アップグレード・六月(梅雨時期ワイパー交換)
ことごとく面接に落ち、落胆する僕を見かねてか
「就職先が見つかるまで、少し自給を上げたパート扱いのつもりだったけど、正社員にしてやるよ」
「ありがとうございます! これで親父に殴られずに済みます」
……と、店長のいきなはからいで高校卒業をきに僕は、ハンバー屋のバイトから社員へと昇格し……はやくも一か月が過ぎた六月……つまり今日は給料日。
現金支給の封筒を、油べたこな手で受け取るなり中をのぞくと……
(所得税でごっそり減ってるとはいえ、さすがは正社員)
万単位で給料が上がっている驚きに『うぉほは』と思わず小躍りしてしまった。
(よし毎月、このうち一万をカーオーディオのアップグレードにまわすぞ)
都合よく明日は仕事が無い(休み)。
梅雨に入たとたん、どしゃぶり雨……『視界不良での運転はキケン』そんなの構いなしに僕は、新たなカスタムパーツとの出会いにむねをおどらせ、車を走らせる。
(車……調子悪いのかな? 線のような拭き残しが気になる)
と疑問に思いながらも……雨の中速度を落とさず走る。(キケンです)
「良いオーディオパーツない?」
ニコニコ顔で『津出自動車』のドアを開ける僕に、受付カウンターで事務をしている零が手を止め、ため息一つ、机を叩き立ち上がると、指をさしながら声を上げ僕の前に立つ。
「いらっしゃい……って、入店一番なに言ってんの⁈ ま、気持ちは分かるけど、車は本来はしるもの……まだこの車は中古パーツの集合体なんだし……第一まだあんた初心者マークでしょ、こんな雨の中、あぶないとは思わなかった⁈ 物は逃げないんだから、音楽を楽しむより、安全運転できるようにしなさい!」
「うう。たしかに……ごめん」
(みんなも雨の日の運転は、いつも以上に気を付けてください)
うつむき反省する僕に、零は安心して息をもらしうなずく。
「分かればよろしい……で、予算は?」
「毎月一万円でつづけていこうと」
「うん、良い金額設定ね……もしいきなり十万なんて口走ったらそのケツ蹴り上げるところだったわ。ははは」
「なぜ⁈」(もうかるから良いじゃん)
「いや、なんとなく……とりあえず、まずは消耗部品を中古から新品に交換ね」
客である僕の車を、まるで自分のものと言わんばかり、リードする零の言葉にながされるよう……
「うん……お任せするよ」
僕はみと車をゆだね……それをさっしたのか、勝ち誇ったような顔をする零。
「とりあえず車をピットに入れるから、カギ貸して」
「うん」
「ありがと。じゃあ、そこのドアから裏のピットに入れるから、先に行って、シャッター開けといて」
「はい」
と事務所裏のドアを指さすなり『頼んだわよ』と手を振って彼女は出ていった。
(客をまるで部下あつかい……って、言われるがまま従う僕もそうだけど)
そして、ピットの開けると……オヤジさんは、向かいがわの整備場にいるらしく、コンカンと休みなく金属音が聞こえる。
横を見ると彼女の青い車が……(追加メータ格好いいな)などと運転席をのぞいたりしていると……僕の車が入ってくきた。
車から降りるなり零は
「うん、ワイパー交換ね……季節がら暑さ対策にスモークフィルムも捨てがたい、と思ってたけどけど、この拭き残しはひどいわ(すっきり視界は安全運転に欠かせない)」
渋い顔で頭を掻く彼女にうなづく。
「うん、確かに運転しづらかった」
「でしょ。一万円も予算あるんだから、せっかくだからワイパーブレードごと交換するわね……合う新品有ったかな? あ、そこのシートに座っといて」
板金加工で足のついたセミバケットシートを指さすと、彼女は倉庫へと向かう。
「格好いい」
雑誌で見るばかりで初めて座ったセミバッケットシートは、背筋を締め付けられるようで少しきゅうくつだった……と体をくねらせていると。
「よかった有った……十分も有れば終わるから……って何やってんの、もしかしてマーキング?」
と言いながら零は……ネジを緩め、交換し締め直すなど……会話(僕の返答)を交わす事なく数分で作業は完了させた。
黒光りするアームに、今風のプラスチックカバーのブレード。
(これがチューン……僕の車がかっこよくなった)
「どう?」
「ありがとう、かっこよくなったよ」
「じゃ、お得意様割引して五千円ね……残った金は来月に回して……一万五千で、前輪の足回り……ブーツ等ゴムを少し良いゴムにするわよ」
「うん」
「まだ雨降ってるから、ピットの外に出て、ワイパーためしたら戻って来て、感想聞かせて」
早速、車を出しワイパー作動……一分後……バックして、驚き顔で車を降りる。
「すごいよ視界すっきり! ワイパーのゴム、以前は車内の音がフロントウインドを揺らしワイパーを共振させ共振したワイパーが今度はウインドーを叩いて、まるでバスドラム(太鼓)……それが今では……確かに音するけど、気にならない」
「でしょ……来月は足元の音が静かになるから楽しみに、仕事頑張って稼いできてね」
「うん、こんなに変わるなんて……このためにて思うと、仕事が楽しくなってくるよ」
読んでいただき、ありがとうございます。
『車に興味ない僕が、カーオーディオ、はじめました。』
第八部『アップグレード・六月』
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by.メガネ君(作者)