表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十章 第3ラボ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/110

39 初めての後悔



「チコさん!、総長!私が分かります?!」

サラサもベッドに乗り出す!


「誰…?」


「ウソ…。」

と、青くなるサラサ。

「ちょっとヤバい。こういうのは誰に初めに言うべきなんだ?SR社か?デネブ牧師か…?エリス…?」

うろたえるカウス。



そんな3人の様子を見ていたチコが言った。

「ウソだよ。分かってる。カウス・シュルタンだろ。」


「!」

さらに全員真っ白になる…。


そして間をおいて、……脱力。


「何なんですか!それ!」

「ファクトが予約していった映画やドラマが、5本に1本ぐらいそういうのだったから。」

「やめてください!心臓に悪いです!!」

「ファクトの奴、毎回アイラッキング(視覚操作)を切っていくから、見たくないのにあれこれ見せられた。」

「…とにかく変なネタはやめて下さい…。」

少しかすれた声だがいきなりこんなに饒舌なことに、記憶喪失と同じくらいインパクトがある…。



しかも、体をガっと動かそうとし、ドタッとベッドに崩れる。

「チコ!まだ動かないで!」


そして、崩れたまま言う。

「…記憶喪失になりたかった…。」

冗談で言っているのかと思いきや、うずくまって顔も見せない。

「………」

「…何言ってるんですか。」

カウスはため息をついた。


「もう、アーツの初動は確立したから…」

デバイスで、河漢事業の報告も受け取っている。


「……私自身の事は全部白紙にしたい…」

チコは力なく言った。

「ベガスやアーツでの仕事が終わったらどこに行けばいい?今の位置ではもう居場所がない……」


「………だから今は……ここに居場所を作りましょう。」

カウスが力強く言うが、チコには受け入れがたかった。

「ナオスの族長という肩書がある以上、ここでの仕事が終わったらユラスに戻らないといけないだろ…。」



「…まだですよ。

アーツ自体に礎石を据えて地盤を抱えないと、まだ先は分かりません。総長が眠っていましたので団体申請も滞ってますし、外部で実績をあげて収入も確保しないと。スポンサー基盤と助成以外でどう財源を作るかも検討する必要があります。

今ならほとんどのメンバーがバイト時代よりいい仕事に付けるはずです。でも、たくさん資格など有しているのに、それに見合った給料も払えていないし、無給状態で動いてくれているメンバーもいます。」

サラサが真剣な顔で言う。

今アーツは、助成以外ではベガス自治体と世界規模の組織VEGAの後援を受ける形で動いている。現目標として、これをベガスの一団体として独立させたい。


「まだ、総長とエリスが代表です。最後まで責任を持ってください。」

「………。」



「チコさん。タウのところ、子供が生まれたんですよ。会ってあげて下さいよ。」

カウスが話を変えて、そっと横からつぶやく。

「………」

チコが顔を上げる。


「エルライと…蛍もおめでたです。今のところ順調です。」


ガバっと立ち上がろうとして、また起き上がれず、支えられもう一度寝かされる。手足もないので腰も安定しない。数カ月ぶりの動作であるし倒れて当たり前だ。起きようとするだけすごい。まだいくつかの管や点滴などついている。


