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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第九章 あなたの中に

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24 ミニファーコック、そしてタニア



ファクトはゆっくりを目を開ける。


まだ空間が歪んでいる。目の前で響が空間を開いているのが見えるが、それも歪んでいく。



パン!


と突如弾ける感じがして、術を行った研究室…そして、太陽のコロナのように現れた白い世界から、さらにマーブルのような世界が水平線を描き、一気に広がった。



………。



しばらくボーとして、ハッとすると、目の前にいつものロングスカート姿の響がいた。


全く現実と同じように見え、認識できるのに響の端々がアンテナを感知しきれないテレビのように歪んでいる。そして、少しずつ線がはっきりする。


「ファクト君!ファクト君!分かる?」


ここまでは昨日と同じだ。


「だから響さん、ファクトでいいってば。」

「ごめんね。そうだったね。えっと…ファクト。」

優しく笑った響にファクトは思う。これはみんなホレるわけだと。なんというか、安心する。


「やっぱりファクト、才能あるよね。今まで他のサイコロジーサイコスターたちと関わったけれど、この層まで来て認識はそのままに私とこんなふうに会話できたのはファクト君だけだよ。」

「そうなの?」


「あはは!ファクトく…ファクト。見える?昨日は実体と同じだったのに、今日は軍人さんだよ!」

「え?」

「ははは!」

「軍人…?」

響が手鏡を出して見せてくれる。


「!」

そこには自分と対称の動きをするファーコックがいた。


しかも、現在の図柄ではなく、なぜかディフォルメの…。

『ゴールデンファンタジックス』ドット画面からの初期の絵柄だ。なぜだ…。俺はリアルファーコックにもなれないのか。


「かわいー!超かわいー!!」

やめてよ、と慌てるとなぜか漫画のように足がいっぱいになる。

「どうしよう!かわいー!ファイじゃないけど、久々に萌えた~!」

泣くほどウケている。

確かにこのタイプが使われた初期の4作まではかなりやり込んだが…。戦闘中逃げるを選択すると、足がこうなる。あまり言われると、去りたくなる。


すると歪みが大きくなり段々自分が消えそう…というのか、周りに同化しそうになる。

「あー!待って待って!!ごめん!!」

目に溜まった涙を拭いて響は落ち着く。


「…。クッ…。」

でも時々吹き出している。


「えー。…落ち着くので待ってください。」

咳き込んで姿勢を整える響。

「…というか、その姿変えられないの?」

「今、がんばってるんだけど、形を作ろうとするとこの姿にしかならない…。」


「まあいいや。あのね、クッ…。まず、ファクトの中でチコの印象深いことを思い出して。」


昨日はそこまで触れるのは早いと思い、チコの意識下のへの接触はなしにしていた。ファクトがふーんとチコとの思い出を考えると、初めての南海広場でお〇め様抱っこをされたことが思い浮かぶ。


「…」

「どうしたの?」

響が顔をのぞき込む。

「…落ち込んでいるの…?」


そこで響がまた笑いだす…。

「ブッ…」

何だ?と思う、ミニファーコックファクト。


「…それは男としては…屈じょ…災難だね…。でも…まあ…大丈夫!」

グッドポーズで凌ぐが、また笑いだした響。ファクトの思い描いた世界を読まれていたのだろう。

「あの、仕事進めたいんだけど…」

しばらくウケているので、響が収まるまで待つことになったファクトであった。




__




「ねえ?なんで響さんは笑ってるの?なんでファクトは苦しんでるの?」

リーブラがのぞき込んで言う。

「ねえ?笑ってるよね?ほら!響さん笑ってる!」


一方現実世界では、響はにやけ、そして一方は眉間に皺を寄せていた。


「わ、笑っていますね…。」

カウスも…笑うしかない。

「笑っているな…。」

カストルもそうとしか言えない。


にやけている…なあ…と思う博士たち。


「は?ファクト何、響さんと楽しんでんだ?」

アーツ側にモニターはないが、角度的に上からも見えるらしい。キファが怒っている。

「いやいや、苦しそうだから。」

サルガスが冷静に分析する。


「何のプレイだ?!」

「だから、お前、親御さんや実質高校生もいる前で冗談でもやめろよ。」

「俺は別にいいけど…」

実質高校生のリゲルが呆れている。

「キファ、楽しい話だけど今はやめなさい!お母様がこっちに来てるよ!」

ファイが、こちらにやってくるミザルに気が付く。お母様の前でこの話題はヤバい。


軽く礼をする一同。

「時間が掛かるかもしれないから、ずっとそこにいなくてもいいから。このエリア入り口のブレイクルームを好きに使ってちょうだい。」

ミザルはアーツに向けて言ったが、今は誰も動かなかった。




____




「ねえ、響さん。そういえば聞かなかったんだけれど、霊が見る世界とこれはどう違うの?」


揺れる世界でファクトは尋ねる。



「うーん。霊はね…。なんて言ったらいいのかな。

肉体であろうと、霊性であろうと()()()()()()のであり、()()()()()()。存在している、実体なの。

意識は人が認識している世界。」

「……。」


「だから、意識の中では、こうしてビルドを描いて実体を保とうとしないと、自分の認識世界になって揺らいでしまうの。」


「今私たちが描いているビルド自体は霊に近いかも。意識に霊が入り込んでる感じ?霊は固定世界ではないけれど、存在する実体だから……図で書いた方が分かり易いかな?

