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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第八章 河漢

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15 学校にて

全体を少し修正しています。



『勝手に学校辞めたバカ。バッシュ取りに来い!』


と、短いメッセージが入っている。もう時期的には春。

新学期に向けて中央区の元の学校の友達から、部室を整理しているから持ち物を取りに来いとあったのだ。



ファアクトは入館手続きをして高校の部室に行く。


バッシュは3足持っていたので、ベガスでバスケをする時もこっちの物は放置していた。誰かもらっといてと言っていたのに、「お前の足臭いバッシュなど誰も要らん」と言われた。なら処分してと伝えたら「高い物捨てさせるな。ボンボン」となり、しょうがなく取りに来たのだ。


正直、もう少し自分が確立するまで以前のものは断ちたかった。忙しかったのもあるが、だからあらゆるアプリにも入っていないのだ。




「ファクトく~ん。お久しぶり~!」


先にサッカー部につかまる。。

「あ、先輩。こんちは。卒業おめでとうございます。」

「何がおめでとうだ。勝手に転校したってどういうこと~。」

肩を組まれてサッカー部に連れ去られそうになる。


「すみません。バッシュ取りに行かないといけないので…」

「バスケ部なんてほっとけ。どうせヘルプ要員だろ。」

「こっちでもヘルプ要因でした…。」


いきなりじっと見てくる先輩。

「………」

「…お前、背が伸びたな…。」

「これで止めます。かわいいもの好きの友達に、これ以上伸びるなと言われました。かわいいを残しとけと。」

「は?誰だ?女か?お前に女の友達ができたのか?!」

「先輩の思っている状況ではありません。」

「はあ~。ムカつく!」

ファイ曰く。一定を超えると、男臭くなってイヤだそうだ。イヤがられているのに嫉妬されてるとは理不尽な。


顔をペチペチされながら歩いていると、バスケ部数名に遭遇する。


「ファクト~!!!!」

「なんだっ!なんだ!何なんだ!!!」

「なんだ~!お前いつそんなに大きくなったんだ!!!」

「これが久々に甥姪に会った叔父叔母の気持ちか~。」

「よう君も伸びたよね。」

何人かの友達も少し伸びている。

「もう一度転校してこい~!!!」

「カムバッ~ク!!Uターン!!」

頭を叩かれまくる。


「ダンクもできる。」

思わずピースで自慢してしまった。

「うお~~~!!」

「マジ帰ってこい!!!」

「来年度から先輩だからでかい顔できるぞーー!」

付近にいたバスケ部でもない人からも叩かれる。


「ファクト~!!」

「ファクト?!」

女子友達は少ないが、今教室から出てきた、イタチみたいなユリとちょっとおデブなヒノとは仲が良かった。

「おい!ファクト!元気してたか?!戻って来いよ!」

ヒノにも叩かれる。


「ちょっと!いっぱい荷物置いて行ったよね?私預かってんだけど!」

「そうだっけ?」

「ほんと、物に無頓着だよね!」

ユリはかわいらしい。この2人含む何人かは幼稚園小学校から一緒だ。

「これだから金持ちは。」

みんなに責められる。


「飯、食おうぜ!」

「バッシュ貰って帰る。」

「ふざけんな!薄情者!奢るから飯食ってけ!!」

思った以上に人が集まって来て、けっこう友達がいたのだなとファクトはびっくりした。呼ばれればいろいろヘルプに行く便利屋だったので、嫌われてはいないのだろう。


「心星君だって…」

「転校したんじゃないの?」

「えー。前と少し違うよー!ポケーとしてたのに。」


少し離れたところで、ギャルっぽい子たちもそんなことを言っている。といっても多少いい学校なので、リーブラのようなギャルはいないが。

リーブラは高校では超ミニでルーズを履いて髪も巻いてすごかった。スカートが短いのに足を組むので、姉さん困りますと言ったら、いちいちパンツなんか晒すわけがない言われた。ちなみに超ミニでも中にはインナーパンツというのを履いているらしいが、男としてはそういう問題ではない。

あの頃は小中学生だったが、この姉ちゃんには絶対に近付かない方がいいと思ったものだ。



その時ムギから着信があった。

「ちょっと待って。」


まだ盛り上がっているみんなから少し離れる。


「何?」

『ファクト!お前今どこにいる?!』

「前の学校だけど。」

『何してんだ?』

「荷物取りに来ただけ。」

『…お前黙ってただろ!!』

「は?」


『チコ、ケガしただろ!!』

「…。」


何で分かったんだ?


「なに?女の子?ケンカしてんの?」

友達のこの一声に、周りに人が寄ってくる。


「え?マジ?彼女?」

「お前そういうタイプじゃなかっただろ?!」

基本、ファクトは人に怒らない。ボケーとしているのも変わらない。

「ファクトが女子を怒らすのか?向こうが地雷なのか?!!」

「おーーー!!」

どよめきが起こる。


自慢じゃないが妄想CDチームの幹部候補なんだが。女の子とどうのこうの、そういうところまで陽キャではない。騒がないでほしい。


『おい!ファクト!聞いてんのか?!』

ムギがキレている。


「こんちはー!ファクトの友達でーす!」

「どこの学校ですか?!声かっこいいっすね!!」

「ファクトがなんかしたのー?浮気とかしないタイプだと思うよ~!」

「お会いしませんか~。」

みんなが一斉に邪魔をする。


『…。』

ムギが通話を切った。


はあ、なんかヤバい気がする。


「ごめん!今度また来るからさ。家族のことで用ができた!」

「は?親戚の子?」


ひとまずバッシュを取って来て玄関に向かう。

みんながうるさいので、丘の段差を利用して作ってあるこの学校の、体育館より下階の玄関に行くことにし、帽子とパーカのフードを深く被る。そして、周りを振り切って階段のある渡り廊下の吹き抜けに向かって飛んだ。3か所に目星をつけ、脚や骨折していない方の手を掛けて、一気に降りる。


