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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十二章 ユラスへの帰還

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57 アーツレベルアップする



「ねー。ばあさん。こんな感じならイケる?」


タチアナがデバイスでいろんなカットモデルの写真を出しながら、ばあさんと相談している。

「何だこの女々しい頭は!ドカンといけ!」

「どっちにしろこの辺は坊主だろ?」

「これはどうだ?」

「それは威嚇し過ぎっス。進む交渉も進まなくなる…。」

二人で画面を見つめる。

「…男の髪型はめんどいな!ショートもツーブロックもマッシュも、刈上げも違いが分からん!!」

「え?美容師なんでしょ?しっかりしてください!」

「ソフトモヒカンとこの辺の坊主の違いは何なんだ…。ある意味女の髪型より複雑だな…。」

「…俺も違いが分からん…。」

写真を見れば見るほど混乱してくる。


疲れ切ったサルガスは自分の髪の事なのに、太陽の木漏れ日を浴びながらまた寝ている。


「じゃあ、これで行こう!」

タチアナが選ぶと、ばあさんはつまらん髪型だなとほざいている。


「本当にこいつ、よく寝るな。お前、こいつの首下にこのクッションを入れろ。」

硬めの枕を渡され、首を高くするが全く起きない。1年ほど仕事尽くめでよっぽど疲れていたのか。動くなと、頭を叩かれても起きない。


タチアナはばあさんの指示に従い、子供たちとアプリで写真を撮って遊びながら時間を過ごしていた。


「まあ、どんな髪型になろうが、それも運命だ…」

と、健闘を祈った。




***




なんとその日、サルガスは夕方5時まで眠ってしまった。


半地下のため、日が傾くと他より早く暗くなる。でもまだ明るく、少しだけ上の方は赤焼け前の空になる。髪を切ったソファーで布団まで掛けられて、ソファーの横には小さな女の子ともっと小さな男の子も一緒に寝ている。


「………。」

薄っすらと目が覚めた。

「…………はっ?何だ?」

動きたいけれど、子供がいるので動けない。そして寝ぼけたように頭を触って髪の毛が短いのに気が付く。

「は?なんでだ?!」


「よ!」

別の椅子でニュースを見ていたタチアナが手を上げた。

「………??」

「起きたか。」

「ああ、………あ!髪がない!」

どうやらばあさんに髪を切られて云々ではなく、子供が髪を切る前に記憶が戻っているらしい。

「ちびっ子に美容師ごっこさせられただろ。そんで切ってもらった。」

「あ?そうか!」

分かっているのかいないのか。


ばあさんが濃い飲み物を持ってくる。

「毒ですか?」

「あほか!滋養の薬だ。飲め!」

匂いを嗅ぐと、漢方のようなのでそのまま飲んだ。


「今何時だ?」

「5時。」

「やべえ!帰ろう!」

髪のことは既に忘れているようだ。もう病気だろ、とタチアナは思う。

子供たちも目をこすりながら起き上がって………また寝た。二人は子供を家に運んであげる。


「あ、そうだ…頭……。」

自動運転でバイクを呼び、ニット帽を出し被る前にタチアナに確認した。

「変な髪型になってないよな?」

「ああ。大丈夫だと…思う。」

「失礼な奴だな!男前にしてやったわ!」

信じられんと言う顔をして帽子を被ると、また来ます!と飛んで行ってしまった。


起きていた長女がおばあさんと共にずっと手を振っていた。




***




その日、アーツのいる道場は異様なざわめきに包まれた。


「誰だあいつ?」

「新しい人?」

「大房にあんなのいたっけ?」


短くカットされた髪が服に付いて取れないと、スラムを出たところの露天で新しい服を買ったせいか、はじめ誰もサルガスと気が付かない。落ち着かないので、ファクトやムギの変装スタイルかの如く、帽子にフードまで被って戻って来た。もう就業時間も終わっていたし、タウに話も行っていたので道場の方に逃げてきたのだ。


リーブラがタチアナに近寄る。

「タチアナー。紹介して!その人。しょ・う・か・い!」

なぜこんな時にリーブラがいるのだ。

「お前かわいくないのにブリッこするな。サルガスさんだよ。」

「はあ?」

「サルガス君です。」


「…はあ?!!!」


大声を出すリーブラ。

「ちょ!」

高いところにある首元を引き寄せると、なるほど、サルガスである。

「やめろっ、リーブラ!」

「だって!髭のないサルガス初めて見たー!!」


なんだなんだとみんな集まってくる。


「髭もないのか?!だから違和感があったのか!」

自分の顔を触って、やっと違和感に気が付いたようだ。本人が今知ったことが信じられないタチアナ。どうせ髭もガタガタだったし、久しぶりで腕が鳴るとばあさんがきれいに剃ってしまったのだ。

「帽子とって!」

「いやだ!」

「何言ってるの?子供じゃあるまいし。好きで切ったんでしょ?」

「おー、化けたな!」

「いーじゃんサルガス!」


笑うしかないないタチアナ。

「リーブラ、やめてやれ。かわいそうだから。」

「はー?」

サルガスも自分の髪型をまだ見ていない。いきなり呼び名を変えた時くらい恥ずかしい、今の現状に気が付く。高校3年以来ずっと髭があって、髪もミディアムより長かったのだ。


