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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十六章 in ベガス3

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99 答え合わせ



倉鍵の総合病院。


今日も病院の微妙なところで声を掛けてくる看護師。会話が聴こえなさそうで、誰かに聴こえるような部屋の隅。


「センセイー。センセイならいろんな男性紹介してくれそうなので、合コンセッティングしてくれませんかー?あ、センセイがお付き合いした方はさすがにやめて下さいね~。」

無視をする響。

「親まで手籠めにするって、すごい戦法だよね。私にはできないわ。」

いつもの3人のうちの2人が話している。


ここまで言われて、響は2人の看護師の前に立った。

「あの、訂正していただけませんか?」

「?!」

看護師2人だけでなく、初めて意見をした響に周りも静かに反応する。


響は性格が弱いわけではない。


今までにない強い顔で看護師に目を向ける。

「私のことを信頼して話をして下さった方です。病院内とはいえ問題になりますよ。」

「…な、なに?」

「私がどんな立場であろうと、憶測で話を広げられる理由はありません。」

「ちょっ、なんなわけ?息子さんと目が合って、お互い動揺してたのに。」

少し強気になる看護師。

「彼にだって、知られたくない家庭の事情の1つや2つあるでしょう。それに、あなたたちに話す理由もありません。」

「お母さんを見送ってた時泣きそうだったのに。普通の患者にそこまで感情移入する?」

「…。」

「ほら、答えられないじゃない?!」


「なら私も言わせていただきます。ご安心ください。ここで婚活をするつもりはありませんから。仕事と勉強に来ています。」

「は?」

「ここでは講師でも何でもありませんが、それでも私は講師です。私の研究室を出入りする人、相談に来てくださった方を晒すようなことはしないでください。再度言いますが、先輩に話す必要のないことは話しません。」

「怖っ!」

「センセイ、普段と違いすぎますよ。差別ですか?私たち見下されています?」

3人声は押さえているが、周りには聞こえている。うわーという反応と、笑い声が聞こえ、全く無視している人もいる。ただ、雰囲気はおろおろした感じになった。



なぜかと言えば、漢方科の男性先生が、ドアの近くで聞いていたからだ。

「ふーん。ここではしないんだ。」

「ひっ。」

看護師が驚き、響もドアの方を見る。先生が呆れたような何を考えているのかよく分からない顔で立っていた。


ああ、インターンもあと少しなのに、ここでの出勤も今日までか…とがっくりする響。こんな雰囲気で仕事を続けるなんて無理だ。後輩たちに申し訳ない結果になってしまった。いつから聞いていたのか分からないけれど、貶めるようなセリフも吐いてしまった。


でも、先生は余裕の顔でニコニコしていた。

「婚活したい魅力もなくてすみません。」

返す言葉がなくて、黙って礼をする響と、少し余裕の看護師たち。

「先生。こんなところで言い合いになってしまい、ごめんなさい…。」

「ミツファさんに少し指導していたんですが…。私も言い方がきつかったようで、申し訳なくて…。」


響は薬局に戻る時間だと、もう一度礼をして去ろうとすると先生が笑顔で言った。

「ミツファさん。このままここに就職しませんか?」

「…。」

「?!」

無表情のままの響と、騒めく周囲。


「他の先生たちも呼びたいって言ってるんです。」

響は暫くの沈黙の後に言う。

「ごめんなさい。インターンが終わったら研究室に戻ります。医者でもありませんし。」

「ははは。フラれちゃった。引き留めないと先生たちに叱られるんだけど。」

よく分からなくて戸惑う響と、それ以上に戸惑っている周囲。



『この前、誰かの霊性に入りましたよね?』

先生が少しだけ近付き小さい声で聴くので、胸が警戒を告げる。イオニア母に入ってしまった時の事だろう。

「あの、すみません。わざとじゃないんです。報告が必要でしたか…。」

これだけの規模の病院だと、サイコスターや霊性の分かる人間がそれなりにいるのだろう。


サイコロジーサイコスターと知られたくない。霊性と言っていたので多分ばれてはいないが、背筋が凍り付いた。申し訳ないと謝るが、先生に共に個室に来るように言われる。

「あの…。」

「あ、大丈夫です。他の科の先生もいます。2人きりとかではないですよ。」

おずおずと付いていく響に、先の2人の看護師も、周囲も理解できなくて騒めいた。




***




着いたのは心療内科。

そこには男性の先生が2人と、漢方科の女性の先生が待っていた。


「ようこそ。どうぞ、ミツファ響さん。ここに座って下さい。」

「…失礼いたします。」

礼をして一番年配の先生の斜め横に座る。

「先生も。」

と言うと、漢方科の先生も響の横に座った。心療内科だという先生たちが、自己紹介をしてから話し出す。



「ミツファさん。霊性を見ましたよね。私の患者さんです。」

「あ、はい…。ちょっと気を抜いたらたくさん入って来て…。なぜ分かったのですか?」

多分、高位霊能者なのだろうが多少の無知を装う響。


「次元や空間が動くと少し分かるんです。」

「…病院はけっこういますよね。」

病院はそこら中に霊がいる。

「ミツファさんも霊能者ですか?」

「…たまに分かるくらいでコントロールはできません。スタンダードくらいです。」

スタンダードは霊の形が見えるくらいの能力である。

「何を見ましたか?」


「対象の患者さんは霊性治療もされているのですか?」

「はい。」

これは、患者本人の承諾があって初めて進めることができる治療だ。それだけ確認して、病院内で治療中の患者さんに入ってしまったのは申し訳ない思いもあり少しだけ話すことにした。


