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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十一章 in ベガス

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49 ベガスに行きたい



みんなが連れられてきたところは、大きなロビーのが広がる会館の中。


その中の中規模ダンススタジオだった。


ファクトたちも何事かと入ると、

「わーーー!!」

というかわいい拍手と歓声が広がる。


「リーバスさん!本当にありがとうございます!!」

フレアタイプの長めのチュチュを着た女性の先生がそう言いながら、かわいい子供たち40人ほどをまとめていた。


「かわいー!超かわいい!」

「わあ!」

ファイと響は大喜び。ファイは子供好きではないが、かわいいはかわいいのだ。


「はい皆さん、こちらプロダンサーのリーバス先生です!今日は少しだけ見てもらえることになりました!」

実はダンススクールからぜひ来てくださいと言われ、用事があるので行けないと返したら、30分ほどでいいからという事で、ほとんど飛び入り状態でミニ講師をすることになったのだ。昔同じスクールに通っていた後輩の教室だ。

たった、30分のために会場は朝からいっぱいになっていた。


「先生のお連れ様はこちらに。」

と、他の先生が椅子を準備してくれ、ファクトは子供たちに手を振る。


「では皆さんご挨拶を。」

というと、子供たちがレヴェランスという手をふわっとさせる挨拶をするので、リーオも片手を上げてから下げる動作で軽く挨拶を返した。


「おはようございます。皆さん。私は先日まで近くのスカイライホールで公演をしていましたリーバス・リーオと言います。よろしくお願いします!」

拍手が起こる。いつもなら教室の先生がゲスト紹介をするが、なにせ時間がない。先生は来る前にみんなに説明だけはしておいたようだ。

「おはよーございます!私たちは日暈(にちうん)ススキバレエ教室EクラスとFクラスです!よろしくお願いします!」

と不器用に声をそろえて言う。小学校前の子供たちだろうか。今日はプロ育成コースだけでなく、趣味範囲や様子見の子たちも混ざっているらしい。


「かわいい!すっごくかわいい!」

可愛い連呼の響。全体的にピンクが多いが紫や白、黒と濃ピンク切り替え色の子もいる。


リーオが上着を脱ぐと、簡単なスポーツウェアを着ていてそのまま動き出す。


説明と共にいくつかの型を見せると、会話もうまいのか保護者たちが笑っている。

そして、先生の掛けた音楽で踊り出した。

すごい回転力とジャンプ力である。ただ今日は人が多く狭いので、こじんまりとではある。


「すごいね。」

ラムダが声を掛けるが、ファクトはそれどころではない。

「硬そうなのに柔軟性が凄いな。バレエダンサーってもっと細いのかと思ったらけっこう肉ついてるし…。空手とかいけそうだと思うんだけど。」

「バレエといってもいろんな人がいるし、体型も人それぞれいろいろあるよ。筋肉ないと飛べないし。バレエ団によって個性もあるからね。男性の方が自由度が高いかも。」

シンシーが口を挟む。


少し踊って音楽を止めると、大きな拍手が沸き起こる。


残りの時間は、子供たちの型を見てあげることになった。まあ、本格的にというのではなく、今回はプロダンサーの指導を受けたよー!という感じ程度である。10人ぐらいは男の子だ。


