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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十一章 in ベガス

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42/110

40 蛍惑からの宅配便



あれから起きた響は、既にベガスのVIP病棟に移っていた。

仕事の速いサラサである。


そこは総合病院の後方にあり、入り口から警備…というかアーミーっぽい人たちがいる。マジか、と思う大房民。



キファはファイ、リーブラと響に会いに来ていた。


この時代は病院自体や公共の建物自体に、入退管理システムがあり認証で入館時間なども管理される。しかし、この病棟はいかせんヤバい。そんなレベルではない。いちいち指紋や血管まで見られる。そんなもの、ベガス入管や中高入学でもスキャンされているので、その情報を見ればいいのにと愚痴ったらダメらしかった。


部屋の前まで案内もつき、キファたちはビビりながら入っていく。サルガスもいるが、サルガスはトラック事故の件で数度来ているので、手をかざすだけの承認になっていた。




やっと安心の響の部屋まで辿り着くと既にムギがいた。


あまり大きい部屋ではないが2、3人で囲える机があり、そこにたくさんのプレゼントや包みが置かれて、二人で話し合っていた。


「響せんせーい!」

「ファイ!リーブラ!」

三人は抱き合う。

「先生寝てなくていいの?」

「うん。散歩でも行きたいくらい。」


でも、響はリーブラを見て黙ってしまう。自分よりやつれている。

「…。リーブラ、おいしいもの食べたかったら何時でも言って。」

そして、もう一度ギュッと抱きしめた。

「先生今度一緒に行こうよ。」

「うん!」

響はやさしく微笑んでリーブラの顔を擦った。


ファイは机の上にある物に注目する。

「これはお見舞い?」

「ううん。実家の方の友達からプレゼントが届いてて。もう4日経ってるからさすがにってことで、ムギが持って来てくれたの。」

もちろんプレゼントもスキャンして入館である。空港並みのセキュリティーだ。


「キファ君…。」

それから顔を上げて響はキファを見る。キファは言葉なく手だけ上げて、少しだけ笑った。

サルガスも会釈だけの挨拶をする。

「1週間…、研究室の方も…いろいろありがとう。」



響の研究室は、響が眠って3日後から学生たちを漢方医学科や薬学科などの先生たちに、一旦お願いすることになった。この期間は研究室より授業に身を入れるようにも言われている。


元々は自然療法、文化的視点での研究室だったので他の科でもよかったが、キファに仕掛けられ死に物狂いで成分名や分類名を覚えた学生たちは、主に療法生活薬学科を選んだ。

「療法生活薬学科とか、もう生徒たち戻って来ないかも…」

ちょっと落ち込む。響も好きな先生たちがいる科だ。漢方療法、薬剤師も目指せるが、美容分野や食品分野にも通じる研究室がいくつかある。


響もその隣接分野の研究室ではあるが、文系っぽいのでちょっと立ち位置が弱い。化学記号より産地に赴き土から雑草まで良し悪しを見るのが好きなのだ。

「先生、大丈夫だよ!」

根拠はないがファイが励ます。

「でも、今度またこんなことがあったら…。研究や生徒たちに責任が持てないなら、早いうちに研究室も他の先生たちと相談し整理しないといけないし。」

「先生、あんま今は考えない方がいいよ。」

落ち込み気味な顔を見て、キファが止めさせた。



「…あ!そうだ。キファ君。何かお礼がしたいんだけれど何がいい?食べ物とかドリンクが当たり障りがないかなーと思ったけれど、20代前半の男の子がほしい物って分からなくて。サルガスさんは?」

