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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第八章 河漢
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16 宇宙への速度

いかにもそれっぽい感じで書いていますが、説明的な話は創作です。よろしくお願いいたします!

「ムギが知ったのね…。ファクトのせいじゃないから。」


事務局横の個室で、お茶を出しながらサラサが言う。



「あの子は最初からいろいろ調べてたし、隠せないとは思っていたからどうするか考えていたんだけれど、後回しにしてしまったから…。」

「ヴァーゴは詳しくは聞いていないみたいだけれど、察してますね。チコに何かあったことは。」

「他のアーツは?」

「…察してはいそうです…。自分もケガを()()()()()という事を晒してしまう、失態を犯しました…。ごめんなさい。その前から気が付いている感じではあったけれど…。」

みんな大人だから言わないだけだ。


「はあ…。」

頭を抱えている。

「まあ、アンタレスにいるのに、長期顔も出さない、面会もできない時点で普通とは言えないし。誰かがチコを装った時点でつじつまが合わないことも出てくるから、基本公人に影は使わないし。」


影とかサラッと言うのが気になるファクト。

「影ですか…」

「今の時代は、一般人もAIを使うからね。似てる人やデータで影を立ててもだいたいが分析ですぐに分かるし。…前時代の人間が分からなかったことの方が、すごい固定概念や集団心理なんだけど。」

前時代はPCもある時代なのに、影だらけだったという事か。修正にもAI映像にも個性や癖があるので、分析で創作かどうか分かるらしい。マスコミや世論でうまく操作すれば、本人でなくてもそれでやり過ごせていたという…。もちろん空港やセキュリティーはVIPならそのまま通る。偽物と認識しても話が通っていれば国も行き来できた。

人間の思い込みはすごい。




「…チコはどうなんですか?その、回復しそうですか?」

「何とか体は持ち直したみたい…。」

ファクトはゆっくりサラサを見た。

「…よかった…。」

今まで感じたことのないぐらい、肩の力が抜けた。

「でも、どうにか動かしている状態だし、霊線が弱すぎる。このままだと衰弱はしていくけど………」

サラサはどこともない方向を向いてそう呟く。




魂と体は、頭の頂点で繋がっている。その線が切れたら一般的にはもう体とは分離される。

つまり死だ。


幽体離脱、仮死状態や臨死状態は、霊が出ても霊線が繋がっている状態。


霊線が切れても人は存在する。

つまり肉体を離した霊性、精神体として。この2つは厳密には違うが一体でもある。

心と体のように。


自分の死を認識できない状態だと、いわゆる幽霊になる。大体葬儀の間も自分の死が分からないことが多いので、お棺のそばに死人を見る人が多いのだ。


自分の霊性、精神性が低いと死後も生前も、雑多としたものとそうでないものを見分けられない。生前とは違う感覚を得て寺社などに憑りつく霊もあり、守り神にすり替わっていることもよくある。ちょこまかするだけで害がない場合もあるが、最も大きい害は搾取、紊乱(びんらん)である。そういうところには無秩序が飛び交い、さらに人間を混沌とさせる。集落や宗教で時々紊乱がはびこるのはそのせいもある。



前時代の人間は死ぬ時に、ほとんど自分の死を認識していなかった。


死を直ぐ認識できるのは、よほど精神性が高いか、そのために準備してきた人間だけであった。死ぬための準備とは、もちろん後ろ向きな話ではない。


死に望む時への準備が必要だと、臨死体験者がそれを訴えっても前時代まで世界は冷たかった。


人は、この世界で認識している世界、似た世界しか、基本霊体でも認識できない。だから死ぬ前に世界の構造を把握していかなければならないのだ。


死後にお迎えが来るというのも、ある程度他人に貢献したりした自分なり、親、祖父母、同郷の人間などの功績がなければいけない。霊の基準が低いと、お互い迷い人でしかないからだ。



人、つまり「他者、他の世界との接点があるか」が重要になるからである。


自分の中に広い世界を持っているのか。他の世界とつながる世界観が自分にもあるのか。この世界で認識していない、感性を持っていない世界線には、死後にも行けないのである。存在が分からないのだから。


