101 蛍惑女子の集い
一方、麗しの女子チーム。
もう、こちらは服装からして違う女子会である。スマートカジュアルに、中央区日暈の高層ビルの上階でアジアン料理のフルコースである。無駄にお洒落なお店で、明るすぎず暗すぎず。椅子もソファーやクッションと籐細工がバランスよく配置されている。
今日の面々は、アンタレスのミッションスクールを超えると言われる蛍惑ペトロ女子が6人。箱入り娘のロディア。リーブラとファイ、そしてベイドの妻のソア。
蛍惑ペトロ女子の内訳は、シンシーにその友達4人。そして響である。
「じゃあ、響の薬剤師、漢方薬剤師の合格。そしてリーブラの講習卒業を祝って…
かんぱーーーい!!!!」
シンシーの乾杯でみんな小さな切子のグラスを掲げ、杏子の食前酒を口にする。リーブラたちはずっとアルコールを飲んでいないので、度数の低い物にしてもらった。ソアはリーダーであるうちは願掛けで暫く控えたいと梅ジュースに。
「響、おめでとう!このまま東医師の資格までかんばっちゃえば?」
「そうだね。少し考える…。」
「もったいないよ。灸や鍼も分かるのに。」
響は子供の頃から近所の古びた漢方院に入り浸り。メインを息子に任せた若隠居のご夫婦に教えてもらっていたのでいろいろ知っているのである。でも、そうするとあと少しで終わるのに、またインターンをしなくてはいけないのだ。
そこでシンシーが場を仕切り、改めて友達を紹介する。
「先、名前だけ紹介したけど、みんな学校の頃の同級生。」
シンシーもアジアの正統派美女だが、その友達たちもなかなかお美しい。お肌も服もメイクも全部きれいで、初めて見た時どこの女性ファッション誌だ!と思ってしまうほどであった。髪も、ただの食事のために美容院でセットしたんかい!という艶やかさ。内2人は子供がいて、片方は既に二子もいる。
そして大手企業や連合国公務員の娘たちで、1人はシンシーより大企業だ。1人だけ普通のお寺の子らしい。彼女たちよりソアの方が学年は一歳上だ。
確かにこの中にいれば、響はそこまで目立たないのかもしれない。
何せ響以外の蛍惑チーム。迫力が違う。オーラが違う。
ロディアなどは、初めて見た時「あの人たちと食事をするの?」と怯えた目で訴え、逃げそうな勢いであった。ソアさえもビビる程だったので、大房にビビり蛍惑女子にビビり、ロディアの心臓は持つのだろうかとみんな心配になる。
ソアは、アーツの事務していると自分を紹介。アーツには第2弾で入って来たが1弾にもぼちぼち参加していたし、年齢的にも精神的にもお姉さんである。リーブラとファイは聴かれた年齢を言うと、数歳しか違わないのに「わっか~い!!!」と、それだけでお姉さま方は大盛り上りである。ロディアは一番オドオドして一番年長なのにと恥ずかしくなるが、先生をしていて響の隣に住んでいると自分を紹介した。
「響と同じ先生なんですね。うちの子、良くしてあげてください!」
と、明るいお姉さまたちである。
「で、リーオが待ってるんだけど?」
いきなり核心に迫るシンシー。仕事が素早過ぎる。まだオードブルである。
「リーオさんは待っていません!」
響が怒る。
「シンシーが私を親戚にしたいだけでしょ?!ニナやシーブルも結婚してないから!」
と他の二人を指す。
「えー。私は蛍惑に残れる人じゃないとだめだし。」
「響の事が気に入っている人はイヤ。」
「だから、気に入ってないってば!」
「…気に入られていると思う…。」
響さんはアホなの?という顔でファイが見る。
「でっしょー!ファイ!」
「どっちにしても、生活が合わなさすぎるのでイヤです。」
ちょいオコの響である。
「ねえねえ。で、そっちで響の事を気に入っている男子の写真を見せて!」
友達たちがファイに群がる。
「えー写真なんてないよ。あいつら写真なんか撮らないどころか、集合写真も撮る前に勝手に解散するし。」
「えー?ホントはそんな男、いないでしょ?」
「ちょっと!ロディアさんやソアが引いてるでしょ!その話やめなさい!」
