーツや南海の人間自身で信頼や顔を売っていく必要がある。


そこにサラサがやってきた。

「総長、おはようございます!」

「え?サラサ…」

「なぜここにいるんですか?ユラスでもベガスでも護衛たちが戸惑っていましたよ?今日は私とお話ししましょうね!」

サラサは嫌味っぽく言い、チコを事務局に連れて行ってしまった。



「私も仕事いこーっと!」

ファイも職場に、みんなもそれぞれ動き出した。



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