アップグレード・七月(夏と言えば水着で洗車・河川敷で七夕まつり)(足回りの改善)
『みなさん暑い日が続きますね、しかも今日は今年一番の夏日になるでしょう』
とラジオが言うくらい……やけるような暑い正午。
僕は、いつもお世話になってるお礼も込めて『彼女を祭りに誘おう。あわよくば彼女の浴衣姿を見てやろう』と下心をかくし、車を走らせる。
(津出自動車の看板が見えてきた)……と視線を下ろした僕は、驚きのあまりハンドルミスをして、対向車にクラクションを鳴らされた。
なんせ、玄関先で、水着姿の彼女が洗車しているのだから、驚くなというのが無理だろう。
と、彼女がクラクションの音を聞き逃すわけもなく、渋い顔で僕を睨んでいる。
(は~、祭りに誘いに来たのに、やだな、また怒られるのか)
申し訳なさそうに降りる僕に、声を上げる。
「さっきの運転、ふらついて危なっかしい、それでもあんた免許もってんの⁈」
「水着姿で洗車する君に驚いたんだよ」
「なに、言い訳する気⁈」
あやまらない僕が気に入らないのか……むきになり詰め寄ってくる彼女の、胸に、いや、彼女のけんまくに、たえきれず……目をそらすなり道を指をさし言い返す。
「だってほら」
「なに⁈ ……あ」
しまいに歯をむき出しながら道に目を向けた、彼女が見た光景は。
こちらをガン見しながら通過する車……そして車道を挟んだ向こうには、カメラを構えた男達(旧空港で見た事ある顔ぶれ)に、彼女はとっさに胸を隠し、ブロックべいの影にかくれ黙り込む彼女。
「……」
むしろ自信満々にアピールするかと思っていた僕は、そのギャップに、がっかりし息をもらす。
「そんなに恥ずかしがらなくても、レースクイーンみたいで似合ってるよ……で、その車は?」
僕の言葉に、おだてられたのか、いっぺんして彼女は胸を張り、車をなでる。
「ありがとう……これはお客さんの車……アメ車だし暑いから……アメリカには『ビキニ洗車』ていうのが有るらしいから。雰囲気あるでしょ」
「うん、ローライダーっていうんだっけ……『ビキニ洗車』名前くらいは知ってるけど見るのは初めて、刺激的」
「ははは……よく知ってるわね……て、バケツのシャンプー余ってるから、終わったらついでに、あんたの車も洗ってあげようか」
「いいの?」
「うん……その代わり、頼みを聞いてくれたらね」
「なに?」
「来週、河川敷の野球場で七夕まつりに連れて行って」
「それってデートのお誘い」
「はは! あたしも人のこと言えないけど、彼女いない歴イコール年齢のあんたにはそうなるかもね……浴衣きて行きたいから、足代わりよ」
「確かに、運転は身動きしやすい服が基本だからね」
「そう」
「それならちょうどよかった……僕の方こそ今日は、日頃、車のことでお世話になってる礼と、これからもよろしくという意味で、七夕祭りに誘いに来たんだ」
「ち……代金要求すべきだった」
(心の声がだだもれてるよ)
「でも、もしかして一人だ行くつもりだった?」
「まさか、友達と二人でよ……て、あんた、両手に花ね」
(うん、でも片方は鋳薔薇だけどね)
「はは……まだ運転しながら話すのは難しいし……話しがもちそうにないから、僕も友達を誘って良いかな?」
「ええもちろん……それじゃあ、七月七日午後七時に、その友達とここへ車で迎えに来て」
「七七七なんて、何だかえんぎ良さそう」
僕の言葉に笑いながら、零は車の泡を流し、拭き上げ作業にかかる……数分後。
「暑いからコーティングは夜、ゆっくりするか……ごめん、この車、ガレージに入れてくるから待ってて」
そして戻って来た彼女は、水道の横で支度をしながら
「おまたせ……それじゃ車、水道の近くに移動させて」
「手伝おうか?」
と指示された場所に移動させ、降りようおうとする僕を止める
「ありがとう……でも今回は車の中で見てて、真似ごとレベルだけど『ビキニ洗車』見せてあげる……水ぶっかけるから、窓はちゃんと閉めてね(お互い面白いものが見えるかも)」
「うん」
(その何かをたくらむ小悪魔のような笑顔……可愛い)
にやけ面で待っていると、洗車が始まった。
(普段の作業着姿では分からなかったけど、彼女って想像以上にスタイルが良い)
車の整備って肉体作業だからか引き締まった体、とは逆にかるく変形するほど押し付ける胸に……僕はあわてて股間を手で隠し小さくなる。
……と目の前で窓を拭くスポンジがとまった……顔を上げると、ニタニタと笑う零の顔が。
(男のさがとはいえ……さっきから僕、もてあそばれてる?)