「お礼?」

キファはそんなもの考えてもいなかった。


「俺はいいよ。こいつらの行動把握しておきたいだけだったし。」

サルガスも断わったところで、思い出す。

「あ、俺よりイオニアになんかしてあげた方がいいかも。イオニアはまじめに仕事に行っていたから来られなかっただけで、ずっと心配してたからな…。」

普段ならここでわざわざイオニアを出したりしないが、命に関わることだったから心配していたことは伝えた方がいいだろう。


「はい。

でキファ君。…何か……普通の商品券だとあからさまだし、カフェやコンビニとかのカードにしよっか?デバイスに送った方がいい?好きなお店とかある?」


「それなら先生と二人でお茶したい。」

「!?」

何気ない顔で言うキファに、女子4人&サルガスの視線が集まる。


「え!それはだめ!」

赤くなって否定する。好意を持たれていることを聞いたので、残らないものがいいと思ったのに、それでは思い出が残ってしまう。

「私とファイもいるんだから、みんなでならいいけど!」

リーブラが余計なことを付け加える。


加えて、ムギが無言で責めてくるが、キファも攻める。攻めるのは得意なのである。

「それじゃあ、いつもと変わらないし。二人がいい。」

「変わらなくていいし!」

ムギは怒ってドシッとソファーに座り込むが、全然怖くない。


「ごめんね…。キファ君は弟や妹みたいな存在かな…。」

意識過剰と思われるのは嫌だけれど、響はここでしっかり断っておきたい。

ファクトやジェイ、ラムダたちと同じという事だ。しかも妹まで加えられて、ムギやファイとも並んでしまった…。


「じゃあ、弟に奢ってよ。」

というところでサルガスに引っ張られる。

「ウグ!」


キファはふられたことにズシンと衝撃を受けるが、一旦流す。

「お礼はいりません…。」

「でも…こっちの気が済まないから!」

「なら、この辺にあるカフェかコンビニのキャッシュでも送ってください…。みんなに奢ります。」

力なく言う。


さすがのムギもフラれたことを悟って、かわいそうなので何も言わないでおいた。




「先生!それで友達からは何が来たんですか?開いたもの見てもいい?」

ファイが積み上げられた箱に興味深々である。

「…あ、うん。えーと…どれから…」


響が混乱しているうちにその箱の中を見ると、洋服数着に、アクセサリーやベルト、カバンまである。梱包や質的におそらく全部ブランド品だ。え?と、ちょっと引く。しかも響が着ないようなピンクや白のフェミニン漂う服である。


「え、ナニコレ?男性からじゃないですよね?」

もう、トキメイていいのか、ドン引きしていいのか、萌える女ファイなのに今は自分が分からない。

男?と、思わずキファも覗いてしまう。


「え!ええ?地元に男友達なんていない!女友達だよ!」


まさか…とリーブラが聴く。

「先生、この送り主のシンシーさんってお嬢様友達ですか?」

「…そうでーす…」

言いにくそうに響は横を向いた。この前の件でアーツには言いにくい人物だからである。


お見合い準備か…。とファイはすぐに見抜いた。

お見合いと聞けばいつもならノリノリだが、SR社に引き抜かれる云々の話を聞いた後だと気が乗らない。誰が響を蛍惑に送るものか。ただ、服の質のいい生地にはちょっと惹かれるので、金持ち夫人が買うような服を見てはみたい。



1枚、白い服を出してみると、柔らかいニット生地でスレンダー気味のハイネックのトップス。


なにこれ、モロ男の趣味やん。


もう1枚、ピンクいのも広げてみる。こちらはフワフワなニットで、腰の部分だけ軽く絞った物。すこし大きめに着るが、肩をギリ出すタイプだ。ギリギリさが何とも言えない。


何だこれ。攻めてやがる。

「これは響さんには似合わない…。」

響は胸がやや大きいし髪の量も多くて重いので、着方によっては太って見えるかもしれない。


「じゃあ、これを着る時、髪はアップにしたらいーんじゃね?」

横でキファが余計なアドバイスをする。しかも的確だ。


「え?何それかわいい!まとめるの?ポニーテール??わ!やだ!」

思わずトキメキファイに戻ってしまうが…あー、違う!シンシーには何も奪わせない!と心を鬼にする。

「って、キファ!バカなの?!敵をトキメかせてどーする!」

「敵…?…!」

ここで、先までちょっと落ち込んでいたキファが理解する。


セラミックリーバス一族か!


