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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第十六章 in ベガス3

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98 あふれるジャズの音



フォーラム参加陣がベガスに帰って来てから、ユラスのある界隈では様々な噂が飛び交っていた。


ベガスでチコ様が超絶好調らしいと。

あんなに良く話し、テキパキかつ楽しそうに仕事をする姿は見たことがないと。


「夫が無事帰って来て、感動と安心で仕事がはかどるのだろう」という話もあれば、「あれが亭主元気で留守がいいとかいうやつか」という話もあり、真相は知る人ぞのみ知るわけだが、世間は比較的前者である。


まさか、国中が見守ったサダルの帰国を、妻が離婚届を抱えて待っていたと一般市民は思わないだろう。チコとしては10年くらい悩んだ重荷から解かれ、やり切った感がハンパなかった。もちろん天や、親代わりになってくれた人たちには申し訳なく、そのために悩んだ10年でもあったが、これでサダルもユラスも新しい歴史に踏み込めるのである。



それで、チコは油断していたのだ。


もうすぐフォーラムが開催される。VEGAは連合国のいち代表組織。まだ実質のアジア圏総長はチコだが、サダルもVEGA総長であるという事を。しかも向こうは創設組織VEGAユラス、つまり全体の総長でもある。




***




時は少し戻り、昨日の懇親会の夜。



ロディアは玄関ドアを閉めた後、人生で一番心臓がドキドキしていた。


「サルガスさんは何を考えているのだろう…。」

思わず独り言である。

……しかも考えてみたらけっこう年下だし…。そこは盲点であった。話が合うので普段は考えていなかったが、自分はおばさんの域ではないのか。


リビングダイニングにある鏡を見てみると、顔が真っ赤である。

暫く鏡の前で自分の赤い顔を見ていたが、だんだん冷めてくる。



何?この不細工な顔は……。


太めの眉毛に彫りは深くくどい顔。「目が大きく彫りが深いから美人」とは言えないと証明しているようだ。固くてくせ毛の髪。下を見ると、少し曲がった膝下。成長しきれなかった足先。歩行器で歩く訓練を再開したけれど、足の矯正がもう少しうまく行っていたらと残念に思う。


女でも見惚れてしまうような、柔らかなクリームの白金髪で宝石のような目の陽烏(ようう)を思い出す。



デバイスを出して『大房 パイ』で検索すると、写真がメインのSNSが先頭に出て来た。まさしく、ベガスで何度か騒いでいたと言われるパイであろう。

フォロワー25万人とあるが、それは多いのだろうか?


写真や動画など見ていくと、信じられないぐらい短いスカートや、下着なのかホットパンツなのか分からないボトムを履いている。もう見てくれと言っているようなものだ。思わず目を覆ってしまう。衣装、これは衣装…と心を落ち着かせるが、ベガスでもそんなのを履いて来て叱られていたと聞く。

ちなみにヴェネレ国家育ちのヴェネレ人女性は基本太ももは出さない。少なくともTPOは弁える。



そして、ダンスをスクロールしていくと、途中途中に歌があった。


パイはライトの中でしっとりとしたジャズを歌い上げていた。ロディアも生演奏の流れる高級な店にもよく行っていたので、ジャズは親しみ深い音楽の1つ。パイは歌も、顔も、表情もとても綺麗だった。うっとりしてしまう。


少ししてから今度はユンシーリを検索。こちらは大房を入れなくても、「ユンシ」まで入れたところでダーと自動検索が彼女らしき言葉を表示する。検索トップのダンス動画を見て、SNSも見てみる。フォロワー60万人。よく分からないがフォロワーが7桁、8桁台のアーティストともコラボをしている感じだ。それが凄いのだろうという事はなんとなく分かる。


そこまで見て…ロディアはぐったりしてきた。机にクッションを置いてもたれ掛かる。

「本当にサルガスさんは何を考えているのだろう…。」


もう一度パイの歌を聴く。


低くも高くもある声。

皺ひとつない輝く褐色の肌に、ぽってりした瞼に美しく乗るシャドウ。オレンジ色がこんなにも色っぽいなんて。胸まで見えそうなミニ丈のワンピースが全然いやらしくなく、ただ胸が締められる声。

ベガスで暴れていたとは思えないほど、知性的に見える。


こんなスタイルの、こんな女性が身近にいることが信じられない。ホテルやレストランのステージや、メディアの中だけと思っていたような人がここにいる。


使い方があまり分からないSNSを機能に任せて検索していくと、ダンス、大房繋がりでイータやソアも出てきた。ソアも髪が赤系で少し幼く始め誰だか分からなかったが、名前がソアで分かった。アーツで知った男性や自分の講習の生徒もいた。

今はロングスカートやパンツスタイルのイータも、ブラが見えているのか見せているのか分からない、かなりきわどい格好だ。確認したいのと目を伏せたい2つの思いで見入ってしまう。


