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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第七章 消えたあなた
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3 あの人の手足



「チコーーー!!!」


ファクトは倒れた車両をカメラに撮って、人が挟まれていると伝え画像と共にサルガスに送る。

そして全力でトラックまで向かい、車体下をのぞき込んだ。


「!」

トラックの下でチコは肘と膝を立てトラックの支えにして、少女をかばうように挟まれていた。

「大丈夫か?!」

チコは一度こちらを向くとその少女に言う。

「自分で出られるか?」

「す、少し、挟まっています…」

少女の声が震えている。


チコは力を入れて車体を少し持ち上げる。


ファクトがその隙に近くにあった店舗の看板を間に挟み込むと、バキっと音がした。


「出られるか?」

チコが言うも少女は完全に気が動転しているので、ファクトが車体下に入り込こんだ。

「危ない!来るな!!」

チコは怒るが、少女を渾身の力で一気に引きずり出しそのまま外に出た。


チコはホッとする。



「ファクトー!」

そこに近くで動いていたサルガスが来た。


サルガスがバイクに乗ったまま聞く。

「人は?!」

「まだ下に!」

そして生体反応の位置を確認すると安全装置を切って、トラックが滑らないようにバイクの前輪部分を斜めに入れ込みエンジンを切って、サルガスも車体下を確認する。


そして息をのむ。

「チコ?チコなのか?」

腕と膝下で車体を支えていた四肢は、完全に不自然に曲がっていた。鮮血が流れる。

奥の方は高さがない。細い腕と足だけで支えている。支えが無くなったら頭が潰れるのか、体が折れるのか、それともトラック底が腕から穴をあけて沈むのが先か。


「チコ…」

「サルガス、ファクトを連れていけ。」

サルガスに気が付いたチコが冷静な声で頼んでいる。



それとほぼ同時に警察が来た。


警官たちは、幾つかジャッキを持って来て一気に準備していく。


「その子は?!」

ファクトの抱える少女を見る。

「トラックの下にいました。」

「もう1人下にいるのは?」

チコと言おうとした時、他の警官が叫んだ。

「チコさんです!」

「!」

少女が震え出し、歯がガチガチ音を立てる。ファクトはどうしたらいいか分からないが、少女は一旦女性警察が保護する。


「君は?」

「大丈夫です。」

大丈夫かは分からないが、少女を引き出す時に地面で擦ったかすり傷程度だ。


何人かの警官が車両を持ち上げようとし、2人ウェアラブルロボを着ている者もいた。救急車もすぐに来て少女は運ばれて行き、ファクトも聞かれたが断った。


その横で全員が慌ただしく動いている。

「荷台の荷物は?」

「危険車両ではないな。今のところ倒れても大丈夫なようですが…」

「無人車です。すり替わっていなければ中は製本用の紙ですね。」

「…重いだろ。」

「ほとんど降ろしているかと思いますが。」

車体を照合すればどこの会社のどこからどこに何を運ぶトラックか分かる。


「チコ、耐えれるか?!」

「……」

あの1億7千万のおっさんが来て、下をのぞき込んで聞いている。

「1人で出られるか?無理か?車体は起こした方がいいか?」

「…」

「返事しろ!」

「…起こしてほしい。無理だったら引きずり出していい……」



そこに2機男性型のニューロスらしき人、そして軍人らしき集団も来た。3分戦をした時の2人の人もいる。


「重くなさそうだがイケるか?!」

「車体が滑らないようにしろよ。」

「向こう側から引っ張るのがいいんだが。」

倒れて地に付く側の荷台に、上から回るように2本ロープを掛け反対から引き、同時に荷台自体も直接手で押して、左に倒れたトラックを起こすことにした。作業車を待つより起こした方が早いという判断だ。


