表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十二章 ユラスへの帰還

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/110

59 一変のベガス



主に高校生メンバーでサイコスの訓練をしている時だった。


着信が来たので、ファクトは相手も見ずにとって、ついでにボトルから水を飲む。

「ん?もしもし?」

『ファクト―!』

「は?誰?」

『誰じゃないっつーの!声で分かれや!今日、藤湾に来てる!』

「は?…」

『ユリとタキやリウたちと藤湾にきてるよー!!』

「あー!ヒノ!!」


ソイドやタウ妹のソラ、ムギも何事かと思う。

「俺ちょっと行くわー!」

「ファクト、誰?」

「前の高校の友達!1日入学に来てるって。」

「え!女の子でしょ?私も行きたい!」

積極的なソラが直ぐに反応する。

「ムギも行こうよ!」

「私はいい。」

「はいはい!そんなこと言っていないで!お友達作らなきゃ。」

無理やり引っ張られて仕方なくムギもソラと動く。ソイドはシャムたちと訓練を続けることにした。



「ヒノ―!」

「ファクト―!!」

ファクトの向かう先に、女子二人と男子二人が待っていて、男子が羽交い絞めにした。

「お前部活戻って来いって言っただろ!」

「え?またファクト大きくなった?」

イタチ顔のかわいらしいユリがファクトの成長に驚く。ユリとヒノは数少ないファクトの女友達である。


「今、藤湾大学結構人気なんだよ。ファクトもいるところだから見学に行こうって。」

「そうなの?」

チコたちの話を聞く限り、まだベガスは基盤を作ろうともがいている。それが自分たちのいた1年で、中央区中間層にも認められる場所になってきたということに喜びを感じた。チコもきっとうれしいだろう。


するとファクトのそばで、ムギを後ろから腕で抱いて立っているソラに気が付く。

「あ、俺のベガスの友達。」

「こんにちはー!」

少し兄のタウ似でかっこいい系美人のソラに、思わず驚いてしまう友達たち。ソラは女もホレるソラなのである。ムギは赤くなってコクンと頷くだけの挨拶をした。


「おいファクト!かわいいくないか!」

リウがムギを見てこっそり言う。普通顔だけど、黙っていればそれなりにかわいいのである。

「…あのこは中学生だから。」

「そうなのか?!」


突然の女友達に固まっているユリ。「はー、あの子ファクトのことが好きなんかな」とソラは気が付く。かわいいな。分かる。男女共にファクトって近寄りやすいし、何かと便利なのだ。




全員カフェで一息することになり、ソラがムギを構う。

「ムギ、奢ってあげるよ。何でも選んで!みんなも奢るよ。好きなの買って!」

「いい。ファクトに買わせる。射的で10試合負けたうえに、道場の掃除全部逃げたから。ソラもファクトに買わせればいい。」

「ちがうー。他の練習に呼ばれるからその日はいつもできなくて!!」

「………」

言い訳しているファクトにえらい辛辣なことを言う子だなあと、驚きで見てしまう蟹目の友達たち。そして、ここでもファクトは()()()してるのか…。と思う。どこでも助っ人なのだ。



「へえ!じゃあ、第1希望をここにするんですね。」

最終的に全員ファクトに奢ってもらい、ソラが明るく対応していた。

「俺もここでまちづくりの勉強をしたくて。」

「私も。実地ができるって聞いたから!蟹目の高校から他にも希望者居ると思うよ。」

リウやヒノはもうその気でいるらしい。

「でも藤湾って、霊性試験があるって聞いたから緊張するよな!」

アーツの採用試験のように、全生徒が霊性状態を確認されるが、これはエリートの教育機関、大型組織、大企業ではどこでも採用されている試験である。


「あの、ユラス人ってどんな感じなんですか?西アジアでも少し違うのに、ユラス人は大分違うって聞いたから。ムギちゃんはユラスの人?」

「ムギは西アジア系の出身だよ。ねえ。」

「そうなの?!観光したことあるよ!」

リウが嬉しそうだ。ムギはソラの端にピッタリくっ付いている。


そこでファクトが答える。

「そうだな…ユラス人は…。女の子はかわいいかな!まあ、女子は西アジアの子もみんなかわいいけど。」

ファクトの言うかわいいは、やさしかったり妹みたいでかわいいという事だが、ムギは寒い顔をしている。十四光のせいか、ファクトはかわいらしい子に時々声を掛けられるのだ。

