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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十章 第3ラボ
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33 第3ラボ



しかしここでSR社にとって困ったことが起きた。



丁度、シャプレーとファクトがサイコス開始状態になった頃に、ありえない来客が来たのだ。


「だからここだろ?」

「外部の方、アポのない方には一切お答えできません。」


(ひと)二人が突然姿を眩ませて、それはないっしょ。」

SR社第3ラボの敷地でブチ切れているのはイオニアであった。そして後ろには、無理やり連れてこられたタラゼド。


「響さんの身内や生徒たちにお話ししてもいいと?」

そう言うイオニアに対応しているのは、アンドロイドのカペラである。


兄との会食の後、真っ先に響の研究室に向かったイオニアは、響不在の延長、一応他の先生も対応していたが、なぜかキファが指示を出していた曖昧な現状、そしていつものアーツメンバーの不在にさすがに撒かれていることに気が付く。


いないじゃん。響先生。


しかもイオニアは知っていた。

本当に響の身内…旧友が来るのだ。おそらくだが。


響がいなくなった前日の焼肉、みんながまだ盛り上がっている時に少しだけ席を外していた響。


そこであの蛍惑の友人が、「今度アジア公演がある時に、義弟を絶対に引き合わせてあげる!」と言っていたのだ。響は、まだいいなど断っていたが、調べたところ来月から短期公演がある。都市と都市の移動の間に間があるので、数日休暇が入るかもしれない。

「響さんの蛍惑の身内からそろそろ連絡が入るかもしれません。お見合いセッティングしてたので。連絡とれなかったらヤバいですよね。」

笑ってカペラに言うイオニアと、あれはそういう話なのか?と驚くタラゼド。リーブラたちが煽ってケンカをしているだけだと思っていた。


イオニアはファクトが出入りしているのが現在、都内鍵倉の研究所でないことも知っている。そうなると、郊外のSR社施設か。チコに関連しそうな施設ひとつひとつ当たると、報告されて対策されるので、一番可能性の高い通称第3ラボと推測。身内の呼び名だったが、アーツのいつものあいつらがその名を呼んでいたのを覚えていて、状況を総合しここに来たのだ。


カペラに少し待たされると、身分証明を受けて入館を許される2人。


「サラサ・ニャート氏からも確認を取りました。どうぞお入りください。」

ここでイオニアを騒がせるくらいなら、入れた方がいいとサラサも判断したんだな、とタラゼドは思う。




ロビーに入るとそこにはファイが待っていた。


「イオニア!タラゼド!なんで?」

「お前こそなんでここにいるんだ?あ?よくも俺を撒き続けたな…。」

タラゼドはファイにごめんサインをする。


カペラは状況を監視する。一応、ベガス組織のリーダー枠の二人。つまりチコやカストルに信頼されている人間だから大丈夫との情報を得ている。ファイから簡単な説明を受けながらイオニアたちは進んでいく。


「現在施術に入っています。静かに入室してください。」

スピカに似たスーパーモデル体型で、尚且つ美しい筋肉質な体を持つカペラが、全てフリーパス状態で奥まで案内した。


こういう人物を秘書や受付にするのか?社長の趣味か?と、驚く。二人は知らないが、人間との区別に付ける「判」はなくとも、カペラは護衛主体の秘書アンドロイドである。


だいぶ奥まで来てある部屋の入口に入室する。その部屋は二重ドアで、さらに通路の奥に(ひら)けた30畳ほどの研究室があった。


鼻にツンとする香。

いやな香りでなく凛々しさと清涼感がある。タラゼドはこれがトリップの時のユーカリだと気が付いた。ミカンのような甘さも時々香り、そして、何かが揺らいでいるのを感じた。



