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デッキ・スピーカー取り付け

 CDデッキ、ドアスピーカー取り付け当日……快晴。

ご都合主義だろうが、地面も乾いており屋外で作業するにはうってつけのコンディションだ。

 待ちきれない僕はいつもより早く起き、身支度を終えるなり、車を出すなり……玄関先の道に出て『まだか、まだか』と行ったり来たりの右往左往。


 プァ~ン、と軽い排気音を響かせながら彼女は、原付スクーターでやってきた。

「おはよう。おまたせ……もしかして遅れた?」

「おはよう、ううん、時間どおり」

「良かった……ふふ、でも玄関先で待ってるなんてよほど楽しみにしていたみたいで、その分あたしもやりがいが有るわ」


彼女は荷台のボックスから、CDデッキを取り出す。

単色発光のデジタルメーターで平べったい、ワンディーサイズだ。


「これがあんたのデッキ……しにせ国産メーカー『ビックリサウンド』の一二三四(型番考え中)」


『ビックリサウンド』といえば、僕のイメージ。

ジャズが得意なメーカーと……確かに現行機もリーズナブルな値段で扱いやすい。


「ありがとう。予想外に良いメーカーで……てっきり、メーカー純正のグレー一色のだと思ってたよ」

「中古に一万も出してもらってるんだからそれはない。けどその分、スピーカーはメーカー純正になるから」


「うん。でも逆にその方が今度はスピーカーを変えようという目標が出来るから良かったよ……それじゃ早速、お願いします」


 運転席側に座ってもらおうとドアを開ける僕に、彼女は。


「はい、これ」

「あ、二百六十円て、缶コーヒー代。でもどうして」

きみ……初体験はつたいけんでしょ?」

 急に色っぽい声を出され、思春期よろしく顔を赤くしてしまう僕を見て、彼女は少し笑いながら言葉をつづける

「初めてだと時間かかるだろうから……焦らないためよ」

「ありがとう……僕は助手席に座るよ」


「ええ、ドアは閉めないで……あたしの体臭かぎたくないでしょ?」

「え⁈」

「整備に夢中でつい……て、始めるよ! まずは内張り外しから」


デッキ周辺の樹脂パーツをなぞりながら

「よく見て……所々に欠けた様なへこみがあるでしょ」

「うん」

「普通ならそこに『内張りはがし』やら『マイナスドライバー』を突っ込むんだけど……爪は丈夫なほう」

「うん」ためしに缶コーヒーを、片手で開けて見せた「ほら」

「やるじゃん……少し硬いけど、似たようりょうで、そこに指つっこんで、ぐっと引っぺがしてみて」

 デッキの四隅に有るネジを外し、デッキを引き出す。

「デッキとダッシュボードをくっつける、L型ステー(金属)は汎用性が有るから、以降もこのまま使えるし。一応、ほら」

ラジオの後ろには、色とりどりの配線が。

「見とれない……ほらこれ、社外品向けのカプラー付けてるし、形状も合うから、ボタンを押しながら抜いて……少しかたいわよ」



 頷き、ゆっりと配線を差し替えた。

「つづいて、スピーカーケーブル配線ね……端末加工たんまつかこうのギボシ端子は付けて来たから。社外品向けカプラーに付いてる名札を見ながら、これもぐっと差し込んで……ちなみに加工方法は、一センチ未満ケーブルの表皮をむいて、ギボシの穴に通したら、圧着ペンチで、かしめる……慣れれば簡単だけど数が有るから、意外と時間がかかるのがね~」


 ため息を漏らす彼女をよそに、僕はケーブルを取り付けた

『ここで豆知識(作者のこだわり)。ケーブルに書かれている文字は極性を表していることがある(文字の流れは音の流れ)……仮にCABLEと書かれているなら、Cはデッキ側に。Eはスピーカー側にしておくと良いかも』


「じゃあ、車から降りて。ドアの内張りを外すわよ……まずは数箇所のネジを外す。この車の場合、ドアノブと、ひじ掛けのあたりに計二つ」


 おやすい御用と僕は、言われるがままそそくさとネジを外す。

「出来たよ」

「早いわね……じゃあ下に手を回して、さっきと同じ要領ではがすけど……パワーウインドウの配線が有るから、気を付けて……ま、ぶっちゃけ。ドアの内張って、たいてい、外すのは楽だけど、戻す時の穴とか位置合わせ、窓の部分とかがが難しいのよね」


 苦労すると言いながらもこちらを見ながらほくそ笑む彼女。

(僕の苦労し弱っている顔でも思い浮かべているのだろう)