「それから…頭がいいな。俺が落ちた数学のテスト、ユラス人全員受かってたし。先進地域にいたユラス人は少なくても3、4つ言語が話せる人が多くて、頭の構造が理解できない…。」

「参考になるような、ならないような……。でも、頭はいいんだね。」

ただ、自分の周りは戦闘態勢過ぎて普通のユラス人をあまり知らない…。あれがデフォルトなんだろうか……。オミクロンが恐ろしいのは知っている。


「あと、めっちゃまじめだ。冗談が通じなくて時々こわい…。

総長が素振りか蹴り千回するように言ってた、って言ったら確認もせず毎朝千回してた奴がいる。知らなくて2週間ぐらい放置してたよ…。肩や手首痛めたらどうするんだって、俺が叱られた。」

「何でそんなこと言うんだ。ファクトはバカなのか?」

ムギは、慣れたファクトとソラにしか話し掛けない。

「いや、どういう訓練してるのか聞かれたからテキトーに答えた…。俺も1週間はそれしたことあるし。」

「…訓練するの?素振りとか?」

「はは!部活動のようなものです!」

アーツの話まですると長くなるのでソラが弁解しておく。


少し話をしてから、ソラとムギはファクトたちと別れることにした。まだ見学をするらしいし、元同窓生同士話したいこともあるだろう。



「バイバーイ!また会いましょうねー!」


分かれた先でリウがコソコソ聞いてくる。

「なあ、ムギちゃんて今中2?中3?」

「中3じゃないか?」

最初に会った時、中2だと言っていた。

「お!なら来年高1だろ。大丈夫な範囲じゃん?」

「何言ってるの。あんたは大学生になるんだよ。無理だよ。」

少し聴こえたヒノが口を出す。そもそも、ムギは中学卒業ができるのか。




そして多分…


ムギは普通の生活も結婚もできないだろう。そんな感じがする。


誰かを取り残したまま、たとえそれが死んだ人であっても、

…普通に生活できる性格ではない。


大きな未来と、ムギの故郷や亡命の道すがらに死んでいった人たちを抱えて生きている。


ただその一時の情で、異性と付き合うという考えもない世界で生きている。人生そのものも捧げて、もしするとしても、結婚そのものも使命に捧げるだろう。たくさんの魂や背景も共に背負っていける人とでない限り、きっと一緒になることもない。


でも、ムギはムギの幸せをつかんでほしいと思う。

チコも、響さんもきっとそれを願っているから。



「……。」

「何だファクト?お前が気に入っているのか?お前にもそういう気持ちが生まれたのか?!」

「違う……。」

「違うって?!気にはなるんだろ?」

「……気にはなるかな?」

「なるのか?!」


後ろで歩いている他のメンバーが静かになっている。ユリに至っては男子の会話が気になってしょうがなく、そんなユリが気になるヒノ。


「………。」

「………

「ムギが気になるなら、三皇帝を倒せるくらいの気概がいる!!!」

またファクトが訳の分からないことを言い出した。


三皇帝とは、人気オンラインゲーム『ゴールデンファンタジックス』の主要三大陸をそれぞれ収める皇帝である。

「そして、帝王まで倒す!」

「帝王?」

帝王は人間を超える存在で、三大陸よりさらに大きい異世界大陸を治める昨年最高ランクのラスボス的存在である。サラサ、エリス、チコ…この対戦相手を倒し、カストルの許可までもらわないと無理である。


「…ご家族が厳しいとか?」

リウが思わず聞いてみる。

「手を出したら即、奈落の底に落とされる…」

「……。」

ビビってしまうリウであった。


そして、「結局帝王倒す前に、ゲーム断ちしちゃったな…。」と『ゴールデンファンタジックス』思い出して切なくなるファクトであった。




***




そしてこの日。



ナオス族だけでなく、ユラス全体を揺るがす大きなニュースが報道される。


アジアの一般人には隣の大陸地域のどこかのいちニュースかもしれなかったが、ユラス人が多いベガスは大きく揺れた。VEGA事務局もそのニュース一色で、アーツも気にしないわけにはいかないほどの雰囲気である。


SR社社員一同もこのニュースに見入っている。

ポラリスとミザル、そしてシャプレーも息をのんだ。



これまで捕虜という形で、おそらくギュグニー寄り勢力によってタイナオスに拘束されていたナオス族族長が、数年ぶりに解放されたのだ。チコの家族か親戚かである。父なのか、伯父なのか。



整えてはいるが、伸びきった黒髪と少し生えた髭姿でフラッシュに囲まれ移送される男。



変わったばかりのベガスはまた変わらなければならなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