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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十章 第3ラボ

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28 目覚めの朝



変化が起きたのは、術から丸3日経った朝だった。


そのままの状態でここに留まるのは良くないとされ、リーブラは昨日寮に帰されていた。



チコは体で昼夜を感じた方がいいという事で、日の当たる部屋にいる。非常に高く大きな窓と、美しいカーテン。デネブはレースのカーテンだけを残して遮光カーテンを開いていく。外は大きな庭と森だった。


「チコおはよう。」

デネブは朝の祈りを捧げると、答えないチコにそっと挨拶をして髪を撫でた。


サイドテーブルなど簡単に掃除をし、花の水を入れ替える。アレルギーはないので、空間にいつも花を飾っていた。



……。


ベッドの中で、小さくそっと、目を開ける。


眩しい。


遠くで誰かが動いているが、考えるのも怠かった。

医療用ワゴンや点滴のスタンドが運ばれる。


でも、ベットの中で目を開けたその人は、その音が何の音なのか分からなかった。


看護師の資格も持つデネブが、様々なパックを変えようとチコに近付いた。はじめに尿パックの量を記録し、デバイスに記録してベッドを見る。



「あら、おはよう。」


目が合ったチコに思わずもう一度挨拶をする。

「………」

「…?」


そこでデネブはハッとする。

「?!」


チコ?!!


ベッドで無表情のままキョトンとデネブを見ているチコ。

「チコ!!」

デネブは天に祈りながら、細くなったその顔に触れる。



涙が止めどなく出てきた。


手を握ってあげたいのにその手がなかった。

もう、触れても大丈夫と言われた肩を撫でてあげる。機械部分は新たなパーツが着けられている。インプラント型のメカニック部分は便利そうにも痛そうにも見えた。


「ううぅ…。」

涙を拭いて慌ててコールを押す。考えがまとまらない。



『どうされましたか?』

「チコが、チコが起きています!目を覚ましました!」

『…?』

「チコが起きたの!!」


『…え?…ええ!!!?…あ、あの、は、はい!分かりました!!』

通話の向こうが騒がしい。



「チコ、チコ…」

また目を閉じてしまったらどうしよう…。

「待ってっ、お願い。そのままでいて。」

ベッドに座り込んで人が来るまでチコの目が閉じないようにずっと顔に手を当て続けた。



その後泊まり込みだったミザル、そして鍵倉にいたシャプレーも飛んでくる。


SR社は、小さくも今までにない騒ぎとなっていた。




***




その日、カウスは外部組織としてベガスの警備体制に関して講義と話し合いをしに南海に来ていた。


「えーと、久々に皆さんに会いますが、そこ、ちゃんと聴いていますか?」

今回は、河漢事業に関わる者、ベガスに通っていたり住居を構えている者は参加必須である。


一番後ろではカウスの上司ワズン他、仲間や東アジア軍っぽい感じの人、数人も聴き入っていた。

「あいつ、なんであんなにトロトロ話しているんだ。」

ワズンが呆れている。

「普段はあんなんですよ。」

アーツの訓練にも時々付き合っていたフェクダが説明をしておいた。



そこに突然、前方のドアが開く。


ダン!


全員一斉にドアに注目する。


遅刻か?アホだな。後ろから入れよと思うアーツ一同。

いや、後部ドアを開くと警備らしからぬ軍人っぽい人たちがたくさんいるから…。どちらを開けても恐ろしい。


しかし、みんな久々に驚きの声をあげる。

「はい?」


思いっきり駆け込んできたのはサラサらしからぬサラサであった。


サラサは何も見ずに一目散に壇上のカウスの方に駆け寄り、目の前まで迫った。

「…。何ですかサラサさん。今説明中なんですけど。」

そう言いきる前にサラサはカウスの襟首をつかむ。

「ちょっと着信取りなさいよ!」

「仕事中です。」

そしてサラサは小声で言った。

『チコが…、目を開けた。』


それだけ言って、またダン!とカウスを突き放すように離して、アーツに目もくれずにどこかに行ってしまった。


「え、サラサさん、ここでそういうのはヤバいんじゃ。」

「カウスさんなんかやらかしたのかな…。」

「エルライさん噴火しますよ…。」


少し後ろに下がったカウスは、何事もなかったようにまた講義を始めた…が、


窓側横にあった講師用の机の椅子に座って、何かどこともないような顔をしている。

「…。」



何なんだと思うアーツ。


そして「は!?」と、気が付いたようにカウスは廊下に飛び出した。


が、すぐ戻って来て、

「ワズン…!あーワズン大…ワズン先生!続きお願いします!!」

とそれだけ言ってまた去っていった。



「あいつ!」

警備の必須講習で講師が去っていくとは!


