103 4代前に
みんな、一通り食べて、それぞれまたドリンクを頼む。
そこで、ファイが先気になったことを聞いてみた。
「あの。先の身を繋げたらって話だけど、それって、無理やり…。誰かに無理やり相手にされた場合も繋がるの?」
急なファイ言葉に、誰もが一瞬沈黙する。ファイは少しだけ下を向いて力なくなる。
みんなから和やかな雰囲気が消え、誰から話すか顔を見合わせると、シンシーが口を開く。
「……ファイ?誰かにそうされたことがあるの?」
「…違うけど。それでもリーブラは、ちゃんとお互い気持ちはあった訳だし、リーブラ自身を良く思ってくれる人だったんでしょ?まだいいと思うけど?」
「高校のあんな疑似恋愛なんて、本当の心がどこにあるかなんて分かんないよ。」
「だからって暴力とかされてないよね?いい人だよ。」
そこまで聴いて、シンシーが間に入る。
「ねえ、ファイ。何かあったの?」
「ないよ。ただ、納得できないだけ。」
「…本当?」
「うん。」
「ほんとだね?」
「…うん。ただ、そういう経験がある人に取ってはイヤな言葉じゃない?…思って。」
友達たちが説明する。
「犯罪とか道理に合わないことは、そういう意味で「繋がる」とかいう言葉は使わないよ。歪めるとか捻じれさせるとか言うかな。」
「それにそういうことをした人間には、何かしらの形で絶対に消えない痕跡が残るからね。対等には絶対にならないから。…本当に何もない?」
「……大房だけじゃないけれど、そういう知り合いはいるし…。」
ファイは下を向いたままである。ソアとリーブラはミラの施設に入った知り合いを思い出す。ファイの言う該当者は知り合いだけでも数人いる。家庭内暴力や性暴力にあった友人たち。
響が乗り出し、ファイをじっと眺めて、頬に手を当て目を合わせさせて言った。
「ファイ。VEGAはそういう事も専門でしているから、知っていることがあれば何でも言っていいから。私でも女性スタッフや牧師夫人に相談しなさい。」
「…うん。折角のお祝いの時にごめんね…。」
「それは関係ないから。」
半分雰囲気を変える感じで、少しエキゾチックな感じの友達ソリアスが話を始める。
「……私、調べたんだけどさ。」
ノートを出して漢字で『大房』と書き、その周りにどんどん他の漢字や数字など書いていく。
「霊性時代が来てそれが学校教育に取り入れられた時にさ、大房は反対派もすごかったの。政教分離に反するとかさ、カルトだとか。知ってる?」
歴史や霊性の授業で習うはずが、大房民は知らない。
アーツの試用期間にも霊性訓練でアンタレスの歴史は初期に習ったはずだが、その頃はなんでこんなブードキャンプするんだ!眠いわ!状態だったし、そこに全然気持ちがいかなかったので覚えていない。とくにファイは。
「でもさ、実際見えるわけよ光や霊が。今の時代はサイコスも一般化しちゃったし。
だから宗教とか以前に事実なわけ。ただそれをコントロールできるのが、これまでそういう分野を開拓してきた宗教総師会の人たちが強かったの。
あと、結局アンタレスでも宇宙学、メカニックや生体分野までエリート層にもそういう力が一気に広がっていって、反対派はもう国に反対するしかない。でも、敵わないでしょ?そうすると、そういう層は今度どこで活動すると思う?」
「…さあ?」
ハテナなファイ。
「…高所得層の反対だとしたら低所得層?」
リーブラが考えながら言う。珍しくファイより冴えているのだ。
「だいたい合ってる。でも、学校改革だからあまりに低所得層でも遠回り。上寄りの中間層はエリートに寄ってしまう。だから中間層と、低所得層の間に入った………。人数では負けないし。」
「…大房の事?」
「そう。」
