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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十章 第3ラボ

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32 シャプレー・カノープス



ファクトはこの頃ムギと入れ違いで第3ラボに入った。


「あれ?父さん!」

「お、ファクト!」


状況が分からないファクト。

「何でこんなところに?タニアじゃないの?」

「チコに会いに来たんだろ。」

「…連絡くらいちょーだいよ。」

「ミザルにサプライズしたんだ。」

「………。母さんの嫌がるやり方やめなよ…。そういうことするから、帰省しても会えなかったりするんだよ。」

中2の新年、ミザルは仕事で別の都市に。それで夫婦は会えなかったのだ。「ミザル、会いたい、会いたい」とその後うるさく騒いだため、旧正月に仕方なしに3連休をもらって会ったのであった。ただし、そのうち2日は2人してSR社に赴いていた。難儀である。


なぜか父といると、しっかり者に見えるファクト。

「ファクトこそ学校じゃないのか?」

「ちょっとね。」

チコのいる場所で言うのは控える。



『ファクト…』


「ん?あれ?」

声がする。この声はチコだ。


ベッドの近付く。話せるようになったの?と言おうとしたところで、


『シっ!』

と言われる。

「チコ…。」


…テレパスか?!それとも霊話?


『みんなに言わなくていい。あれこれめんどい。』


「!」


思わずベッドに乗り出してしまう。驚きが止まらない…が、喋るなとなると、この想いをどこにぶつけたらいいんだ。こっちから無言で話す術を知らない…。


「どうした?一度会っているんだろ?」

ポラリスが呼びかける。

「口が動くからびっくりした…」

と言って、チコに向き直る。


『このことはポラリスにも言わなくていい…。いちいちSR社に報告とかされるから。寝てるの苦痛だから…ニュース読みたい。』


はあ?と思うファクト。


目が覚めてからチコのベッドにスタンドが置かれ、デバイスで様々なTVや資料が見られるようになっている。思考や瞬きで意思確認をし、多少の会話もできる。でも、思う以上に疲れるからと時間制限されていた。いつからきちんと意識があるのか分からないが、術をしてから1週間ほど経った。休みなく働いていた人間なのに、寝たきりは辛いだろう。


「チコさん何か見ていたいそうですよ~。目で訴えていまーす!」

何となく言ってみるファクト。

「先、少し見たので休憩がした方がいいでしょ。」

ユラス女性が言う。


チコに指で×マークを作る。この流れでは直接チコに話しかけても問題はないのだが、混乱して自然な会話ができないファクト。


「そういえばお前たちはどうやって出会ったんだ?」

「あれ?言ってなかったっけ?」

「住まいもベガスと聞いてびっくりしたぞ。」


「…あ!ごめん!今日は用事で来たから!」


さっとチコの前のデバイスをニュースにして、部屋を出た。チコ的によく画面が見えない角度。フレームがアナログなので動かさないと位置は変えられない。ホログラムも意識操作も切ってある。

「じゃあ!チコもよく休んでねー!」


チコは怒っている感じだったけれど、ファクトは出て行く。

きちんとした意思がある。チコはきっと大丈夫だろう。うれしくて気持ちが弾むが、まだすることはある。


そして響のいる部屋に走った。




***




響のいる部屋にはリーブラとファイ、キファ、そしてアンドロイドのスピカがいた。



リーブラが香油を焚く準備をしている。


「それ響先生が焚いていたのと違うじゃん。大丈夫なん?」

キファが不安に思う、響先生は帰れるのか。

「だって私、香木は扱えないし、先生のアロマ道具は高級品ばっかりだから!」

値段が1桁、2桁違う…。リーブラは自分で買ったアロマポットにユーカリを焚こうとしていた。香の原液となる精油は研究室から持って来た物だ。


「…でもユーカリも何種類かあってどれか分からないんだよね。」

「助手のクセにそんなことも分からないのか?」

「私は半分庶務だもーん。漢方扱う方が多いし。キファの方がずっと手伝ってたじゃん!」


「なら俺が選ぶ!」

キファがユーカリと付く精油をいくつか嗅いでいく。


「ユーカリ・ラディアータ…これはマイルドすぎる……。レモン?なんでユーカリなのにレモン?ブレンドしてあるんか?

ユーカリ・スタイゲリアナ…。ディベス………ペパーミント…これもブレンドなのか?

ブルーマリー……こっちはメーカーが違うだけだろ。あの日、机にいくつか瓶があったからどれか分からんが、名前が同じならどれでもいいと思うが。」


ファイが怪訝な顔で見る。

「キファにそんな繊細な仕事ができるの…?」


「話しかけるな、コアラを召喚する…。」


しばらく悩んで、1本選ぶ。


これだな!

