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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第八章 河漢

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19/110

17 ヴァーゴ愛される




今日から先発メンバーが河漢(かかん)視察に入る。



アーツはサルガスやタウを中心に、南海、河漢、ミラの人間を合わせて行動していく。

大枠としては、今後個人宅を調査。衛生、教育、保健、生活必需品などの基礎知識があるか、行き届いているかを確認。住居登録はあるか、籍がない人間はいないか、職業の確認もし、住宅、治安の安全性をランク分けする。ただし、個人の登録関係は行政が担当する部分の方が多く引率と警備的役割をしながら、各事業のためのマップを作っていく。


アーツにとって一番重要な点は、近辺のまとめ役や話ができる人物を特定していくことだ。



そして、生活改善に対する意識調査をし、ここに臨時の保健所や学校を作るか、南海やミラに送るかを決めていく。保健所に関しては、一旦仮設置はする予定だ。


その後、まち自体を移動するか、河漢をベースに整備をしていくか練っていく。

ベガスミラでは、そのまちづくりを担える人材も育成している。


結局は人なのだ。



ひとまずベースはベガスになるが、河漢も動く。


河漢自体が構造、建築的に今後百年規模で使用できるかは、アンタレス行政派遣の調査団も入る。使用できる場合、一旦離れたここにまちを据えて、移動予定地を再開発。使用できない場合は、その逆になる。

新都市にしても、どこまで旧都市に頼るか、どこまで新しい技術を入れていくか。これに関しては、ベガスとアンタレスの大学や企業も協力していく。現在の計画ではベガスと同じように河漢もあまり高層の都市にはしない予定だ。


そして、アンタレス側では建築、土木などの技術の資格や修学経験がありながらも、人余りで技術職に就けなかった人間も洗い出していく。予算は国や連合国、大企業から出す。この時代、大企業は半公営的な立場であり、任意でありながら、末端まで全体の収益に見合った給与を支払いを求められている。


最終的に、まず1か所、どこかに新都市を作っていく計画だ。その間に住民教育をしていく。





河漢の中央は、前時代の地下、半地下に中心地が作られている。


中央の繁華街はスラムでありながら大きな市場があり、住宅と混在。そこは地下から地上まで吹き抜ける、いくつかランクがある複数の巨大ホールになっていた。



「皆さん、姉がお世話になっています。」

深く礼をした男の子はムギの弟。

「トゥルスと申します。」


おー、ムギ男の子版だ!と、驚くアーツメンバー。ただ、背は低くムギと違って雰囲気が柔らかい。

「僕も案内するので、よろしくお願いいたします!」

「妹がいつもお世話になっております。」

女の子2人を連れて挨拶に来たのは少し年の離れたムギ姉。こちらは背の伸びたムギという感じで、おっとりと、でもしっかりとしている。三人、バージョンが違うだけでとても似ている。


ファイがいればキャーキャー騒ぎそうなかわいさだが、今日女子はいない。



ムギ姉の後ろに隠れていた女の子はヴァーゴと目が合ってグズグズと泣き出した。

「お前のせいで泣いてんぞ。」

タチアナが自覚のないヴァーゴに状況を伝えた。

「え!マジか!」

「お前の顔がヤバいんだろ。」


ヴァーゴが朝リーブラにもらった栄養バーを出す。

「おい!これやるから。怖い兄ーちゃんじゃないぞ。」

「おっさんだろ。」

おっさんというシグマに対抗する。

「子供から見れば、お前もおっさんだ。」

「おっさん具合が違う。」

と、シグマ越しに得意げになるタチアナ。

「お前もすぐ俺具合のおっさんになるからな。」


ムギ姪っ子は固まったまま声を殺してさらに泣いている。

「………。」

ヴァーゴも固まっていると、もう一人その子の妹が前に出てきて、

「おいちゃんありがとう!」

と、さっと栄養バーを受け取った。

「おじちゃんじゃないけど……お前は積極的だな。知らない人からお菓子貰うなよ…。」

封を切ってあげると、その子は栄養バーを半分に折って泣いている姉にあげる。もらったムギ姪っ子は栄養バーを持ったまま食べることもなく、声を出して泣き出した。


ムギ姉も申し訳ない顔をしている。

「ごめんなさい。怖がりで恥ずかしがり屋なの。」

顔を見ただけで泣くならもうどうしようもない。とくにヴァーゴは厳つすぎて一般人には危険すぎる顔であった。



アーツは地下の吹き抜けホール端の屋根がある部分に、椅子など準備して河漢側の説明を聞く。


ちなみにこの計画には、南海青年というグループが関わる。


主にベガス移民の学生以上や藤湾特別クラスOB以外の青年で、所属はVEGAだ。いわゆるVEGAの青年団だ。彼らは規模的にはアーツ以上に人がいて、40代くらいまでは青年団に所属し正職員もかなりいた。組織的には先輩となり、今回アーツと役割を分担しながら一緒に活動していく。

