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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十章 第3ラボ
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31 『朱』



「ミザルには言っていなかったがな、少しメンカルにいたんだ。」

「………」


「内戦で頭蓋骨が一部ない子や他にも大変な子たちがいてね。メンカルとしては民衆への宣伝だろうが、ニューロス化で助けられないかという話になって。まあ、幼い子もいるから医療に収めるかは話し合いがいるし。」

普通、怪我をしました。ニューロス技術で助けましょう、という話にはならない。とくに成長していく子供たちには慎重になる。


「…。」

「相手の意図を知った上でこの機に乗じて助けてあげるか、どうするかいろいろあって…。北メンカル側は施術をメンカル内でしてほしいとか言うからね…。」


つまり、技術を自国内で使えという事である。もちろんポラリスは国際協定規約の下、軍人やニューロスと共に帰省までの身元保証を取り付けてメンカル入りしている。


ポラリスはチコを撫でながら話す。

「今、チコに話すことじゃないな。」

そう言って少し笑ったが、チコはまた口をゆっくりパクパクした。


連合国外でニューロス技術を使うことは禁止されている。つまり総連合国の管理外でSR社の技術は使えない。ニューロスの無許可の解体も許されていない。

そのためか、昔はアンドロイド、サイボーグ化した機体が誘拐されるということはややあった。


しかし結論は、ニューロス化すればするほど、高性能化すればするほど、解体しても何をしてもSR社が動かせるようなニューロスを他では作れないという事だった。そして、ニューロス体に何かあったら直ぐに情報が行き国際指名手配の的になる。


ただ、どうしてもある程度の技術は漏れる。


一時期、技術者たちに護衛が付けられた。ミザルにはスピカに並ぶ高性能アンドロイド、カペラが付けられ、その家族たちも護衛対象になった。



ポラリスは考える。


…ケガをした子供たちを国外に出さない限り、大きなニューロス技術も治療も行えないと粘ったが、驚くことに北メンカル側は、完璧ではないがそれなりの施設を披露してきた。それでも、初めからニューロス化を目的とするのは気が早々過ぎるし、不十分な施設で命に係わることはできない。


衛星で連合国とは自由に通信もでき、ポラリスの部屋も盗聴もなく、探ってもデバイスのセキュリティーに問題はなかった。この微妙に完成されたニューロス設備と、不完全な軟禁の凸凹さが北メンカルの不安定さを物語っていた。


そして第三国の北メンカルに、これだけの施設があるという事は、誰かがある程度技術提供したという事である。近隣国タイナオスにもそれなりの施設がある。しかし、おそらく全てにギュグニーが関わっている。


「…チコ。」

ポラリスの目も揺れていた。




その時、目の前の少女が、少し前に覚ましていた目をパチパチしガバっと起きた。

「やっと来たのか!遅い!」


「ムギ、目上の人間にはきちんと対応しなさい!」

ユラス女性が思わず叫んでしまう。

「はは、大丈夫だ。」

ポラリスが笑った。

「遅いだろ!」

「ムギ、やめなさい。」

ムギの言いように女性はあたふたする。


実はポラリスを北メンカルから引き上げさせた仕掛け役はムギだった。テレスコピィから一緒に引き上げてきたのだ。しかも、人を通して重症の子数人を南メンカルの手が掛かっている空路から西南アジアに一旦移し、そのまま大都市テレスコピィに移動させた。そして使者がポラリスに帰還を促した。



これにはさすがのアジア中央政府の外務関係者も驚いた。


ムギは母国アクィラェ侵略の時に協力してくれた関係者たちと関りを保っていたのだ。メンカル、ユラス、西アジアに通じるネットワークを持ち、ムギに関心を持った為政者たちは協力を惜しまなかった。そして、念のた一人の為政者が統一アジア政府にも話を付ける。


この時代、そういう若者自体が少なかったので、誰もがムギを引き込みたがった。


ただ、ムギは一部の人間にしか姿を見せず、『あか』と言われ、誰ともない想像から高身長の落ち着いた若い女性だと思われていた。



ポラリスが北メンカルで足止めされていると聴きつけたムギは、最も信頼ができる人物を通して、食糧物資を北メンカルに提供している人間を辿り、ポラリスが帰れる準備をしてもらった。この食糧供給は連合国暗黙の公認と言ったところである。北メンカル政府に多く渡し、日用品ならある程度自由に譲渡できる代わりに、民衆のいるところまで一定量を送り届けられる約束をしている。その間の安全もメンカル側に守ってもらう。


