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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第八章 河漢
15/110

13 昇進する



その次の日の午前。


南海の施設裏の階段に、モンペ農作業状態のオバちゃんが現れる。

「グローブよし!

養生テープよし!

色よし!

全箇所目張りよし!

袋よし!

脚立よし!」

もう一度いそいそと全身を見渡す。


「脚立の安定よし!」

何か作業をするのかと思いきや、しゃがみ込んでいろいろ確認する。

「えっと、一応殺虫剤に、毒の吸引キット、虫網に…」


そして、物を持っているので不格好に脚立を登る。

「………」

し、信じられない!

ここでオバちゃんは気が付く。目的の蜂の巣に全く届いていない。


あれ?おかしい。見た目と感覚が全然違う。一番上に立ってあれこれするのは怖すぎる。そうか、脚立は伸ばして階段か壁に立てかければいいんだ!

と、考えまたガチャガチャさせながら脚立を開き安定しそうなところに立て変えて固定する。



「あれ、上る気かな?」

少し後ろで、ヤンキー座りで見ているのはキファ。

「さあ…。あれはアシナガバチの巣だな。」

連れてきたタラゼドも隣で見物している。

「あそこに立て掛けても、今度は横の幅が届いていないのに…。しかもこの季節、蜂なんていないだろ。」

「まあ、最近はいることもあるし、女王蜂は冬もいる。だいたい大丈夫だが。」

「ハチいないなら、ラジコン系で取っちゃえばよくない?」



少し脚立に上って、響は右手を出すが全く届いていない。

ウソ!と心で叫ぶ。


「ハチ獲りのオバさん。危ないすよ。」

その時下から声が掛かる。

「おばさん?!」

ハチ獲りオバさん響が下を向くと、脚立を押さえて呆れているタラゼドがいた。

「…。うわ!」

「先生、おはようございます。」

キファもオッスとポーズを取る。


苦々しい顔をして降りてくる響。

「…最悪…」

蜂の作業は基本黒色以外。白系にするがズボンだけなかったのでグレーだ。服の隙間に入らないようにする目張りの養生テープも凸凹に貼ってある。


「この季節、さすがに幼虫はいないな。幼虫いなくても素材になるのか?」

「…。」

響がとぼとぼ降りる終わると、タラゼドが脚立を折って上に上り、虫網でガツッと外し取って網の入り口を塞ぎながら下り、あっという間に袋に入れてしまう。


「はい。」

袋を渡されて受け取ったものの、立ち尽くす響。

「………」


「ひどい!」

脚立の折り曲げも含めて30秒もかからなかったことに憤慨する響。

「代金は支払わないからね!私が獲ろうと思ったのに!」

「別にいらない。」

「…それにオバさんて何!?」

「農家のおばさんみたい。」

「若者だって農家するでしょ!」

「格好の話だよ。」

「えい!」

タラゼドに蹴りを入れる響。全然痛くないけれど。


「重いとか!おばさんとか!そんなに私ひどい?!!」

地雷を踏んでしまった。ただ、オバさんみたいな格好だなーと思っただけだ。ただそれだけだ。今日日(きょうび)、おばさんもそんな恰好で農家はしないが。


「それにあなたたちストーカーじゃない!なんで場所分かったの!!」

「見せてくれた写真に標識入ってたから。」

キファが言う。アーツを舐めてはいけない。そういう訓練もなぜかしている。なぜか。

「何でそんなんで分かるの?!変態じゃん!」

「変態って、響先生もひどい…。」

キファ、心外である。

「私が来る時間は?」

「研究室にスケジュールあったから、明日とか言ってたならこの時間かなーと。」

「アーツ変態しかいないじゃん!」


「夏は日が暮れてからでいいぞ。アシナガバチは。」

タラゼドがアドバイスする。

「春夏は自分で取りません!あなたたちは暇人ですか!」


「響先生こそ、暇そうじゃん。いつも虫取りして。」

キファは思う。教授でも正式な医者でも漢方医でも薬剤師でもない半学生なのに、なぜ研究室を持っている。しかもベガスの医学部と自然科学部の間にあるとは。趣味を謳歌しているようにしか思えない。

