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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十二章 ユラスへの帰還
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60 彷徨う星



『ユラス民族ナオス族族長サダルメリク・ジェネス・ナオス、解放』


というニュースが世界中を飛んだその日、チコは南海の家の一角で震えていた。


懐に(ふところ)しまった、A3を半折りにしてさらに小さく折った紙を取り出すと、それを広げて何度も確認し、そして祈った。



その2、3分後に、護衛たちが鍵を解除しチコの家に駆け込んできた。

「こっちは空です!」

カウスの同僚のレオニスや女性兵がチコの部屋に入るが誰もいない。


レオニスの報告を受け取ったカウスが思わずため息を漏らす。

『はあ、またやってしまった…』

プライベート空間にいる時はどうしても隙が出来てしまう。ベランダのカメラにも映っていない。

『おそらく闇雲に探しても見つからない…。』


カウスたち、そして、アジアにいた全員にとって、このタイミングでの開放は予想外であっただろう。まさか、族長解放を一般のニュース速報で知ることになるとは。ユラスで把握できなかったのか、意図したことなのか。事前に知っていたらしばらくチコの監視は室内でも外さなかった。ただいずれにせよ、チコが本気になったら捉えきれる人間はいないが。




***




「チコがどこにいるか?」


カウスに聞かれて講堂で「え?」という顔をしているファクト。


「前も霊性かサイコスで見付けただろ。」

「あれはできる時とできない時があるから…。あそこには行ったの?」

「あそこ?」

「…あの男に襲撃されたところ。」

「…一応行ってはみたけれど、いなかった。」

あまり思い出したくないところである。


「ちょっと待って。」

ファクトは講堂から出て、外のなるべく周囲が広く見渡せるところまで行く。カウスとフェクダもついて来た。

「そういえば、ワズンさんは?」

「今ユラスにいる。」

「…ふーん。そっか。チコも戻ったしね。」


前より気持ちに余裕があるのは、いやな感じがしないからだ。子供が逃げているような感じしかしない。心配で顔色が悪いフェクダに安心させるように言う。

「多分、襲撃とかはないと思う。大丈夫だよ。」


そして、なるべく高いところに上って座って目を閉じる。この前は目を開けたが、目星にする方向がまだ分からないし、周りに高いビルが多く前回の投光器ほど広くは見渡せない。目を閉じて感じてみることにしたのだ。



少し集中すると、方向感覚がなくなる。


視野が一周回り、あの、迫ってくるような、遠のいていくような、距離感があるのにない感じが来る。


理由は分からないが、チコは冴えるようなピンクと紫の光だ。それを見付ければいいのか。

でも何だろう。掴めそうで掴めない感じ。




あの時見たジメジメとした地下?


オレンジの匂い?