どこにでも行けるのは、無意識でもその人の中に『開けた心』があるからだ。



この世しかない、物質が全てだと考えている時点で足場は非常に小さくなる。


なぜなら最初に宇宙に行けるのは物体ではない。霊性だからだ。



人は精神性が開いていれば、想像以上に早く、前時代に飛ばした衛星よりも信号よりもずっと早く宇宙の先を見渡せる。そこで構造を理解して次に進むことが今現在の人類計画の1つでもある。


戦争をして足を引っ張り合っている時代は、足かせにしかならない。優秀な人間も物資も、時間も失う。


物質だけに頼っていては一歩進むのに、数十年、数百年、数光年、数万光年掛かる。

つまり、光の速度でも数万年、数億年掛かる。



だがそれは遠回りかもしれないと考えて見る。


今見るの次元とは全く別の世界かもしれないのだ。だから思考の構造自体を変えてみる。直線は理論上以外も本当に存在するのか。一見真っ直ぐに見えるその線の上を延々と歩いていくと、進んでいるのかも帰ってきているのかもだんだん分からなくなる。数理が正しいのか、感覚が正なのか。



でも、間違いなく言えるのは、霊は光よりもはるかに早く世界と次元を移動できる。人類がそれを知った時………現実世界も変わるのだ。


だから、科学と霊性は、本来表裏一体なのである。





「俺、会いに行けませんか?母にも聞いてはいるんですけれど。」

「あまり会わない方がいいと思うけど。」

「もう2回もあの状態を見ているし、逆にあのままの記憶で終わる方がショックです。」

「………」


サラサとしてはそれだけでない。

肉もだいぶ落ちていた。まだひどくはないが、このまま長引けば皮や骨が出てきて歩行もできなくなるだろう。ファクトは曽祖父や、叔父のそういう姿を見たことがあるというが、中年老年とこれからが人生の若者、女性ではまた思いも違ってくる。



