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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十二章 ユラスへの帰還

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54 新しい体



次の日の朝、アーツが集まる食堂では昨日のことを詳しく知らないメンバーたちが、朝練を少し早く切り上げて話し込んでいた。



昨日の時点では、チコやサラサが夜南海に来て今後の注意事項など説明していったため、個人的な話はできなかった。


「で、響さんは50%のハーネス使いだった…。」

シグマが語るがその50%ってなんだ。と、見ていないメンバーは思う。サイコスのことまでは他のメンバーは分からなかったようだと、ファクトは安心した。


「そういえばファクト、心星の看板を背負ってリーオに臨んだのに、全くそこ触れなかったよね!」

ラムダが元気に言わなくてもいいことを言う。名のある親の子がいるという事で、「ベガスいいとこだよ」と安心してもらい、セラリや蛍惑の経済団体の対抗馬にしようと思ったのに、全く忘れていた。

「バカかよ!それを言わなかったら、ただの高校男子だろ!!こんな時に十四光を使わないでどうする!」

役に立たない高校生である。


「セラリのリーオはどうだった?!」

ローが興味津々だ。

「リーオは…思ったより鼻持ちならな()()()奴だった…。」

「よく分かんねーから普通に言えよ。」

「あれは響さんに惚れていた…。」

「おーーーーーー!!!!」

と高い天井のラウンジに歓声が響く。馬鹿な奴らだ。

「昨日は女子アナだったからな!」

「それでキファがオカンだった。」

「だから全然分からん!」

「響さんは?!」

「いつもの通りだった…。全く持って、いつも通りだ…。相変わらずファクトと仲がいい。襲撃の後、ファクトは女子アナ響さんを抱いてた。」

「ファクト!お前は頭は小2でも、もうかわいい学生という面じゃないだろ!!」

しれッとしているが、いつものごとくみんなに叩かれる。なぜか女子に安全パイだと思われているのである。DPサイコスの件以来、響とファクトは仲がいいのだ。

そこまで言って、シグマがイオニアを見た。


「イオニアさ~ん!関心ない?」

「ない。」

離れた席で、他のメンバーとコーヒーを飲みながら振り向きもしない。

「なんで?もうやめたの?」

「響さんが俺を好きじゃないからもういい。」

「えーーー!!お前そういうタイプじゃないだろ!!」



と、そこにズカズカとムギが入ってくる。

「そしてファクトの前に座った。」


「ねえ!何で昨日響をホテルに行かせたの?!」

「ブっ!」と吹き出す男子ズ。

ここの女子は唐突な上に主語や述語が抜け過ぎて、心の清くないアーツメンバーには心臓に悪いセリフが多すぎる。

「え?俺にそれ言うの?ファイたちに聞いてよ。」

「ファイもリーブラも大丈夫だって…それしか言わなくて…っ。」

握った拳を震えさせている。

「ファクトが止めなよ!!」

「え?ヤダよ。大人たちで話し合ってたことだし…。」

怒っているが、はいっと昨日拝借したパーカをファクトに返す。

「あ、どうも。」

なぜ逃げたか聞きたかったが、ここではやめることにした。




その時、テレビニュースでユラスとベガスの話題が飛び込んできたため、一同静かになった。


『…それでは現場からです。』

アナウンサーの一言のあと、昨日の何かの記者会見の場面に移り、たくさんのシャッターに包まれた中年の男がいる。人のよさそうな中肉中背の彼は、ユラスと東アジア連携に多大な貢献をしたことに関する記者会見をしていた。メンカルとの疎通にも一躍買っていたらしい。

『移民の教育機関に関し、我々は大きな成功例を治めています。そのモデルを…』

ここベガスの話だろうか。東アジア外務省のアルゲニブである。


みんなが聴き入っていると、いきなりムギが叫んだ。

「あいつ嫌い!!」

ドン!と机を叩く。

「え?!!」

「あいつ大っ嫌い!あのセクハラ男!地獄の底で永遠に呻いていればいい!!!」

と、立って怒って行ってしまった。


唖然とする一同。…なんなんだ。





ムギは今も思い出す。


チコがユラスから引き上げて来た時、あの男はチコをさらし者にしたのだ。


チコの体は税金や協力金でも成り立っていると言い、部下のいる前でどこまでが肉身でどこまでがニューロス化したのか、どの機能が人として残っているのか、そんなことを聞いて来たのだ。そして、SR社にその資料提出まで要求してきた。国民には知る権利があると。少なくとも、公共の研究所、公共の教育機関には提出すべきだと。


おそらく自分の管轄の人間と、チコの部下ならいろいろ言っても話を漏らさないと思ったのだろう。


しかも、髪、顎を触り、最後には「ここは大丈夫なのか」と腹部まで軽く叩いた。

見かねたカウスが止めたが、今ここで統一アジアとの関係や信頼が悪化したら、やっとここまで持って来れた話し合いがフイになるかもしれない。紛争の歴史の濃いユラス人が敵意を見せたら、アジアの先進地域には入れなくなる。