何も知らない子供のキョトンとした視点の世界に全てが映る。



それから頭を靴で小突かれ踏まれる屈辱。

自分という目線に何か懇願するユラス人の女性たちが見える。


並んだ死体の前で立ち尽くす誰か。

そっと頬に触れる厚い手が、怖いのか優しいのかも分からない。



それから…自分、俺を見付けた安心した顔。


最後に突然胸の中に白い光が溢れ上がり、広がるミルク・クラウン。


音も衝撃もなく世界が弾けた。



「うわッ!」

頭から溶岩の中に落下する感じがして、驚いて目が覚める。




「大丈夫か?!」

カウスが心配している。

「………」

少しボケーとしてここが現実と確認した。

「ファクト?」

「びっくりした!何度もDPサイコスに関わったせいかな?あの時のが何か色々見えてた気がする……。」

「……ホントですか。やめて下さい…。心臓に悪いです。」


「あ、カウスさんって黄色とシルバーの光ですか?」

「光?」

カウスの周りに黄色とシルバーの明るい光が見える。

「行こう。多分チコの居場所、分かります!」


カウスはフェクダと、背の高い女性兵を連れてそれぞれバイクを出す。

そして、4人で無人のビル群の襲撃現場に近いところまで来た。

「こんなところに…?」


その辺りでもう一度集中すると、気持ちが安心するピンクと紫の光が上方に視えた。

「多分そっちです。」

それは襲撃現場の2つ隣のビルの屋上だった。

スーと垂直に上がって屋上に行くと、予想通りチコがいた。



自分たちを確認すると、立ったまま表情のあるような無いような変な顔でこっちを見ている。


「チコ!」

「チコ様!」

みんなが同時に叫ぶ。

一旦ファクトだけが前に出る。


「ファクト…なんで。」

「チコは見付けやすいから。こんなところで何してるの?」

「一人になりたかった……。」

「また、前みたいに攻撃されたらどうするわけ?もう世話見切れないよ。みんな。」


少し沈黙が続く。


「………ここしか一人になれる場所が分からない。」

ベガスからは離れられない。でも一人になりたい。そう言ったところだろうか。きっと本人の無意識下で。


「なんでこんなトラウマみたいなところに来るの?」

「だからこっちのビルにした。」

「……同じだよ。危ないじゃん。」


カウスが静かに前に出る。

「チコ、強制的に何かするとかはしません。一度帰りましょう。」

「…チコ様。」

女性兵も心配そうに言う。


ファクトは動かないチコの前に出ると、そっと手を握りチコの片手を両手で包んだ。

「帰ろう。チコ。」

「…」


後ろでカウスがため息をついている。気持ちが揺れているチコと、あまり手を握ってほしくない。少しその手を引っ張ると、女性兵が前に出て来たので彼女に託した。

「帰りましょう。チコ様。」


チコは何も言わずに彼女の後ろに乗ると、その背に頭を預ける。5人は一旦南海とミラの間の駐屯地に戻った。




***




その日、アーツは新しい変革や学習事項について打ち合わせをしていた。


そこに後ろからファクトとチコが入って来て、いつものように座った。ファクトは前に進み、ラムダたちの横にまでくる。

「ごめん。遅れた。」

「これ資料。」

ラムダがページを開いてくれる。


目を丸くするサラサ。

「あれ?総長。なぜこちらに?ユラスに行かなくていいんですか?」


みんな一斉にチコの方を見る。

「いやいい。さっさと議題を進めてくれ。」

「そういうわけにはいきません。早くユラスに向かって下さい!」


みんなは、族長が解放されたからだろうと判断する。チコは父か伯父の代わりに代理で長の役目をしてきたのだ。6年越しに敵から戻ってきた家長を迎えるのは、ベガスの(おさ)の代理としても、ユラストップの代理としても家族としても当然であろう。


「そうですよ。チコさん。こっちは任せて行って下さい。」

「ユラスのニュース、大騒ぎですよ。」

ネットで見るユラス圏のニュースは本当に大騒ぎである。政権が変わったような盛り上がりを見せていた。


「いいから進めろ。」

「…チコさん。あなたは行くべき人です!」

「カウスに免除された。」

「…カウス…?私が免除しません!!」

ちょっと不穏な空気の二人。ケンカしそうな雰囲気にみんな戸惑う。


「サラサさん、一旦ここは進めては?」

周りが懐柔するがサラサも引かない。

「もういい加減言うべきです。黙っていてどうするおつもりですか。いずれ分かることです。」

「話す必要もない…。」

「ない訳ありません。サダル氏が戻ってくるのです。こんな状況を知ったらショックですよ。」

「……」

「言いますよ…。」

黙り込むチコ。

「分かった。今日のところは帰る。」

立ち上がって去ろうとするのをサラサが止める。

「どこに帰るおつもりですか……。言います。」


チコが観念してまた座った。返事はないが、サラサに託すという事だろう。



サラサはアーツに向き直って言った。


「チコさんは今回解放された、サダルメリク・ナオス氏の奥様です。」


「は?」



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