やたらたくさんのスタントさながらの芸当も出てくるようになり、タウやイオニアも出てくると、そこから見知ったスポーツブランドにも入っていく。画面はだんだん大房枠から離れて様々なスタジオや道場なども出て来て、もう見るのを止めた。




あくまでスポーツやダンスメンバーに限った世界だろうが、あの人はこんなアクティブな人たちに囲まれているのかと、もうそれ以上の思考が働かない。


母が死んでから、今までトイレやお風呂場、移動などでしか足の不自由を意識しなかった。でも初めて自分には何もないように思えてくる。どうして私の足はまっすぐでないのだろう。


そして、大人になって初めて、母のように美しくないことを恥ずかしく思った。



帰り道で生まれて初めて言われた好意的な言葉に、一瞬浮き立ってしまった自分がとんでもなく恥ずかしく思える。


自分は一体、何をなぜ調べているのか分からなくなって、食事を渡すために響に電話を入れた。




***




次の日、ロディアとは温度差のかなり違う男たちが集まっている。


「え?で、それ。お前ロディアさんに言ったの?」

「…言った後に、ロディアさんが大手の娘さんだと思い出して………」


ガシ!

そこまで言って、サルガスはタウに後ろ首を絞められる。

「それでやめたのか。最低だな、お前!」

既婚者のベイドも、うっわーという顔をするので、言い訳をする。

「一人娘だぞ。ダメだろ…。あのお父さんがあまりにも気さくですっかり忘れていたし、向こうも俺はあまりタイプではないらしい…。」

ロディアがサルガスに、「タイプでない」とか言う人にも思えないし、そんな状況があるようにも思えない。どこかに言葉か解釈の取り違えがありそうだと二人は予想する。


「…でもロディアさんとしてはそこじゃないだろ。」

「どこ?」

意外に間抜けなサルガスである。髪を切ってからファクト顔だとよく言われるが、性格まで似ていたのか。

「おじさんは経営を譲ってこっちに来ているだろ。身分とか後継ぎとか考えなくていーんだよ。ロディアさんにとっては付き合おうとか言われたこと自体が天変地異なんだよ。」

「…。」

考えるサルガス。


タウとベイドとしては、多分ロディアとしてはいっぱいいっぱいなのだろうと思う。タイプであろうがなかろうが。


「でも、あの日は話の流れ的な感じで…全然冗談で言ったつもりもないし…。」

「…それはお前の感覚だろ?」

「ヴェネレ教がどういうのか知らないけれど、堅実な信徒だったら多分正道教やユラスと同じで、結婚を前提にした付き合いしかしないだろうし。」


そこでサルガス、もう1つ気が付く。

「あ!そうか。宗教もあるのか…。民族が違うと複雑だな。」

この男、話の焦点が少しズレているのだ。タウの言いたいことはそれではない。信仰抜きにしても、ロディアの中では男女交際に関する言葉の重みが違うのだ。ベイドは宗教とかは気にすることはないと思うので、取り敢えず言っておく。

「婚活おじさんが「いい、いい」言うなら何でもいいんじゃないか?」

まさに。


サルガスとしてはまだ好意程度だったが、ロディアとならこの先までずっとうまくやっていけそうな気がしたし、向こうもそう思ってくれるのではと考えたのだ。


「連絡はしたのか?」

「全然電話に出てくれない。」

「今はアーツでの講習も終わったからな…。」

事務局にも来ないのだ。会わなくてすむと胸をなでおろしたことだろう。

「向こうは女性用のヴィラに一人暮らしだし、連絡にも出てくれないならどこで会えばいいんだ。」

来るも去るもガツガツ系女子に囲まれて来たサルガスには、分からないことだらけであった。


「思うんだけど…。」

ベイドが核心に迫った顔をする。

「フォーチュンズって名前からしてアジア系で、曽おばあさんか誰かが実際そうなんだろ?」

「元はアジアンマーケットとか言ってたもんな。」


「もうこれはさ…。ドンピシャじゃなか?結構サルガスと合うかもよ。」

「はあ?」

何のことかと思うが、タウも言う。

「俺もそれは思ってた。」

「…だから何だよ。」

「ロディアさんの昔の家系もあっち系の人かもよ。」

「あっち…?…あっち…………」

どっちだ。

「おじさんの名字はヴェネレのカーティン姓に…アジアでは『ロン』。」

「ロン…。」

「まだ分からんのか。」

「あっ!」


「…。(ドラゴン)…。」


「旧時代前時代の大型企業や元国営、財閥系皇室王室系って半分ヤバいからな。場合によってはマフィアよりエグいぞ。弱肉強食、無法時時代に覇権を握って来たって()()()()()だから。」

今は新時代ではあるが。


満足そうに頷いている二人にサルガスはとりあえず言っておく。

「いやいや、勝手に決めるのは時期早々かと。」


でも、ちょっとエリスに聞いてみたい一同であった。



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