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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第九章 あなたの中に

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22 ギュグニーの足音



広大なユラス東部の荒野に数頭の馬、ジープが走っている。


植物も少なく、文明の風景はない。ここはユラスといっても民族は違い、文化も西アジアに近い。


「兄さーん!」

1台バイクが走って来た。

「キッカ!」

走るバイクから飛び降りた薄褐色肌の少女は、止まった馬に近付きたくましいモンゴロイド系の兄に飛びついた。兄もしっかり抱きしめる。


「どうだった?」

「妥協案を出してきたと言っていました。アリオト兄さん、気が合うみたいであちらのご子息に非常に気にいられたそうです。三男さんはとても交友的です。」

「……三男が中心だったらよかったんだがな…。」


アジア、ユラスの下方に位置する北メンカルが近年大きな動きを見せている。セイガ宣言が完成する前に小さな無所属国家アクィラェに侵略をかけたのだ。南メンカルは北より温厚で友好姿勢だが、北メンカルは自由民主主義のアジア統治を疎ましく思っている。



セイガ宣言は、連合加盟国が国際条約、一部憲法や法律などを同じくし、安全保障締結、相互理解に尽力する宣言である。


名目上民主主義とはいえ、独裁政権の名残が濃い北メンカルは一貫して反抗姿勢をかもしだしていた。アクィラェ侵略に関しても、関係強化としか言っていない。その中で三男のタイイー議長は唯一の連合国寄りで温厚派だった。ただ、父や兄たちの政権に比べ軍事力が弱く南に亡命しているとも言われている。


「アリオト兄さんに、最終交渉の日は私も来るように言われたの…」

「……。」

「その時に乗じてアジアに行けるように…。」

兄はキッカを抱いて静かに考えに耽った。


「…その方がいい。ここはギュグニーに近過ぎる。そろそろ覚悟を決めるんだ。」

ギュグニーは実質無法地帯で北メンカルより荒んでいる国だ。

北メンカルは独裁でも統率が取れているが、ギュグニーは完全に国を囲い、その中でいくつかの勢力が絶えず争っている。他にもまだそのような国はあるが、話の全く通じない、このセイガ大陸で唯一名実共の最後の無秩序国家である。

ただ、現実そんな状態で地域が維持できるわけがない。大分裂してから40年近く囲いを保ってきたが、ここ数年が山場だと言われている。



「私はお父様お母様、お兄様や妹のいるここにいたい…。せめておじい様をお見送りしたい。」


荒野の真ん中でキッカは兄の懐の温かさをじっとかみしめた。




***




自室でムギはそっと目を開けた。



あの日、SR社社長シャプレーと面会をした。ユラスの婦人も隣にいたが、他はシャプレーと秘書のスピカだけとなる。


「君が、ムギか。名前は知っている。」

「…チコは?」

「はじめに言っておくが、今のチコの管理しているのは我々の研究のためではない。襲撃されここに頼られた。」

「………」

「体は持ち直しているが、危険な状態だ。意識もなく、霊線が辿れない。」


「SR社に出たことで、チコの揺らぎに反応した人物がいたんじゃないのか?」

あの日チコは揺れていた。その隙を読み取った者が狙ったのかもしれない。つまり、チコ以上もしくは同等の察知能力のある者だ。


「…。そうだな。そういうことはあるかもしれない。」


「…それでどこに?」

ムギは表情一つ変えずにそう言った。もっと感情的な子だと思っていたので少し予想外だと思う二人。

「理由は話した。会わずに帰るという事は?」

シャプレーが案を出す。

「そんなことできない。」

ムギの心に、シャプレーとスピカは顔を見合わせて頷く。


「分かった。ではこれからデネブ牧師が来る。それから面会しよう。今後の方針が確定するまで他言はしないように。」

ムギは無言で頷いた。




その後、デネブが到着し干からびた人形のようなチコを見た。シャプレー以外は女性しかしなかったので、腰まで見るのを許される。


「介護状態は高度技術を使っているので、ここまで一気に衰弱することもないのだと思うが…。早く霊線を見付けないといけない。普通だったらもう切れていると言えるが肉体がまだ動いて、生きてはいる。」

つまり、普通の人だったらもう肉体を手放していてもいい状態だという事だ。


触っていいという事で、ムギは静かにチコの頬に触れ、そして喉から胸、へこんだお腹を撫でてあげた。そしてあばらをさすった。



それから、簡単に挨拶をしてSR社を後にする。

チコに刺激があった方がいいので、また来てもいいと言われた。


泣き崩れたのは帰りの車の中だった。




あれから数日。



今は何時だろう。



空間に残った祈りが見える。


みんなも何か感じて祈り続けていたのだろう。



睡眠から目覚めたムギは、近くに置いてある水に気が付いた。

少し祈って封を開け口にする。


果汁や滋養のドリンクも置いてあるので、少しずつ口にする。



それから軽くストレッチをして動き出した。




***




響はその日の夕方、SR社入りした。


「まず、始める前にたくさん聞かせてください。

チコに大きなトラウマはありますか?

人生の重要な基点となる人物は?」


ミザル、シャプレー、デネブ、その他数人の人間は何と答えるべきか分からず言葉は出ない。チコの元々の生活圏はユラスだ。



「トラウマの中に入る場合があります。そうすると、心の準備がないと対処できません。」

響はきっぱりと言った。

「私はチコの親友でもあります。他言はしません。」


「…。まず…知っている限りではニューロス化したことね。私たちは嫌われているんじゃない?」

観念して言ったミザルがさらに続ける。

「それは何?対処できなかったら、あなたも危ないって言うの?」


「分かりません。今まで殺人犯や暴行犯の中にも入ったことがあります。でも大丈夫でした。私の方がビルドを強く描けるんです。なので危険を感じて迷う前に戻ります。」

「……。」

「ビルドとは?」

「意識の中で『個』を認識し確定する力です。その個を分かり易い姿や絵にします。私は意識の中で自分の姿をそのまま保てます。」

「………」

周りは言葉がない。どういうことだ?


殺人犯の心理に耐えられるような女性には見えない。非常にしっかりしているが、まだ20代半ば。一般的な未婚の正道教信徒なら性経験もないだろう。

しかし、響は昔あったある暴行事件の捜査に協力していた。その力で霊性でも隠れていた「性行為が合意か暴行だったか」の目星を出したことがあるという。この時代複数人数で察知できる霊性と違いサイコスは確証にはならないが、無罪だった男の拘束延期に繋がった。

後で公安に確認したところ、それは事実のようだ。


「バッターも様々な打ち方があるように、みんな方法は違います。私の場合はそういう感じです。」


「ファクトは大丈夫なの?やめた方がいい気がする…」

ミザルが不安になった。

「チコを見付けたら先に引き上げます。今日、ファクト君自身にも予行演習で、意識の中で個を描いてもらう訓練を少しましょう。」

「それは初心者に任せてもいいことなのか?」

「チコを引き寄せるだけです。普通の人はDP(深層心理)まではたどり着けません。」


暫くSR社側がいくつかの話をする。幾つかは響の知っていることだ。


「他にチコのことで分かることは?子供の頃とか。」


シャプレーが静かに答える。

「それから…。出生が不明だ…。」

「…?」

響も少し驚く。不明?


「ユラスに来た経緯やカストルと会ってからの話は知っているか?」

「チコから少し聞いています。」

「少し詳しく話そう…。」



この後話が続き、学校が終わったファクトが来たので、簡単な訓練をし明日に備えた。




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