次はあなたの番よ
わたしこういうの、あんまり得意じゃないの。
怖くなかったらごめんね。
これは、わたしの中学の修学旅行のときの話なんだけど。
うちのクラスにミキっていう、かなり陰気な感じの子がいたのね。
見た目は真面目そうなんだけど、成績は四十人中三十位とか、そんなもん。ミキより下は、不登校の子と明らかに不良の男子だけ。
一夜漬けのわたしでも80点くらい余裕のテストで、ミキは40点とかとってるの。ひどいでしょ。
あの子、要領悪いくせにテスト範囲とか全然聞いてないなよ。期末はここから出すって先生が言ってるのに、関係ないとこの問題やってたりするの。
「私どんくさいから丸暗記とかできないの」
だって。
丸暗記してるわたしらを馬鹿にしてんのかしら。
まあ悪い点とってるミキのほうが馬鹿なんだけど。
とにかく、そのミキと修学旅行の班がいっしょになっちゃったの。最悪でしょ。
修学旅行の前に、班別行動の計画表を提出しないといけないんだけど。
ね、そんなのあったでしょ。あの意味無いやつ。
で、わたしらの班は全部ミキに任せたの。
どうせ寺とか神社なんて行く気ないし。当日はどうせミキなんて何にも使えないんだから。今のうち使ってあげた方がいいでしょ。
行きもしない観光名所を適当に並べればいいだけなんだし、ミキにもできると思ったの。
でもドジはやっぱりドジ。
出発の三日前になっても、まだできてないって言うの。
担任には、
「出してないのはお前らの班だけだぞ」
なんて言われるし。
しょうがないからわたしが作ってあげたのよ。
まあ10分くらいで終わったけどね。
ミキが途中まで書いたやつを、消すのに5分。作るのに5分。はは。
でもほんとミキって使えない。
わたしがその計画表を作り直してる間も、
「私、なにすればいい」とか言うのよ。
あんたが作ってこなかったせいでしょ。
「あなたは何もしないで。お願いだから」
「でもそれじゃ、なんか悪いし」
もうこの時点でかなりイライラしてるんだけど、
「あなたにもできる仕事があったら、そのときいうから。今はなにもしないで」
って言ってあげたの。ま、ミキにできる仕事なんてなにもないって思ってたけどね。
修学旅行一日目はクラス行動で、班行動は二日目なんだけど。ミキがまた余計なこと言い出すのよ。
「法隆寺はこのバスで行くんじゃない」
行かないわよ。
今日は買い物の日なの。 寺巡りは明日、一人でやって。
「あなたは、わたし達の後を黙ってついて来ればいいから」
「でも計画表には」
「いいかげんにして」
相当落ち込んでたわね、ミキ。まあかなり強めにいっておいたから、その後はずっと黙ってた。
ほんとは法隆寺にミキだけ置いてきちゃっても良かったんだけど。まあ楽しみは夜まで取っておかないとね。
宿に戻ってきたのが、予定の5分前くらいかな。
他の班は一時間近く遅れたり、あわててタクシーで帰ってきたりってのが多かったから、わたしらの班は優秀よ。
先生達だって、生徒が法隆寺に行こうが行くまいがどうでもいいのよ。
ちゃんと帰ってくればね。
その日の夜。消灯時間もとっくに過ぎた、午前1時くらい。定番の怖い話大会になったの。
今日みたいに懐中電灯もって、話が終わったら次の人に回していく。
まあ、みんなネットで調べてきた話とかで、別に怖かないんだけど。
わたしも
「実はこの旅館のこの部屋で、過去に自殺した女の子がいて…」
みたいな話して。
みんなもそれなりに怖がってるフリだけしてね。
わたしの話がおわって、隣のミキに懐中電灯渡そうとしたら、あの子、真っ青な顔して固まってるのよ。
「ほら、次はあなたの番よ」
「あ、あの私、怖い話とか、全然しらなくて」
「怖ければなんでもいいのよ。なんかあるでしょ」
「話聞きながら考えてたんだけど、なんにも思い付かなくて」
「みんなちゃんと話したのに、あなただけ話さないつもりなの。そんなわがままだめよ」
「でも、私、ごめんなさい」
「じゃあ、あなたが幽霊になって」
「え。なに、それ」
「だから、そこのベランダから飛び降りて、幽霊になってもどってきてよ。。そうすれば、すっごく怖いから」
「そんなの、無理よ」
「じゃ怖い話して」
「でも」
「じゃあ飛び降りるしかないよね。いつもめいわくばっかりかけてるんだから。これくらいできるでしょ。いつまでも人まかせじゃダメだよね。やるときはやらなきゃね。みんなはちゃんと自分の仕事してるんだよ。あなたも自分の仕事やらなきゃね。じゃあいくよ。サン、ニー、イチ」
で、まあ飛んじゃったんだけど。肝心の幽霊は帰ってこないの。
ベランダから下のぞいたら、ちゃんとミキっぽいのはあったんだけど、それだけ。
ただ死んでるだけ。
あの子ほんと使えない。
次の日警察が来て、なんか色々やってたけど、結局自殺ってことになったみたい。
あの子も馬鹿だけど、警察も馬鹿ね。
そういえば、せっかくミキの話をしてるんだから、あの子も化けて出てくればいいのに。
そこのベランダから、すぅっと。
やっぱ出てこないみたいね。あの子、最後まで使えないわ。
ま、いいや。わたしの話はこれでおしまい。
ほら、次はあなたの番よ。
修学旅行の怖い話大会。作者の私も、イヤでイヤでしかたがありませんでした。「何を話そうか」と悩んでみても、頭は真っ白。怖い話なんて自分にできるわけがない。自分の番が近づくにつれて、緊張が高ぶり、ついに「次はあなたの番よ」