102 未来に捧げて
そこに、着信が入りシンシーが席を立つ。
「ちょっと待っててね。」
「ねえ、ソアお姉様は写真持ってないんですか?この辺歳が近いんでしょ?」
「ないない。」
友達の目がキラキラしている。
「あ!ソアお姉様も映っていますよ!」
動画が他のところに移行すると、大房繋がりでソアが出て来た。え?と、ソアが覗くと8年も前で、チアのユニフォームで踊っているソアがいる。ただのダンスでなくバスケの試合に呼ばれた時ので、パルクール勢と友達だったソアたちは、チア顔負けの大技を連発している。
「うそ!やめて!!!」
「あ!こっちがイータで…パイもいるよ。この時一緒だったっけ?」
慌てるソアと、パイに反応するロディアなのだが、リーブラが勘違いをする。
「ロディアさん、昔のソアやイータ見たい?こういうの見たことないでしょ?」
実は少し前に検索してたくさん見ました…と恥ずかしくて言えないロディアは無言で頷く。
「すっごーい!こんな回転とかできるんだ!!」
「こんなすっごい衣装着るんですね!ウチの高校と大違いだわ!」
「これを着れるスタイルっていうのが凄い!」
蛍惑友達勢は大盛り上がりなのだが、あなたたちの方が凄いと下町女子は思う。
「もうやめよう…。」
ソアがダメージを食らい過ぎている。若い頃の自分を見るのはまだ恥ずかしい年齢なのだ。当時、本物のチアチームの間で3分だけもらったので、スタイルや顔では敵わないとド派手にやったのだ。本物のチアにスタイルでも見た目が勝てるのはパイぐらいだろう。ただ、パイは大技はできない。
そこにシンシーが旦那を連れてやって来た。
「みんな!ウチのダーリンだよー!」
「こんばんはー!ごちそうになります!!」
「リーバスさん、サイコー!!」
少し酔った蛍惑女子が騒いでいる。
「ああ、こんばんは。響さん合格おめでとうございます。えーと、それからいくつか資格に受かったのは…。」
「私です。リーブラと言います。今日はありがとうございます!」
立ち上がると、シンシー夫は初めて会う顔に握手をして回った。今日はシンシー夫の奢りなのである。少し雑談をして「女性たちでごゆっくり」と、去って行く。
そこでベガス女子は意外だと目を丸くする。悪くはないが、シンシーの派手さに比べ夫はシンシーより背も微妙に高いぐらい。ヒールがあるとシンシーの方が高い。少し太めで良くも悪くも普通顔だ。物腰も柔らかで、にこやかながらキレのあるリーオの兄とは思えない。
「あの、シンシーお姉様?失礼ですが、思ったよりも大人し目な方ですね。」
リーブラが率直に聞く。
「お姉様、ガツガツいく系なので、男もガツガツ選んでいるのかと思いました。面食いじゃないんですね!」
「なあに?ダーリンの悪口言わないでよ~。
一応会社をまとめてるからそれなりにガツガツしてるよ。それに、私が選んだんじゃないもの。」
「え?お姉様が狩りに行ったんじゃないんですか?!」
何の話だ、やめなさいとソアがリーブラを引っ張るが、シンシーは答えてくれる。
「父と牧師夫婦が選んでくれたんだよ。」
「そうそう、シンシーはね、シンシーを自由にさせてくれる男性が一番いいって。ウチらの旦那も親戚や親同士や牧師さんの紹介だよねー。」
「え?そうなの?」
「じゃあ、ソアお姉様たちは?そうじゃないの?」
「ウチらは…、時々牧師たちの紹介ってのもあるけれど、殆ど付き合って決めるかな?親はあんまりないな…。近所のおばちゃんとかはあるけれど。」
ロディアは横で聴きながら、ヴェネレ人も好き合って結婚する人はそれなりにいるが、紹介結婚が普通なので、こんなにも感覚が違うのかと改めてサルガスとの感覚の違いを認識する。
「ねえ、もしかしてリーブラちゃん何人かと付き合っていたの?処女じゃないの?」
いきなり蛍惑女子勢が深刻な顔をし出すので、慌ててリーブラは顔を横に振る。
「処女です!」
と、少し大きな声で言ってしまったので、一瞬シーンとしてみんな周りを見渡し、誰もこっちに注目してないことを確認して突然女子たちは小声に切り替え勢いを増す。いい店なので、席が離れているのだ。
ファイが「えー?」という顔で見る。
「リーブラあんた付き合ってだじゃん。あの派手なのと!」
高校は別の学校でも、アストロアーツ繋がりで知っている。なにせ、リーブラは顔の知れたウエイターである。
「あのねえ、高校の時で、私も純粋な少女漫画に憧れていたような時期なの!手をつなぐだけで大満足でした!口のキスもしていません!東アジアの女子はそんなんです!」
「マジ?」
マジかはどうか分からないが、そういう女子も多いのは確かだ。
「向こうが腰に手を回して来たら、なんか気分が冷めてそれで終わった…。」
驚愕のソアとファイである。
その時まで恋に恋したリーブラは、なんで人生のこんなしょっぱなに、高校で終わりそうな恋愛のために大切なものをこの男にあげてしまうのかと、いきなり冷静になったそうだ。バイトもしていて周りに年上の多かったリーブラは、ただしたいだけだったり、今だけ見ている恋愛脳より、仕事やしたいことを未来を見据えて頑張る人がカッコいしと思ったのだ。自分も恋愛脳だったのに、なぜかいきなり。
よく乗り越えたと、拍手の起こるテーブル。
「もしかしてお姉様もないんですか?」
リーブラが蛍惑未婚2人に聴く。
「ないよ。付き合ったこともない。お見合いはしたけど。」
「仕事が楽しすぎて紹介も受けてない。」
「ウチらも旦那が最初の人だよー。」
さらに驚愕のソアとファイ。こんなガツガツしてそうなお姉様たちが!?実際ウチらよりガツガツしてるし!と、驚くしかない。さすが古くて堅実、信仰の綱領の地、蛍惑である。
「当たり前だよ!ダメだよ!」
「リーブラ!このまま結婚まで身を守りなさい!」
なぜか初めて会った蛍惑女子たちにも誓わさせられる。あまりにもの迫力のため、頷くしかない。
そこで、ママの蛍惑女子が口を開く。
「ほら。私たちってけっこう霊線が見えるから、絡まったら怖いって知ってるし。身を繋ぐと霊も繋がれるからね。」
「蛍惑はとくにそういう感性が強いから。」
「リーブラは家族仲がほどほどにいいでしょ。曽おばあちゃんだね。守ってくれたの。」
確かにリーブラは、心の底から思いを分かち合うほどの家族仲でがないが、帰ればみんなで食卓を囲うし、買い物も祖母や母親とよく行く。時々父にも買い物をつき合わさせるし、曽おばあちゃんとは小学校の頃までよく近所のモーニングに歩いて行っていた。
「大房って全体的に自分から数えて4代前に縁があるんだよね。この土地。」
先のスポーツメーカーのビデオの後ろに移る街を見ながら、友達の一人ソリアスが言う。
「3代目で現れなかったものが、ベガスと繋がったから、ここで一気に運気が変わってるし。」
ちょっとよく分からないが、チコやエリスみたいに何か見ているのだろう。
下町女子は初めて、蛍惑ペトロはやはりすごいミッション系なんだと感じさせる。
響にも力があるように、こんなイケイケのお姉さんたちでも霊世界が見えるのだ。
下町ズは不思議な気分で聞いていた。




