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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第九章 あなたの中に

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25 金色のメモリー



自分の姿を取り戻すと、ファクトは大事なことを思い出した。


「響さん。チコが見付かったら俺は元の場所に戻るの?」

「うん。危ないし、約束だから。」

言っておかないといけないと思った。

「……聞いてるかもしれないけれど、チコ、襲撃されたんだ。」

「…うん、聞いた。」


「それだけじゃない。もしかしたら、始めはそのつもりじゃなかったのかもしれないけれど、チコがわざと負けたのかもしれない。」

「………」

「何だろう。…そいつ力だけでなく、いろんな意味で強かった。多分、チコが不安がっているのに気が付いて来たんだと思う。」

「……チコは不安だったの?」

「さあ、なんかその日は朝から変な感じがしていたから…。分かんないけど。」

「……」

「そいつ、余裕な感じで俺やチコを殺しはしないとか言っていて。言葉で整理できないけれど……あいつの力も目的もはっきりしていなくて、危ないかもしれない…。」


「……分かった。」

響は様々な想定をする。強力な霊性の持ち主か、サイコス使いか。チコの意識に入ると、響も特定されるかもしれない。響は自分以外のDPサイコスターと対峙したことはこれまでなかった。


「…やめてもいいんだよ。チコも大事だけれど、それは響さんも同じだし。響さんに何かあったら、チコも傷つくと思うから。」

「うん…。ありがとう。」

あの時のチコのような笑顔で響が笑う。




あの時…?いつだっけ?


あの時の笑顔、シリウスお披露目イベントの後?


シリウスの顔?




パチン!と急に世界が揺らぐ。


黒髪青茶目の青年が見えた。いや、青味のある深いブラウンヘアだろうか。よく色が見えない。

「ワズンさん…?」

チコの教官だった人だ。今はベガスにいる。


チコだろうか?力なく壁にもたれ掛かっている誰かを、その男性が抱きしめようとして…

止まる。


そこにもう1人……


…違う。

ワズンさんがいた今の記憶と、既に別の場所だ。もう1人知らない人との場面。



今度はビターブラウンの髪に…カウスと同じ色の目。落ち着きを払った男。

「もう1回!構え―!」

という声と共に辺りは土砂降りになる。


その男にチコは胸ぐらをつかまれ怒鳴られた。

「遅い!敵なら死ぬぞ!」

と、地面の泥の中に叩きつけられた。それでもチコはサッと起きあがり、泥のついた顔を泥のついた重い手で拭き、音も無く一瞬で銃を構える。


ダン!

と、発砲すると、銃弾と共に画面が曲線を描いて変わってい行く。



もう一発。


ガン!と、銃を放ち、世界がクリアになった。

表情もなく相手を攻撃する誰か。チコ?奥まった場所で、辺りにはたくさんの人が倒れている。


どこにも感情がない。




「チコ!」

先の男が走ってくる。荒涼とした場所だ。次々世界が変わる。


持って来た袋を横に置くと満面の笑顔でチコを少し持ち上げ、伝えてからそっと地面に下ろす。その男がそんな顔をするなんて初めてだ。きっとチコの見ていた風景なのだろう。自分がチコの視点と感覚で状況を感じていた。


チコをギュッと抱きしめ、男は笑った後、横の袋からオレンジを出した。

「食べろ。みんな一番にチコに持って行けって。」


見渡すと、軍服を着た大柄な男たちが手を振っている。


男が手でオレンジを半分に割り、チコに渡した。

「嗅いで見ろ。初めてか?いい匂いだ。」

無表情…視点が同化していてファクトからは見えないが、おそらく無表情のチコが、オレンジの香りを吸った。


甘く、少し引き締まる匂いが一気に広がり、胸がドキドキする。


顔よりも先に、胸の中が熱くなった。




と、共に…気が付くとそこは、ファクトのよく知っている第3ラボだった。


「チコ!よく頑張った!」

そう言って泣いていたのはファクトの父ポラリスである。

周りに、自分も記憶のある研究員たちが少し若い姿でそこにいた。

「…申し訳なかった。本当にすまなかった…!」


流れる記憶の中で、初めてチコがラボで笑う。背は高いのに、まだ幼いような、毛先が癖毛な、おかっぱの愛らしい少女。

「ポラリス、泣かないで…。お父さん…」


優しくポラリスの頬を触れる手を急にこちらに向ける。




「………サ……ダ……リク」

「…?」

そして、今は意識だけになっていた見物人の自分に、そっと笑いながら手を出してきた。


「サ……ダ………」


『…?それは俺の名じゃないよ。』

ファクトはチコに伝える。


ふと見ると自分は子供だ。小学生の頃。もっと小さい?


「ファ…ク…ト…?」

と、大人になったチコが今度は両手を出してきた。



…チコ?



バン!

と弾けて一気にマーブルのような世界が流れる。


そこで気が付いた。

自分はチコの意識か記憶の中に入ったんだ。



すすり泣く声。泣いているのは自分?それとも誰か?



また世界が変わり…なんだろう。このカビ臭さ。


掃除もしていない埃だらけの薄暗い世界。



窓もない建物。たくさんの歳の違う子供たちが静かに勉強をしていた。周りには銃器など構えた男たちが常にいる。足が隠れるほど長い裾のスカートを履いた女性が、無表情で子供たちに共通語や数学、科学など教えていた。


ここは?

嫌な臭い…。すえたような…しけたような…。でも、無機質な。


「……?!」

見渡してファクトは戦慄した。

その部屋の隅の椅子、同じく長いスカートを履いた女性が抱く、まだ言葉も話せないような小さな子供。


その子の髪色は濃い黒のような、いまいち掴めない…グレーブロンド。



あの目。


…?!

『あの男だ!』


と思った時、その子供がファクトに視線を合わせ、眼が近づいてくる。



危ない!!と思ったとたん、瞬く間に一点から輝きが淡いオーロラのように広がる。


響の光だ。

お寺のような匂いがして、ガーーっ!と土の上に引っ張られるように引き上げられた。




―――




「ガっ!がほ!!」

いきなり覚醒して、椅子から落ちそうになる。


「ファクト!!」

それをカウスが支えた。


お香の匂いが漂っている。


「大丈夫か?!」

カストルも駆け寄った。

「ファクト!」

アーツの面々も心配そうに見ている。


「ちょっと待って…。大丈夫っ……」

心臓が少し早く打っている感じがするが、酔ってはいない。焦ったミザルが階段を下りてくる。

「ファクト!!」


「ガッ!あ、お、俺は大丈夫…。」

少し涙目で四つん這いの体を起こし、椅子にもたれ掛かって口を開く。


「響さんが…

危な…危ないかもしれない…。」

「危ない?」

カウスが聞き返してくる。

「あいつがいる……」

デネブがリーブラを下がらせ、カストルがファクトを落ち着けて聞き返す。

「あいつとは?」



「チコを…チコを襲撃した奴…、チコの中にもいる…。」

「?!」

シャプレーも含む、その場にいて聴こえた面々が目を広げた。


ミザルはシャプレーの後ろでそれを聴いていた。




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