ようこそ中古車(カオス)
今日は、待ちに待った。とまではいかずとも楽しみにしていたマイカーが来る日。
(これで僕もマイカーデビューか)
あれ、お前学校に、免許預けてるんじゃなかったか?
と思った人へ……確かに校則では車の運転は禁止されており、免許書は即座に、学校に預けなければいけないし、預け済み……当然これで私有地以外で運転すると、『無免許運転』即アウトだ。
しかし、意外な盲点が有る……そう、自動を購入し所有する事までは書かれていないのだ。
だからたぶん法的に、車庫や私有地であればエンジンをかけようが、近所迷惑にさえならなければ大丈夫という事だ。
「ふふふふふ」
ほくそ笑む僕の耳に、大型車どくとくのうなるような低いエンジン音が近づいて来た(さあ、お出迎えだ)
そして数分後……僕の自宅前。ポカンと口を開き立ち尽くす女性。
「津出さん」
「えあ、ごめん。ガレージが有るって聞いてたけどどこ……もしかしてこのほったて小屋が?」
「うん」うなずく僕に、苦笑いをする彼女「へ~」
「驚くのはまだ早い……ガレージどころか、実は自宅だったりするんだな、これが」
その言葉を聞くなり、下唇をかみ気まずそうに視線を動かす彼女は、頭を下げた。
「いや……その。なんか、ごめん」
「いやべつに謝らなくても、事実だし……って、僕も言ってて悲しくなってきた」
「ははは……まあとりあえず、車下ろそうか」
キャリアカーの荷台が地面へ斜めにスライドし……ウインチにつながった僕の車がゆっくりと降りてくる。
(遅くてじれったいけど……たまなくワクワクしてる)
そして、玄関前に駐車……塗装仕立ての傷一つ無いボディーが輝いている。
(綺麗だ……けどこれは『虹色』というよりは『玉虫色』だ)
けど、ボディーはいずれキズ付く、僕にとって大事なのはカーオーディオだ。
「中見て良い」
「何言ってんの。あんたの何だから断らなくても、ドアは開いてるし……鍵はドリンクホルダーに入ってるからね」
彼女の言葉を聞くなり僕はすぐさまドアを開け車内を見まわした。
生活臭一つない空間と、汚れ痛みのないシート、ワックスを塗ったのか濡れた様に光るダッシュボード。車の見た目にこらない僕にとっては十分満足。
(さて、お待ちかねのカーオーディオは……)固まる主人公
「あれ?」
車外に尻を突き出したまま、思わず声を出し固まる僕。
「どうかした……もしかして、何か文句でもあるの」
「いや、綺麗な社内で満足だよ……でも」
「でも?」
「CD入れるとこ、どこにあるのかなって」
「え? CDデッキなんて付いてないけど、注文通りちゃんと音楽は聴けるから……これ」
(なんてシンプルな)
「もしかして、マルチメディアプレイヤー?」
「へ~今の時代、これってそういうんだ……あたしはいつもスピーカー付きラジオって言ってるけど」
「ラジオ?」
「ええ、でもただのラジオじゃないの……FMも聞けるうえ、ステレオ放送すらモノラルにしてしまう、スピーカーがついてるの、どう凄いと思わない?」
(うん、すごい珍しい骨董品だ)
「うん。でも僕の場合、音楽はCD派なんだよね」
「スピーカー付きCDデッキ、そんなの……あ数年前、竹上電気から一機種だけ出てたっけ……でも、不人気すぎて入手困難」
その機種なら知ってる、ある意味、唯一無二ともいえるデッキだ。
とくにヴォーカルを担当し、カーシアターシステムにおけるセンタースピーカーの先駆けともなった栄光と……反面、一体型ゆえスピーカーが壊れると、本体も丸ごと修理となる不便。
「そんな黒歴史いらないよ。普通に、ほら、ドアのスピーカーから音が出る」
「ドアにスピーカーなんて付けてないわよ」
「え?」
「だって重くなるじゃない」
「でもスピーカーなんて、たった数キログラム」
「サーキットじゃ、それがどれだけのタイムロスになるか……あ、公道でも燃費への影響するかも」
「ははは、生粋のレーサーみたいだね……サーキット場とか走ってるの」
レーサーと言われ気を良くしたのか、照れくさそうに言葉を返す。
「まあね……でもあたしの場合、あんたも見たでしょ青いスポーツカー、終末あれをキャリアに乗せて、旧空港で走ってるんだけどね」
「すごいね……カーオーディオに話題を戻していいかな?」
「あ、ごめんごめん」
「物は相談なんだけど、CDデッキとドアスピーカー……中古で良いから付けてくれないかな?」
僕の言葉を聞くなり、彼女は電卓を取り出しはじき出した。
「うんいいけど、そうなるとケーブルと工賃込みで」
「お金取るの⁈」
慌てる僕に、あきれ顔を返す彼女。
「もちろん、何寝ぼけた事言ってんの……オールペン(全塗装)に車検満タン(二年)で『君以外誰にも触らせないから』なんてお得意様になってくれそうな事言ってくれたから、三十二万千円……これって正直、赤字出てんのよ。さすがにこれ以上まけられないわ!」
「ごめんなさい」
「いや、あたしこそ、むきになってごめんね……ちなみに、全部メーカー純正の格安中古で、工賃込み……一万ジャストでどうかな」
「うん、もう少し出せるから良ければ、僕に取り付け方教えてくれないかな」
「ええもちろん……今後もあたしの店からデッキなりパーツを買ってくれると約束してくれるなら……授業料込みで一万二百六十円で良いわよ」
「うん、約束するよ……でもなんか細かい金額だね」
「そっちこそ、細かい事言う男ね……何なら分かりやすく二倍の二万円請求しても良いんだけど」
一気に不機嫌なる彼女に焦る僕。
「いえ、一万二百六十円でお願いします」
「ええ、素直が一番よ……交渉成立ね……物は有るから、いつにしようか?」
(バイトの給料日が来週だから)
「再来週の日曜午前中、はどうかな?」
「ええ良いわよ、九時ごろに来るから……このこ(カオス)おもてに出しといてね」
「うん」
「それじゃあ、とりあえず以上ね。何かあったら連絡して……お買い上げありがとうございました。じゃ」
彼女は一礼すると、にこやかに手を振って、キャリアカーに乗り去って行き……僕は車ディーラーの営業マンよろしく、そのすがたが消えるまで見送っていた。
(おっと、こうしちゃいられない)
マイカーを納屋いや、ガレージに入れなくては……まずは初心者マークをはって……直角バック駐車。
トタン張りの、ガレージの中で玉虫色に光るマイカーをうっとり眺めていると……ピピピピピ。携帯のアラムが
(さて頑張りますか)僕は自転車にまたがりバイトへと向かった。
読んでいただき、ありがとうございます。
『車に興味ない僕が、カーオーディオ、はじめました。』
第五部『ようこそ中古車』
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by.メガネ君(作者)