オートサロン(カーオーディオとの出会い)
僕の町は、良くも悪くも自然豊かで、ふうこうめいびな田舎町。
そのおかげでか、県庁所在地でもないのに山間には二つも空港があり……今では飛行機が来ない旧空港で『オートサロン』なる車の展示会をかんらんすべく、僕は自転車を走らせた。
そして……旧空港入り口。
飛行機が来ないだけで、ここは高台に在り、避難所としても使われているせいか整備され、新空港にそれほど引けをとらない綺麗さだ。
車の展示会だけあってか、まだ午前中にもかかわらず駐車場は満車……ナンバーを見ると県外からも来ている
(せっかくの休日に金を出してまで、ただ車を見に来る変わり者がこんなに居るとは驚きだ)
会場入り口前には、その変わり者達が列を成し……その大半が男性だなと、遠い目で眺めている僕の肩を裸男がポンと叩く。
「おう、わいより早う来とるなんて……さては、むっつり車好きやな」
(何だよその単語)
「いや……ただ君が集合時間に遅れただけ」
「そりゃすまんかった、堪忍な……だって、わい色男やからな」
「どういう事」
「よう言うやろ『色男、金と力はなかりけり』て」
「ははは、とにかく行こう」(裸男って、経済事情は知らないけど、クラスで一番足早かったような)
はやり歩き出す僕の手をつかんだ裸男が首を振る。
「開場までまだ結構時間あるよて……わいらはドア開くまで、自販機のベンチで飲みながら待ってよか」
「早く入る為並ばないの?」
「よく有りの開会セレモニー、てのが有るし……第一、急いで入ったからって粗品なんてあらへん」
待つこと十五分、人波がぞろぞろと這うジィう内へと流れていくのを見て
「そろそろ行こか」と立ち上がる裸男の言葉に。
(どうせ客の声しか聞こえない静かで広い空間に、数台の車とその説明が書かれたプレートのセットが、整然と並んでいるだけだろう)
という予想に一人、鼻で笑いゆっくりと腰を上げ歩き出した。
数分後会場に入った途端……僕のくだらない予想は、いとも簡単に吹き飛ばされ、思わず立ち止まり、口をぽかんと開ける。
体にひびくような大音量の音楽や、宣伝の放送が混じり、まぶしいまでにライトアップされた車が傾斜状態で飾られてたり、回転台でゆったりと回っていたり。
例えるなら、まるでゲームセンターの人をわくわくさせる騒がしさ、に似ている。
「見てみい、あの車、めっちゃイケテルなぁ」
子供のように目を輝かせ指さし、駆け出さんばかりにはしゃぐ裸男。
他人のふりを決め込もうと、目をそらした時。
「ま、一般的な車展示会場はここまでや……こっから先こそがオートサロンや……まずはVIPスタイル」
ビップと言うくらいだ、きっと高級感あふれる車に違いないと期待していた僕は眉をひそめた。
不必要に光を反射させるするボディーにホイール。
スポーツカー以上……地面をすらんばかりの低い車高……
(何とも走り辛そう……関わりたくないタイプ)と思いながらも……『最高』『欧州車にも負けない』『視線を独り占め』など、その宣伝文句の数々には一番でなければ満足できない男の欲望が刺激される。
「めっちゃしぶいわ。こないな車に乗ってナンパしたら……うう、成功間違いなしや!」
色っぽいお姉さん達を見てか……鼻息荒く力説する裸男に苦笑いをかえす。
(いつの時代の話しだ)
「どうだろう……僕が女だったら、こんな怖い車近寄りたくない」
「ははは……元は、分かってへんな、そのちょい悪なとこがええんやろ」
しばらくの間、VIPスタイルを回る……スマホに写真をおさめていく裸男
「車もそうやけど……流石はナンバーワンカスタムメーカー。キャンギャルの姉ちゃんらも、車に負けずキラキラのべっぴんぞろいや」
「本当に……男だから仕方ないけど、ここでは車が主役だからね」
「そんなん言われんでもわかっとる」
と言いながらもカメラ小僧に混ざって彼女達を撮影する裸男。
数分後……VIPスタイルコーナーから、スポ魂コーナーへ。
ここでも裸男は、おなじみの反応をつづけている。
漫画の助けもあってか、僕もスポーツカーにはひとなみに興味が有るが……そこに展示されている車に思わず息をのんでしまった。
確かに外観は少し派手なスポーツカーだけど……装着されているマフラーや、ウイング……そして一目で(ただものではない)と納得せるエンジンルーム。
『こんな狭い所に閉じ込めてんじゃねえ! 早く俺を走らせろ!』
幻聴すら聞こえるほどのオーラーを感じる。
「すごい」思わず漏れた言葉に裸男が答える
「そやろ」
『ご来場の皆様にお知らせします。本日十三時より、滑走路にてプロドライバーによる、ドリフト走行、ゼロヨンのパフォーマンスを行います……どうぞご覧ください』
「もうそんな時間か……腹もへったことやし二階の売店、フードコートで飯食いながら見ようや」
「うん」
そして一台の車が滑走路を文字どおり、けむ路を上げながら滑走している。
交通違反な危険走行だが……非日常的光景に
「かっこいい」と息を漏らしながらも……庶民的にも
(ガソリンとタイヤの無駄だな)と心で苦笑いする。
一人の男が車から出てきた。
「ジョニー村上や……知っとるか、あの人わいらの学校の先輩なんや……あんだけのどらテク持ちながら軍人なんて……どないやねん! て感じや……しかもや」
男に何とも色っぽい女性が近寄る
「あんなに、色っぽいかみさん居るなんて……神さんはひきょうや」
(え? 気のせいだよな)
裸男のいやみが聞こえたのか、二人が僕達を見たような気がした。
そして……二階の物販コーナーをまわる。
キーホルダーに、シール、展示されていた車のミニチュアカー、写真集。
車好きにはたまんないんだろうけど、僕には(よく出来てるな、こんなのも有るんだ)と眺める程度のものばかり……気まぐれで買うにしても(高い!)