「ユーカリ・グロブルス!」

一番オーソドックスな精油だ。

「これが一番トリップから覚めそうだ!」

香りが強く、名前が気に入っただけである。


リーブラがアロマポットに精油を垂らす横で、ファクトがうるさい。

「それだけでいいの?マンダリンも焚いたんだろ?かわいい匂いも足しておこう!…てマンダリンもいろいろあるな…。」

勝手にマンダリンも垂らすファクト。


「違うから!それ!勝手に足さないで!!」

「マジ、ファクト。俺が頑張って選んだ意味ないじゃん。

…まあいいか。まだチコさんを探してるかもしれないし。チコさんが好きな香りっしょ?」


そして気が付く。

「…かわいい匂いが好きなんだな。チコさん。」

キファが意外がるが、ファイは鋭い。

「チコさんのことだから、自分の好みじゃなさそうだけど…。」

「そうなのか?まあ、ジンとかもっとスカッとしそうなの好きそうだよな。はー、チコさん強そうなのに酒飲まないからつまんないし。ウイスキーとかブランデーとか絶対合うと思うけど。響さんは果実酒とビール好きそう。」


勝手にブレンドされたので焚き直そうか迷ったが、どのみち香りは部屋に広がったしリーブラはそのまま続けることにした。


ファイが響の眠るストレッチャーの横で響の長い髪を梳いてあげる。


そこで、ファクトはすごいことに気が付いた。

…つうか、みんなチコのためにトリップしたって知ってんじゃん。箝口令まで出ていたのに。と、実際状況はともかく、目的はバレていた。まあ、ここまで来て隠せる方が無理かもしれない。





そこにSR社社長、シャプレー・カノープスが入って来た。入り口に控えていたスピカが案内をする。


ファクト以外の3人に緊張が走る。


今まで大勢の中で見てきたけれど、こんな少ない中で対面するのは…初めてだっけ?考えてみれば、今まで間接的な関わりしかなかった男だ。

「おい、ファクト。お前は社長と仲がいいのか?」

キファが怯える。

「え?全然。」

こいつ…という顔をするキファ。


シャプレーは、おそらく190以上の身長。カウスとタメを張れそうな肉体。リゲルやタラゼドを超える系の三白眼。ヤバい、死ねる…。

社長……か?オミクロンの最終兵器じゃないのか?ラスボス系だろ。チコさん倒したら、もう1人ボスが出てきたみたいな。


よく考えたら世界のトップに入るグループ企業のお頭。社長というよりCEO…。普通だったら絶対に会えない人間である。会った上、こんな半プライベート空間で会話までするとは…。全員緊張しながら挨拶をする。立場もかけ離れているが、何より殺されそうだ。大人しくしていよう…。この施設から出る時に、消されないように予防線も張りたい…。

「ああ、よろしく。」

シャプレーは簡潔に答え、スーツのジャケットを脱ぐと、スピカがそのまま受け取って片付けた。全く表情が分からない。怒っている感じではないが、無表情というか、真顔だ。クスリともしない。


響の前には大きな藤の椅子が置かれ、そこに座る。ファクトも同じように隣にあるリクライニングシートに座った。

「今度はファクトが戻って来れなくなるとかやめてね。」

ファイが言うと、シャプレーが答えた。

「大丈夫だ。ミザルに万年怨まれるようなことはしない。」

「あっ、はいぃっ!」

シャプレーが答えると思わなくてさらにビビるファイ。


だが、実際は大丈夫だろう、おそらくの域だ。なにせ前代未聞である。





そう、これから響を見付けに行く。


目の前で眠り姫のように眠る肉体。


「キスしたら起きたりして。」

グハッ!

ガフッとリーブラが肘を入れる。そういうことを言うからキファは完全接触禁止である。



「私の習得したものは、響史とは少し違う。そのまま遠目に意識下を見るれるが中にはあまり入れない。ファクトが響史を見付けたら、すぐに様子を見て呼びかけるんだ。」

「…分かった。」

ファクトは真剣に聞く。

「時間がなくて、予行演習が出来なくてすまん。今ここで試してみるが、無理だったらすぐに覚醒して再度試す。」

「…はい。」

内容が難しい。言ってることが分かるような分からないような。


「……それから。この前みたいに敵対しそうな人間がいたら、自分がこっちに引き上がるイメージをして逃げろ。可能な限り私が霊性で対応する。」

「…できるかな?」

「無理だと思ったら直ぐにそこを出るんだ。」

ファクトは椅子にもたれ深呼吸をして、気持ちを整える。




「始めるぞ。」

「はい。」


シャプレーが目を閉じてしばらく集中する。


その後に目を開けると、一気に意識世界が開いた。



え?


シャプレーは眠らない。

ただ、目の前の響ではなくその向こうの世界を見ているような顔だ。


きっとそうなのだろう。起きたままもう一つの世界に意識を飛ばしたのだ。ファクトはシャプレーの見ている世界を見ようと、空間にそっと手を出す。



そのとたんガガガガーーーーーと、

研究室の風景が周り、驚いてガバっと立ち上がり後ろを見ると、キファたちのいる部屋ではなく、そこは広い荒野だった。




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