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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第八章 河漢

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14 命の居場所



ワズンが大きく2つに分け、指導をしていく。



「はー!情けない!!」

ここでファクトは重要なことに気が付く。

俺、骨折してんじゃん!


骨折ゆえに見学しかできない。

「教官!怪我してるんですけど、それで役立つ訓練ありませんか?!」

ワズンに聞いてみる。

「まだ大人しくしていろ。きれいに付かないぞ。」

「もうくっ付いてるし関節じゃないし、リハビリはするように言われています!」

「なら医者や療法士に聞いたリハビリをしていろ。」

「くそー!何もできない!あいつ今度会ったらぶちのめす!」


「…」

それが聴こえた一同が一斉にファクトを見る。


あいつ?


「……。」

あ、っと思って何でもない顔をするファクト。

みんな目を離さない。


「…自分を傷付けた床を擬人化してみました…。」

「…。」

余計な言い訳をするから、余計に怪しい。年長メンバーは今は話を広げない方がいいと何でもない顔をするが、シグマが寄ってくる。

「ファクト君。あとで面接しような。」

肩を叩かれて、苦い顔をするファクト。


ファクトが怪我をした日とチコがいなくなった日が一致する。

名目上、チコはSR社に行ってそのまま長期調整に入ったことになっているが、一部のメンバーは夜に帰っていることを知っている。確定の情報ではないが、ファクトがチコは夜に別途帰るから迎えに行かないと言っていたからだ。

もし帰って来ていたなら、実質見なくなったのはケガをしたとの同じ日、同じ頃である。一緒にいた可能性がある。



ワズンが場の雰囲気を変えた。

「全員、元の場に戻るように。Aチームが他を指導しろ!」


「イオニア、前に出てこい。」

「あ、はい!」

「今のところ、簡単に捕られるぞ。その形で腕を出したら逆に腕を折られる。」

そう言うと、同じく教官で入っていたフェクダに同じ型で攻撃する。フェクダがワズンの腕を受けながらそのまま曲げようとしたところで、ワズンは脚を持っていき腕をすり外し、一瞬でフェクダの腕をうつ伏せでねじ伏せた。

「実践ならここでこう折ればいい。」

と、腕を頭の方に押さえ上げていく。

「…。」

人の腕を折るなんて気持ち的にできそうになくて、誰も何も言わない。


「…良心があるからな。アンドロイドやメカだったら躊躇なくいけ。」

「………」

だから改革派が怒るのだ。人間の姿に近いニューロスの人権を考えないのかと。

「まあ、アンタレスでそんな状況はまずないだろう。それにこの状態なら大体の人は動けない。もしもの時はギリギリまで抑えてそのまま少し倒し急所を脚で蹴り上げろ。」

その真似をする。

「…。」

「そして、このまま後ろで拘束帯を掛ければいい。足も掛けとけ。元気なやつは脚だけでも反撃して逃げる。」

「…。」

そもそもメカをうつ伏せに抑えることができるかの問題が先である。人間でも自信がない。



そのまま訓練が再開する。


「君が、心星ファクトか?」

ワズンが情報を確認しに寄ってきた。

「はい。」

「取り敢えず、ABチームの指導をしっかり見ておけ。」

バシっと頭を叩かれる。

「返事は!」

「はい!」


「チョーかっこいいんだけど!今日ファイがいなくて残念!」

まだアホなことを言っているリーブラ。

「ファイはかわいい好きだからな。あーいうタイプは好きじゃないと思うぞ。」

確信するロー。


ワズンの体格はベガスにいる他のユラス兵の平均的だ。顔は柔らかい感じのカウスに比べ、それよりは精悍で引き締まった感じである。そこらにいる人より格好よくはあるだろう。

「あのね、どこに『かわいい』を感じるかはファイ次第だから!」

「は?意味が分からん。」

「全くかわいくないところに、かわいいを見出すのが愛なんだよ!」

いつも思うが、ファイとリーブラの言うことは全く分からない。



「フェクダきょうか~ん!ワズン教官は皆さんの同僚なんですか?」

フェクダが近くに来た時にリーブラが聴いてみる。

「…立場的には上司だな。直下じゃないが。」


「!」

この人が、カウスが語った『面白みもない普通の人』か!と悟るアーツ。コーヒーを買わせた上司!おもしろいかは分からないが、あの人は普通…なのか?!


