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ZEROミッシングリンクⅡ【2】ZERO MISSING LINK2  作者: タイニ
第七章 消えたあなた
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8 消えていくあの人



「ベガスでは無理です!」

誰かがそう言うと、カウスが直ぐ判断を下した。


「SRに行く。連絡を付けろ。情報は行っている。」

チコの体に大きな変化があった場合、ラボに情報が飛ぶ。


「俺も…」

ファクトが言うとカウスが止めた。


「ファクトはだめだ。」

「行きます!」

「その状態で博士にあってどうする!チコを診る前に揉めるぞ。」

「でも!…」

カウスはいつもと全く違う顔をしていた。どんどん指示を出していく。ベガス一帯に騒がしい感覚がする。おそらくここにいる以外も軍人など動員されて、見回りなどしているに違いない。


多分ファクトの腕は折れている。カウスの言う事は妥当だと思ったが、不安そうだったチコをSR社に一人にしたくなかった。


「二人がここにいた経緯は今はファクトしか知らない。状況も聞かないといけない。ベガスの病院に行こう。」

「なんか嫌な感じはしていたんです。止めればよかった…。」

「止める?…後で聴く。」

「すみません。俺が悪かったです。」


「…いや、完全警護体制にしなかったこちらの責任だ。」



前の事故であまりにも元気だったから、思わず痛覚もないのか不死身なのかと思ってしまったが、今回は明らかに違った。チコが死んだらどうしようという思いがよぎった。

そして、どんな身体状態でも『チコ・ミルク・ディーパ』という、ニューロスサイボーグ体が来れば、歓喜しそうに見えたSR社を思うと居た堪れなくなった。


「お願いです。誰かチコの安心できる人を横につけてあげてください。SR社でずっとおかしかったから。」

「…分かった。約束する。」


もしSR社にチュラや母親がいなかったなら、ファクトにとってそこは自分の知り合いを送りたい場所には思えなかったかもしれない。

何日もチコを留めたがっていた彼らを思いだすと、むしろこの状況を好機に思っていると勘ぐってしまう。こんなことを考えるなんて最低かもしれないが、本人の意志に関係なく触ることができる研究材料が、相手側からやって来たのだ。準備やカウンセリングも必要ない。死体でも、切断した躰でも義体でも喜びそうな感じだった。数年も待った義体にやっと手を付けられるのだ。


でも、今チコに手を施せるのはSR社だけなのだろう。

SR社を信じるしかなかった。



2台ヘリが到着すると、男性2人と女性がチコに付き添う。

「カストル様の代わりにデネブ様がSR社に向かわれます。」

「分かった。」

カストルとエリスは巡回会議で今地球の裏側にいる。



そして、ヘッド、アイウェアや胴部や手脚にはプロテクターを付けた今までベガスで見ていた警察や警備員より重装備な人間たちがヘリの周りを警護する。

よく見ると、カウスと付き添いの女性、チコの診断をした人物以外、顔も分からない物々しい装備だった。


そして気が付く。今まで数人教官としてしか姿を見せたことのなかった、東アジア軍も動いてる。



大型ヘリの1台はSR社へ。もう1台はファクトを乗せてベガス病院の裏に入っていった。




***




要人用の病室。



ベガス総合病院の裏にこんなところがあるとは知らなかった。治療を終えて入院となり、ここに通される。


ベガスの病院は思った以上に高度な設備で、ファクトは救急ですぐに対応された。

やはり骨が折れていたが、ズレずにきれいに折れていて、3Dですぐにギブスを作り固定されただけだった。

簡単に腫れを抑える痛み止めなど打ち、がんばったからと看護師さんに、小児用のゆるキャラビタミンタブレットをもらった。そういう子供じゃないんだけど、と思うが貰っておく。



「退院したいんですけど。」

病室に一番に入って来たカウスたちに、入院1分後に伝える。


「取り敢えず朝までは入院していてください。」

一人が困った顔で言った。


「…。カウスさん、チコどうですか?」

「まだ分かりません。」

「死なないですよね。」

「…そうですね。」

力なく笑った。多分分からないのだろう。


4人いて、1人だけドア付近に立ち、他は椅子に座る。


「でも、なぜファクトがあそこにいたんですか?チコも…。」

「さあ。チコの気配がして、それから変な感じがしたから行ってみたら、もうチコは横たわってて血まみれだったから。」


「二人で向かったわけでなくて?」

「別々だよ。家に帰るって聞いてたし。ずっとチコに変な感じがしていたから、気になっていて外に行ったら光が視えたから。」


カウスたちが顔を見合わせている。


「それで近くに行ったらあの男が、チコを…」

「あの男?」

カウスたちはあの男の存在を認識していなかったのだろうか。


再度振り返るのは(はばか)れる記憶だったが、知っているところから経緯を説明した。



説明が終わる頃には、カウスたちは難しい顔で考え込んでいた。

侵入者がいたのには気が付いたが、高性能ニューロス?と頭を抱えている。チコと並ぶニューロスサイボーグがいたなら、研究界隈で話に上らないはずがない。だが、SR社からも連合国側からも知らされていないし、他でも話は聞いたことがない。