ユラスの軍人たちはその理由が直ぐ分かった。

「フェクダ、頼むぞ。」

そう言って今度はワズンがフェクダに全てを任して去っていく。

「えー!」

という顔をするフェクダ。それを見た、サルガス、ヴァーゴ、リゲル、ファクトも反応し、彼らも立ちあがって部屋を出ようとする。


目覚めか、生か死か。死だったらおそらく、完全に機密になるか、講義全体が止められていただろう。


波動で声を聴きとれるファクトには、サラサの声が既に聴こえていた。

チコが起きたんだ!



そこにエリスと同じ代表牧師のクレスが入って来た。サルガスが小さな声で詰め寄る。

「響さんですか?」

名目上、チコはただの調整中という事になっている。


「違います。」


それでも何人かは分かった。SR社で何かあったのだ。おそらく、雰囲気からは悪いことではない。


「みなさん、ちょっと所用が出来ました。ファクトはミザル女史に呼ばれています。出てください。他はこのまま講義を受けるように。」

ファクトがリゲルやサルガスと目配せして、部屋を出た。


クレスが指示を出していく。


そして、リーブラとファイの近くに行って周りに聴こえない声で言った。

「響さんはまだ昏迷状態です。でも、無駄ではありませんでした。それ以上は今は言えません。」


リーブラは長テーブルに伏せてしまった。ファイも変な顔で前だけを見ている。


キファやイオニアが2人を心配そうに見た。ファイの隣りにいたタラゼドがファイの背中を擦ってあげていた。




***




SR社第3ラボに駆け付けたベガスの面々は、カストル以外、部屋の外で待たされることになった。


カウスは部屋の前の長椅子に座り、ワズンはその横に立って、許可が出るのを祈るように待っていた。



ファクトも気持ちがそわそわする。

あの襲撃の日以降、チコの姿は見ていない。


本当はそろそろ会わせてくれる話だったが、心が揺れている状態で深層に入らない方がいいと響が判断し、術の後に会うことになったのだ。響が起きないのでその話も保留になったが、現状維持の状態だったため、どのみち今日明日に面会をすることに決めていた。



ドアが開く。研究員や関係者が行き来をする中、やっと中に入れる。


カウスたちも外の光が差し込むドアに目をやった。



カツカツと現れたのは母ミザル。

「おはようございます。」

「ミザル博士、おはようございます。」

カウスとワズン、エリスも挨拶をする。


「…おはよう。」

ファクトはどんな顔をしたらいいか分からなかった。


ワズンもあれから初めてチコに会う。


「他言は無用でお願いします。入って下さい。」

「…はい。」

広い部屋の少し大きめの介護ベッドにチコがいた。機械的な物はいくつかの医療用だけの部屋だった。全員無言で、室内にいたシャプレーをはじめとする面々に会釈をする。


エリス、カウスが最初にベッドに近付いてのぞき込む。


顔は動かないが眼球は動いて2人の方を見た。

エリスが静かに祈る。


カウスはチコの頬に触れた。

「…よかった…。本当に良かった…。」



その後ろからワズンがベッドの反対に回り、そっと顔が見えるところまで行く。


知っているチコと違って、頬がこけていた。そして触るか触らないところまで手を持っていき、そこで止める。整えられたレモン色の入ったプラチナブロンドの髪にだけ、サラッと触れた。


「チコ…。」

短い期間で少しやつれ過ぎかと思ったが、霊が見付からず霊線が切れそうな状態で回復したことの方が凄いのかもしれない。


「ファクト、チコの近くに行きなさい。」

カストルに促され、ワズンの横に来た。


痩せてはいるがチコだ。

「チコ…。」


ショックがないとは言えない。こんなに若い寝たきりの女性を見たことがなかった。じっと目を見るとこちらを向くので、デネブが頭の角度を少しだけ変えて、見やすくしてくれる。



2色の色を持つアースアイ。

珍しい紫。


近くもあり、遠くもある眼の中の深い世界。


チコの目を見ているとそこに引き込まれそうだった。


ファクトもそっと顔に触れる。


触ったこめかみは思ったより皮膚がしっとりしていてほっといた。

湿度をきちんと保っているからだろう。チコの瞳だけが自分を見つめる。


「チコ、早く起きれるようになろうね。響さんにも会いに行かないと…。」

あの男に響が襲われていた場面を思い出すが、それは口にするのを止めた。



パチン!


すると、空間が小さく弾けてよく見えないが変なトカゲがチコを探しているのが見えた。

チコは返事をしないが、誰かがチコを呼んでいた。時間軸が分からない。



「チコ…。呼ばれて起きたのかも。」

「?」

周りの人間たちが目を泳がせる。


「小さいオオサンショウウオみたいなトカゲみたいな、赤と黒の生き物がチコを呼んだんだよ。」

「…?」

みんな意味が分からないが、赤と黒ならトカゲよりイモリの方が可能性が高い。

「響史か?」

シャプレーが口を挟んだ。


「そうかも。響さんの研究所の本にあったから。響さん爬虫類はいいけれど、両生類は気持ち悪くてだめだって言ってたのに、なんでそんなんになったんだろ。」



研究所では、チコが起きたのはDPサイコスの影響か、ただ目覚めただけなのかの検証が必要であった。




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