「ワズン教官は強いんですか?」

クルバトは妄想グループ書記官として迫ってみる。

「んー。強いんじゃないかな?」

なんとなくな返事をする。

「カウスさんと比べてどうですか?」

「私たちやチコさんに格闘術を教えた一人ですからね…。今はどうなんだろ?」

「は?!」

近くにいたアーツが思わず聞き耳を立ててしまう。

「まあ、私よりは強いです。」

笑うフェクダ。


みんなの心は一致する。


はい。普通じゃない確定!




***




SR社第3ラボの奥、培養液に体の一部を沈めたチコの前に立つカストルとカウス。


その後ろにカストルの妻デネブと、交替で介護を受け持つユラス人の女性がいた。



あの事件から大分経っている。

カストルは強い眼を揺るがせずチコを見つめた。

「すぐに来れなくて申し訳なかった…。」

1回目の訪問も同じことを言っている。


「私こそ申し訳ありませんでした…」

カウスが顔も上げずに膝を折って跪き、社長シャプレーは淡々と説明する。

「体が拒絶反応を起こさない限りは、ひとまずは温存で進めています。先ほどのミーティングルームに移りましょう。10分後に来てください。」


みんなが調整室を出て行く中、カウスは動かない。

デネブがやさしく背中を叩いた。

「先に行くから…」



カウスだけが部屋に残る。


近くに置いてある椅子に座って、膝に肘をついてチコの方を見た。


ユラスや正堂教、それ以外のユラスの宗教も、貞操が非常に重んじられるため、普段は調整中も体を覆っている。全身は見えないが、おそらく手足はない。



人形のようだ。

命がどこにもないような姿。


暗めの部屋に色のついたライトが灯してあるのも、その一因かもしれない。そのため肌の本当の色が見えなかった。



額を押さえて祈るようになる。


お願いです…。死なないでください…。



スピカが呼びに来るまで、カウスは動くことができなかった。




***




SR社の会議室で、シャプレー、ファクトの母ミザル他数人が顔を合わせていた。



「それで2回目の分析の結果が出たのですが…。」

「…」

全員が言葉を待つ。


「やはり1回目と同じです。軍の特捜でも同じ結果が出ているそうで…。」


あの日、チコを襲撃した男の髪も繊維物質の埃も見付からなかった。

あの場に残っていた髪の多くは前時代かと思う古いもの。風が吹く外だからということもあるが、それ以外はチコとファクトのものしかなかった。


でも、チコの爪におそらく男の皮膚組織が付着していた。特捜にも提出したが、こちらにもサンプルがある。肌が弱いのかおそらく出していた顔にいくらか剥がれやすいところがあり、ほぼ死んでいた組織だがそこからどうにか情報が取れたのだ。


シャプレーは考えるように横を向く。

「…やはりそうなのか?」

「はい、間違いありません。」

「…。」


「チコ・ミルクと血縁です。」


「…。」

ミザルは崩れるようにため息を吐く。

「はー。こんなことがあっていいわけ?」

「チコがあの状態でラボ(ここ)に来たことと、連合国の知らない高性能サイボーグがいたことと同じぐらい衝撃だな。」

「10年以上付き合って、肉身が現れるなんて思ってもいなかった…。」


「前回の検査の通り、母親が一緒で父親が違います。そして、現連合国民数十億のサンプルにも二人の父親はありません。」


「母親は彼女で間違いないの?」

「はい。」

「困ったな…。」

頭を抱えるミザル。


「父親は3世代前のサンプルまでAIがさかのぼっていますが、まだ可能性の話ですら不明寮です。連合国外か、サンプルを採取できない地域の住民かと。ただ、以前社長が言っていたようにチコはバベッジの血が濃いです。バベッジが遺伝子情報をくれませんからね。」


「ユラス軍と東アジア軍はこの情報を共有しているのか?」

「おそらくベガス駐在に限って。」

「これは、私たちが関与する問題ではありません。」

別の男も困った顔をしている。


「そうだね。研究所の関わる話ではない。でも、知ってしまったら話は別だから。」

「警察や公安局は?」

「チコの怪我の件は公安も知りませんよ。他所属の高性能サイボーグが現れたことしか。」

「中央政府の決定を待つしかないな。政府要人も頭の悪い奴にはあれこれ伝えるな。見物にでも来られたら虫唾が走る。」

「それは政府に言ってもらわないと。」

「見世物にするわけないでしょ。ここには入れませんよ。」


「ひとまず外には漏れないように。」

聴き役だったシャプレーはそれだけ言った。



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