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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十六章 in ベガス3
102/110

100 成長したのかしないのか、男臭い集会。



楽しそうに先生たちは答える。


「…ウチの病院は定期的に霊を整理して送っていますし、悪い霊ばかりでないので大丈夫ですよ。」


大型の組織は、だいたい前時代との変わり目、『霊性開拓時代』の幕開けと共に大掃除がされていった。


隠蔽、人権侵害、癒着、権威や資産の独占、殺傷、過度の権威主義や痴情。

自己浄化力のない組織はどんどん運営者が変わっていった。この大型病院は創設者が新教で、創立100周年の時点でその直系子孫が受け継いでいたが、たくさんの不祥事が明るみになり現在は組織がかなり変わっている。その時代から多くの組織は建物ごと浄化し、あまりに霊が多い場所は、解体や霊の通りをよくする構造に変えてから完全リフォーム後に土地の休養期間を置いて再使用をしている。



「ミツファさん。インターン後、考えておいてくださいね。」

「…はい。考えることはします。」

ここの先生は看護師たちの事も知っていたのではないだろうかと、向き直る。


「…もしかして怒っています?」

それを察してか、漢方科の先生に聞かれた。

「看護師たちの事、知っていて放置しましたか?」

ここまで霊性が分かる人たちなら知らないはずがない。簡単なテレパスのできる人もいるだろう。

「…ははは。ごめんね。こういうことに上が口を出すと終わりがないから。霊より生きている人間のほうが難しいこともあるんだ。向こうはある程度向こうで解決してほしくて。」

小さな病院ではないし、先生も所属が変わるのでなかなか口を出しにくい。忠告はしてあるのだ。ただ、業務には支障がないしレッドランを超えるまでの見極めがむずかしい。

「上が言わなければならないこともあります。」

「ベガスの先生に響先生は自分でどうにかしますよ、と言われていたんです…。」

申し訳なさそうな顔をする先生に、響は憤慨である。どの先生だ!


「以上でしょうか?」

そして、すくっと立ち上がる。深い話になる前に去るべし。

「もう少し雑談でもしますか?久々に楽しいな。」

「いえ、業務に戻ります。失礼いたします。」

年長の先生が笑って引き留めるが、礼をして立ち去る。


そのあとを、漢方科の先生が謝りながら追いかけて行った。




***




男は幼稚園でも小学生でも、中高校生でも、大人になってもほとんど成長していないというが、成長している。進化しているのだ。


幼稚園の時は親の物やお古のデバイスでゲーム。

小学校で自分のデバイスでゲーム。

そして、大人になり超高性能ゲーム機『リーオ』でゲームである。


「俺、それ小1から使ってた。」

リーオを見てサラッと言うファクトが周りに攻撃される。

「金持ちめっちゃムカつくな!!」

「保育園の時から貯めたお金で買ったんだ!」

「俺らはそんな貯める小遣いもねーんだよ!!」

少し広めのリビングで小学生から高校生、大学生、大人までやることはゲームである。50年前も140年前もこの光景は健在だったらしい。


ここはタウ父宅のリビング。男子集会が開かれていたのだ。個室から台所まで15人くらい野郎がいる。みんないくつかの塊になってほとんど無言でゲームだ。


「つーか、ムカつくからリーオとか口にするな!」

キファが怒る。

「ゲームなんてデバイスでよくない?」

ジリがつまらないことを言う。

「初代プレイスファクトリー世代は、何のゲームした?あの剣はどこにあった?この頃はショボいけど夢があったな。とか語るのが心震えるんだよ!」

「おーーーーーー!!!!真理!!」

先まで叩かれていたファクトがこのセリフで英雄になるが、それをマリアス4男アルが冷めた目で見ている。

「お兄ちゃんたちバカですね。」


この中でゲームをしていないのは、ムギの弟トゥルスとアルだけである。今はいないリゲルもしないが、こういう場で対戦ぐらいはする。

「トゥルスはしないのか?」

「小学生の時、初めてゲームをダウンロードして、徹夜で2日掛けて現行ステージまでクリアしたら禁止になりました。時間が無駄になる自信があるので、今も鬼の心でゲームには手を出しません。」

「おー!!もっと英雄がいたーーー!!!」

ファクトやラムダもアーツに来てから『ゴールデンファンタジックス』にログインしていないので、同志心が湧く。

「小学生なのに偉いな…。」

「中学生です!」


そこにチキンやピザ、カップラーメン、丼系など抱えてジェイとヴァーゴ、タウ父たちが来た。

この男臭い状況を見て、ヴァーゴがウゲッという顔をする。

「デルタ、お前は入るな。悪鬼に憑りつかれる…。惰性の邪気が漂っている。」

後ろにデルタもいた。子供たちまでこの世界に巻き込んではいけない。

「ヴァーゴさん、大丈夫です。」

「塩、撒いとけ。邪気過ぎる。」

せっかく試用期間で頑張った半年が、こんなことで俗世に流れさて自堕落の谷間に落とされるわけにはいかないのだ。


背が高く身なりがキレイなのはマリアス3男のデルタ。ムギと同じ年である。デルタも基本ゲームはしないので、これでタウ父と合わせゲームしない人口が増加した。

「買って来た食べ物も、体に激良くなさそうだからな…。今更だろ。」

ジェイが無表情で言う。

「中華もあるから野菜はあるぞ。」

小中校生を思いヴァーゴがエビや野菜も選んだのだ。ユラスから来た子には、アジア都市の大人に幻滅してほしくない。

「リゲルはー?」

「後で来る。」


ついでに言うと、ヴァーゴ言うには、社会人になり歳を取るとだんだんゲームがしんどく感じ、新しいシステムも覚えられなくなるそうだ。でもアギスはゲーマーだし、ウヌクは今も超絶ゲームもうまかった。ただ、現在はやめている。