そして……高そうなカーシャンプーを使ったからか、彼女の洗車技術……いや、その両方のおかげで、僕の車は普段の水だけ洗車とは比べ物にならないほどきれいになった(みずあかが取れるだけで、こんなに違うのか)。
「それじゃ『アッシー君』頼んだわよ」
「うん」(『アッシー君』ていつ生まれだ?)
そして七月七日夕方……コンビニ駐車場。
「裸男、おまたせ」
「久しぶりの、俺、登場! みんな元気してたかな?」
突然、誰も居ない空間に手を振りひとりごとを言いだす友人(裸男)
「なに、ひとりごと言ってるんだ」
「べつに何でもあらへん……それにしても元、ナイス! 女の子を二人も連れてくるなんて、ええ仕事してくれたで……で、その友達もそうやけど、零ちゃんてのは美人か?」
その言葉で不意に『ビキニ洗車』の光景が浮かび顔を赤くする
「う、うん。僕なんかより車に詳しくて、とにかく明るい子だよ」
「車に詳しい女なんてレアやないか、話しやすそうで、ワイにとちゃ美人よりも、そっちの方がええで」
(慣れてる道とはいえ、話しながら運転は、集中力がさんまんになりやすい)
運転すること十五分……『津出自動車』駐車場に到着
「あの子達だよ」
「おお、美人さんやんけ……て横の車、もしかして『青の聖女』⁈」
「え。知ってるの?」
「この町で車好きかたるうえで、彼女知らんなんてモグリやで」
「ちなみに本名は」
「いや、それは本人から聞くのがすじやろ」
「あ、うん」
「『聖女』さんの横におるピンクの浴衣の子……どっかで」
「降りるよ」
「お、おお」
緊張でがちがちな裸男を見て、零が微笑む
「その反応、あたしがだれか知ってるみたいね『聖女さん』なんて呼ばれるのもなんだから自己紹介するわね……はじめまして津出零です」
「は、はじめまして地矢裸男です、元と知り合いなんて驚きです……もしかしてお二人は付き合ってる」
「そんな訳ないじゃない……驚きついでに元君、最近だけど旧空港のミーティングメンバーになった」
「うそ」
「零さん! ごめん裸男、いつか話そうと思ってて」
驚き目を丸くしながら僕を見る(にらむ)裸男に、とりつくろっていると……ピンクの浴衣を着た女性が近づいてきた。
「あのさ~盛り上がってるところ悪いんだけど、みなさん私のこと忘れてない?」
「この声と少しとげある口調、もしかして」
「花子さん」
「正解……三か月ぶり、くらいかしら」
「花子、あんた二人のこと知ってるの?」
「ええ、同じ高校だったからね」
「零さんこそ、いつ花子さんと知り合ったんですか?」
僕は零さんに向かっていた質問へ、当たり前の様に花子が答える。
「零とは中学の時知り合ったのよ……彼女って見た目、近付きづらいでしょ。だからよ」
(うんだから『(機械屋つながりで)いじってやろうと』ちょっかい出しに行ったのか)
「おお! そういや確かに、学区の違いで花子だけ別になってしもたもんな」
「そう言う事……で裸男は、車とか、持ってないの? ちなみにあたしはこのモトクロスバイクで……旧空港のミーティングメンバーよ」
「うう」
思わずうなる裸男……無理もない。彼にとってあこがれの旧空港のミーティングメンバーバッジ保持者が三人しかも知人で持っていないのは自分だけ……孤立感だ。
「ねえ、持ってないの⁈」
つめよる花子
「バッジは無くても、車くらい持っとるわ! 聞いて驚け、わいに車は『キューロク』や」
「は『旧式』? 中古車」
「う。確かに型落ちの中古やけど……いろいろドレスアップさせた『96キューロク』や」
それは七人乗りの普通車。
『車内広々、寝技の特訓をしよう』と意味不明なキャッチコピーで有名になった
『96キューロク(シックスナイン)』
「良いのもってるじゃない……なぜ持ってこなかったの?」
「うう……シャコタンだから無理(コンビニに入るのも一苦労)」
「はは! 『ペットと飼い主は似る』ってほんとね。裸男と同じく、見た目だけで使えない車だわ」