「うん、ここもう少し上げられるかな?」

「あのねー。先生。どうして、おとこのひとなの?ミリ先生もタリ先生もおんなのひとだよ?」

全然ポーズを取らず、ひたすら話しかける子も何人かいて、しゃがんで目線に合わせながら聞いている。

「あしたもくるの?」

「わたし先生とおどるの?」


1人の先生と親はずっと写真を取っている。


「…。」

全く動かない子も1人。

「いつもはしてくれるんですけどね…。」

「大丈夫だよー。怖くないよ!」

リーオが撫でたら泣き出してしまった。


そこにヤンチャ登場。

「やあ!」

っと、男児がリーオをキレイな型で蹴っ飛ばす。

「わー!ごめんなさい!」

先生たちが青ざめて抱きかかえたのは、4歳児になったばかりだそうだ。いつも自分の番を待てないらしい。

目が合ったらファクトにも蹴りを入れてくる。テコンドーか空手の方がいいのではないか。

というころで、ファクトのお気に入り認定。

「いいな!君、アーツに来てほしいな!来るか?」

と、話し掛けていたら顔に一発入れられた。これは少々痛い…。

保護者も謝りまくっている。


40人ほど見て最後に挨拶などしたら、結局40分近く経ってしまった。


「すみません!普段だったら皆様にお茶でもお出ししたいんですけれど…」

「あ、大丈夫です。こっちが少ししか参加できなかったので!」

「あの、ぜひ私たちともお写真いいですか…?」

先生たちが言うので、ファクトが写真を撮ってあげた。


それを見ながらファイはサーチ中だ。

リーオの陽気さは根っからの性格か、それとも営業トークか。



「チュチュ可愛いかったねー!」

響はチュチュの子供たちに大満足。

「響さんも踊りとか舞台とか好きなんですか?」

リーオが笑顔で話し掛けると、なんだか嫌そうに言う。

「…私は盆踊りで精一杯です。その中でも一番単純なの!

昔、フラダンスとベリーダンスを友達に誘われてやってみたけれど、先生に向いてないって言われて、私だけやめました…。5回目でも最初の基礎ができなくて…。」

趣味の習い事を向いていないとやめさせられるのは、相当である。先生はやめろまでは言わなかったが、あまりの出来の悪さに、みんなと一緒に新しいものを指導できなくてもいいならと条件を出したらしい。入門シニアクラスでも追いつかなかったのだ。

「誰にでも苦手なものはありますよ。」

「そうですかね…。」


ファイとしては蛍惑のお嬢様がベリーダンスをするという、そちらの方に興味がある。


「ファイはどういう経由でベガスにいるの?」

シンシーも響の友人を探る。

「そこのファクトの友人の紹介でー、引っ越しボランティアをしてー、追い駆けっこもしてー、気が付いたらベガスに住んでいました!」

「なにそれ?!」

「シンシー姉さん、響さんベリーダンスとかすごく似合うと思いません?着せたいんですけれど。」

「あ~、似合いそうだけど、ダンスは無理だねー!響は!」

「動かなくて、話さなかったら全てこなしそうな雰囲気なんですけど。」

「ファイよく分かってんじゃん!」


「ちょっと!私を何だと思っているの?!」

遂に響が怒る。いつも怒っているが。

「不器用の極み。」

「シンシー!」


「響先生おもしろいですね。」

ファクトたちにリーオが楽しそうに言う。それはイコール「ちょっといいな」だろうか。

「でも先生、本当に不器用なんですよ。」

そうなんだーと、響を見て笑っている。まだ、「ちょっとおかしい響先生」を知らないのでステキなお姉さんに見えるのだろう。ファイも聴きつけて、こちらに寄ってくる。


ここでファクトは志の旗を立てようと立ち上がる。響さん交流会の派遣員代表としてしっかり言っておかねば。

「響先生は忙しい人の相手には向いていない人ですね…。旦那になる人は先生の面倒見ないといけないですから。」

リーオが、ちょっと戸惑い気味に「私に言ったのか?」みたいな顔をしてくる。そう、兄さんに言ったのだ。

「先生、蜂の巣とかムカデとか好きなんです。捕獲してるって有名です。あと、イナゴはイケるとか言っていました。」

「そうなんだ、イナゴはおいしいよね!」

は?リーオ!お前も虫を食うんか。

気が合ってどうする。それどころか楽しそうだな!

ファクトは蛍惑が漢方の進んだ地域だという事を知らない。それに、市外に行けば田畑も広がるのだ。イナゴくらい捕れる。


これはだめだ。とどめを刺しておこうと、幼馴染2人が話し込んでいる間にファイが頑張る。

「響さん、今モテ期到来なんだって。そんなわけで、あの渦中に入らない方がいい!というほどの、先生狙いの男の醜い世界が今、ベガスでドロドロドロドロと展開されている……」

「………。」

普通に言えばいいのにと思うラムダ。

加えて研究室通いのメンバーは知っているが、未婚の先生の何人かにも好かれている、魔性の女なのだ。程よくきれいで、若い女性の中で話しかけやすいからだろうか。

「先生もモッサイから、便利な男はどいつかと見繕って、ダラダラダラダラ選び損ねてる……」

「………そっか。」

考えこんでいるリーオを見てしめしめとするが、笑顔で言い返えされる。

「じゃあ、ちゃんと不足なところ、面倒見てあげなきゃだめだね!」

は?それはどういう意味だ?狙うの決定か?

