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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第七章 消えたあなた
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2 ポラリスのお土産



ここはアンタレス市、ベガス南海。

藤湾の学校から帰って来たファクトは、VEGA事務局にいたチコに小さな包みを渡した。サルガスやタウ、シャウラをはじめとするリーダーたちもいる。


VEGAはユラス発の、もともとは元兵士や少年兵、戦争被害者などの社会復帰団体であった。連合国規模になってからは移民教育や人材育成、自治体形成の手伝いなど様々なことをしている。



「何これ?」


「父さんからのお土産。」

「ポラリスから?!」

どこのイケメンだという様なかっこよさから、急に顔を赤くして驚く義姉のチコ。

「開けていい?!」

「もちろん。」

クリスマスプレゼントをもらった子供みたいな感じで開けるので、みんな何事かと寄ってきた。


袋から出て来たのは小さな正方形の2色2つのオパールが縦に並んだネックレスだった。

「きれい…」

チコがうれしそうにネックレスに見入っている。

サルガスとタウは、基本真顔か怒っているチコの顔がゆるむのに驚くがすぐに気が付いた。これはファクトといる時の顔だ。弟大好きなのである。


「ポラリス博士からですか?」

「すごいですね…。」

事務局メンバーも見に来る。みんながすごいというのは、ネックレスのことではなくチコのことだ。チコがこんなうれしそうな顔をすることはほとんどない。カウスもちょっと驚く。ホテル近くでファクトに初めて会った時くらいの破顔だ。


ファクトが弱点と思っていたが、どうやら義父ポラリスも弱点らしい。

事務局のメンバーも知っている。チコは宝石などには興味がないことを。カーボンやダイヤモンドの硬度、屈折などには関心があるだろうが、装飾品なんて関心がない。つまり父からのお土産そのものがうれしかったのだ。


「後これ皆さんに父から。自分とチコのこともいつもありがとうって…。」

ファクトは事務局にビーフジャーキーと紅茶を渡した。父のいるタニアは連合加盟国なので、肉に関して熱を通してある加工肉なら検疫を通れば持ち込みは基本自由だ。

「おー!ポラリス博士からだ!」

「すげー!!あやかっておこう!」

「うちのオカンに自慢しよ。」

「仏壇に供えておこう…。泣ける……」

「しかもお礼まで言われるとは!」

「俺たちがチコさんを面倒見てるって話ですよね!」

チコがイヤな顔をする。


でも、もう一度ネックレスを見てそっと笑った。


ファクトはまだ箱の中をごそごそする。

「アーツにもお土産あるよ。アーツはお茶じゃなくてジャーキーとチョコね。フェアトレードのいいのだって。お茶を淹れるようなしゃれた集団じゃないって言ったら、チョコにしてくれた。」

とのこと。サルガスもタウも反論の余地がないので、ふーんと受け取る。しゃれた集団じゃないと言っても、リーブラたち女子陣が喜びそうな、ドライフラワーやフルーツ、ナッツが入ったしゃれたチョコであった。




職員がビーフジャーキーを好き勝手奪って、持ち場に戻っていく。パーテーションを隔てたチコの周りはアーツだけが残った。


「そうそう。チコ。シェル・ローズ(SR)にはいつ行くの?」

チコが少しファクトを見て止まってしまう。そして、どっしりソファーに腰を下ろして急に気だるそうに言った。SR社はニューロスメカニック開発の最先端企業で、チコはもう何年もSR社で調整をしていない。

