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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第九章 あなたの中に
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23 オレンジとお寺と



次の日の朝、一同はSR社に集まっていた。


チコに面会はできないし、身内のファクトもこの仕事が終わるまでは会わない方がいいと判断された。



「響先生。それ、指鳴らしてるの?下手くそだね。」

「リーブラはできるの?」

「ほら!」

パチン!とキレイに鳴らした。

「あ!すごい!」

ファイはできない。不器用同士である。響がお香の道に進まなかったのは、実はせっかちでやや不器用という理由もある。


「音を目印にできた方がカッコいいし、手速いなーと思って。でもだめだね…。」

「お香じゃなくてもいいんだ…。昨日タラゼドとしていたのはそれで?」

「タラゼドさんはお香はピンと来ないって言ってて。」

響が鳴らしてもスッと(かす)るだけだ。




今回、SR社も立ち会う人間を限定。


社長シャプレー、ミザル。ファクトと仲のいいチュラさん。他はもともとチコをよく知る数人の博士のみ。

ベガスからは牧師夫妻であるカストル、デネブとそのお付きの女性。そしてエリスとカウス。

アーツは、ファクト、キファ、リーブラ、ファイに事情を知ったサルガス。ファクトの幼馴染のリゲルも響がいた方がいいと言ったため立ち合いを許された。

ただ、大房のメンバーは、これがDP(深層心理)サイコスであり、ここで何をするかという詳しい目的までは聞いていない。ただ、心理層の人と話すと聞いているだけだ。察してはいるが。



「マンダリンにしよう。ファクト君にも馴染み深い香りだと思うから。」

マンダリンは柑橘系。ミカンのようなオレンジの香りだ。オレンジより甘味のある香りなので誰でも取っつきやすいであろう。


響はチコの眠る研究室に入り、マンダリンの香油を濃く焚いた。


そして、チコが眺めていたという小さな四角形の並んだオパールのネックレスをチコの首に付けた。動かなくなった人間は重いはずなのに、持ち上げた頭は軽くて驚く。少し艶がないが、きれいに手入れをしてある髪を何度もなぞった。