面倒見てくれるとか、男の鑑やん!



「ねえ、シンシー次どこ行く?文化財とか観光するなら…中央教会のステンドグラスとか、解際寺?

渋いのが好きなら天大寺…。あと、天つ日(あまつひ)の迎賓館や剣崎邸とかステキだよ!リーオさんはもっと今っぽいところがいいですか?」

響が聞くと、リーオが答えた。

「響さんとならそこも行ってみたいけれど……」

何だそれはと警戒心満々のファイ。


「大房か、ベガスに行きたいです。」


「?!」

「えええ??!」

響とアーツが一息置いて同時に叫ぶ。


「メカニックのためじゃないですよね?ダンス?」

ファクト、思わず聞いてしまう。

「もちろん。」

「大房はやめましょう。心の準備がないと身内ばかりで。あと、こういうの詳しいのは俺たちではないし。今なら誰がいるのか知らないし…。」

ダンスの世界的プロに見せる場やスタジオが分からない。時間的にもどうなのか。

「なら、ベガス大丈夫ですか?」

「は?!それもやめましょう。それこそ!あそこも身内ばかりで…。開発途上の街だから店もここほどないし、おもしろくないですよ。」

「そうだね!確かに!ベガスはやめましょう。観光するには向いていないです!まだ空き家の方が多いし。」

響も賛成する。


するとリーオの方から話し出す。

「今、藤湾で芸術分野の科の設立計画をしているんです。それで、興味があって。」

「………。」

「響さん知ってる?」

「知らない……。」


「他の皆さんもそれでベガスに行ってるわけでは?」

「え?俺らは捨て駒ギリギリの現地派遣員です。多分。俺の屍を越えて行け的な。でも、屍すら越えてもらえなさそうな。」

「そうなんですか?」

ファイが「意味が分かっているんか?」みたいな顔でリーオを見る。


リーオはびっくりしているが、そういえば考えてみればダンスはアーティスト分野だ。パルクールもそういう面があるのだろうか。今のアーツはスポーツどころか警察、アーミー、武術や格闘技から入ったからそんなことは全く考えていなかった。


「あと、大きい科にはならないけれど、移民の子で縫製や刺繍ができる子が多いから、服飾分野も作るって話を聞きましたけれど、どういう形かは聞いていないのですが。そっちは高校か専門になるのかな。」

「そうなんですか!」

驚きのファイ。なぜ外部者の方が詳しいのだ。

「へー!」

ラムダやファクトも感心する。ベガス、敷地だけは広いからな。


「それに響の友達に会ってみたいー!」

「それはやめておいた方がいいです!!!!」

アーツ一同また声が揃う。

モテ期の渦中だ。やめておけ。しかも、朝。ファイの手腕によって女子アナ風に仕上げられてしまったばかりに、新しい渦が到来したばかりだ。


「えー!あの電話でうるさかった奴らをコテンパンに吞み潰したい!」

シンシー、今日は平日だぞ。月曜は休みの人も多いが、と大房民は気が気でない。


「アーツは非常にまじめな集団なので、お仕事中だし酒は飲みません。」

「そうなの?あの子たち、まじめなの?じゃあ見学だけでも連れて行ってよー!」

「ベガスは入出管理されるよ…。記録全部残るし。」

「別にいいよ。どうせここだって監視カメラだらけじゃん。一緒一緒!それで出入りできるならOK!」



「じゃあ、貸し切りできるかそこのタクシーに聞いてみよ。それともレンタカー借りる?」

「6人でしょ?レンタカーにしよ!レッツゴー!!」

「待って待って!まだ行かないってば!」


焦るベガス住人。何の作戦もなく敵をベガス本陣に入れられるわけがない。


まず、イオニアやキファがいないことを確認しなければ。きっと目立つメンバーは、河漢だろう。研究室はリーブラがキレそうだ。チコは1日会議。


「まだ早いので、少し倉鍵の中央教会に行きましょう!あそこは、地方の教会や孤児院、保護施設で作ったお菓子なんかも売ってるんです!」

みんなの頭はフル回転である。




***




そしてクルバト書記官に新たなメッセージが飛ぶ。


『敵陣、ベガスに出陣予定。』


「はあ?!!」

「いつだ?!」

「どこにだ?!」


ベガスと言っても南海、南海広場、ミラと藤湾学校がある。


クルバト周りは沸き立っていた。




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