「図星を言われると(車検ぎりぎり)大半のシャコタン車(者)は言い返せない」
「好きな時に車高調整できる。コンプレッサーつきの足にしたら」
「それな。ワイも考えてんけど……めちゃ高いからな」
「あたしの所なら定価でつけてあげる」
「おい、定価やなんて逆に高くなっとるやんけ」
「よく聞いて。定価で……つまり取り付け工賃や、構造変更届の費用はいらないって事……どうする?」(約十万円引き)
「ボーナス二回分で、いけるかな……前向きに考えとくから、今の言葉忘れんといてな」
「ええ」
いずれ後に裸男は……旧空港入り口で僕同様に止められるが
花子の推薦と、裸男の誓い
「このイベントに来る女子みんなを彼女にするか、全員に告白してふられても、諦めず告白し続ける」
警備員が謎の主催者にそれを伝え……裸男はVIPタイプの部門でバッチをもらい……空港に入れるようになった
繰り返すがこれは、車高調を入れた後の話である。
話しと時間は戻り……。
「じゃあ乗って」
「ええ」「おう」「は~い」
運転席、元(助手席、裸男じゃない)
助手席、零(口出ししてやる)
運転席後部、裸男(確かに美人やけど……もとクラスメイト)
助手席後部、花子(零の紹介だからもっといい男と思ってった)
そして祭り会場に到着。
堤防を下ったとたん始まる、砂利と砂地。
「くそ」
僕の足回りがノーマルだからか、ハンドルが揺れて安定しない。
「着いたよ降りて」
河原だからか、少しさびたフェンスの向こうが祭り会場で……いなか町の祭りだ
見知った顔もちらほらと見える。
『クリスマスツリーと、七夕の笹飾りは似ているから』
と勉強不足な外人がデザインしたのか……中央のマウンド上には、色とりどりの電色でかざられた笹が夜風に揺れている。
(意外に綺麗……ありかも)
「ねえみんな撤去されないうちに早く、短冊を書こう(一枚百円)」
そして書いてると、不意に花子が話しかけてきた。
「ねえ、今年はどっちだと思う? 川に百メートル流されるのか、そのまま燃やされるのか」
「そんなの、流したって結局は燃やすんだから、手っ取り早く燃やすんじゃない」
「零さんらしい、だったら僕はその両方」
「おいおい元、それ一番『パーン』て鳴る(うるさい)やつやんけ」
短冊をつるし、あらためて周囲を見ても、毎年変わらない出店と配置。
「射的しようか」
「は、いつも通りやな……て景品変わっとるな……おっちゃん、景品変えたんか……去年あった『タバコ』『ライター』……とくにワイ楽しみにしてた『エッチな本(祭りだからぶれいこう)』は?」
(おい裸男、そばに女の子が居るのに『エッチな本』て)
「ああ君か……ライターはともかく、景品だからと言って未成年にタバコを、十八歳以下の子にエッチな本は駄目だろうって……法律とPTAがな」
「で……今回からは箱菓子をメインにしたんか」
「こっちの方がいいな」
「あたしも……それにして正解じゃない……ほら」
と零が射的を楽しんでる女性客を見る。
「ほな、わいらもしよか……はい三百円(十発)」
「見よ、真弓さん直伝の技を」
と言うなり花子は……装填、発射、コルク銃を回転させるながら装填、発射と止まる事ないはやわざで、景品を落としていく十発十中……最後は『ふっ』と銃口に息を吹いた……まさに『花子無双』
「これでジョニーに何回も勝った」
「ジョニーって、村上ジョニー」
「ええ」
「なんで⁈」
「なぜって……お兄ちゃんの友達だから……ちなみに真弓さんはね」
「知ってる、彼の彼女なんでしょ」
「て何で零、悔しそうに下見てるの?」
「はは。あたしより早くジョニーを負かした女が、こんな近くに」
「零さん……そうだかき氷おごりますから元気出して下さい」
「うん……じゃあスペシャル全部のせで(二千円)」
「う……うん良いよ」(ちゃっかりしてるな、流石は商売人の娘)
「あ、いいな私もおごってほしいな」と花子が甘えたこえで詰め寄る
(地獄耳……それに誰が原因でこうなっていると?)