「そろそろ行かないとな。」

「行く気ある?」

「…行かないとダメだろ。」

サルガスやタウたちは横からその様子を黙って見ている。実はチコが個人的になかなか捕まらないので、ファクトはみんなの前で予定を確定してしまおうと思ったのだ。


チコはスケジュールの掲示板を見て観念して唸る。

「うーん。今週はもう終わるから…来週の頭がいいな。ファクトの予定は?」

「月曜日でいいよ。さっさと行こう。」

「分かった。じゃあ、月曜のユラスの会議はなしだな!カウスに任せよう!」


総務サラサが即、横やりを入れた。

「ダメです。夕方にしてください。」

「総長が行けば、深夜だろうが早朝だろうが祝日だろうがみんな集まってきますよ。夕方で大丈夫です。」

「…絶対いやだ。カウス、よろしくな!」

「え!ひどいです!」

部下のカウスはいつもはずれ役である。


ファクトの腕を引っ張って逃げるチコ。

「朝に行って早めに帰りたい。」

「え?チコ、ミーティングは?!」

サルガスが呼ぶが止まらない。

「報告だけだろ。まとめておいてくれ。」

逃げる二人を見てサラサが頭を抱えていた。



二人が消えて行ったドアを見て、思わずタウが言ってしまう。

「姉弟って言っても全く血の繋がりはないんだろ?あの二人距離が近過ぎないか?」


残されたメンバーはその一言に固まる。


「…確かに。ファクトももう子供って感じじゃないからね。少なくとも見た目は。」

第2弾の女子リーダーのソアも唸る。ファクトの頭の中には未だ花やスライムが咲いてそうだが、背丈は既にチコを超えてしまった。


「チコさんに限っては…大丈夫だと思いますよ…」

カウスが苦笑いをした。

「まあ、二人がそうでも周りがどう取るかは問題だと思うけど。公私しっかり分けておけば問題にはならないとは思うが。」

ヴァーゴは気にならないが周囲はどうだろう。チコがファクトに甘いと言っても、アーツ内では新規で入った高校生や18歳以下にはファクトと同じ対応を取っている。

「そうかな…。こういう時こそ男女の距離感って大事だと思うけど。」

他のリーダーが怪訝な顔をした。イオニア事件もあったばかりだ。酒が入らなくてもあの低落。


「ここだけの話だけれど…。まあ、いろんな国の文化があるからどれがいいとか言えないけれど…もしかしてチコって、身内との距離がつかめていないとか?」

サルガスの言葉にみんなが何のことかと考える。普通に見ていたら、チコは非常に冷静かつ沈着だ。


でも…

「二極化し過ぎている…。」

「それはあるな!」

みんな納得。身内に態度が甘すぎる。

ミザルにあそこまでされて、恨んでいる感じでもない。それが距離感を失っているのか性格なのかは分からないが。


「でも分かる!心配ですよねー!チコさんキレイだし!」

「っ?!!」

あまり事情を知らないソアが爆弾を投入した。


おい!それを言うのか!この半年誰も言わなかったことを!

そう、あえて。


「ファクトも惚れちゃうかもしれないし!」

「…。」

周りがまたしても、しんとしてしまった。

「あれ?禁句?」


キレイなお姉さん程度には言っていたが正直チコは、ユラス北方系の美男美女たちとは違うタイプの、華やかで目立つ美人だった。そう、おそらく美女の部類に入るのだろう。


「え!それは考えたことがなかった!」

試用期間、女性にまで頭が回らなかったキロンが一息置いて驚いてしまう。筋トレやサイコス啓発で疲れ切っていたメンバーには、そんなことを考える余裕はなかった。敢えて言うならば、チコは彼らの中ではイケメンだ。完全に女性の部類から飛んでいた。鬼教官であり、ラスボスであり、クルバト妄想ノートの帝王である。


「えー!きれいですよ。私が男だったら絶対惚れています!」

ソア、それはお前が女だから言えるセリフだ!と男陣は思う。あの藤湾学校を訪問したの初日を思い出すと、距離が近い分冗談にならない。むしろ親衛隊の方がまだいい。ユラス民族を怒らせてはいけない。



「大丈夫です!チコさんはもう誰とも結婚しませんよ!」

()()?!」

カウスがまたまた爆弾を投入するが、投下したのはサラサだった。


バジ!!

「いで!」

「カウス、黙りなさい。」

サラサから50センチ定規を思いっきり縦に食らう。


そして、アーツメンバーに「しー」をするサラサ。



バツイチなのか…。


もしかしてだが、みんな言葉をなくしてしまった。

今になってそんな事を知るとは…。




***




南海広場の出店が出ている階段近くで座る二人。



「月曜日バイクで行く?タクシー?誰かに車出してもらってもいいけれど。地下鉄とか乗ってみたい?」

ファクトがいろいろ聞く。


「地下鉄は乗れないんだ。」

チコの立場では、任務以外は閉鎖された目立つ地下鉄には乗れないらしい。旅行用などの指定席の列車でも、事前に警備や交通会社などに話を通していかないといけない。


なんかかわいそうだなと思うファクト。


南海にいると比較的自由に見えるのに、公人みたいな立場なのだろうか。そして、やっぱり調整というのはいろんな人の注目を受けるのだろう。年上と言っても、チコの見た目は自分たちとそう変わらない。まだ若いし、きっと嫌なんだろうなと思った。

チコは、アーツや南海の知り合い以外の前ではそんなに話をしない。寡黙な女性なのだ。


「ちょっと待って。」

ファクトが近くの店で薄切りアーモンドバターアンドクリームのクレープなどを買ってくる。


「はい。」

チコは変な顔をしている。

「食べたことない?」

「…初めてだ。」

「食べてよ。もしかしてダメとか?」

「ううん。大丈夫。」


いつも少ししか食べないから、体の都合上食べられないのかと思っていたけれど大丈夫のようだ。

「おいしい?アンタレスのデザートは甘さ控えめだから、食べなれない人にもいけると思う。」

「うん。うまい。」

2つに割って、二人で無言で食べる。チコとは沈黙も平気だった。



その時、チコが何かに気が付き耳を澄ます。


「……」


何だ…?


「ファクト、気になることがある。先に戻れ。」

「え?」

チコは全部口に入れると、階段を上って走り出す。


「カウス、制御できていないトラックがいる。141ストリートの西大通り交差点だ。私のバイクもってこい!フェクダ、レオナスは近隣に人間がいるか確認しろ。」

と言いながらすごい勢いで走っていく。そして、競技場の屋根に乗り、45度方面に向かった。


戻れと言われてもどこに戻ったらいいのか分からないので、一旦チコを追うことにした。でも速過ぎるし跳躍力もあり過ぎて追いつけない。先聞いた交差点は競技場より少し離れた元市街地。


ファクトも気が付く。何台かの警備車両がサイレンを出さずにそこに向かっていた。



そして聴こえる。1台エンジン音と動きがおかしい。

見えなくなったチコと別ルートでそちらに向かう。


あれか?!


先の話より交差点を数本過ぎたところで、暴走する荷台を付けた半アナログの2トントラック。

周りに人影はほとんどないが車両は左右に揺れている。


次の交差点の角に1人の少女が立ってた。

危ない!



その揺れた車両が曲がり切れずに少女の方に倒れた時…

瞬間にチコが間に入った。


ガガガーーーー!!ダン!!


とすごい音がして、トラックがエンジンを回したまま横転する。



「チコーーーー!!!!」

ファクトが叫ぶ。

まだ少し先だが、完全に見えてしまった。


荷台の下に少女とチコが挟まれるのを。




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