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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十章 第3ラボ
37/110

35 夫婦喧嘩



「…私の知らない間に、全部終わっていたのだけど……」

ミザルが信じられないという顔だ。


「あ、いや、寝てたから。」

父ポラリスが答える。


「……起こしてくれるのが道理じゃない?この件に初めから関わっていたのは私なのに。責任を持ったのも。シャプレーのサイコスも確認できなかったし。」

「報告第1報はもう出てるぞ。私も全部終わってて最後の施術も見られなかった。同じ敷地にいたのに…。

ファクト、話してくれればいいのに逃げただろ!」

話を息子にすり替える父と、知らぬ顔をする息子。

「報告書?今後のためにも、もう少し第三者が(じか)で見て知っておくべきだったでしょ?それにファクトに振らないで。」


夫婦喧嘩か…?


「…あのさ、母さんには悪かったけれど、そういうことは別室で話したら?」

ファクトが口を挟む。

「ファクト、あなたにも言いたいことがあるけれど、そうね。取り敢えずここを出ましょう。」

ミザルが去ろうとするとつかさずポラリスが言う。


「イヤだ。」

そう言って、空いていたソファーにドカッと座る。

はい?とアーツ一同はポラリスを見る。


「何言っているの…。さっさと出て。」

ミザルがイラついている。

「イヤだ…。2人になったら怒るだろ…。」


はあぁぁぁ???


となるアーツ。

そんな言い訳、ヴァーゴでもしない。

「いいから早く行きましょ!」

手をザッと出口に向け煽る。


「ここで話そう。」

「ここで何を話せるの?あのね、夫でなく仕事仲間として言っているの…。」

大分キレている。先の施術を見たかったのだろう。


既に怒っているから行けばいいのにと思う一同。


「早く。行くよ。」

ポラリスはミザルに目を合わせない。

「父さん、行きなよ。久しぶりに会ったのに時間がもったいないよ。」

「後で行く…。ほとぼりが冷めた頃に…。」

「みんなの前だよ。」

ファクトが急かす。


「皆さんがいるからここにいたい…。」

アーツは思う。俺たちは何の防壁にもならないのに。

ミザルから守れる人間は……誰もいない。


「いい加減にして…。先、寝ていた分仕事を進めたいの…。朝も勝手に帰って来て…」

「分かった!分かったから5分後に行くから…」

「あのね、チコにあんなことがあってからずっと家に帰っていないの!早くしてほしいの!」

まあ、ミザルは昨日今日とは言わず、物心ついた時からラボに缶詰めだ。しかも、かなり疲れているのかギャラリーがいるのにチコの話までしだした。


チコがいなくなってかなり経つ。みんないつから缶詰めなのかとちょっと恐ろしくなった。


「もう行ってあげてもいいんじゃ…。怒られたらいいよ。」

みんなの代弁をするファイ。少し目が座っているミザルに、さすがのポラリスも苦笑いで立ち上がった。

「だから後からすぐ行くから……」


まだ言うか。いやなのは分かるがミザルと一緒に出て行けばいい…。

そして、何か思い当たるこの状況に、みんな気が付く。



何だ?この既視感。


思い出す。


…カウス。


そうカウスだ。

カウス・シュルタン。

あの煮え切らない態度と、エルライが泣きそうだった日。アーツとの再会の日を思い出す。


ただ、カウスは言い訳がましくも妻エルライに全ての引導を渡していた。卑怯だがカウスは賢いのかもしれない…。



完全に下を向いてしまったミザル。さすがにファクトが立ち上がって二人を外に連れ出そうとした。


が、


「今来て…。この状態で仕事が手に付くと思…」

と、言ったミザルの顔を、ポラリスはクイっ持ち上げる。



そして、そのまま口付けた。


「!」


目を見開いて驚くミザルに、固まる男子ズ。

ファイは反応できなくて真顔だ。

ファクトは呆れてはいるが、何ともない顔をしていた。


「う゛っ」

と、夫の手を解こうとするが、手こずる。



一同反応に困る。


段々真っ赤になって、ウブでもないのに顔を押さえるファイ。



バジ!と側頭部を叩かれてやっとポラリスは手を離した。


「本っ当に懲りないのね!」

「いやあ、若者たちが結婚に幻滅されたら困るから。仲のいいところも…」

心配しなくても、ここにいる半分以上が初めから親子&夫婦関係破綻家庭だ。


またギュッと抱きしめる。

「ママ、大好きだよ。」

「離しなさい!!」

ミザルはポラリスの足を踏みつけた。

「いつっ!」

「年増のそんなもの見せられたところで萎えて幻滅するだけでしょっ。気持ち悪い!」

完全にキレて、出て行ってしまった。



ミザルはまだ40前後。眉間の皺と、目の下の疲れ具合以外はファクトの姉みたいな感じもするので、言われないとそんなに歳には見えないが、息子はどういう反応をしているのかと思ってみんな見てみる…。