逃げたいが、たくさん寝て眠気も吹っ飛んだので寝るだけの寮に帰る気にもならない。観念して帽子を取った。


「おおおーーーーーーーーー!!!」


道場にざわめきが起こる。


「爽やかだ!爽やか!」

「サイドがヤバいよね。刈り上がってちょい悪になってる。」

「ニューサルガスだな!」

「10歳くらい若返ってる。」

「なんだ?モテ路線に変えたのか?爽やかだぞ。」

好き放題言われる。


「俺、自分の髪型まだ知らないんだけど…。」

「なんでだ!!」

みんなツッコむ。先のトイレや入り口の鏡でも帽子は取らなかった。


「リーブラ、鏡ある?」

リーブラが鏡でなくデバイスをインカメラにして渡すと、少し見て顔を隠してしゃがみ込んだ。

「自分の顔と思えない…。」

と、デバイスを返しながら言っている。なんだか分からないが、みんなもかわいそうになってきた。

「大丈夫だよ。変じゃないよ。」

「落ち込むな。時にはいいこともある…」

意味もなく慰めの会になってしまった。



そう。

ユラスのばあさんには、対人仕事で女性子供に安心を与える髪型に、とお願いしたところ、アジア圏の髪型をザッと調べて、ベリーショートとツーブロックの組み合わせにしたのだ。髪のない一部は隠したり刈上げにして、ややビジネスマンっぽくもなった。

頭に傷があるので、サイド上はなるべく残すようにした。


「ばあさんが、ここをこっちに立てれば凸凹に切られた段差が目立たないって。」

タチアナが髪をかき上げて説明する。

「これで傷も隠せるだろ?」

高校の時のケンカで付けた傷だ。その時前科持ちになってしまった。


切られた?ばあさん?周囲はまるで分らない。


「ユラスのばあさんと聞いてどんな髪型になるのかと思ったら、普通だったな。もう少しおもしろくてもよかったぐらいだ。」

「そりゃあ数十年前とはそこまでファッション文化も変わってないし…。」

少しずつ変わってはいても、世界は流行り廃りを繰り返しているだけだ。

「ファクトが一緒じゃなくてよかった…。あいつならいい加減なこと言って、パンクにしそうだし…。」


「何々?サルガス?!!イメチェンするなら言ってよ!俺もつきあうのに!!」

話をすればこの男が現る。

「これもいいけど俺ならここにエックスの剃り込みを入れて、アッシュグリーンにするかな!今マイブームは青虫だから!」

絶対にテキトーな仕事をするファクトである。こいつがいなくて本当に良かった。


「サルガスって思ったよりスッキリした顔してたんだね…。」

ファイもじっと眺める。

「もう、何も言わないでほしい…。」

「ファクト、似てんな。」

「え?やっぱそうなの?」

あまりにも落ち込んでいるので、またみんなで励まし合うという異様な風景になってしまった。





その夜の食堂も全体会議も、沈黙からの「オーーーー!!」の連続であった。


「え?サルガスなの?誰?」

サラサが眼鏡の奥の目をまん丸くして言う。

「サルガスだろ。」

と周囲が言うと、

「えーーーー!!!」

と、その後なぜか赤くなって驚く。大体このパターンである。


ここが家なのだけれど、早く家に帰りたい思いのサルガス。リーブラは笑いが止まらない。シャウラも初めは驚いたものの、笑いが止まらないらしい。ヴァーゴはかわいそうだな、という目で見ている。

完全に遊ばれている。


ハッとして、サラサが仕切り直す。

「えーと、皆様!冷静になって!冷静に!」

あなたが冷静ではないです、とファクトは冷静に返す。


「今日は大切なお知らせがあります。」

サラサ女史は姿勢を正して発表した。


「実はこのアーツベガス。今日より正式に第2級の非営利連合国事業団体に任命されました!」


オオオーーーーーーー!!!!!

と拍手が起こる。


「いきなり2級を貰える団体はほとんどありません!!」

「なにそれ?非営利だったらお金も受けれないんじゃないの?損じゃないの?」

ファイがタラゼドに尋ねる。

「なんにも聞いてないんだな。これで資金も集めやすくなるし、基金の設立もできるし、非課税でいろいろできる。職員は連合国の事業基金から給料が出せるしな。金貰わずにどうやって仕事すんだ。タダ働きか?」

「そうなの?!…って私関係ないじゃん!」

ファイは服飾業についている。

「職員じゃないけれど、ファイも連名だぞ。サインしただろ。」

「そうなの?何それ?」

「…………」


「現在、事業範囲が広大過ぎるため、振り分け作業の職員も募っています。その辺は言語のできる移民の子や藤湾の学生だった子たちも適任かな?」

サラサは資料を見ながら次のセリフを考えたが、結局締めはこう。


「とにかく皆様、おめでとうございます!!

…そしてありがとうございます!!!」

礼をすると、みんなが拍手をする。


ちなみにVEGAは特1級の非営利連合国事業団体である。連合国付属組織の最高峰の1つだ。なのに南海事務局は雑然として散らかり、お菓子やドリンクのゴミが散乱していつもサラサが一人整理をしている。



そこに、チコとカウスが入って来た。


「総長、一言!」

「あ、いい。進めてくれ。」

と、端の方の席に座る2人。

「総長、一旦区切りますので一言お願いいたします。」

サラサが言うと、チコがすくっと立ち上がって壇上に立った。


そこで受講席の()と目が合う。

「誰だ?」

知らないのに知っている感じ…。


「何言ってんすか。チコさん。サルガス先輩です。」

シグマが肩を叩くのでサルガスは顔を伏せる…。

「…サルガス先輩?」

何のことだと考え、答えにたどり着く。

「…は?サルガス?!!!」


カウスからは見えないのでハテナ顔だ。

明らかにチコの顔が赤い。


なんと、このイメチェンでここ最近一番楽しそうな顔をしたチコであった。


「え?サルガスなのか?!!」



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