『朱』一派は、先に子供たちの存在を世間に宣伝し治療が急がれると国民に流した。

ポラリスは公式訪問だったので、ポラリスが来ること自体は北メンカル内の一部の国民はニュースで知っていた。どう情報が流れたのか分からないが、これで北メンカルも交渉に使った子供たちを放棄できなくなる。


北メンカルは完全支配の国ではないため、現国王政府がいくら武力統制をしているとはいえ、武力を持つ分派も多くあまり国民の反感は買いたくない。他にも細かい仕組みはあるが、大枠こんな感じであった。


そして、侵略以降、各国の資産が凍結されている北メンカルに、もともと提供していた食糧凍結案がさらなる人質代わりとなり、希望の負傷した一般人を何人か連れてポラリスは帰路に着くことができた。ポラリスはもともと帰る人間。公にしてしまった子供たちは、メンカルに残せば面倒を見なければならない一般人。膨大な治療の負担もなくなるという事で話も速かった。



ムギはこれを1か月もせずに成して、何気ない顔で戻って来たのだ。


ちょっと気分転換に旅行してくると言って、帰って来たムギが大目玉を食らったのは言うまでもない。統一アジア中央政府は知っていたが、ベガスも東アジアから非常にお咎めを食らった。成果はともかく国際問題スレスレである。


「心星家はみんな嫌いだ。」

ムギがぼそっと言う。

「ムギ!」

ユラス女性が怒るがポラリスは楽しそうだ。

「おじさんはムギちゃんが好きだぞ。」

「イヤだ!チコは起きたからもう来るな!」


「今来たばかりなのに…。」

ちょっと寂しそうだ。

「いままでも、チコをたくさん見ててくれてありがとう…。」

ポラリスは言うが、ムギはまた布団に顔を伏せてしまった。




正直まだ怖い。


植物や昏睡状態だった人間が目覚めて、その後、それが最期の挨拶だったかのように亡くなってしまう例はそれなりにある。


伏せたままムギは言う。

「早く手を取り付けてあげて…。みんな顔ばかり触るでしょ。女性に失礼だし、顔が荒れちゃうよ!」

家族、夫以外の異性が、成人女性の肌や髪を触れない地域は多い。父親でもあまり触らない。ユラスでもそうだ。チコに失礼な話である。


「ああ、そうだな。」

そう言って、髪に触れる。


チコはじっとポラリスを見ている。


そして疲れたのかまた眠っていった。



その後ろでユラス女性はどうしたらいいか分からなかった。

響が起きないことを、ここにいることをまだムギは知らなかったからだ。


知っている者全員に、ムギに横から話を漏らさないよう通知が来ていた。




***




それなのに、帰って来た日なのに、


なぜかこんな時期にまじめに授業に参加するムギ。これ以上チコのことは、大人や研究員たちに任せるしかないと思ったからだ。


「わー!ムギ~!!」

「ムギちゃ~ん!!」

目立たないようにファクトの真似をして、キャップにビッグサイズパーカのフードを被って端っこに座ったのに、もうクラスの女子たちに見付けられてしまった。ムギの変装が下手なのではない。ムギの若者たちへの順応性がなさすぎるのだ。コソコソ入って来て怪しすぎる。


「ムギちゃん!」

ソイドもうれしそうだ。

「ムッギ~!!」

抱き着いてくるソラ。

「ムギがいない間に、私、棒術も習ってるんだよ!どこ行ってたの?ファクトも時々しかいないし、さみしかった…。」

「そうなんだ…。お久しぶり…。」

その代わり藤湾の子たちがたくさん周りにいた。仲良くなったのだろう。何を話したらいいのか分からなくてそわそわする。


「ファクトは?」

逃げ道のファクトがいない。

「もうすぐ来るんじゃない?」

ソイドがムギがいない間の授業内容を出しながら言った。


「……ムギちゃんファクトが好きなの?」


「は?好きって?」

「恋してるって感じ?」

ソラが楽しそうにいい、周りも盛り上がる。いやな顔をするムギ。


「心星家はみんな好きじゃない。」

なぜかまた一括りにされる心星家。と机に伏せるムギ。

「じゃあ、頼りあるお兄ちゃんって感じ?」

ソラが口を挟む。

「…?」


少し考える。弟よリ馬鹿なのに?

体格と力と運動神経以外、弟に勝てるものがないし、そんなものは最終的に重要なことではない。

「…鬱陶しいけれど…時々便利な人…かな?」

怒らないから言う事を聞いてくれるし隠れ蓑にもできる。便利だ。



ああ、

ムギと違って鬱陶しくは感じないけれど、なんとなくそれ分かる…


と思うソイドとソラであった。

ファクトは何かと便利なのである。



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