「…それに、響さん。故郷の人とお見合いするそうです。放っておいたら行ってしまいますよ。アーツが言うにはイケメンだそうです。」

サラサが不満そうに言うも、

「…響が幸せならそれでいい………」

と呟く。


「何言ってるんですか!いい訳ありません!」

「……。」

頭が働いていないのか、勢いのないチコ。


「ユラスから、誰もが黙るいい男を連れてきてください!!」

「…そんな奴いたっけ?」

「総長が探してくるって言ってたじゃないですか!」

「…ユラスの軍人や役人とかは嫌だし。みんな似たり寄ったりじゃないか?」

「えー!います!1人ぐらい、いい人絶対います!」

「そうだっけ?ユラスはダメだろ。」


微妙に記憶不明瞭らしい。



SR社の研究員を呼んだ後、彼らが来る頃にはチコは既に眠っていた。



ただし、ポラリスは即動き出す。

「もともとここに来たら、仕事は進めるつもりだった。作業はタニアで一部進めている。取り敢えずチコが動けるようにしよう。」




***




久々の南海広場。


そしてベガスのおじさんと共同経営者になってしまたジェイのコンビニで、リーブラはボーとしている。


「…大丈夫?」

ジェイは力のないリーブラに、一応声を掛けてみる。

「うん…。」

手伝いで来ていたラムダも聞く。

「なんか飲む?」

「…いい。」


SR社内のことでいろいろあり過ぎてみんな言わなかったが、リーブラはこの1週間と少しで、かなりやつれてしまった。痩せた…というより本当にやつれている。点滴以外絶食状態で寝ていた響の方がよっぽど健康そうだ。


そして以前のような、キャピキャピ感がなくなってしまった。



「しばらくこのまま研究室も休んだ方かいいよ…。」

「………うん。」

「…いろいろ考えるの面倒だったら、ここに来てていいからさ。」

「私さ、初めて南海に、ベガスに来ない方が良かったって思った…。」

「…え?」

「………」

リーブラは答えない。


「疲れた?後悔することもあるよ。数か月前には考えられなかった生活してるし。あまり疲れていたら、友達もいるだろうからしばらく大房に帰っていいと思うし。」

「…うん。」


「…みんなに言わないでほしんだけど、もう響先生が戻って来ないんじゃないかってことがあってね…。先々週の焼肉がさ、もしかして響先生の最後を覚悟した挨拶代わりだったんじゃないかって思ってさ。

チコさんもどこにいるか分かんなかったじゃん?」

「………」


「…大事な人がいなくなるって、こんなに怖いことだなんて知らなかった…。」

「……。」

「何だろう…それだけじゃなくて…、誰かがこんなに大好きって、大事って…初めて思ったから…。うちはお父さんもお母さんも好きだし、今までだって、他人がどうでもいいとは思わなかったけれど…。

高校の時に好きになった人と付き合ったことがあったけれどね。それとも全然違って…。こんなにも恋しいとかも、一緒にいたいとかも思わなかったから…。知らなかった…そいうの。」

顔を膝にうずめる。


「…。」

何も言わないで聴くジェイとラムダ。


「あのー、レジお願いしまーす!」

客が来たがラムダが動いてくれた。


「ここの人たち簡単に言うじゃん。チコさんの周りの死亡率が高いとか、カウスさんも『大丈夫、死なないから』とかよく言うし。よく分かんないけどムギちゃんも簡単にどこかに行っちゃうし。


でも、全然簡単じゃないし…。

私…私…、チコさんや響先生が、もしいなくなったら…」


ううぅぅ……っとリーブラが泣き出した。


ジェイは裏方のタオルを持ってきて、顔に差し出す。テーブル席の近くだったので、少しだけ通り客がいたが、泣いているリーブラを見ると買ったばかりのお菓子を近くに置いて、ファイトポーズをして去っていった。ジェイはお礼代わりに、軽く礼をしておいた。


ファイに連絡を入れると仕事の打ち合わせ中という事で、蛍が迎えに来てくれる。蛍は既に寮を出ていたが、いくつか食べ易い物を買って支えながらリーブラを送ってくれた。





リーブラは本当に怖かった。



アーツはファクトが骨折したあの夜に、警察でなく初めから軍が動いていたことを知っている。

片方は普段見ることもない東アジア軍。


レスキューのヘリがあんなに大きいわけがない。大きかったとしても、あんな大きいものを普通の事故で飛ばすわけがない。しかも翌日に、事故などのニュースは何もなく、チコが消えてしばらくしてから新しい人が赴任してくる。


リーブラやファイは、夜にそんなことがあったことすら知らなかったが、予想を立てている男子陣の話は聞いていた。


誰もが、あの夜何かがあったのは分かっていたのだ。




そして、第3ラボの術中に一瞬見えた、響への攻撃の手。


おそらく同じ敷地内にいるのに、なぜか面会も通話もできないチコ。


起き上がることのできない誰かを見たこともなかった。



命の行き交う現場に初めて遭遇したリーブラには、この1週間と数日はあまりにも苦しいものだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