そうすると炭酸水を飲みながら、普通に呆れていた。

「あのさ、父さん。今追っかけなよ。またそれで会えないままで、1年後とかだよ。ほとぼりも冷めているだろうけれど、愛情も冷めちゃうよ。」

「いやー、今行くとかなり怒りそうだし。時間を置いた方が……」

「そんなのいいってば。父さんに当たればストレス解消になるだろうし。あ、でも余計なこと言わないでね。うんうん、ごめんって聞いてればいいから。」


……

下町ズが思っていた呆れ方とは違い、父親にアドバイスまでしている。


なんだこの親子…。

ファクトがこの家庭でグレない理由が分かった気がする。ファクトのような父に、ポラリスのような息子がいるのだ…。


「でも、どうせしばらくはお互いここにいるだろうしな。」

「今行きなって。」

「え?、本当に嫌なんだけど…。」

少し考えるポーズをして、恐々もう一度ファクトに聞く。

「母さんまだ怒ってるかな?」


いやいや普通に怒ってた。と思う下町ズ。

今、さらに怒らせたばかりだ。


「しつこいな。行きなって!」

遂に父の背中を押す。

「え?ちょっと君たちとも話したいのに。」

「何にも話すことないから。響さんが起きたばかりで尋問みたいな事したら、アーツも二度と会ってくれないよ。」

「しないぞ!そんなこと。とにかくファクトが先に行って、ちょっと母さんを宥めてきてくれ。」

「いいから。父さんがちゃんと謝って、ちゃんと抱いてあげなよ。」

と、騒ぎながら、ファクトは父を追い出し一緒に出た。



「…おじさん。相変わらずだな…。」

リゲルの言葉にイオニアが何とも言えない思いになる。

「え?普段もああなの?」

「だいたい、おじさんがどこでも『ママ好き』って言って抱きしめて怒られている。人前でやめてとか言われると『帰る時間がないから、ここでいいだろ。ダメなら休暇ちょうだい』とか会社の人に言っている。」

「え?マジ?」

「やっぱりカウスさんじゃん!」

ファイが納得する。



イオニアの父は、何かあれば絶対的に自分の妻が足りない人間だからと決めつけていた。

妻には自分から惚れたとは絶対に言わない。頼りにされている、想われていると思い込んでいるのか、人前で体裁を保っているのか。女とはそういう者だと思老い込んでいるのか。とにかく妻という存在は、イオニア父の中で円満な家庭形成のための所有物であった。


「すごいな…。うちでは考えられん…」

実はうるさいので途中から起きていたキファが、顎をついて布団を半分被ったまま言う。

キファにとって、母親は理解不能な謎の生命体であった。おそらく父にとってもそうだろうが、結婚してそうなってしまったのか、初めからそういう人だったのかは知らない。


前もみんなと話していたが、当たり前な恥じらいがあるだけミザルはまだ全然いい。仕事に懸命で根がまじめなのだろう。

キファの母の恥じらいはぶっ飛んでいた。『家族が人様に迷惑を掛けること、それによって自分が作った朗らかな家庭を貶めてしまうこと』が、キファ母の恥じらいというか、許せない恥であった。

「そんな風に皆様にご迷惑を掛けて!」と、母が言う度に「うっせーな」としかキファは思わなかった。


ファイの両親は仲が悪いのに離婚もせず、完全別居もしない。

似た者同士でいつもお互いの悪口を言うか、無視し合っていた。ファイは家庭に居場所がなかった。



二人の出て行ったドアが閉まるのを見届ける。


「ポラリス博士はミザル博士や子供の前以外では、だいぶ抜けてるおじさんだよ。仕事とそこしか人生に気合いを入れていない気がする…。」

リゲルの思い出す限り、ポラリスはそういうおじさんだった。



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