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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第九章 あなたの中に

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21 森の香り

ご訪問ありがとうございます!


11月から本業で毎日投稿できるか分からないです。その期間に全面改装もしますのでよろしくお願いいたします。大筋は変わりませんが、かなり文章がおかしいので、書き替えるとことも多いかと思います(礼)



その日、ファクトは久々に家に帰った。



「貝君、ただいま。久しぶりー。」

貝君はファクトの家の家電内AIである。小さい頃から仲良しで、貝君自身は話すこともなく家電以外には介入しない初歩的なAIだ。


母ミザルはしばらく帰っていないようだ。

「貝君、何か報告事項ある?」

そこで空間に現れたファクトの管理画面に、子供の頃からしているオンラインゲーム『ゴールデンファンタジックス』の履歴がダダーと現れる。


ずっとログインしていないのにおかしい…と思うと…


「うはっ?!何だこれ?!!」

この数か月ログインしていない間に数百のメッセージが入っている。その数902件。

以前の帰宅時にファクトのマイキャラ、ファーコックを気に入っていると言っていたアカウントからだった。1日数件入っている日もある。


「何。怖っ。」

さすがのファクトも引いてしまう。前に確認せずにいたので名前を見る。ニックネームは『恵蘇乃(えその)』とあった。


「ちょっと貝君。ここまで怖い人なら連絡頂戴よ。アカウント情報と履歴だけ残してフレンド解消しておいて。」

貝君はキラーと電光で反応して、履歴を整理した。


「びっくりした。初めてネットストーカーに会った…。千件記念を超える前でよかった…」

デバイス、貝君など数段階のセキュリティーを通しているので、今までこんなことはなかった。心星家の息子だと分かって接触してきたのか。でも、リアル友達以外でオフライン交流はないし、それもほとんど昔ながらの友達なのでそこから広まる可能性はない。