雰囲気は違うが、カペラに似た顔のスピカが案内を変わった。


そこには、リーブラ、キファの他に、ファクトとおそらくSR社の社長がいるようだった。二人をリーブラたちの近くまで連れて行く。


いつもの如く後ろからいきなり頭を掻きむされて、びっくりして振り返るキファ。そこには前を向いたままのイオニアがいた。

「ゲ!」

と青くなるキファ。



そして。なんとなく分かってはいたが、思わず目を見開く二人。

人間に使うには大げさなストレッチャーに、目を閉じて少し横を向き、胸下から布団を被っている響がいた。


「これ以上近付かないように…。」


響の方を見据えたままのシャプレーが話す。

隣りにはファクトがいるが、二人と目が合わない。


「ファクト…?」

立ち上がっていたファクトには二人が見えていないようだった。

「スピカ。ファクトを良いタイミングで座らせるように。」

シャプレーの指示に後ろにいるスピカは頷いた。




――――





様ざまなものが通過する。




一瞬見える、裸で歩き回わるグレーブロンドの小さな子供。



荒野?あの地下?…

違う、どこからラボ?なんとなくラボだと分かるが、子供はファクトに気が付かない。


窓もない部屋にいる子供のお尻には蒙古斑があった。オムツをしめさせてくれなくて、神経質そうな女性が怒って追いかけているのを俯瞰(ふかん)で見ていた。


ここはどこなんだ?どこのラボだ?


あの男の記憶?それにしてもこの前と雰囲気が全然違う。なんというか、柔らかい。

ただ見守るような…そんな目線。あの男の目線じゃない。誰かの俯瞰の記憶を見ているのか?



ピキン!



…。



荒野?

違う。都市?どこだ?


今、世界が切り替わった?



ファクトはもう別の誰かの深層に入ったのかと戸惑ってしまう。

シャプレーの?響さんの?


ラボ?

やっぱり荒野なのか?どこだ?



手術台のような硬めのベッドの上に誰かいる。

「響さん…?」


違う。チコ?


チコでもない。

チコより大柄で、チコより白い髪…。


その女性が、寝たきりのまま顔だけ横を向いてファクトと目が合うと、涙を流した。

手を出そうとするのに手を出せない。薄い、だけど高質な羊毛の布団から、必死に手を出そうとしているのが痛いほど伝わる…。



口が動くが声も出ない。


―――愛し…て…の…。ずっと。ご…ん…さい。ごめ…さ…い…。私の…かわいい………


でもそれは声にならない。


その女性の方にフォーカスが行く。

その無い手を掴もうと、ファクトは思わず手を伸ばした。



けれどその先にいた女性は違う人だ。

同じように寝ているけれど…違う人。セミロングの髪が揺れる。



分からないが他の女性の影がかする。



シャプレーの視点?




『ファクト。こっちを見て!』


シリウス…?



バチン!

とたん、世界が弾ける。


この弾け方。

響、響さんだ!


ファクトがもう一度後ろを振り返ると、響の研究室の前で響が座っていた。




―――




現世界の方では、シャプレーが立ち上がって、眠っている響の額を覆う。


するとファクトの世界も一気に変わり………ゆったりと伝心が来る。

『立ち上がったままでは危ない。ゆっくり肉体を座らせる』

と聴こえると、体と何かが分離したようになり肉体がグッタリすると同時に、身が軽くなる感じがした。


そして、ファクトは大きな椅子に沈む。

それ以上外からの声は、ファクトの耳に聴こえなくなった。


はじめて見るイオニアは不安になる。

大丈夫なのか?




―――




「響?響さんなの?」


返事はない。


「なんで起きないの?」



響はずっと指を弾いている。何もない空間。


不思議そうに呼び続け、ファクトが響をのぞき込むと、目の焦点が合わないまま何か答え始めた。


「響さん?何してるの?」

「……あの子に見付かったら危ないから、早く起きないとと思っても…。」

現実のようで何かが違う響が、魂が抜けた感じで答える。

「あの子?」

「指が鳴らないの。」


「響さん、ちょっと前と違う。おかしいよ?」

響から入った時の、前の響と何かが違う。響自体に異変があったのか、別の人間から響を見ているのか。


響の瞳の中に入って行くと、その見える世界には、時々アーツのメンバーがいた。宴会をしたり、いつもみたいに学生たちと研究室で勉強というか…騒いでいたり。あの時の焼き肉の風景も見える…。なぜか蜂の巣も抱えている。


あの蛍惑(けいわく)の女友達や、家族だろうか?誕生日パーティーみたないこともしていた。


「大丈夫。()()にはあの子は入って来られないから。」


「あの子って、グレイの………」

とファクトが言ったとたん、世界がまたバンッと弾けそうになるが、響がファクトのフォーカスが別の場所に移るのを止める。

「響さん?!」


急に意識をはっきりとさせたのか。


が、出られない。



「どうして?どうして鳴らないの?」

響が指をすり合わせて不思議がっている。


鳴るってなんだ?と思うと同時に、

「ファクト、あなただけでも!!」

と、あの術に入った時の鋭い顔になる。


そしてファクトを弾いた。


「響さん!」



バヂン!