でも、ファクトは弟だ。実は正確にはもう籍は違うのだが。


会わせてあげた方がいいのか……。

サラサは思いにふけった。




***




まだ寒い、でも気持ちのいい風の吹く昼。



「なんで会えないんだ!いるのは知っている!」

アンタレス校外、SR社第3ラボの入り口でごねているのはムギだった。


「だからね、お嬢ちゃん。アポもない。連絡も貰っていない、それだと入れないんだ。」

もう3人も警備の人間が集まっている。

「じゃあチコに聞け!チコは知ってるから!会えない理由があるのか?!」

ベガスがムギを放置しているので、直接乗り込んでしまったムギ。


「あんまり騒ぐと連行になるよ。」

「警察でも何でも呼べ!多分警察に知られたくないだろうからな!」

ムギは犯行の日、警察ではなく軍だけが動いたのを知っている。警察の車両はなかった。

「いったんウチで連行になる。」

「勝手に連行しろ!」


しかし、警備が手を出そうとすると、思わずねじ伏せてしまうムギ。

「はう?!」

驚いたもう1人も掛かってくるが、ムギはさっと飛んで前に倒す。

「うお!なんだ?!」

もう1人にも蹴りを入れようとしたが、おそらくニューロス体であった。

完全な反応差と力差で抑え込まれた。

「くっぅ。」


「驚いたな。」

「どうします。この子。」

警備員が迷っていると、ムギは膝をついて背中で捻られている状態から、身を縮込めてするっと抜け出し、さらに攻撃を加える。

「は?!」

「まさか?!!」

ニューロス体にムギの力は通じない。なので反動を与えるように押し蹴ろうとする。


という瞬間、玄関ドアが開きムギの脚をガツッと掴む存在が現れた。



「!」

また捻られるムギ。


頭で少しくくったストレートの長い銀髪を美しく揺らして現れたのは、モデルのようにすらっと伸びた背のスピカ。


秘書の高性能ニューロスアンドロイドである。



「こんにちは、ムギ。あなたのことは知っています。」

「…離せ。」

「皆さん、大丈夫です。この子は預かります。社長もご存じの子です。」

スピカは3人に向かって言った。警備員は礼をして持ち場に戻って行く。


「申し訳ありませんが、暴れましたので正式な入館証が出るまで、拘束させていただきます。規則なので他意はありません。」

後ろで手を拘束される。一瞬だった。ムギはここで動かない方がいいと判断し従うことにした。反撃を続けたのも、目立たないと相手にしてもらえないと思ったからだ。




***




「キファ、響先生とどうやって自撮り撮った訳?」


は?いつの話だと、メンチカツパンを食いながら思うキファ。聞いてくるイオニアにめんどそうな顔を返す。

「オバちゃん先生あきらめたんじゃないの?」

「まさか。あのくらいの方が神経遣わなくていいだろ。」

「………」

前向きなイオニアに返す言葉がない。


「チコさん、結婚前提でない付き合いは絶っっっ対させないって言ってたけど。かわいいベガスの子たちに。」

そう言えばそんなことも言っていたな…と思いだすイオニア。

「……。結婚すればいいじゃん?」

「は?」

何気ない顔をして言うので、驚きすぎる周囲。

「チコさんがらみや、ベガスやユラスの子は面倒そうだから関心ないと言っていたのはどいつだ。」

ジグマが口を出す。


「俺らみたいなのは、線が絡みまくってるから、結婚とかいう前に全部解かないといけないとか言ってたぞ。」

あれこれ性経験があるといろいろ絡みまくっているので、ベガスの子に絶対手を出すなと言われている。響はここでいう移民ではないが、チコがアンタレスの自称親らしい。


「チコさんが義父って言うのもすごくないか?ヤバいだろ。」

「…おもしろいかもよ。」

「エリスさんよりはよさそうだ…」

「そもそもチコさんはいくつなんだ。」

「年上だろ。さすがに。」

「見た感じでは分からないが、これだけ仕事してるってことは30は過ぎてるだろ。」


「……。」

チコの話は、今これ以上深めない方がいいと思う一同。



以前に言われたことだが、線の絡みをロマンチックな話に置き換えると、人間には赤い糸があり一人に一本しか結ばれない。結ばれた糸は繋がった上で枝分かれをして子孫に繋がっていく。


霊線の一種のようなものである。

そこを絡めてしまうと、切らないと解けない糸のようにめちゃくちゃになってしまうそうだ。二股、婚前交渉、不特定多数との性交、夫婦の不貞などによって家庭問題、直下に結ばれない子供、性病などが現実に現れるその一例である。

もし離婚に至った場合、本人が現実において、その糸を解く努力も非常に重要だ。


少年兵、過酷な労働に従事した者などの救援活動をしてきたVEGAは、彼らの霊性、精神を解く活動もたくさんしている。そのために霊性師やサイコスを使う者、男女含めた牧師たちがたくさんいるのだ。



そんなの見えないから言われてても困るけれど、アーツの中ではモアが一番ひどいらしい。


その話を聞いた時、めっちゃリアルだと思ったここにいる面々。


モアは二股や不倫はしなかったが、かなり付き合う女性を変えていた。モア自身も周知なのは分かっているので、大人メンバーの前で霊性の事例をあげられた時、過去を話されても開き直っていた。モアは生きてベガスを超えられるのかと思ったが、コソコソ隠れてあれこれされるより、分かり易くていいとベガス側に判断された。


カウスが過去、同僚に裏切られた話はみんなの心に染みまくっている。性関係は最も気を付けなければならない……。


それ以上ひどい人間はアーツに採用されていない。

大房大人メンバーはリアルを知っているがゆえに………リアルだ…。


タラセドやサルガスの彼女だった子は、ここを知る前にすでに別れていたのに、大房アストロアーツにまた追って来た。生き方を変えようとすると、残った反動で現状を留めようとする防止力が働くらしい。




「はあ。響さん好きすぎる…。」


ため息をつくイオニアに、まだ先延ばししているらしいが、響の見合いのことは黙っているべきか考えるキファであった。



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