何人かのユラス人は完全にキレていたが、チコが絶対に動くなと手で制した。


「まあ、ニューロス化してもどうにかなるがな。これだけ男がいれば好き放題だろ。」と、そこは先より小声だがアルゲニブは笑って言った。



当時のムギはまだ今より幼かったが、そういう汚い世界をたくさん目にしてきた。

後で知ることになるのだが、チコがメンカル側の要請に答えなかったのが気に入らなかったらしい。当時のチコは本国から逃げるようにアジアに来ていたので、立場もなく押せば何でも言う事を聞くと思っていたのだろう。


蛍惑から一緒に引き上げてきて、横のブースで待機していたムギは、この全部をぶち壊したい思いを必死に耐えた。




***




時は少し前に遡る。



SR社の第3ラボでチコは久々の腕を動かした。


「どうだ?」

ポラリス、そして少し後ろでミザルも見ていた。


「軽い…。」

前のパーツより動きが軽い。


「軽くて気持ち悪い…。」

戸惑っているチコに、研究員たちは顔を見合わせる。


「絞るか慣れを待つか…しばらく様子見だな。」

「話した通り、動力は3タイプ備えている。頼ることはないと思うが、サイコスなどでも電気を貯められる。」


ポラリスが来てから、想像以上に仕事が速くてみんな驚いていた。もともと怪我や事故で肢体や内臓機能を失った人たちの義体装着作業を数百件と過去受け持っていたのだ。まず手が慣れている。タニアは肉体と義体連結の技術も高かった。


「ウェアラブルは一旦は外付けにしておく。なるべく肉体に手を入れたくない。」というポラリスの意向で、肉体と義肢の強度差を支える部分も外付けになった。



ボーと不思議な顔でチコは手足を見る。スムーズに動く体に研究員たちはホッとした。

すると、急に立ち上がって傾くのでポラリスが支える。

「大丈夫か?!ゆっくり…。」

「脚、1.4センチだけ長いから気を付けてください。」


前の体は成長期が終わる前に予測で準備したものだった。遺伝子や、骨や関節の形と長さなど肉体のパーツから今の体を特定し、新しい手脚を作ってある。

「そのままでよかったのに…。背なんて伸びても仕方ない…。」

手も少し長いのだろう。変な感じがする。


「でもどうなの?大丈夫なんでしょ?」

「ああ。」

質問に答えると、ミザルはホッとしたように椅子に座り込んだ。そしてチコは一人で笑い出す。


「どうした?」

優しくポラリスが尋ねると、チコは思い出したように言う。

「前に、チコってギアあるの、バッテリーもあるのか、とか聞かれて…。バッテリー付いてて充電もしてるって言ったら、ファクトが喜びそうだなって。」

ミザルをはじめとする研究員たちが呆れている。ポラリスやチュラたちは笑った。


ただ、バッテリーや充電と言っても、この時代技術は初期世代とは全く違う。デバイスも充電なしで数年使える物もあるし、充電も一見しているのか分からないほどスマートだ。一般生活なら充電前に登録変更や機種変の方が必要になってしまう場合もある。


新しい体は培養皮膚でなく、一部に人工皮膚を付け、服で見えないところは一旦そのままにすることにした。まだ何があるか分からないのでそのままでいいとチコが言ったのだ。


なお、ファクトも一緒に襲撃されケガをしていたこと、響も眠っていたことをチコが知るのはこの後である。加えて、ファクトの件に関してミザルに話すべきが、話すにしてもどう話すべきか非常に頭を抱えるポラリスであった。




動く体を見つめてチコは思う。



本当はチコは、このまま死んでしまってよかった。きっとそうなるだろうと。

立ち上がるのも目覚めるのも億劫だった。


こんな体で長生きできるとも思わない。

これ以上ユラスでの責任も果たせない。



そんな時にファクトや響がうるさくて。

そして死んでいった人たちが自分を呼んだのだ。こっちではなく、サダルの元に帰るのだと。



カフラー。


私はあなたたちの方に行きたいのに。それとも私は、そこにも入れてもらえないのだろうか。

許してもらえないのだろうか。


苦しくて胸がねじれるようだった。


どうして私が生き残ったのだろう。

どうしてあの時、彼らは命を呈して、私の立場を繋げたのだろう。


彼らはもっと長生きするはずだった。

そして国を作っていくのは彼らだったはずだ。

強く、慈悲深く、ユラスの鑑のような人材がたくさん失われた。自分の判断ミスで広げたほころびもあるし、死んでいった仲間もいる。時には敵対する相手もまたユラス人であった。彼らにも父母や妻子がいるのだろう。



これ以上生きていても、どこにも居場所がないのだといつも震えていた。

彼らに代われる自分とは思えなかった。


息が出来なくて、早く誰かに代わってほしかった。




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