「うお!」

「スゲー!!」

友達が上から驚いている。

「バイバーイ!」

手を振って逃げる。

「ファクトー!戻ってこーい!」

「マジでカムバックしろー!!!」




どうしよう…タクシーで帰るか…。と思って外に出ると、そこには幼馴染のラスがいた。


「……ファクト?」


自分と、ラスと、リゲル。ずっと研究所に一緒に出入りしていた友達だ。

こっちは工業生体科の玄関でもある。ラスの専攻だ。目が合って息をのむ。

「ラス…。」

何も言わずに藤湾に転校して、あとで報告に行って仲違いしたままだった。


「…何しに来たんだ?」

あまり歓迎されている感じではない。

「忘れ物取りに。」

「…」

沈黙が続くが、ラスが先に話を始めた。


「まだ、スポーツばかりしているのか?」

「そういう訳じゃないけど。」

「少しは周りの期待に反応してやれよ。」

期待に答えろとは言わない。でも、恵まれた環境をもう少し利用してニューロス科学の世界でも頑張れよという事だろう。ラスは、前からそう言っていた。


「あのVEGAとかいう人たちともまだ関わってんのか?あそこは、SR社のニューロス研究にあまり前向きでないんだ。親の業績を批判するようなところに行くなよ。」

少し反論したくなったが、言えないことが多すぎる。


チコは自分が機械化していることを表立って公表していないし、思った以上にあれこれ話があり過ぎて、ベガスとニューロスの関りが深いことも、どこまで話したらいいか分からない。ベガスはニューロス研究に批判的なのではない。事実、体の損傷の多い軍にメカニックやニューロス研究は欠かせないものとなっているし、ベガスにもチコの義体を管理できる施設があった。


ニューロス研究は、科学や医療だけでなく、国の情勢や存立、政治や経済とも直結しているのだ。

そして、人間の精神や肉体と関わる繊細な世界。良い悪いで語ることのできないものでもある。



多分、自分が知っていることさえ一部だろう。


きちんと話そう、言える部分だけでも、と思った時だった。




「ファクト!」


こんな時にタイミングが悪すぎる。ムギだ。


かなり怒った顔でバイクを寄せて飛び降りた。運転してきたヴァーゴがすまんという顔をしている。



ムギはラスに気が付かずに、ファクトの方に来て追及する。

「なんで重体だったて言わなかった?!」

「どうしてここが分かったんだ?」

玄関口まで正確に見つけるとは。


「お前に、管理GPSが付いてるだろ。」

一般には知られないGPSだ。チコの事件があってから付けられたから、変な場所に行けない。そういえば鞄ごと持ち込めばトイレの時間まで分かるのか?これ。


「調整しているだけだ…」

「もう、こんなに経つのに面会もできないのか?!」

「ムギ、学校であまりそういう話は…」

小さい声で言う。


「SRは何がしたいんだ?!!また調整という名の実験か?あいつら最低だな!」

ムギも小声に変えたが、近くにいたラスには聴こえた。


ラスは完全に嫌悪の目で見ていた。



「ムギ、違う。ここでは話せないから後で説明する。」

「何で言わなかった!!」


「!」

かたや、怒っていたと思ったムギの目が半分潤んでいる。


どうしたらいいのか。

多分、話すにしてもサラサに相談した方がいい。ヴァーゴはバイクから降りずに困ったように見守っている。


もしムギが、チコが死亡することも前提で周りが話を進めていることを知ったら、どうなるのだろう。会える前に亡くなってしまったらどうなるのだろう。

ユラスや信仰の強い人々は祈りたかったと思うに違いない。昔の旧教の本に、聖人たちの祈りのことが載っていた。その人の生死のために、人生のために、祈るのだ。彼らは。


普通の人でさえ、親や子、大切な人のために生きているうちに力を尽くしたりする。何日も知らされずに、生きているうちに生きてほしいが故の努力もできずに…


死だけ知らされたら。


突然残された人はどう思うのだろう。

ユラスやベガスはどうなるのだろう。


ムギのことだけでなく、この自治区域や共同宣言の均衡が崩れるのではないかと不安になった。



そして自分は?

あの脚をもがれた姿が最期になるのか?


今、まだ生きているのに見ることもできず。



「あの日何があったんだ?」

泣きそうなムギにファクトは何も答えない。答えていいか分からない。


「………」

「…。」


ムギの腕を両手で支えそうになって止める。

掴んではいけない気がした。


ムギは何も言わずに、ヴァーゴのバイクに戻った。

「どこ行く?」

ヴァーゴが心配そうに聞く。

「南海に帰る…。」


さっとバイクに跨るムギを確認し、ヴァーゴはファクトに手を振って戻って行った。少し見物人たちがいたが、顔しか知らない生徒たちなのでそのまま過ぎていく。


ラスは周りにいた他の学生に混ざってしまう。

「ラス、少し話がしたい。」

「いい、もう帰るから。」

「大事な話なんだ。」

「…。」

割り込むも手で振り払われてしまった。ラスは大房の面子もよく思っていない。


ラスの友人たちも少し戸惑っていたが、ラスが嫌がっていると感じたのだろう。

「悪い。俺ら用事あるから。」

と、数人で去っていった。



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