 ドアの内張りをはがす手ごたえが、急にかたくなり固まる僕に、ため息をつき、呆れたような口調の彼女

「ねえ、あたし言ったわよね、外すのは簡単だって……遠慮なく斜め上へ一気に外しなさい」


 カチンと頭にきた僕は「えい」と一気に引っ張ると、思いのほか簡単に内張りが音をたて外れ……各種カプラーを外す。


ドアの内側は穴だらけ

「これはスピーカーで言うところの、バスレフ」

「あ、単なるサービスホールよ……ごめん、普通ならそこは、ビニールでふたがされてるんだけど……あたしベタベタのブチルゴムが苦手で」


「ブチルゴム?」

「そこ、ドアの隅に黒光りしてる粘土みたいなの残ってるでしょ、触ってみて」

 言われるがまま触ったのが運のつき。それはニチャリと指につき、爪の中に入ってきて……取ろうとした反対の指にも付き。


「なんだこれ。引っ付いてとれない」

「ふふ……それがブチルゴム。どう気持ち悪いでしょ。機械いじりする者にとっては、洗礼みたいなものよ」

「うう」


「心配しなくても、お湯と石鹼で、丁寧に洗えば取れるから……つぎ行くよ」

「うん」


 彼女は配線を押し込み、デッキをかり置きする。

「ネジで止めないの?」

「この方が、何かあった時すぐに対処できるでしょ」


 僕の質問に、不思議そうな表情で答えながら彼女は

ダッシュボードを下から覗き込むようにしドアの近くまで引っ張ると

針金を取り出し、ドアの方から、配線ひしめくゴムのジャバラチューブへ

それを慎重に差し込み、通し、スピーカーケーブルを結び付けるなり、スルスルとドアの内部に引き込んだ。

 なんだろう、その手つきに思わず(すごい)と感心してしまう。


「社外品のスピーカーだと、コネクターや差し込み端子なんかが有るんだけど、今回のスピーカー端子ははんだで付けて、ちゃんとゴムカバーるから」


 彼女はバッテリータイプのはんだごてを使い、慣れた手つきで接着作業をし

純正スピーカーの土台リベットあとを利用し、ネジ止めすると彼女は、一仕事終えたとばかりに深く息を吐いた。


「はい、一丁あがり……後は音出しのテストをして、カバー内張りを戻すだけ」

「ありがとう。じゃあ早速エンジンかけるよ」

「どうぞ」


「中古なのに、静かなエンジン音」感心する僕を見て、得意気に鼻をならす彼女

「当然でしょ、あたしが整備したんだから」


早速CDをかけると……気にはならない程度の『ザーー』とホワイトノイズが

「乾いた音がする。けど、いずれは」


「この程度、運転してたら気にならなくなるわよ……第一、免許取り立ての初心者が(初心者じゃなくても)そんな事に回す気が有るなら、その余裕を交通安全の意識に回せ」

「ごもっとも……かえす言葉もないよ」


「うん。理解が早くて助かるよ……その気持ち(安全運転意識)忘れないように」

「うん」

「じゃあ、最後の作業。パネル、内張り戻しといこうか」


 そう言うなり彼女は、デッキ、スピーカーのネジをしっかり締め……デッキ側のパネルを押し込むように戻し……ドアの内張を持ち「おいで。よく見ててね」と僕に手招きをする

「外す時とは逆に、パワーウインドウのコネクターを戻したら、上から……こう、ウインドー枠の溝に合わせて、ゆっくり下ろしていく、と……ほらピッタリ、後は」

彼女はドアの隅を叩き、内張りを固定し……ネジを閉める


「おお」(当然だろうけど)

 迷いのない作業に感嘆の声を漏らす僕と、照れくさそうに笑う彼女。

そして見よう見まねで、どうにか取り付ける。

「これにて完成」

「ありがとう。じゃあこれ、代金の」

「一万円で良いわよ」

「でも」

「何だかんだで楽しかったから、良いの」

 代金を受け取るなり彼女は、忙しそうに原付スクーターにまたがる

「それじゃ、あたしはこれで」

「そんなに急がなくても、僕の家で」とボロイ自宅を目に、台詞を変える

「そんなに急いで、何か用事? そんな慌てなかいけない用事があるなら、作業日変えてくれても良かったのに」

「週末の晩……まあ、個人的な用事の準備みたいなもんだから……それにあんた、来週末までラジオなんて不満でしょ」



……と、彼女は去って行った。

これで今晩からは、ヘッドホン無し(近所迷惑にならない音量で)音楽を楽しめそうだ。



読んでいただき、ありがとうございます。

『車に興味ない僕が、カーオーディオ、はじめました。』

第六部『デッキ・スピーカー取り付け』

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とてもうれしく、励みとなります。よろしくお願いします。


by.メガネ君(作者)

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