よっぽど友達がいなかったのかな…。

西洋ファンタジー色満載なゲームの中で、1人ガチアーミースタイルを貫いているファーコック。彼しかミリタリー友達がいなかったのか…。


まあいいや。

と、海外の父に連絡をする。



「父さん、久しぶり。」

『ああ、ファクトか?元気か?』

「元気なんだけどさ、チコの好きな香りって知ってる?」

『チコの?』

「うん。今度心理層に入ってみようってことになって…あ、ってか…」

父に話してよかったのだろうか…。


『まだ意識がダメなのか…』

「え?やっぱり意識ないの?」

『……。』


『ファクト…!?知っていて言ってるんじゃないのか?!知らなかったのか?』

当然のごとく、海外にいても父の方がよく知っていた。そもそも父たちはリアルタイムで情報を共有しているはずだ。

「え?調整中としか知らされてはいないけど。」

『しまった…』

と父は落ち込んでいる。


「いいよ。なんとなく分かっていたから。そんで、意識層に入って見付けるために、チコに印を付けたいんだって。それで好きな香りが一番いいって術師の人が言ってて。」

『マンダリンとジュニパーだな。…チコはジュニパーが好きかもな。プチグレン・マンダリンでもいい。果物とウッディーを併せ持っている。』

チコがラボにいた時に、ペルパーがよく焚いていた香油だ。

「ふーん…って。全然分かんないんだけれど。」


何だそれは。呪文か何かの楽器か武器なのか。


『香油を使うのか?マンダリンはオレンジやミカン系でモノルペテン炭化水素の種類だ。プチグレンはエステル類だが。ジュニパーはいくつかの風味もある森の香りがする。』


ふーん。やっぱり全然分からん。オレンジやミカンというのは分かる。その前に「こうゆ」ってのはなんだ。


「よく分かんないけど、その人に言っとくよ。」

『ちょっと待て!いつやるんだ?!サイコス使いがいるのか?もしかして、DP(deep psyche)か?本物か?!』

「DP?何それ。」

「普通のサイコロジーサイコスターじゃ、高位霊性師が負えない案件を追うのは無理だろ。聞いてないぞ!」

「なら本社には言わないで黙っててね。」


「DPってのはよく分かんないけど、結局第3ラボですることになったから、SR社でも認定ってことだから本物だよ。明後日に決まった。」

そう。カストルに相談したところ、SR社にも許可を得なければいけないという事になり、結局SR社内ですることになった。彼らが認めたならそういうことだろう。

『メンタリー、サイコロジーサイコスターはそれなりの数がいるが、DPサイコスは私も話でしか知らない……』

「ふーんDPってすごいの?」


父も知らないなんて、それはSR社が飛びつく訳だと思った。下手をしたら、響はSR社に引き抜かれるかもしれない。



いろいろ考えながらファクトは冷蔵庫を整理し、春服など簡単に袋の中に入れベガスに戻った。




***




響の研究室は、今日も賑やかである。

「先生ー!この香木は新しい棚ですかー?」

「そうだね。」


「あー!タラゼドさん!来てくれてありがとうございますー!!」

学生の喜ぶ声に、直ぐ仕事に取り掛かろうとするタラゼド。

「これ動かすの?」

え?なんでタラゼドが?と思う響。


学生男子がうれしそうに言う。

「やっぱり力仕事はアーツさんに頼みたくて…。」

テヘヘという顔だ。キファも危険という新情報を得て、タラゼドに頼んだのだ。

「あのねぇ。勝手に人を使っちゃダメだって!」

「えー。でも先生も使ってるじゃないですかー!」

「基本、お金は払うつもりです!」


「で、この棚動かすの?」

「そう、私がいないときに業者が来たからここまでしか運んでいなくて…。無垢だから重いよ。」

無垢の棚が並んでいるところで、タラゼドは下を確認し、男子学生に少しヘルプを頼む。

軍手をしてもう作業に取り掛かる。

「めり込むかな…、気を付けないと。」


2人で少しだけ端を上げてからテコでさらに持ち上げ、キャスターを敷いて棚を可動にしてしまう。

「どこ?」

「あ、あ!ちょっと待って!こっち。」

移動する棚を2つ並べて位置を確認すると、さっとキャスターを外してすぐ終わった。


「え?もう終わりですか?!パワードスーツ借りてくるか、人数呼ぶか迷ってたのに!アナログですぐに終わってしまった…。」

学生君がびっくりしている。タラゼドはもともと内装やリフォームの仕事をしていたし、ベガスでもリノベーション会社でバイトをしていた。

「他に運ぶものない?」

「あ。終わりです。」

響もびっくりしている。


「片付け手伝おうか?午前は少し空いてるけど。」

「大丈夫です…。後は整理だけなのでありがとうございます。」

こっちは漢方で、こっちは香木…と知らない人には見分けがつかない。高級なものは湿度管理ができる部屋に分けて運ぶ。


「タラゼドさーん。お茶してしていって下さい!今日、有名店のカステラもあるんです!」

一仕事させたのにお礼もしていないので、学生たちが帰らせたくない。

「いい。仕事ないならもう行くから。」

