表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十二章 ユラスへの帰還
63/110

61 不貞寝



広い会議室が固まる。



「もう一度言います。サダルメリク・ナオス氏の奥様、ナオス夫人です。」

「??」


あれ?チコは族長の娘か姪で、バツイチかも…という感じではなかったのか?ネットの情報はそれに関してほとんどなかった。そんな話はあっても、ガセネタに紛れている感じで本当だと思わなかったのだ。

「妻と名乗って、家長乗っ取りをしようとしている」的な勢いの記事は何度も見た。そんな事しそうにないので、信じていなかった。


チコは横を向いて誰とも目を合わせない。



シグマが手を上げる。

「あの、チコさんは独り身ではなくて?」

未婚であろうが離婚歴があろうが、今一人なら独り身である。


「立派な奥様です!」


えええええーーーーーー!!!!!!!

という感じの一同。


サルガスが驚くのはもちろん、バツイチの可能性すら知らなかったメンバーにとっては青天の霹靂状態。

「マ、マジか!」

「え?そうなの?」

ファクトもびっくりだ。

「ファクト!お前も知らなかったのか!!」

「知らない。」



そして、一同冷静に考える。


「捕虜から6年越しに帰還した旦那を放ってベガスにいるって……」

「チコさん、マジ早くユラスに行ってください!」

「旦那さん、待ってますよ!」

と、言いつつこの前チコの捨て台詞を聴いていたメンバーは思う。旦那が嫌いなのか?


検索でもこんな情報は出てこなかった。少なくともテキトウに調べた限り、偽奥様とかはあったが。叔父にしても、結婚はさすがないと思ったのでどの情報も信じていなかった。



でも、そういう問題ではない。

「立場的にもそれはヤバいんじゃ…。ユラスの人は納得するんですか?」

ファイもたまには普通のことを言う。社内会議みたいなのを優先している場合ではない。


「お前らうるさいな。さっさと議題を進めろと言っているだろ。カウスに行かなくていいと言われたんだ!」

遂に怒るチコ。駄々っ子か。カウスに何の権限があるのだ。


タウが止める。

「チコさん、サラサさん。やめて下さい。学生もいるんですよ。」

その通りである。今日は第2弾は一部メンバーしかいないが、仮にも会議中だ。

「とばっちりを受けるのはカウスですよ。」

サラサが言うが、もうチコは答えない。

「……では議題を続けます。」

この異様な雰囲気で続けるのか。



仕事の割り当ての他、高校大学生は奉仕や社会学習としてアーツでの人材育成、地域活動も学校の単位に入ることなど話している。今後、学生たちがインターンや授業としてVEGAやアーツに参加してくれるかもしれない。


関わる全員が習得するべきことや、割り振り。誰もが安全を守り、計画内容などの一定の講義や講習をできるようにし、外部人員が来たときにも対応できるようにするマニュアルも作る。行政や他団体と関わる時の線引きなど、固めていた初期案を再考していく。


現在、最終的には藤湾にもそれぞれの特性を生かした組織を作る予定でいる。南海青年は既にアーツと一緒に活動しており、藤湾はVEGAに付属させるかカーフを立てる予定だ。





休憩に入ると、女子たちがチコの元にやってくる。

「チコさーん!いいんですか?旦那さん放置して。」

リーブラが心配そうだ。

去ろうとするチコをハウメアが後ろから抱きしめて止める。

「チコさん、もう少し一緒にいましょう!」




前の方の席では、デバイスでネットニュースを見ている男子たちが、画面を見てちょっと引いている。


現在の東アジアではもう見ない雰囲気。

ユラスのナオス族の地、ナオス系最大国家ダーオの首都の大講堂は大人の男ばかりで埋め尽くされ、「サダル!サダル!サダル!!…」と手を振り上げ上げて大合唱している。


本人が出てくると、ワーーーー!!!!と大歓声が上がり、大講堂が揺れているようだ。彼が手を上げると静まり返って全員が天に礼を捧げた。そして、何か祈祷をし、終わると再度天に敬礼をする。


その後ユラス語で何か演説のようなものをしている。現地のネットニュースなので公式な翻訳はなく、デバイスやアプリの同時翻訳機もあまり意味を成した言葉を出してこない。

サダルという人物が、言葉を発するたびに全体から歓声が響き、スゲーなと思ってしまうアーツ。


これ、ヤバい系のライブなの?ここにいたら潰されそうだ、と(おのの)く。


「これがチコさんがいた世界の中枢部です。」

近くに来たサラサの声にみんな我に返り、え?女性いないやん?とビビってしまう。

「まあ、実際は僻地の方に多くいたので、こういう所にはそこまでいなかったですが。」

女性が入ったら潰されそうだ。


ベガスにいるカウスたちユラス人の雰囲気とあまりに違い、ちょっとチコに同情してしまう。



他のニュース動画に変えると、廊下を移動中の風景が写し出されている。雑然とし、フラッシュなどが次々たかれ、カメラもめまぐるしく動く。


付き人か部下なのか。何人もの男たちが移動する前方に、初めて女性が写し出された。

赤い服を着てユラス特有の褐色肌と淡い髪の女性は、はっきりとは映されないがモデルのように美しいシルエットである。その女性はサダルに近付き何か話している。サダルも一言だけ話していたが、顔を触れられそうになったところで女性が止めていた。カメラが回っていくと、別の方にもたくさんの女性たちがおじおばのような人と共にいて、礼の形で待っていた。


「演説自体は、悪いことは言っていないです。自分を待っていてくれた同族への感謝。未来の立て直しや平和的な交渉作りとかかな。

赤いドレスの女性は外相の孫ですね。一瞬映った濃い緑のドレスは長老院の親族の子です。後は…見えなかったな。」

サラサよ。なぜそんなに詳しいんだ。

「彼女たちはお手伝いに来たんですか?それとも挨拶?」

「隣に妻がいないなら、居座るチャンスじゃないですか。」

という、サラサの衝撃の一言で全員がチコに注目する。チコは死んだように机に伏せ、ハウメアに肩をマッサージをされていた。


「寝てる場合じゃないのに!」

と、サラサが怖いので、シグマたちがまあまあと宥める。


「それにしてもサラサさん。このサダルってユラス人なんだよね?」

イオニアが尋ねる。

「ええ。」

「純粋な?」

「まあ、ユラス人自体混血が多いから純血統というのも生物的には難しいと思うけれど、サダル氏は環境的には完全なユラス民族ユラス社会の出身です。」

「え、だって…。」

みんなイオニアの言わんとすることは分かる。


なぜって、どう考えても東アジア人だ。見た目。


髭と長い髪で全部は見えないが、顔立ちも黒いストレートの髪も、肌の感じも東アジア人系じゃん?

そう、カーフと同系だ。なぜか東洋人が生まれるというあれか。顔はカーフより東洋っぽい。



チコは休憩中完全に不貞寝を決め込んで顔を上げなかった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