流星(リウシン)さんの顔の中に何もなくて、死んでしまうのではと思ったのですが、何度も何度も目や口が浮いてきてそれで顔を保っていたんです。


命を…、貼り付けていたんだと思います。


自我がなくならないように、誰かが必死に。他人なのか無意識の本人なのか分かりません。」


流星はイオニアの名字でイオニア母も夫の姓を頭に置いている。アジア大陸では結婚すると、地域にもよるが自分と夫の名字、2つを置く人も多い。


先生たちはカルテを見ながら顔を見合わせる。


顔が無くなってしまった時点で、おそらく自害する領域であった。でも誰かがそれをさせなかったのだ。1響はそこまで分かっていたのだが、それは言わないことにする。



先生たちが何か答え合わせをしている。そして、たくさん書きこまれたカルテのある図の中の名前を見せて響に言った。


「多分この方ですね。」


それはイオニアの母方の祖母。イオニア母の母親の名前であった。

「少しだけ患者さんのお話をします。流星さんからミツファさんにはお話ししてもいいと了承を貰っています。

この流星さんのお母様が、流星さんをお見合いで結婚させて、嫁ぎ先が大変だったことを知りながら帰らせなかったんです。そして、どれくらい大変か知った頃に亡くなっているんです。ものすごく後悔されていますね。」

「…。」

「霊体になってから娘の状態、感情、壊れかけている精神や霊性を見て、必死で繋いでいたのだと思います。霊体になると、直接相手の感情が入って来たりしますから。」



それは響も知っている。


霊になると、相手にしたことの相手の感情が、相手の立場で分かる「反射吸収現象」というものがあるのだ。つまり、いじめや暴力、虐待、殺人をすれば死後、もしくは霊状態でそれを時間空間をどこまでも往来して相手の立場で相手の感情を味わうことになる。


この世に残した重みは、生きている段階で解決しておかないとそれを死んでから受けるのだ。ただ、世の中には自分の知らない部分でのバランスがあるので、一概に全てがそのまま返ってくるわけではないが、それでも霊性はあらゆる『他人の情』を受ける。

イオニア祖母も、死ぬ前に少し悟り、亡くなって初めて娘のSOSがどれほど深刻だったのか、娘の立場で知ったのだろう。


今回、イオニア母の中間までの深層に入っていたので、イオニア母があまり意識していないものは、響には詳しく分からなかったのだ。綱渡りのように、さらに他の意識層に入って行くことはできるが、あの目立つ廊下では無理だった。


先生たちは霊として現れる()()を見ているので、サイコスとして見ている響と視点が違うのである。先生たちは形として現れ見え方は違っても、誰もに共通な「霊現象」を、響はイオニア母の意識の中、つまり「イオニア母の視点で見る世界」に入っていた。



それから先生たちは、またあれこれカルテを見て話を繋いでいる。


「私も顔のない流星さんを見ているんです。」

年配でない方の先生が図を見ながら話す。

「でも、目や口が浮き出ているのは分かりませんでした。」

「…。」

響は大人しく聴くが、ここで全てが合点した。



そう、イオニア祖母が娘に必死に張り付けていたのだ。

目や、鼻や、口を。娘が消えてなくならないように。


でも、死の境目に入ってしまった娘はそれを保とうとしない。だから、ずっと、こぼれては貼り付け、こぼれたら貼り付けを繰り返していた。延々と。延々と。



黙っていては申し訳ないと、心理層に入ったことではなく話のつじつま合わせという事で、「そう言う事ですかね?」と響は言っておく。


「なるほど。」

「これは流星さんに伝えますか?」

「…。ちょっと時期を見極めましょう。お母様に対するしこりがまだ大きいのでもう少し後がいいかな。」

先生たちが話し合う。

「厳しいお母様でしたが、多分どこかでいい意味で繋がってはいたのでしょうね。」

女性の先生も頷き、響の方を向く。


「ミツファさんは学校で訓練を受けなかったんですか?コントロールの。」

「………あまりコントロールの才能がなくて。どうしてもムラがあって突発的なんです。」

実際、響は霊性分野はスタンダードクラスだ。ただ、家系自体の霊性がいいので比較的霊的な守りが強いため悪い影響は受けにくい。

「ウチで訓練を受けませんか?」

「え?」


漢方科の先生が楽しそうに言う。

「インターンが終わったら本当に来てくださいよ。」

「…。」

先生たちはみんな楽しそうだ。


「い、いえ。ダンスとかも訓練をしてもダメだったので、多分これもダメです。出来不出来にムラがあるんです。けっこう大雑把って言われるし!霊性に関して、繊細な病院には向いていません。命や体を扱う事ですから。」

霊性訓練をしながら長々とこんなところにいたら、サイコロジー使いだとバレてしまう。


これでDP(深層心理)サイコスターと知られたら怖い。


しかし、先生たちもあきらめない。

「えー。普段は薬局の方にいてくれていいですし、病院で援助するので医師免許も取りませんか?ミツファさんはプレイシアですよね?薬剤師だけじゃなく看護や医師のオスキーもパスしてるじゃないですか。」


プレイシアは通常以上の能力を持つ者のことだ。オスキーは臨床能力の評価法である。

「これ以上学生のままでは困ります…。それに…それでも医師は難しすぎます…。」

「医師なんて30入ってやっとインターン終わりっていう人もいるから大丈夫ですよ。ミツファさんなら東洋医術や看護師や薬剤師のベースもありますし。」


「いやです。大きな病院にいて怖い霊を見たら、ひとりでトイレに行けなくなりそうです…。」

が、先生たちは笑いをこらえている。




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