「もっと小難しいことしなくていいの?」

「秘密です!」


「…あ、先生!記念写真撮ろ!」

全体的に淡色の服をまとって、ハチの巣を持ち防護帽を被ったワタワタモコモコモンペのオバちゃんが1枚。

「ちょ!消しなさい!」

「大丈夫。イオニアにしか送らないから。この姿を見たら幻滅して諦めてくれるよ。」

そうなの?という顔の響。

「でも、先の言い分は農家に失礼だよ。疲れてオシャレだってできないこともあるんだよ!」

「ハイハイ!一緒に自撮りしよ!はい、先生ピース!」

思わずキファと一緒にピースしてしまう響。

「ねえ!変な顔に写ってない?」

「顔の網で隠れているからはっきり見えない。」

「網はナイスだね!見にくいのはいい感じ。でもちょっと不細工。撮り直す?」

なぜか、二人で気が済むまで自撮りをしている。


自撮り自体もあきれるが、幻滅してほしいのに自分の顔が変に写るのはイヤなのか。女は難しい。脚立の横に腰を掛け呆れているタラゼドだった。




***




サラサ、サルガスやタウ、ベガスの代表者たちは、スラム河漢(かかん)復興の第一構想を修正していた。

ここでベガス南海側の案をまとめてから、河漢や移民の代表者との話し合いの場を持ち、その後全体プレゼンに入る。


その場にいて、説明を聴き入っていたイオニアに着信が届く。

キファからなので、頬杖をついたまま気だるそうに開いた。


『農家のおばさん』

と名して、誰か分からないが何かを持ってボケーと立っている全身写真が届く。

「あいつ何やってんだ?」

「何々?」

小声でシグマものぞく。

「宇宙人?」

何だこれは、としか言えない。


それからよく分からないツーショット自撮りが届く。

『麗しい今日の響先生』


「…。」

言葉のない二人。


「お前ら話進めていいのかー!?」

サルガスが二人に呼びかける。

「…。あ、はい。」

顔は真顔だが、変な気分になるしかない二人であった。


こんな写真送られてどうしろというのだ。




***




「…は?なんで俺が一般人の訓練に付き合うんだ?」


先週ベガスに来たワズンは目を丸くした。


「マリアスが卒入学や春休みの時期は子供で忙しいし、カウスはいないし。メインで教えていた面子が外に出てしまったので、誰か来いとアーツから要望が来ています。」

サラサが言う。

「…カウスが訓練を付けたのか?!」

「1週間に1、2回ぐらいです。主に一般向け仕様の護身術とかですから。」

「…俺も忙しいだろ。というか、いいのか?」

一度考える。

「……何考えてるんだ。」

ユラスの軍規としてはギリギリだ。


サラサとしてはベガスに就任する以上、ワズンもアーツと顔を合わせておいた方がいいと思ったからだ。アーツは警察も存在を認識している。ここは2つの軍と、特殊警察という3つの武装機関がある。全体を見て、雰囲気を知った方がいい。アーツも一応、銃器取り扱い資格者が複数人いる組織なのだ。




午後6時、スタジオで1時間半の訓練に入る。

アーツ2弾だけでなく1弾もいる。今日はハウメアも聞きつけて飛んできた。


「…という訳で、しばらくベガスにいます、ワズン・アクベンスと言います。」

最前にいるファクトたちは気が付く。短髪黒髪、青掛かった目にカウスよりは低いほどの長身。

この前のおじさんじゃん!


お見舞いに来ていた人だ。サルガスたちも気が付いた。

ワズンもファクトに気が付いて、少し顔を緩めるのでコクっと礼を返す。他に知っている教官が二人補助に入っていた。




「え?おじさん?お兄さん?おじさんかもしれないけど、カッコいいんだけど!」

リーブラが婚活モードに入っている。後は未婚かの確認だ。

「リーブラとは絶対見合いもしないタイプだな。」

隣りのローが一言多い。


「だいたい同じ出来で別れよう。」

今までのチーム分けはアーツ初頭に運動神経で分けたものだ。タウが指示をして、いつものABCD…チームに分かれてから、さらに分けていく。


「シャム、ファクト、リゲル、シャウラはB班に入れ。…クルバトも。」

「俺も?!」

妄想CDチームの書記官として、Cを守りたかったクルバト。

「ジェイ、タイ、アギスもC2に。」

「ええ!!」

Bに入ることは永遠にないだろうが、Dチームの気楽さを失いたくない者として、少し落胆するジェイ。

「すごいじゃん!」

と、目でお祝いするラムダ。

ジェイはDにいたいのだ。こうなったら、ラムダもさっさとCに来い。


「第2弾も格闘技経験者は全員BとCの間に。」

タウが第2弾も移動させる。

お?ということは、また実質Dチーム?と安心するジェイたち。Bからも何人かAに移った。

「全体訓練の時はこれで行く。」

取り敢えずこれで落ち着いた。



アーツ内で上位寄りの中ほどの強さのモアやタチアナが出てきて合わせ稽古をする。

その後、指示を受けてAチーム班長のタウとハウメアが組んだ。


その振りを見ておもしろいな、と思うワズン。

「けっこういいな。」

「もともと持っていた武術か、空手やテコンドーをベースに、合うものを合わせています。」

「ふーん。お前らは言うことないな。指導もできるんじゃないか。」

タウとハウメアは、一般人の域なら十分と判断。

「経験者やABチームを指導するには足りません。」

それでもハウメアはまだ不足に感じている。


データを見てハウメアは軍にほしいくらいだと思う。指導力や安定性もある。



時代の変わり目になって、軍にもっと女性が必要だと感じるようになった。これは上の人間の問題でもあるが、結局男が指揮する統治は戦争が終わらない。


ユラス軍に融和姿勢を見せたのも、実は東アジア軍の女性たちが最初だった。その中の女性兵にマリアスや、カウスの妻エルライも入る。当時の指揮官にも女性がいた。


実はサラサも、東アジア軍のユラス地域中心の中央大陸元諜報員であった。ただの団体職員ではない。戦闘要員ではないが黒帯の実力はある。ベガス滞在の一部ユラス軍人には身元を明るくしているため、ユラスをよく知る者として信頼されていた。



戦争のある国で、平和の共同構築という夢物語だった物を現実に動かした最初は女性たちだ。

そして、軟弱だ、危険だ、無駄だ、と非難されながらそれを支えた男性たちが実現していった。


それができたのも、戦闘能力が格段に高い部隊がベガス計画に一致したからだ。



今の多くの人間は、今の認識、常識が世界の全てだと思っている。


だが本当は、世界はもっと自由で、もっと可能性を秘めている。



神が当初に計画した世界は、今広がる世界とは全く別のものだったのだ。



評価は今ではない。


50年後、百年後、千年後の人々がしていくのだ。




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