と大きな閃光がして、ファクトが引き上げられた。




―――




バン!と、現実ではない衝撃に驚いて、椅子で目を覚ます。


「はっ!!」


隣りのシャプレーはファクトの帰還と共に術を解いて尋ねる。

「響史はいたか?」

「いたけど起きれないって…」

「…!」

リーブラがベッドに駆け寄る手前でキファに止められる。

「リーブラ、落ち着け。」


「鳴らないから起きれないって…。こう…。」

ファクトが唖然と言って指をすり合わせる。

「鳴らない…?」

シャプレーは思いを巡らせるが、話の核心に心当たりがない。

「最初は藤湾の研究室の前で、あいつに見付からないように隠れてる感じだった…」

「グレーブロンドか?」

「分からない…でももしかして…、俺がそれを口にしてしまったから、相手が気が付いたかもしれない。」


横でリーブラが反応する。研究室の前?鳴らない?


ファクトは焦る。響は二人がいた深層世界が切り変わるのを止めようとしていた。


「もう一度行くか…」

シャプレーが響の方を見るが、シャプレーは心理世界を覗くことしかできない。…干渉までいけるか…。


「響さん、ヤバいんじゃないか?」

イオニアが青ざめるがキファが止めた。

「術には干渉しない約束だから。」

無防備で深層に巻き込まれるのは防がないといけない。


ファイが震えたままタラゼドの服を握る。



それまでグッと耐えていたリーブラが響に呼びかけた。

「…響先生!起きて!」

というところで、リーブラがパチン!と指を鳴らした。


「?!」

みんなリーブラのしていることが理解できない。


パチン!ともう一度鳴らす。


と、その時、


タラゼドにはこの部屋の香りが濃く漂う空間に、たくさんの揺らぎと振り向く響が見えた。



響さん?!



思わずファイの肩を押さえてから、タラゼドはその前のベッドに駆け寄る。スピカが牽制しようとするが、タラゼドの方が速かった。


ベッドに手を着いて響の顔を見たタラゼドは、その顔の近くでバチン!と、指を鳴らした。



と、


その瞬間、響がパチッと目を開く。


一瞬だけ、あの鋭い目つきの時の瞳になって、すぐにいつもの響になった。


「?!」

最初に驚いたのはタラゼド、そして近くにいたシャプレーとファクト。牽制しようとしたスピカ。そしてリーブラだった。


「響さ…」

タラゼドが言うや、響はその後すぐ動こうとして肘をついて起き上がろうとし、起きられずよろっとまた後ろに倒れそうになる。


響が動いたのでキファが、目覚めたことを理解する。


シャプレーとファクトも助けようと動くが、目の前にいたタラゼドが頭と肩をそっと支え、そのまま寝かせた。

「響さん!」

と、イオニアとキファも駆け寄った。


「………」

みんなが見ている。


「え?え?」

よく分からない響。


「え?やだ!なんで?ここどこ??」

少し声がおかしいが、速攻話し出す。

「うちじゃないよね?何これ?ベッド?椅子?」

脳波など測れるストレッチャーである。


「え?なんでタラゼドさんがいるの?!え、やだ。私なんで服が違うの?」

ちょっとセリフが危ないと思うファイ。


「響先生!大丈夫!寝て!動かないで!」

ファイが叫ぶ。男性ばかりなのでここでは言えないが、見えないように尿管が通してあるし、昏迷から覚めたばかりで動かない方がいい。

「はい?…ファイ?」


そして周りを見渡して、みんなと目が合い、そうだ術の最中だったと思い出す。

「………。」

恥ずかしい。


そして目の前のタラゼドとも目が合い、ハテナ顔と共に赤くなる。イオニアはそんな響の顔を見逃さなかった。


「う…」


「う…うわーぁん!!!」

大声を出してベッドに駆け付けたのはリーブラだった。タラゼドは場所を譲る。

「もう、戻って来れないのかと思ったー!」

布団の上の響の手を握って大きな声で泣き出した。


ホッとして座り込むファクトと、そのまま床に体操座りになるキファ。

「よかった…」

キファは自分の両膝に顔を伏せた。


「ねえ?今どのくらい経ったの?もう夜?」

ファクトが答える。

「あれから1週間くらい。」

「………。」


は?


しばらく固まってしまう。

「え?え?えーーーーーーー!!!?」

驚き方が激しい。


仕事やサイコスに向き合う時と様子が違い過ぎて、シャプレーはびっくりしたが、それは顔には出なかった。



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