「ヒューマノイドでなくて?」

ファクトは問われるが、あれはおそらく人間だった。今言われるまでアンドロイドとは思ってもいなかった。それに、アンドロイドだったら、チコより強くてもチコは容赦しなかっただろう。

「人間だと思うけど。」


「チコより強いのかは分からないけれど、チコが隙を見せたのは確かだと思う。戦う気を失っていたし、相手も半分遊んでいる感じだった…。」

カウスもそう思う。殺す気だったら直ぐ殺せたはずだ。


「何かチコ、同情していた感じだった。」


その言葉に全員がファクトを見る。

「同情?」

「相手に辛いのか?とか聞いてたけど。」

「…。」

「カウス呼ぶなとかも言っていました。伝心で。」

「…。」

「多分、来ても殺される的な意味で。」

「…。」


「はーーー!」

カウスが本格的に頭を抱える。

「あの人は…。」

先まで外向きの顔だったカウスが、地を出した。ひどく憔悴している。


「風貌は?」

「暗いからよく分からなかったけれど、金髪?でも黄み掛かってはなかったと思うから…。グレイッシュというか。黒っぽいような灰色なのか…。若かったかな?チコと同じくらいか、雰囲気はチコより若い感じで、少し背もチコより高かった。」


ファクトのバイクのカメラには映っていなかった。


「髪を出していたのか?素人か?」

「素人なら、素手であそこまでの攻撃はできないと思いますけれど。」

同僚が言う。

「高機能ニューロスの関節を脚で潰すなんてできないな…。」

カウスが現場の髪の毛を回収しているか聞いていた。


特殊任務の時は、普通、髪も皮膚も指紋はもちろん血、持ち込み装備など残さないようにフル装備するのが当たり前だ。特にすぐに捜査が入れるような屋内や生活地域では、生体の物証はすぐに尾が付く。


愉快犯?

どこかの組織の牽制?

陸地伝いで工作員が入ったか。

でもなぜ高性能ニューロスが?


「なんでチコが変な感じと分かったんだ?そこまで大ぴらだったのか?」

「あ、いや…。」

なんで分かるんだろと、目を泳がせて考える。そんなこと考えたこともなかった。


「ほら、SR社でチコ、全く(はなし)していなかったし。母さんたちに挨拶もしないし。なんとなく違和感があったから。空間のこの辺。このもぞもぞ嫌な感じ。朝からもぞもぞしていた。」

そこらの空間を両手で囲う。テキトウだ。


「感覚?いつからそういうのが分かるようになったんだ?誰にでも?」

「…。いつからって、昔から?誰にでもかは分からないけれど、チコは分かり易いよね。ほらこんな感じで。うちの父さん母さんの機嫌くらい分かり易い。」

空間をワシャワシャする。


「…。全然分からないのだが…。」

みんな、眉間を抑えている状態だ。



カウスはタウの言葉を思い出す。チコとファクトの距離が近過ぎると。



カウスたちは、ファクトに話を聞くまでは、二人でどこかに出掛けてそのまま事件に遭遇したという、由々しき事態と思っていた。チコに対してもお咎めがいるような。姉弟と言っても最近出会ったばかりの男女。ファクトが未成年でありチコが公人である以上立場を理解していない行為だと。それにチコにはもう一つ立場があり、それを厳守してもらわないと困る。



だが、二人は朝以外は別々だった。


ファクトが標的でファクトの周りに何か起こっている線も考えたが、偶然を装うにも中途半端だ。アンタレス全体に小さなテロが起こっている。巻くためか。

でも両博士の息子だとしても、狙うには理由も方法も弱い。誘拐する訳でも集中的に狙うわけでもない。標的がはっきりとしないのは、世間を翻弄させるためだと思っていたが…。


そう、そうではない。それもあるが、チコとファクトが問題を感じ取ってそこに向かっているのだ。今回の場合、確実に狙いはチコだったが、そこに意図して向かったファクト。少なくとも前回と今回は。


ムギに似ている。ムギにもそういう力がある。力なのか、感覚か。


一定の訓練をした人間にはそんな感覚が宿る。力の根本は違う発現かもしれないが、ファクトにはもともとある能力なのだろう。



何にしても、いろいろ見直す必要があると考えた。




***




ファクトはその夜病室で寝られなかった。


ファーコックのことを思い出す。

もうずっと『ゴールデンファンタジックス』を開けていない。こんなことは小2の時から初めてだ。

でも、今はチコのためにやめた。多分母ミザルも寝ずに対応している。


眠れなくて精神的にかなり疲れたまま夜が明け、結局朝の7時半に寝て、昼間まで入院してしまった。




チコに関する連絡は全く来ない。


そして思う。

自分は中途半端な位置にい過ぎて、咄嗟に判断できないこと、分からないことが多すぎる。

このままではいけないと。



そしてこの事態には箝口令が敷かれた。


チコが重篤であることを知るのは事務局ではサラサだけ。少し問題があったことは有事の際に必要なためリーダーに。でもチコがいなくなったことは、SR社で長期調整に入るとしか公式に伝えられなかった。襲撃があったことは一旦状況を静観。東アジアから正式な待機、避難、もしくは閉鎖令が出るまではベガスは通常運転になる。

ファクトは1人で訓練をしていて、段から落ちたという事になった。




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