「チコ、見付けてちょうだい。私を。」


そう言って、みんなのいる大きな研究室に戻る。チコ側はユラスの女性と女性研究員が二人が待機する。





周りが2階層になっていてる大きめの研究室で意識層に入る。


術に関わる者以外は2階で見守ることとなり、中央を囲うようにガラスが張られていた。

「ねー?これも全部撮られてるの?」

「シャワー室とトイレ、休憩室、プライベートルーム、一部の部屋以外全部記録に残しているらしい。研究室内や一部は警備員も録画を観られないんだって。」

キファは研究室が見渡せる上階から覗いてため息をつく。サルガスもSR社での対応を全部聞いている。全て記録に残るらしい。


「ここでするっていうのはSR社から言って来たことだからね。データがほしいんでしょ?響先生の記録を残すなら大金巻き上げてやればいいのに!」

リーブラが怒る。

「まあ、ベガス側とは何かしら話はしているだろう。」

リゲルは言いながら思う。意識層に入ることによって、精神や体にも変化がある可能性がある。SR社で肉体を見守りながらサイコスを使うのは間違った判断ではないだろう。



響が上を見上げてガラス越しのリーブラたちに手を振った。

そして、香具を出して灰を盛り、その上に火をつけるための香炭を乗せる。


「それが響さんが戻ってくる匂い?線香付けるんじゃないんだね。」

ファクトが不思議そうに眺める。響の研究所は漢方の方が出番が多いので、焚くのは初めて見る。

「そう。お香はいろいろあってね。母はあまり角張ったものが好きでないし、いろんな地域のお香に関心があったから、香木業界フリースタイルって感じかな。」


準備した香炉に、少し大きめの木辺を乗せ、響は無表情で香炉を眺めながら少し時間を置く。


「ファクト君、この香りも覚えた?これが私の目印。白檀(ビャクダン)って言うの。」

「多分…。」

正直あまりよく分からない。普通によく嗅ぐ匂いな気がする。よくある線香の匂いとでも思っておこう。


「リーブラこっちに来て!私が戻る前にお香が減って来たら追加を焚いて。」

「え?!あそこに入っていいの?」

ガラス越しは別世界に見えた。


上にいたリーブラが驚いて横にいるキファを見る。

「呼ばれてんだろ?行けよ。」

「怖いから誰か一緒に来て…。SR社の人怖い…」

カウスが一緒に行くことにした。カウスもなるべく術をするメンバーの近くにいたい。



響は香りが漂ったところで用意された2つの大きな椅子の片方に座る。

2つは横に並び合っていた。


お寺のような香り。


それを感じた時、ファクトは安心した。この匂いなら分かりそうだ。

懐かしく思う。昔リゲルと何度も寺に預けられた。昨日質問を受けて、『記憶にあるのは寺の匂い』と言ったからかもしれない。


そして昨日も嗅がせたが、ファクトには先、別室でもう一度マンダリンの匂いを覚えさせていた。チコの目印だと。

「大丈夫なの…?」

研究所であまり表情を崩さないミザルが動揺していた。ミザルは上にいるように言われている。


ファクトと響の近くには、カストル、リーブラ、カウス。それから少し離れたところにシャプレーと博士数人。


シャプレーもお香の匂いを覚える。寺で香る、木の香りだ。シャプレーも化粧品や生活用品に関わっているので香りは分かるし、ある程度の違いも嗅ぎ分けられるが、扇子や仏教の香と言う以外表現の仕方は分からない。



「本当は何もなくてもいいんだけどね。普段は気持ちだけで戻って来れるよ。でも今日は念を入れて。」

響は静かに息を吸う。

あの男のこともある。彼は未知数だ。

高位霊能力者でもある、カストル、デネブ、シャプレーたちでもチコを追えなかったのだ。しっかり旗を立てておきたい。それに意識下と現実を区別するために、あえて儀式調のことをことをするのだ。



「ファクト君、いい?」

コクっとうなずく。


「……」

しばらく目をつぶって瞑想に入り、ゆっくり目を開く。


その目はいつのも響と全く違って、世界の全てを見据えているような目だった。

アーツメンバーがその様子に無言で驚いてしまう。


椅子に掛けていた両手を合わせ、その手をゆっくり離していくと、手の間に光、そして揺らぐ空間が現れた。ファクトが横からその空間に触れるとスーと眠っていく。


それから、響の中で空間が弾けて、響も倒れるように椅子の手掛けに崩れた。


昨日の演習を知らない、初めて見たカウスやアーツメンバーが思わず駆け寄ろうとするが、それをデネブが止める。静かにと指示を出し、少ししてからそっと二人の体勢を整え布団を掛かる。



SR社の何人かも、初めて見る風景に何とも言えない顔をしていた。




***




スラム河漢で、調査をしているイオニアはかなり渋顔でタラゼドに声を掛けた。


「で、何なんだ?なんで響先生やリーブラたちは出掛けたんだ?お前知ってるだろ?」

「言うなってことになってるから。」

「言えよ!ムカつくな!なんでキファが良くて、俺がダメなんだ?」

「たまたま居合わせたから。」


「はあ?」

あの日、響がサイコス使いだと知ったメンバー以外は、サルガスとリゲルしか事情を知らない。

内密にするはずがキファが今日抜けることを知り、さぼりと思って響の研究室に押し掛けたイオニアによって、まとめてみんないないと分かってしまったのだ。


ファイも職場にいない。ファクトもリゲルと学校に行っていない。同級生のソイドに電話をしたところ、ムギもずっと来ていないし、今日はソラしかいないらしい。


これは何かあったと悟るしかない。


「お前、響先生の何が好きなんだ?」

タラゼドに詰め寄るイオニア。

「…何でそういう話になるんだ?」

「やたら研究室に呼ばれてるって話だが?」

「俺が呼ばれているのに、なぜそういう話になるんだ?」

「呼ばれたからって行くなよ。」

「……昨日は部屋の模様替えを手伝っただけだ…。呼ばれたのも学生からだ。」


「なんでお前は呼ばれるんだ?」

「手を出さないからだろ。」

「…俺も手を出してないぞ!」

あれから触れてすらいない。こんなにも好きな子に触れない自分は初めてである。

「…大房の手を出さないと、ベガスの手を出さないの基準は大分違うからな…。」

「あー!くそっ!!」

と怒るイオニア。



サイコスが終わったらリーブラが安否を教えてくれる。まだ、始まる頃だろう。


タラゼドは、河漢の狭い空を見上げた。




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