「花子ちゃんの分は、ワイがおごったる……でも五百円までやぞ」
「ぶー」
型抜き……元の不器用さくれつ
「あれ?」
と何度も失敗(散財)している僕に、零が渋い顔で声をかける
「はは、この先心配になってきわ……緊張して肩に力が入りすぎ」
零はぬいた型に、浮彫で模様を入れるほど……祭りの域を超えてまさに職人技
そして翌日、七月八日の昼。
仕事をしている僕の耳に聞き覚えのある低い音が聞こえてきた。
(この排気音どこかで……近付いてくるぞ)
その車は店の駐車場に停車したので僕は注文カウンターでお客様を待ち構え……自動ドアが開いた。
「いらっしゃいませ……ご注文はお決まりでしょうか」
「大出尾元を」
「すみません僕は食べられません……てその声、零さん」
「正解」と帽子を取った彼女は言葉をつづける「あんたの車のパーツが入ったから連絡と、ついでに昼だし、久しぶりにハンバーガー食べるのも悪くないかなって」
「それは、両方ともありがとう、お勧めはこの肉たっぷりバーガーかな」
「じゃあそれ二つ……で朝から始めて一日で終わらせるから、あんたいつ仕事休みなの?」
「今週の水曜なら」
「OK。段取りくんどくからね」
といった感じにバーガーが出来るより早く、日取りが決まった。
そして二日後(七月十日)の早朝。僕は営業時間よりも早く『津出自動車』のドアを開ける。
「おはようございます」
「すいませんが、まだって君か、話しは零から聞いてるよ。呼んでくるからカウンター前の椅子で待っててくれ」
数分後……作業着姿で顔に機械油をつけた零が現れた。
「早いじゃない。あ、こんな顔でごめんね」
「おはよう、いや、逆にメカニックぽくて格好いいよ」
「ありがと。じゃあ車を裏に回して……リフトまで誘導するから」
「うん」
そして……車から降りると
「貴重品とか忘れ物はない? リフトアップさせるわよ」
「うん」
うなづくと同時に、車がもち上げられる。
「本以外で車を下から見るなんて初めて」
関心する僕に、不思議そうな顔をする零が説明を始める。
「そう? じゃあ説明するわね、今回替えるのは左右それぞれこの二か所『ドライブシャフトブーツ』と『タイロットエンドブーツ』で…………」
完全には理解できず『ポカン』と口を開く僕をよそに……彼女の説明が続く。
(いやすごい、ただ関心するばかりだ)
「……とまあ、こういう作業をするの。分かった?」
「う、うんまあ」
うなずく僕を見て、零がため息交じりに笑う
「まあ午後三時までには終わらせるから……じゃあ代車は……無いわ。そうだあたしの車かそうか?」
その瞬間、ガレージで大切でされてる青い車が、のうりに浮かんだ僕は、あわてて首を横に振る。
「いやいやいや。もし傷つけたらって、そんな度胸ないよ」
「はは、たしかにあたしも車が傷つけられたら無条件で殴ってしまうかも……じゃあ、家まで送迎してあげる」
零の車内……初女子車内で妙に興奮気味の僕
(これが女子の、いや零さんの車内……以前車外から除いたとおり装飾品がない。けど彼女だって女の子だから、芳香剤の良い匂いがすると思っていたが……少し機械油の臭いがするだけで……重量で邪魔だからか、芳香剤らしきものがない)
運転席のみバケットシート……で助手席は高級車の椅子を転用したのか、とてもいい座り心地で、排気音はすごく低く(すごく馬力が有るんだろうな)とそうぞうしてしまうのに安全運転だ。
「完了したら、一旦電話してから迎えに行くから」
「うんありがとう。でも意外……スポーツカーだからとばすと思ってた」
「サーキットじゃないんだからとばさないわよ……て、なに顔赤くしてんの?」
「い、いやなにも」
不思議そうな顔で僕の顔を見上げる零……。
普通のシートと、バケットシートの違い、それは数センチの座面の高さ。
つまり僕の眼下には彼女の胸元が見えている。
(素晴らしきかな、数センチ)
そして作業完成……足回りのブーツ等ゴムを少し良いゴムにかえただけだから見た目の変化は皆無だ。
(分かってはいたけど、少し残念)
肩を落としてる僕の背中を『ポン』と叩く。
「さあ乗って、見た目は変化ないけど乗り心地はべつものだから」
(修理をしたんだから、良くなっただろうけど……べつものとまで)
鼻で笑うように半信半疑で車に乗りエンジンをかけた。
そして……少し段差のある店(津出自動車)の出入口を曲がった瞬間、それは、驚きに変わり……「おお、すご」思わず言葉がもれた。
店の周囲を一周してきた僕は、車から降りるなり、彼女の『どうだった?』という言葉とより先に、
「すごいよ! タイヤからハンドルに来る振動が弱まったおかげで、ハンドリングが楽になり……その振動がおこしてた『ゴー』といってたロードノイズが減って、運転してストレスを感じる事無く……運転中の音楽にも集中できそうだよ……ありがとう」
「ははは、どういたしまして。そこまで喜んでもらえて、あたしもしたかいがあるよ……でも、最後の運転中の音楽に集中と、この距離は関心できないな」
と零は苦笑いしながら、鼻息荒く感想と感謝を、言いよる僕を両手で押しのける。
「ごめん、興奮して……静かになった文周囲の音に気を配ります」
「うん、分かればよろしい……運転中の音楽は、周囲の音が聞こえる適切な音量で楽しんでね」
読んでいただき、ありがとうございます。
『車に興味ない僕が、カーオーディオ、はじめました。』
第九部『アップグレード・七月』
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by.メガネ君(作者)