「ちょっと待ってください!こんな大仕事して下さって何もしないわけにはいきません!」

学生女子が腕を引っ張って止める。

「別にいいよ。」

「私たちの気が済みません!」


という訳で、なぜか整理している人たちの横で漢方茶を飲んでいる。好きな人は好きなのだろうが、鼻に付く味と匂いだ。タラゼドは漢方全般平気である。


近くでビニールに包まれた木をまとめている響に気が付いて聞いてみた。

「それ香木?高いの?」

「この大きさで30万円です。」

「マジ?!」

今日初めて驚きの顔をするタラゼド。


「よく高いって知ってるね。普通は知らないのに。」

「こういう仕事してると、いろんな人の家に行くから…多少知っていないとトラブルになる。あと、話好きなお客さんが教えてくれたり。」

「へー。こっちはセットで3万円です。そこまでの物ではないけれど、気軽に楽しめるよ。」

3万円って気軽か?と思うタラゼド。

「響先生。そんなに高い物のあるのに、施錠忘れないでくださいね。」


「え?!」

一瞬で固まる周りの学生ズ。


「先生!忘れたんですか?!やっぱりここ、完全オートロックにしましょうよ!」

一応オートロックで人がいないと勝手に施錠するが、人がいれば開錠状態にもできる。


「え!ごめん!でもこっちのは部屋や棚にもロック付いてるし!!」

香木や漢方のある保存部屋は完全ロックだ。

「先生ダメです!もしかして寝てたとかですか…。やめて下さい…。」

「…はい。ごめんなさい。」

騒いでいると、飲み終わったタラゼドが立ち上がった。


「…俺帰るから。」

「つれないですね…。タラゼドさんて。」

全然居つこうとしないタラゼドに学生たちがさみしそうだ。

「せめてカステラ全部食べてください。たくさん切ったのに一切れしか食べないなんて…。」

「みんなで食べてくれ。」



響が見送る。

「あの、本当にありがとうございました。」


「あ、そうだ。香り…」

漢方茶の匂いで思い出したタラゼド。

「香り…?」

「あのこの前のトリップ…」

「ト、トリップってやめて!!」

響は思わず赤くなって周りを見渡す。


「誰も聞いていないよね…。」

ホッとしたところにタラゼドが尋ねた。


「明日やっぱり()()をするのか?」

「……うん。」

この前協力を煽ったので、SR社の元ですることになったのを、あの場にいたメンバーには説明していた。


「でもね、ファクト君の提案なんだけれど、事情を知っている人には来てもらおうと思って。」

「一般人がSR社に入れるのか?」

「交換条件。隠し事をされないようにタダではしないって言う。」

本当は東アジアが間に入るのがよいが、今はエリスとデネブが相談役になっている。

「………。」

「…タラゼドさんも来るの?」

「明日は仕事があるから…。」

少しがっかりする響。


「いや、ただこの前あんな風に倒れていたから心配で。」

響がキョトンとした顔をする。

「……心配?」

「戻って来れなかったら……」

あんなに揺すっても起きないのを見たら誰だって心配する。


「大丈夫。いつもより強いお香を焚くから。」

「お香で戻ってこれるのか?いまいちお香の威力が分からん。」

「私の場合は香が一番分かり易いから。人は好きな香りに引かれて来るしね。見付けやすくて。別に音でもいいんだよ。でも自分には才能がなくて。例えば…」


指を鳴らす動作をするが、かすった音しかしない。


「催眠術みたいに、パチン!ってできたらかっこいいんだけどね…。」

音でもいいという以前に、音を出せないことにタラゼドは驚く。

「なんでそれができないんだ?誰でも出来るもんじゃないのか?!」

「え?百回やってみてもできないよ。できるの?」


タラゼドが指を動かすとパチン!と鳴る。

「え?すごい!教えて!」

何度か同じようにやっても鳴らない。

タラゼドがするとパチン!ときれいに鳴る。


「……。なんか悔しい…。」

「別にできなくても大丈夫だろ…。自分には香とかあまり分からないし、それぞれ違うからな。心理層に行ける響さんの方が凄い…。よく分からんが。」


「じゃあ、弟子にしてあげようか?タラゼドさんが私の弟子になったら、指の音を『帰還』の目印にしよう!」

「……いい。トリップはしたくない。この指音が嫌いな人もいるし。」

「だから、トリップって言わないでってば!!」

「分かった分かった。…なら行くから。」

タラゼドは逃げるように離れとようとする。

「はいはい!今日はありがとうございました!!」

イー!をする響。


それを横から見ていたリーブラがいて、タラゼドは驚く。

「うわ!なんでいきなりいるんだ!」

変な真顔でリーブラは二人を見ている。

「備品買って戻ってきたの…。響先生と勝手に難しいお話ししないで…。」


「まあいいや…明日はちゃんとこの世界にトリップしろよ。」

「はいはい、分かりました!!」

「勝手に二人で話さないで…。」


タラゼドが消えると、室内から学生が呼ぶ声がして響も戻って行った。




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