最も多いのは西アジアからの移民だが、軍事国家のユラス出身者もそれなりにいるし道場やジム、スタジオが多いベガスだけあってアーツと同じくらいの訓練はできていた。


アンタレスに詳しいアーツと移民たちが共に活動することは、これから東アジアに生活基盤を築いていく上で大きな意味があった。




しかし困ったことに、ミーティングをしていると周囲が子供たちだらけになってしまった。


先まで泣いていたムギ姪っ子は、なぜか今度はヴァーゴにくっ付いてその膝でずっと大人しく座っている。現在スカイグレー頭のシグマ、ライラックプラチナのローはとくに大人気。男女問わず子供たちが群がっていた。頭が気になるのだろう。


何か期待されているので、ヴァーゴが両手を透かして手が手をすり抜ける手遊びをすると、

「うわーーー!!」

という、歓声が起こり飛びつかれる。


話を進めたい河漢の自治会長に怒鳴られ、子供たちは散ってはしばらくして群がるを繰り返していた。ムギ姪っ子はそのまま椅子に座ったヴァーゴに抱かれて、先の栄養バーをまだチミチミと食べていた。

「結婚前に子持ちになったな。」

「童貞懐胎か。」

「やめてくれ。」

なぜ急に好かれたのだろうか。子供の心理が分からず途方に暮れるヴァーゴであった。



危険と思われる区域は、2人以上の武術、格闘術資格者か銃器使用の資格者を伴うことになっている。東アジアでは相手が銃を持っていることはまずないが、ナイフなどはあり得る。それに、河漢はアンタレスのカオスだ。油断はできない。


想像以上に子供たちがまとわりつくので、今日はそこまでの地域は回らないことにした。元々顔合わせと全体の雰囲気を掴むのが今日の目的であったし、自治体制が回っている地域から手を入れるので問題はない。



ムギに面影がある姪っ子を抱いてヴァーゴは思わず頭を撫でた。


3日ほど前からムギは部屋に籠って出て来ない。


女子たちが心配しているのを聞いて、それを知ったのは今日だ。

一人でどこかに出掛けてから、デネブ夫人とユラス女性が泣き崩れて疲れ切ったムギを支えて戻って来た。本当はしばらく牧師のところで預かるつもりだったが、帰る途中で響に会ったのでそのままムギの寮に帰ることにしたらしい。


おそらく、この前のことに関係しているのだろう。学校で泣きそうだったムギ。今日会うかもしれないムギ家族には知らせないようにと言われていた。


ムギ姪っ子の背中を撫でてやると頭を預けてくる。一貫して無表情の姪っ子に仏頂面のムギが重なった。




***




「先生、どうしたんですか?」


今日、午前午後と外部講義が入っていた響は、自身の研究室で少しだけ考えごとをしていた。

「疲れたんですか?」

「…ううん。大丈夫。」

「なら先生、サークルに行くので帰りますね。先生も早く帰って下さいね。」

「うん、じゃあね。」

「さようなら。」


学生たちが帰って行き、今日は少し早くここを閉めた。



響はすっかり塞いでしまったムギの様子で、大体のことは察した。

チコに何かあったという事だ。


誰もいなくなった研究室の一角。


少し高級な種類のユーカリのアロマを焚く。

部屋にスッとする爽やかな匂いが漂った。


それから長椅子にクッションや布団を敷いて倒れてもいいように準備する。

そしてその長椅子に座り、目を閉じて手を合わせた。



しばらく集中してから手を開いていく。


すると、その開いた手の間から、光が現れる。

歪んだ、小さな宇宙のような、薄っすらとしたオーロラのような光。


そこを眺め、響はそのまま準備したクッションに倒れた。




バチン!ーー

と、音がする。




ゆっくり目を開けると………



響は自己の意識下にいた。



ビルド()を描いて個を保ち、ゆっくり深層に入っていく…。


共有深層まで入ると、ザーーと風景が流れた。

泣き疲れて顔も見せないムギが見え、少し感情が入ってくる。


響はそれを流してさらに見渡す。



「チコ?いる?」


チコの型を探すが、チコのビルドが分からない。

ファクトを呼んだ方がいいかな……。ファクトの方がチコと近いのかも。今度連れてくるのは危ないだろうか………



考えにふけっているその時だった、


ズーーーと、引き上げられる。

「っ?!」



バチン!



一気に目が覚める。

「は?!」


「響!響先生!!」

声を出していたのはキファ。


その横に、心配そうに眺めるファクトとリーブラ、ファイ、タラゼドがいた。




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