まず分けて考えると、肉体と霊は形が違うだけで、どちらも違う本人。固定世界か無固定世界かの違い。

意識は人の精神や心、認識の世界。」

「………」

一応中央区の学校で子供の頃から習ってはいる。でも、意識世界には学校でも簡単にしか踏み込まなかったので霊性の方しかピンとこなかった。



亜空間で先生の講義が始まる。


昨日はとにかく実践から入ったし、SR社の人間はある程度の理論は知っている感じで、限られた時間の中では今更聴きにくかったのだ。でも、状況を把握してから始めたい。


「認識の世界というとその人だけが持っている世界と思えるでしょ?

でもそうじゃなくて、それも全て深層で繋がっている。

個々の型のある場所が個人。その繋がるところが深層世界。


宇宙で言うと星が個人。宇宙空間が深層世界。

プチプチで言うと、プチプチする丸いところが個人で、その周りが深層世界。深層世界は無意識下で全ての人が共有している場所。」

「プチプチ?こうしたり、絞ってプチプチする梱包材のこと?」

またおかしな話をしだす。


「まあそうだね。プチプチは個別だけど、シートで全部つながるでしょ?潰したら周りと同じ高さになって個が見えにくくなる。そう言うこと。

今私たちは、その『個』を固形にしたまま自分の星を出て宇宙空間に放り出されるイメージ。今はまだ私の意識の中だけれど。」


なんとなく分かる…。昨日も似たようなことを簡単には聞いてはいるけれど。


「本当はこの空間は認識の世界、記憶や…先天性も含めて持っている世界であって形はない。心の世界だから。

だからそこに形を保つのが私たちのDPサイコスの力。」



「本当はね、ファクトもここでは意識になるんだよ。」

響がそっと笑う。


「私たちの世界を出る前に、チコを確定しよう。」

響は空間に簡単な模型を描く。


「霊世界と意識世界には、肉体世界と違う共通したことがあるの。なんだと思う?」


「…固まった固形ではない、揺らぐ世界?」

「ピンポーン!」



響の目が鋭くなる。



「だから、距離があり…、


距離がない!」



そう言うと、響はミニファーコックを抱き上げ、一気に空間を跨いだ。


サーーーと世界が変わろうとする。

また一点から水平線のようにマーブルの世界が広がり、そこにたくさんの風景の断片が見える。


父ポラリスと母ミザルが言い合いをしている。

その周りで研究員たちが、ミザルをどう宥めるか困っているようだった。

怒ったミザルが、近くにいた小さな自分を引っ張っていく。


「母さん……」

と、怒っているのに泣いている気がしたから、ミザルの方に集中すると、「そっちには行かないよ」と響に引っ張られた。



すると、ラス、リゲル。子供の時からの幼馴染が見える。

みんなで親たちとバーベキューをしている。自分の両親は忙しすぎていない。彼らの親は、自分の子供のように、ファクトをかわいがってくれた。

楽しかったなと思う。



風景はサーーと流れていく。



これはタニア?

父のよく滞在している、森の研究所。レプシロンだ。


山、小川、なだらかな牧草地。

向こうに広がる深い森。


滝の音、涼しくて、全てが清められるような霧が漂っている。

記憶の距離感と少し違う。


研究者たちがラボに籠る中、ラスやリゲルとよくここで簡単なメカニックを組み立てたり、管理人のおじさん…当時はまだ若く青年の彼らに面倒を見てもらった。この頃、もうポニーで乗馬をしていたのか…と思い出す。



サーーと、また世界が移る。



リゲルが簡単なロボットの組み立て最中に、ラスと自分は男性メカニック型のニューロスと山に出る。



護衛のニューロスに待ってもらって、タニアの滝の中に潜る。

そこには車椅子に乗った、髪の毛のないもう一体の女性型ニューロスがいた。まだ稼働前なのか瞬きもしないし、動かない。


「すごい。人間にしか見えないね。」

ラスが興奮している。ラスが楽しそうな姿が大好きだった。




車椅子の人、

何てきれいな目なんだろう…。



小さな自分はそのことが気になって、目の前の人をのぞき込む。


自分の中に不思議な感情が湧く。


何てきれいな…なんてさみしそうな…なんて優しい…

子供の頃はその表現もできなかった。



でも、ラス。違うよ。

この人は――



その目に吸い込まれそうになった時…



バチン!


と弾けて響に両頬を軽く叩かれた。

「大丈夫?」

「…う、うん。」



たくさんのものが見えたけれど、おかしなことにそれは流れていく風景の一環であり、瞬きのような時間であることも分かった。

走馬灯というのはこういうものなのだろうか。


ただ風景を見るだけでない。

意識を変えると目の前の感情が入ってきたり、人の世界に移ったりしそうな感覚だった。


一瞬なのになぜか全てが入ってくる。

どこまでが自分で、どこまでが他人なのかも分からない。



響が意識世界に入っていく時と同じ目つきになる。でも、優しく包むように。



「先、すごく離れているようで、距離がないって言ったけれど、


時間も永遠で…、一瞬だから…」


風のように気軽に動く響。




ファクトは、ふと自分を見る。

自分の両手?



ミニファーコックではなく、自分に戻っていた。


そして、この前タニアで着ていたファー付きのロングコートをまとっていた。




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