響が見ると、ソアがめっちゃ引いている。しかし理由は違う。あんな奴らを見たいのか。ただの大房下町ズである。もしかして藤湾大学があるので、ついでにアーツも優秀に見えているのだろうか。
写真がないので、しょうがなくまた動画やSNSを見せるリーブラ。
「シンシー姉さんはこの前こっちを見たから、このバージョンね。」
この前と違うスポーツメーカーの夏仕様のイメージビデオである。
すると大騒ぎの蛍惑女子。
「うそ!何これ!超筋肉ある!!」
「ちょ!これはヤバい!!!」
「おー!これここまで飛ぶのCGなの??ニンジャ?」
この反応に呆然とする女子下町ズ。ミッション蛍惑女子も「ヤバい」とか言うのか。
「この中では、この人とこの人。」
リーブラがイオニアやキファを指す。
「えッ?!この中で2人も??やばいっしょ!!」
キャーキャー大騒ぎで、居た堪れなくなる響に、なんだかソアも恥ずかしい。ロディアはこの人たちの勢いに、既に反応ができない。
「てゆーか顔、あんまり見えないんだけど。」
「靴を見せるCMだし。タレントじゃないからね。」
「ねえ、もうやめよ…。」
響の言葉に誰も引かない。
「せめて、顔を見せなさいよ!」
顔の写った写真を持っているが、餌食になりそうなので黙っているソアである。
「ティガならあるけど?」
ファイが言うが、響が驚く。
「ティガ君は違うでしょ!!ティガ君は畑仕事してる時によく来て、なんか一人で笑ってどっか行っちゃうだけだよ!」
「ティガは、響沼にハマる前に、チコさんを思い出すと気分が萎えるのでそれで制御するとか言ってた。でもツボにはハマってしまってはいるらしい。本当に飴をくれるからおもしろすぎると…。」
何でも知っているファイなのだ。
「何それ?」
友達の一人が疑問がるので、響が答える。
「知らないよ!暑い日だったから、塩レモン飴あげただけなのにそう言ったの!」
ああ。大房のオバちゃんね。観光バスに飴ちゃんと漬物は欠かせないという…とソアは理解する。ソアは、ティガも注意人物かと一応脳内チェックをしておく。
「響、アンタレスでも畑仕事なんてしてるの?」
「リーブラも手伝ってくれるよ。時々。今は桔梗やナツメ、それから落花生も作ってる。紫蘇は勝手に育つし…。ティガ君は大豆とかで、ウチがハーブも時々あげてるの。」
本当に響は………と友達は呆れていた。
「ねえ、チコさんて誰?」
「ウチの女番長。」
リーブラがテキトウに答えておいた。
「でも沼は分かるわ!」
そんなシンシーにファイは反応が早い。
「え?シンシー姉さんも『沼』が分かるんですか?!ハマりますよね?!」
「ねえ、もう他にいい人いないの?」
「いません。その話早く終わって!」
「ていうか、この人たちの顔見せてってば!」
「お!この映像のここ。顔写ってるよ!」
丁度キファのところである。後ろ横だがなんとなく雰囲気が分かる。
「かわいいよ!この子!」
え?キファ君がかわいい?キファはかわいくないだろう、と蛍惑同級生たちの言葉に響は顔をゆがめる。生徒だったらかわいく見えるかもしれないが、既にキファは危険人物である。
「それ、4年前のだからもっと成長してるよ。」
リーブラが停止画を見て言った。
「ほんと?」
幼いキファとは響も少し気になる。
「えー!響、思ったよりいい感じだよ。こんな厚い胸板に抱かれたい…。この中で決めちゃいなよ!」
「私は胸より腕かな!」
「私は腹にパンチしたい。本当に固いのか。」
「あんたたち何言ってるの!!絶対響と釣り合わない!体だけならリーオだって負けないでしょ?!」
そうはさせないシンシーであるが、久々に会った女子ズはとにかく喋りたい。
「この体はうちの旦那よりかなりいいから!」
「やめて!失礼でしょ!」
遂に響は慌て始める。リーブラとしては、そんなん毎日筋トレしてんだから当たり前だよ、と思うところだ。リーブラですら、今となっては毎日腹筋100回を続けて腹が固めなのだ。あいつらは変態の域だから毎日100回どころじゃない。
「ねえ!こっちとこっちの人は?」
「それは普通に既婚者です。こっちはアーツには来ていない。」
「えー!他にも見たい~。」
なんだか、カオスになってきてしまった。