「さあ、最後はカーオーディオコナーやな」
オーディオ……つまり音楽、というキーワードに思わず質問する
「車ってオーディオとかも改造できるの」
「当たり前やろ……今日はあんだけ改造車見といて、今更何いっとんねん」
「だって親父の車に付いてるラジオ、壊れたまんまだから、交換出来ないと思ってたもん」
「はは、今時ラジオって、何時代の車だよ……親父さんらしいっちゃらしいけどな」
言い忘れたが、裸男と僕は中学校時からの付き合いだ。
中学時代……家のボロイ外見などをネタにいじられ、言い返せない僕
「お前らしつこいぞ、やめたれや……お前らこそかっこ悪いぞ!」
声を上げかばってくれ……それいらいの付き合いだ。
声に出さないけど、心の中では今でも彼に感謝している。
湿っぽい話はここまで。
僕達は、カーオーディオコーナである、格納庫に向かう。
近付くにつれ……いくつもの曲が同時に流され。落ち着きのない音が耳に刺さる。
「すまん……予想以上や……飯食べる前、いや一番始めに来るべきやった」
「どういう事?」
「行ったら分かる……気持ち悪うなったら言うてくれよ」
「うん」
格納庫に入った瞬間、裸男の言ってた意味が理解できた。
(ごう音とまではいかないまでもすごい音量)
格納庫の半分は外向けオーディオが間隔を開けて並び、変えあだを揺さぶる重低音の中、子供たちがリズムにのって飛び跳ねたりと、ちょっとしたダンスホールと化している。
この中では大声でしか会話が出来ない……不便だ。
「どうや凄いやろ~!」
「うん! でも趣味じゃない!」
「分かった、こっち来て!」
返事する間もなく裸男に、手を引かれ……行った先には。
重低音とまではいかないが、質量を感じるほど生々しい(リアルな)音を出す車が並んでいる。
「さっきのは、俗に音響族いうやつで……確かにいけとるけど、近所迷惑になるかもしれんから、わいも好かん……けど、これならどうや」
「良い、凄く良い……カーオーディオか……この手があった」
急にほくそ笑む僕に、裸男が一歩引いて聞いてくる
「こ、この手て、どの手やねん?」
「僕が音楽好きなのは知ってるよね」
「おう」
「でも僕の家はボロイから音量を出せない……だから」
「カーオーディオで音楽聞くいうわけやな」
「うん、こんなオーディオでアニソン聞いたら凄いだろな」
「ははは」
……そして帰ることにした。旧空港、ゲート前
「今日は、誘ってくれてありがとう……カーオーディオ……免許とる目的が出来たよ」
「ははは……ちと外れとる気いするけど……人間、目標持つんはええ事やし、なにより、喜んでくれてよかったわ………ううんとまあ……ここだけの話やけど、噂のよれば……この旧空港……」
「あ、知ってるよ……『小型UFOが』とか『天使が居る』とかだろ……天使だったら僕達の高校にもその昔居たって都市伝説有るよね」
「ああそれな……よう出来た合成写真付きでな……て、ちゃうわ……旧空港、不定期やけど週末の晩……車の集まりが有るらしいんや(謎の金持ち主催者が、警察署、市役所に届け出をし、利用料金も払い、受理されている)」
興味を持ち始め……免許取得にみが入る(音楽好きの独特な手法で課題をクリヤーしていく)
読んでくれたんやな、おうきに、ありがとさんです。
『車に興味ない僕が、カーオーディオ、はじめました。』
第三部『オートサロン(カーオーディオとの出会い)』
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とてもうれしく、励みとなり、この世(車に興味ない僕が、カーオーディオ、はじめました。)の女の子全てナンパできそうやから。よろしくお願いします。
by.地矢裸男