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OVER THE LEFT !  ~あるいは、ある親バカ社長秘書の備忘録~  作者: 風花てい(koharu)
無敵の髪飾り
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無敵の髪飾り 4


 呼び入れられて入った部屋の中には、ややくたびれた紺色のスーツを着た面接官がふたりいた。


 横長の机に並んで座っていた彼らは、俺の予想通り、女の子がするような髪留めを頭にくっ付けて入室してきた入社希望の学生を見て、面食らったような顔をしていた。


「なかなかユニークなヘアスタイルだね」

「すみません。床屋に行っている暇がなかったものですから」


 駄目でもともと。

 すっかり開き直っていた俺は、面接官の皮肉を込めた質問に悪びれずに答えると、その流れで、この髪留めを付けるに到った経緯を簡潔に語った。


「……という訳で、その女の子たちの忠告に従ってイメージチェンジをしてみようかな……と、急きょ思い立った訳でして」

 ふたりの面接官は、俺の話を聞いているうちに、なぜだか、みるみる青ざめていった。


「君は、そこの廊下で、6人の少女と出会ったというのだね?」

 俺の話を聞き終えた面接官は、まず、そのことを確認した。

「ええ、そうです」

「変なことを聞くようだけど、その娘さんたちって、みんな美人じゃなかった?」

「ええ。まあ……、そうですね」

 ひとりひとりの顔を思い出しながら、俺は答えた。

 確かに、どの娘も、お世辞の必要のない美人であった。


 俺の答えに、面接官たちは、ますます青ざめた。彼らは、食い入るような目で俺を見つめながら、こうたずねた。

「それで、そのお嬢さんたちは、最終的に君のことをどう思ったのだろう?」

「は?」

 質問の意味を図りかねて、俺は聞き返した。なんだって、彼らは、そんなことが知りたいのだろうか? 


「いいから、思い出して。とても大事なことなんだよ。いいや。どうか、思い出してやってください。私たちのために!」

 怪訝な顔をする俺に、面接官たちが懇願する。俺は、少女たちとのやり取りを、頭の中でおさらいした。


「ええ……っと、髪留めをくれた中学生ぐらいの娘さんは、先ほどお話したように、俺のために親身になってくれました。彼女によると、1番上のお姉さんらしき人は、俺のことを気に入ったそうですが」

「確かかね?」

「さあ。そこまでは、わかりかねます」


 ふたりの面接官が顔を見合わせる。彼らは、俺に背中を向けて何事かを小声で話し合った後、重々しい口調で、俺に告げた。

「ご苦労様でした。一次面接は合格です」

「え。あの、まだ何も聞かれていないのですが?」

 俺は慌てた。この面接で俺が話したことといえば、少女たちのことだけだ。志望動機とか、どんな仕事がしたいかとか、大学で何をしたかとか、普通の面接試験なら、そういったことを訊かれるのではないのだろうか?


「それでも合格です。我々は、あなたの入社可否を判定する権限がなくなりました。だから合格です」

 面接官が言い張った。

「ちょっと待ってください。あの……」

 権限がなくなったって、どういうことだろう。この面接においては、俺を落とすも受け入れるも、この人たちの気持ち次第なのではないのだろうか。



 だが、彼らは俺に質問させる時間的な余裕を与えずに、事務的に次回のスケジュールの申し送りを始めた。

「えー。次回の面接は、およそ一週間後。詳しい日時については、後ほど、お電話させていただきますが、重役との面接になります」

「ねえ、それも飛ばしちゃっていいんじゃないですか?」

 申し送りをしている面接官の話に、もうひとりが口を挟んだ。

「あ、そうかもしれないな。確認してきてくれる?」

 頼まれたほうは、即座に部屋を出て行った。


「次回の面接担当の者に確認しましたところ、2次面接も省略することになりました」

 まもなく、戻ってきた面接官が俺に告げた。

「省略って……」


 次回は、最後の関門。 


 社長面接である。

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