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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第九章 あなたの中に
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27 ノンデバイス



そして研究室に来たキファ。


「ちょっと響先生また仕事になっちゃったからさ…。リーブラもアーツとして残ることになって。」

「え?本当ですか?」

戸惑う学生たち。でも、アーツやVEGAに頼まれたなら、行政関係かもしれないので仕方ない。


「それで、響先生がこっちの本、その間に全部記憶してってさ!」

と、ツカツカ本棚の前に来たキファはテキトウに2冊本を出し、ドカッと机に置く。

「東洋漢方全集とこの香油全集、暗記してってさ。」

「え?!マジすっか?!」


「ほら、ここの成分名とか効能も全部!」

テキトウだけれど、覚えて無駄な話ではないだろう。

「ウスニン酸とかもあるじゃん。表のこの辺も全部。」

「えー!ありえないです!!」

「このビザボレンとか覚えとけ。何でもPC任せにして人類の脳は退化するんか?少しは頭鍛えろ。俺が明日以降テストしてやる。ツヨシって俺の友達と同じ名前だな。覚えやすいだろ。は?ケトンってなんだ?」

「…しかもなんでキファさんがそれを言いに来るんですか?響先生が通話してくださればいいのに…」

「先生は集中したいことがあって、ノンデバイス状態だ。」

リーブラは半分事務役であって、そこまで専門性もない。


「…。」

男子学生はキファの横にいる男にも怯えてしまう。


「あ、テキトーそうな男がテキトーなこと言っているけれど、前半は本当だから。VEGAの方でちょっと大仕事を頼んでしまって。学校側も知っているので。」

いつも遊びに来ているキファだけだと言葉の信憑性に欠けるので、短い無精髭に少し長い髪の男、サルガスがついて来た。


学生たちがコソコソ話している。

「アーツのリーダーさんらしいです…。」

「なんでアーツはあんなに怖いんだろ…。」

キファはまだいい方だが、タラゼドやイオニアも性格を知らなければ話しかけたくないタイプだ。…いや、イオニアは既に学生を脅している。

「しかもABチームとかいう強い組の人らしいです…。」

ストリートファイトで数人あの世に送っているらしい。それでもアーツの中では、まだ中の上ほどの強さだと聞いた。まだラスボスがいるのか。ヤバい、味方につけないとヤバい…。

アーツヤバい。

「ラムダ君やキロンさんはそんなことないですよ…。」

人当たりのいい二人はみんなの人気者である。



周りを見渡すサルガス。

「ふーん。ここがお前のさぼり場か。」


「はい?」

ビクッとするキファと学生たち。


「今、ここにアーツの一般スケジュール送ったから。この青い時間枠にキファがここに来ていたら追い出してくれ。こいつの仕事の時間だから。」

ただでさえちょっと怖いキファをこいつ扱いするとは。


「しつこかったら蹴り入れてもいいし。」

ひいいーー!ちょっとしてみたいけれど、絶対入れられません!


「あと、イオニアやキファが問題を起こしたりうるさいことを言ったら、俺に教えてくれ。連絡先ここね。」

「はいいぃぃ!!」

いきなりアーツボスの連絡先を入手し、ぶっ飛ぶ響研究室チーム。


やべえ、召喚アイテム…呪文?を手に入れてしまった。

自分たちのレベルとMPも上げておかないと扱えそうにない…。


召喚獣を怒らせないように、少し高級なお茶でおもてなしをするのであった。




***




第3ラボは混乱状態だった。


「だから反対したんだ…。問題を2つも抱えてしまった…。」

一夜明けたSR社も、睡眠から覚めない響に頭を抱えてしまう。


まだ響は目を覚まさないし、チコにも結局変化はなかった。

一番最後まで反対した1人の博士がため息を吐く。



もしSR社で2人の人間が意識不明、そして植物状態や死亡に繋がることになったら隠せる問題でも無くなる。チコはまだ身内が状況を把握しているが、響は大きな家柄の娘だ。何も知らない家族に連絡しなければいけなくなる。


「社長はこれでも大丈夫と言っている…。」

「はあ…。」


解決どころか、どうすればいいのだ。




***




藤湾の空手の道場。


そこでリゲルと静かに瞑想するファクト。

近くにジェイとキロン、ラムダもいる。


「霊性」と「気」と「サイコス」と「意識」は何が違うのだろう。


いつの間にか集中力をなくし、目を開けて顎に手を置き考えに耽っている。


「お前さ、せめて瞑想スタイルのまま考えろよ。なんで姿勢も保てないんだ?」

「…リゲル、響さん大丈夫かな…。」

「分からんけど、あの社長は大丈夫と言い切ったな…。」


「もう一度意識下に行きたい…。」



何だろう。あの懐かしい感じ。


あそこでチコを掴みたかった。



そこに道着を着たカーフが入って来た。少し上でまとめられた長い黒髪が颯爽と流れる。


「…あ、久しぶり。」

そういえばカーフ、最近全く見なかった。

「久しぶり…なのかな?」

カーフも近くに座った。彼はチコのことを知っているのだろうか。


野郎同士話し合うことは特にないのでそのまま瞑想に入る。



目を閉じたカーフを少しだけ覗いてみた。

前より少し大人っぽくなった気がする。


さらにジーと見て思う。何だ、この精悍な男は。同じアジア人風情なのに、なぜこんなに雰囲気が違うんだ…。同級生に見えない。見た目から精神性まで完全に兄貴だ。


そんなに月日が経ったのか?