この集まり、実は送別会である。


キロンをはじめとするレーウやノヴァなど10人ほどのメンバーが、農業企業化整備のために地方に行くのだ。南海の移民、藤湾の卒業生、地方行政、自治体、企業などが既に現地で動き出している。比較的アンタレス近隣なので、高速で170キロで飛ばせば30分で帰って来られる場所である。その内、他の地域にも入って行く予定だ。個人では保てない農業を機械化やシステム化し、雇用も作っていく。そして地方でずっと荒れていた土地を開拓するか、残すかなども調査する。しばらくは既存の人員の助手である。


そして子供たちがいるのは、デルタが優秀で、既に一部の分野で大学課程に入ってしまったからだ。そのおめでとうである。


この前の懇親会も一部送別会の意味があったが、会えないほど遠くでもないし週末に戻ってくるメンバーもいるので、迎える人をメインにしようとこちらで仕切り直しである。なにせ、大学でキロンと仲の良い新メンバータウ父がこの前はいなかった。現在リーダーたちは非常に忙しいらしいのでリーダー勢はここにいない。


タウ父が酌を持つ。ジュースだけど。

「うう、キロン君…。君が行ってしまうなんて切ない…。」

現地でも大学の単位になるし提携大学があるので通学は問題ない。キロンは月1、2で帰ってくるけれど。


「皆さんのご健闘と、デルタ君の大学課程を祝って、かんぱーーーい!!」

という事で、ファイに「マリアスのかわいい子供たちがいても絶対に行きたくない」と言われた男臭い宴会である。


「キロン、行くな~。」

「ウチのスチームパンクがいなくなる~。」

キロン大好きファクトとクルバトが無駄にうっとおしい。

「いいよ。今の内デルタ、スカウトしておこうぜ。」

「キロンはキロンじゃないか~。」


「ファクト。お前日替わりカレンダー毎日めくれよ。」

「分かった!」

絶対分かっていないファクトである。あまりに学校に行かなかった時期に、キロンに毎日の格言カレンダーをプレゼントされたのだ。3日坊主とは言わないが7日坊主であったので、結局毎日キロンがめくっていた。

「クルバト…、お前会議に行かなくていいのか?」

「1時間後に行く。」


するとヴァーゴに電話がかかってくる。

「キファ、クルバト、ロー。お前らは飯だけ食って速攻戻ってこいだとよ。」

「マジか!あいつら鬼だな!」

「あのサウスリューシア大陸組と仕事か。やだな。響先生の研究の手伝いをしたい…。折角漢方一覧覚えたのに…。」

「さっさと食って、さっさと出て行け。」

就職してリーダーから抜けたヴァーゴが無情に追い出す。



少し落ち着いてきたところで、キロンはファクトに声を掛けた。

「ファクト、この1年ちょいめっちゃ楽しかった。もう一度技術職で就職できるとは思ってなかったし。ありがと。」

「誘ったのはサルガスだから。サルガスに言っておく。」

2人は笑った。


それからキロンは小声になる。

「なあ、ファクト。チコさんにあのこと聞いた?」

「あの事?」

「離婚届…。」

「………。何も聞いてない。」

「離婚したらさ、多分チコさんはここを去るよ。ベガスの半分弱がユラス人だからな。いくら本国と空気が違うといってもいられないだろ。アンタレスみたいに個人主義の国の人じゃないし。」

「………」

「だから、カウスさんがあの騎士の誓いみたいなのした時、『サダルメリク』で受け取ったんだよ。自分の名前出さなかっただろ?」

「……。」


「何の話?離婚の話?」

「うわッ!!」

いきなり後ろから声がして驚くが、ジェイであった。

「やめてくれ。心臓が飛び出るかと思った…。」


向こうの方では真面目なデルタが、しょうもない大人たちが散らかした食べ物や容器の残骸を片付けていた。そして、

「そんなもの後でこいつらにやらせればいーんだよ!デルタも食え!細すぎる!お前のオカンを見ろ!」

と絡まれていた。


キロンたち3人はそのまま小声で話を続ける。

「サダル総長がどういう人かよく知らないけれど、サラサさんのあの反応を見る限り、チコさん多分一人で考えて一人で全部決めて行こうとしているだろうからさ。慰めることしかできないかもしれないけれど、何かの時は助けてあげてよ。」

「…うん。」

「チコさんならどこでも生きて行けそうだけどな…。都市は離れるかもしれないけど。」

ジェイは考える。メンテがいるだろうけれど、普通に生活する分には今の技術なら時々でいいだろう。でもキロンは心配だ。

「今は元気だけどさ、チコさんの下でたくさんのユラス兵が亡くなったんだろ?そんな国を放ってあの人が自由に生きれると思う?」


ファクトはチコの中にいた、たくさんの人を思い出す。


たくさんの爆音、銃声。静かに振られるナイフ。表情の無い顔。

抱き上げられて戸惑うチコ。オレンジを持って不思議な顔をする、チコを抱きしめた赤い顔。

笑顔で手を振るたくさんの軍人たち。


今なら分かる。あの意識下で、チコが自分と間違えたのはサダルだ。


それから、泣きそうな顔でムギが言った言葉。

「チコは健康体だったんだよ。」



「…分かった。」

ファクトは、キロンに向かって頷いた。




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