トラックといっても2トン車両。荷台が重くなければ、この顔ぶれで大勢いれば人力でも起こせる。

警察が特殊な承認で荷台のロックを外し、殆ど空であったが中の商品を出す。その間にも周りに大きなシートが掛けられ、トラックの周りを覆った。

サルガスとファクトはシートの外に出されてしまい、不甲斐ない気持ちだ。

「大丈夫かな…。」



そのまま大勢でトラックを持ち上げて立たせたのだろう。


ドーーン!という音がして、地面が揺れる。


「起きないでください!」

シートの向こうで慌てた声がする。


あの状態で起き上がっているのか?唖然とするサルガス。


そこにカウスが来た。

「サルガス!ファクト君!大丈夫か?」

「もっと早く来てよ!」

まだ事故が起こって数分だが、ファクトが怒る。

「ごめん。人を避難させて、他に危険な車両がないか確認していた。」

「チコ…ケガをしました。」

サルガスが言うと、カウスは驚いてシートの中に入っていった。


5分ぐらいして担架に乗ったチコが出てきた。シートの一部が開けられ、軍隊っぽい方のトラックに乗せられようとするのが隙間から見える。

「待って!いい。起きる。」

「寝ててください!」

「先の子は?女の子!」

「女の子?大丈夫です。大怪我したのはチコ様だけですよ!」


「チコさん、点滴を嫌がって抜いてしまうじいさんですか。大人しく運ばれてください。」

サルガスは気が動転するのを通り越して、冷静になってしまう。

「近寄らないでください!」

軍服の女性が叫ぶがチコが制した。

「…いい!大丈夫だ。サルガス、ファクトは?」

「あ、ここに。」

後ろから顔を出す。


体のほとんどを布団で覆われていたが、頭に巻かれた布からも血が出ているし片腕は完全に機械部分が露出して、あ、本当にニューロスサイボーグなんだなと実感する。

チコが見えないようにか、他の軍人たちが移動車両の間もシートで覆っていた。



「ファクト!お前絶対危ないことするなよ!勝手に潜るな!車体が落ちたらどうするつもりだったんだ!」

この状態で怒っているチコにファクトも冷静になってくる。血が出て逆に興奮しているのだろうか。

「あ、はい。ごめんなさい。分かったので大人しく寝ていてください…。」


「チコさん、あまり大きな声を出さないでください。」

カウスが出てきてがチコの口を塞ぐ。

「一応人払いしてあるけれど、誰がいるか分かりません。」

興奮で出血が進んでも困る。


「このままSR社に行きますか?」

カウス同僚の1人が言った。

「……いい。ベガスの方にしてくれ。」


「チコ……」

軍車両に乗り込もうとする時、警察のおっさんが来た。

「チコ、すまなかった。」

「ふざけるな!アーツが解散になったらどうするんだ!」

アーツ云々の話ではない、自分が潰れるところだったのに。


チコは車両のドアにあったチューブをおっさんに投げつけた。

「チコ様!動かないでください!」

女性が怒り、カウスも蒼白顔で宥める。

「行きましょう。」





立ち尽くす自分たちを置いて、車両が去っていく。


ファクトたちは何とも言えない気持ちになった。

チコを見送ると、隣にいたいつもの警官が話しかけてきた。

「…お前ら兄弟、本当によく会うな…。」

「今日はわざわざ現場に駆け付けたので。」

サルガスが言うと、おっさんは頭を掻いてどうしようもない顔をした。

「いっそうのこと、警察に来るか?」

「…考えておきます。」

本気か冗談か、冗談で返しておいた。




***




管轄を見直す必要がある。


ベガスでは、一般公安の代わりを特殊警察の特警、ベガス辺境を東アジア軍、ベガス内ユラス領域と軍事規模の件をユラス軍が管轄しているが、近年の新しい事項でもあり、まだ名目上でしかなく実際の領域管理が難しい。


先ほども事故、事件の処理は警察が、ユラス所属のニューロスに関することは全て軍の管轄になる。だが、現実には線の引き所があるようでない。チコはユラス人だが、アジア国籍もありSR社の保護にある。

チコの血を一滴も残さないように現場処理するが、その前に警察刑事が検証をし、あとの処理は軍に任せる。


そもそもトラックの転倒事故に軍が動いていたら警察はいらない。


情報は共有しているが、実にややこしく、実に分かりにくい。


そして、今回は地位のある人物で、しかも高性能ニューロスが関わり損傷をしてしまった。そうすると、どこの管轄なのか。SR社や連合国研究所も関わってくる。本当はユラス軍としては情報を提供したくないだろう。


本来軍が動かなければ、東アジアでは中央の公安局捜査部が動く場合もある。捜査部も、この件に関心があり入っていきたいに違いない。今、各ニューロス派の動きは世界中で注目されている。


そして、ユラス軍は仕事が早過ぎる。

ベガス内部に駐在しているのも理由だが、動きそのものが速い。もっと早く動きたいのだろうが、おそらく警察に遠慮していたのだろう。少し前のスパイの件も最終的にユラス軍が解決していた。そして誰もが知っていることではないが、ベガスにはユラスの元特殊部隊人員が駐在している。あまり普通な話ではない。



今は、現在駐在する三者の人間的情の繋がりがよく、それでバランスを保っているが、情というだけでは仕事的には不合理な部分もあるし、人事異動があったらそうはいかなくなる場合もある。


今彼らを一つにするのは、連合国という大きな繋がりであったし、それが一番重要だ。いつ入れ替わるか分からない個人的な情のつながりだけでなく、連合国という旗の(もと)で共栄の基盤を作っていく必要があるのだ。





「ファクト、大丈夫か?」

ファクトはあの血を見たのだろうか…と、サルガスはファクトに心配気に聞いた。

「…うん。チコ、アーツの心配してたね。」

「ああ、俺らはある意味部外者だからな。移民はここが家だが、危険なら俺たちは引き下がらないといけない。」

チコが怒っていたのは、ベガスが危険地域になればアーツはここで活動できなくなるからだ。


「というか、チコ。あれは助かるの?」

どう考えても腕や足が曲がっていたのを、ファクトもそれなりに気がついてはいた。死ぬ前に急に元気になる人も見たことがあるので怖くなる。叔父さんがそうだった。

「…分からない。」

分かるわけがない。普通の人があの状態なら、ショックや出血で亡くなることだってあるだろう。


「タウたちが心配してるな…。戻ろうか。サラサさんに報告に行こう。」

力なく言う。

「あ!サルガス、またバイク…」


は!と思い出してため息をつく。

「まあ、命には代えられない…。それにあれ、VEGAのだし。」

高性能機種の前方をつぶしてしまった。けっこうなお値段の機種である。


「おい!お前たち!今日はデカいのがいないな。」

警察が呼んでいる。ヴァーゴのことだろうか。

「あ、どーも。帰ります。」

「何言ってるんだ。事情聴取だろ!」


また、お茶やコーヒーを出される。

「…。」

もう事情聴取はこりごりだった。




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