なんだかさみしい。


ああ、これか。ファイが言っていた「かわいいがなくならないで!」というのか、と実感する。



少ししたらカーフもそっと目を開けた。

「……」

はやく道場のおじさんたちが来てほしい…と思ったがここは南海ではなかった。誰か、彼の話し相手になってくれ。気まずい。チコのことを聞かれたらボロが出そうだ。


「カーフ。ちょっと型とか見てほしい。」

いつも口少ないリゲルが先に動き出す。カーフがリゲルとファクトを見た。

ナイスリゲル!

ジェイたちは首を振る。

「俺らはこっちで組んでいます!」

「…分かった。」

そっと笑った顔も、前のような若い甘さがだいぶなくなっていた。



その後カーフが教えてくれたのは、なぜか接近格闘術で、しかも東アジアの型ではなかった。いきなり殺しに掛かったり、完全に人の体をダメにする系だ。

「ウグ!」

「このまま待っていけば、折れる。」

声も出ないリゲルに真顔で言う。


怖いっつーの!


もしかして…ユラス軍…?オミクロンとか?


しかも北メンカル型まで教えてくれる。メンカルってヤバくない?この前、北側の近隣国を何食わぬ顔で侵略した地域なんだけど。ギュグニーの使い魔じゃん。

「北メンカルと、オミクロンはあまり変わらない。オミクロンが最初で、北メンカルがギュグニーからも習っているからだ。」

ゆっくり技を掛けながら教える。オミクロンとギュグニーは土地が近い。


「ここで、首だ。」

端正な顔でサラッと言う。

「自分が抑えられる前に一気に行け。横からの場合はこう。」」


こえー!


それよりもカーフ様、学生代表者なのにそんな裏の顔持っていていいんでしょうか?

「あっ」

カーフが突然何かを思い出したようにファクトたちを見る。ドキッとする自分たち。殺されるのか。


「これを教えたことは…内緒な?」

ニコッと笑って人差し指を口に当てる。もちろんジェイたちの方にも。


マジでこえーつーの!!

ファクトたちは肯定も否定もない顔で頷く。


少し離れたところにいたジェイたちもコクコク頷いた。



…いいのだろうか…と悶々としながらも楽しく学ぶファクトであった。




***




その日沈んだまま仕事をしていたファイは、食堂前でタラゼドを待っていた。


「ダラゼド~。ぎょうぜんぜいが~…」

小さい声で言うが目が腫れたままの顔。


目立ちそうなので、タラゼドはファイの頭にジャケットを被せた。

「悪い。今日はファイと食うわ。いやなことがあったらしい…。」

一緒にいたタイたちにも言う。

「なんでお前が相談役になるんだ。リーブラや蛍たちがいるだろ。」

連れが呆れている。

「女同士でケンカしたんじゃねーの?」




取り敢えず人気の少ない場所に連れて行く。タラゼドは昨日の時点で、響も眠ってしまったことを聞いた。そして、これがただのサイコロジーサイコスではないことも調べ上げた。サイコロジーサイコスは知っているが、そのさらに奥。響は、心理層サイコスの中でも、深層心理にまで入っていけるのだ。


「調べたんだけれど、術師自身がこんなに長く昏睡状態になったりすることはないんだって…。」

ファイがデバイスを持って震えている。

「……。」


そもそも、DP(deep psyche)サイコスの事例が少なかったり、秘密裏にされていてネット上にも資料が少ない。響も全て個性だと言っていた。DPサイコスに基本の骨格があっても、肉付け部分が多すぎてあまり他者と情報を共有できない。



「タラゼド君?」

「……。」

後ろを向くと笑いながらも笑っていないイオニアがいる。

「誰も何も教えてくれないんだけど?キファだけなら何とかなるが、サルガスもいるから無理に吐かせられないし、リーブラもいない。ファイもファクトも逃げる…。」

「……」

「何があったんだ?」

イオニアは二人に詰め寄る。


「言っちゃだめって誓約書を書かされているもん。」

ファイが力なく言う。

「誰にだよ。しかも…なんでタラゼドはいいんだ。」

「…タラゼドにも一言しか言ってないし。」


SR社で響が起きないことしか言っていないし、はっきりと言ったわけではない。ボカシて言ったらタラゼドが悟っただけである。DPサイコスのことを知っているので、後はタラゼド自身の状況判断だ。


「…しょうがないだろ。今はなるようにしかならない。」

タラゼドはため息をついて、不器用な響の指鳴らしを思い浮かべた。



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