いや、もう自分はふられたんだけれど。今さっき。



ボトムは、茶系のくるぶまである細プリーツガウチョ。ガウチョとはスカートのようなズボンである。

普段ロングスカートかガウチョにハイネックばかり着ている響の趣味に合わせつつ、さりげなくトップスに微セクシーを入れてくる、この、響に捨てアイテムにさせないテクニック。シンシー、侮れない。


もう1枚出すと、膝上20センチ丈のキュロットだった。

キファもオッと反応してしまう。

「ないない!この歳だよ!」

響はそんなことを言って笑ているが、大房は30、40代…60代でもミニの人たちがいる。むしろ、響の断り方がおばさんである。


おい、シンシー!お前は何がしたいんだ!攻めんな!

一緒に行くか?ライブ!と、ファイは勝手に胸アツになる。


まず、足を出した響を見たことがない。そもそもベガスの女性は脚が見えるスカートだといつも下に何か履いていて、とくに響は上から下まですっぽり着こんでいる。



しかも、もう1つの箱を開けてファイの手が止まる。キファと目が合って見えないように箱をゆっくり隠した。

「……。」

さすがに一番下の下着ではないが、ベージュで少しだけレースのシュミーズ、いわゆるスリップが入っていたのだ。肌着である。多分ニットから透けないようにとの配慮であろう。これを荷物センサー通したんか…。


何なのシンシー!何をさせたいんだ!


響さんはこの時期、股引みたいなヒート系しか着ないんだよ!全部スポーツやシンプルタイプだよ!レースのレの字もないっつーの!ちょっと鼻血が出そうな気分になって、自分の高鳴る胸と、鼻孔を押さえる。

「ちょっとシンシー姉さんの頭の中を覗いてみたい…。」

「ファイ、変態はそこまでにしておけ。」

と、サルガスに止められた。



そんな興奮するおねーさんを、ムギが横で冷めた目で見ている。


「ちょっと可愛過ぎて着れないよねー。ファイやムギが着てみる?」

そんなアーツの変態脳の中まで見抜けないDPサイコス使い響は、純粋に嬉しそうにすすめるがムギは即答。

「いい。こんなフワフワな服、すぐ破れる。」

いやいや、破れはしないだろとみんな思う。なぜ破れる前提なんだ…と思いつつ、ムギならあり得る。


「リーブラは?このピンクのキュロット、けっこう似合うと思うけれど…。」

「そんな高そうな服、いらない。」

まあ、ギャルだったからね。着こなせるけど、と思いつつ、そんな服を着る気分ではない。


「ねえファイ。これって全部洗濯できるの?丸洗いOK?」

「…こんないい服、洗濯機に入れないでください。」

ファイが説明しても、響は把握しきれない。

「えー、めんどいなー。お家でできる洗剤あるのにダメなの?気を遣う服って、着るのもめんどいよね。」

困っている響を眺めて、これはライに洗濯の時は頼んでおかなければいけないと思いつつ、金持ちたちは半端ないなと思った。



「『これを…お見合いに着て来てねー』??!」

最後に手紙を読んで今更びっくりする響と、何も知らなかったのでムギもびっくりである。

「響、お見合いする気だったの??誰と?」


「しないし、これも着ない。かわいいの似合わないって言われてたし!それにお見合いもうやめ!」

「…え?先生お見合いしないの?」

「しないよ!こんなことになって、大学も放置で。体力復帰したら今は学校が優先だよ!」


けれどもみんな思った。




あのギラギラした博士たちを思い出す。


SR社が出入りするかもしれないこの時期、研究室に戻れるのであろうか…。


そして、あのシンシーから逃れることができるのか。



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