「ただ当時、霊性を様々な宗師が集まる宗教総師会がリードしたんだけど、過去戦争を起こし、搾取や不貞を繰り返し腐敗した宗教に何が出来る!って、全部一括りにされて攻撃がすごくてね。科学経済や教育界が腐敗しても隠蔽なのに、宗教はすごく叩かれたの。大房でも話し合いすらできないほど嫌悪がすごかったみたい。
もともと宗教性も弱いし、教育も今一つで、雇われ感が強くて熱心な教師も少なかったから…。つまり学校がテキトウなんだけど、それをもっと曖昧にした…。
その時代がみんなの祖父母世代で、おかげでその教育にドンピシャ当たったのが親世代なの。大房だけじゃないけどね。」
つまり、新時代を切り開いた開拓者の曽祖父母世代を受け継がず、一部の祖父母たちが外から来た反対派と反対運動を頑張ってしまったので、霊性教育がすっからかんなのだ。ただ、大房に底辺学校が多いというだけではない。大雑把に言えば、一般、中間層やエリートが、霊世時代に疑問があるにしても自分たちで疑問も確かめようと新しいことを追求し頑張っているうちに、大房のような層の学校は、寝場所やただの学生のたまり場となったのである。もちろん全ての学校、全ての現場がそうではないが、全体的にそういう傾向が強い。
「だから大房は、精神性の……正しくは霊性とか神性って言うんだけど、その代が遅れているんだよね。発展の。…………他に言いたいこともあったんだけど、…何を話したかったんだっけ?忘れちゃった。思ったより込み入った事情がありそうで、あれこれ考えててたら楽しくて。」
アハハと笑う。
反面、蛍惑は全アジアの中でも霊性基準が非常に高い。
次にアンタレスの倉鍵近辺でSR社のある場所だ。
ただ、今、ベガスが注目を集め始めている。
そして、霊性教育を最初にガッツリ取り入れた蛍惑は、巨大企業はなくとも、中間層以下がほとんどなく、国連の経済富裕地域指数トップにいる。
詳しそうな2人が交互に話を進める。
「大房は宗教性も薄いし個人主義も強いから自由と言えば自由だけど、その分他のものも失ってしまっている。でも、やたら見えるだけの力を付けるよりいいけどね。
気持ちが成長しないまま、サイコスや霊性が広がるのも危ないし。ある意味よかったとも言えるかな。」
「神性や正統的宗教性が弱いと、ちょっとおかしいのと正道性のあるものの区別がつかなくなるの。本当は個人で判別ができる事なんだけど、倫理や道徳性が抜けたまま力だけ持つのは、幼い子が銃を持つのと同じくらい危険でもあるから。
だから聖典にあるように、最初に神は全てを閉ざしてしまったんだよ。
宇宙も、科学も。発展も。
本当の宗教は、鍛錬はあるけれど、精神の自由を束縛しないし、不貞もしないし牧師や祭司からの祝福を与える前の婚前交渉はさせない。子供の供え物もないし、他人や他宗教をむやみに排除しないよ。」
「じゃあ、私たちはいろいろとだめな世代なのかな?」
そういうことをした、親祖父母世代に育てられている。
ファイが不安そうに聞くと、ソリアスがサーとノートに線を引き、いくつかの数字を指して答えた。
「それで…、4代前に戻って行くわけ。」
「?」
「4代前はけっこう頑張ったんだよ。子供たちにいい教育をしようって。それを次の代で潰してしまうんだけどね。子にも孫にも届かなかったから、多分曽孫に繋げようとしてるんだと思う。」
もう1人の蛍惑女子もノートの文字を見て頷き、指で線をなぞる。
「なるほど…。で、ここにベガスが入って来たわけね。なんでだろ?どういう繋がりかな?何かしら『縁』がないとここまでにならないと思うけれど。」
何も縁がなければ、ユラスの中核が入ってきたベガスと、底辺大房では本来点で交差する部分はない。少なくともこの時点で。
蛍惑女子は、なまじ霊性敏感な分、考えてしまう。
繋がりが分からない。大房と蛍惑ですらそうだ。
「…ファクトかな。」
ファイがぼそっと言う。




