彼女へのクリスマスプレゼントは、僕の人生初デート(なんて、おかしいかな?)
僕が先に『プレゼント』したはずのチケットが、その日のうちに……倍額はするであろうウーハー取り付けの『おれい』みたいになった事(勝手なイメージ)に
(なんがかな~)ため息をもらしたが……すぐに今度は鼻息荒く緊張し高揚しはじめる。
彼女は笑顔でチケットを受け取るなり「元と行きたい」とお願いしてきたのだ!
え、勝手な妄想で事実をねじ曲げるなだって⁈
妄想してもいいだろ……なにをかくそう、今日この日が僕、大出尾元の人生初デートなんだから。
車に乗り込み、エンジンスタート。
(ここはいつものアニソンを聞いて、気を落ち着かせよう)
しかし結果は逆効果……付けたばかりのウーハーの低音に大興奮。
尻が浮くほどノリノリに運転席で一人、体を揺らす(まるで不審者だ)……と停車時向けられる冷たい視線で……われを取り戻した。
そして『津出自動車前』……ミッションスタートだ。
今日、彼女はどんな服装だろう……期待しちゃいけない『動きやすいから良いじゃん』て長袖作業着の可能性が。良くて少しおしゃれな部屋着だろう。
(とにかく今日は、彼女を楽しませ、僕も楽しむぞ)
約束の三分前に到着。
僕を発見して手をふる彼女は、レザーのダウンジャケットに、ボアのマフラーをしたりと、おしゃれながらも、動きやすそうな服装をしている。
だが近づくにつれ少し渋い顔になる
(もしかして遅れた)
「お待たせ」
「まあ時間どおりね……ちょっと、音もれてたわよ」
「ごめん。ウーハーの低音、出すぎてた?」
「ううん、全体的に音もれしてた」
「ごめん……音量を控えるよ」
「良い心がけね……今度のカスタムは『デッドニング』とまではいかなくても『アウターパネル加工ね』」
……出発して半時間
『ご都合ランド』は二つ隣町の山をけずった広大な総合テーマパークである
半券を手に右側『入り口ゲート』をくぐると……おしゃれな建物が並ぶ向こうに、来園を歓迎するように笑顔で両手を広げたマスコットたちがお出迎え、ちびっ子たちに囲まれている。
「よければ写真撮ってあげたかったけど……相変わらずの人気だね」
「うん。てもうそんな年じゃないよ……ちびっ子たちのパンチやキック、体当たりにたえている」
そして横を見ると『出口ゲート』が近いからか、土産物屋もお出迎えしている。
「乗り放題チケット(半券)だから、どれからにする?」
などと質問しながら、ゲートを抜けてから何度も絶叫が聞こえるジェットコースタに目をやり(零さんならきっと)笑みを漏らす僕の肩を、苦笑いしながらつつく彼女
「いや~。ジェットコースターは苦手、かな」
「えっ意外……旧空港じゃあんなに車とばしてるのに」
「だって、自分で動かすのとは違って予想が出来ない」
「う~ん」
『確かに言うとおりだ』とうなずきながら(……だとしたら、怖がる姿が見れるかも)心でほくそ笑み
「でも食わず嫌いと一緒で、意外と面白いかも。一緒に絶叫しましょう」
「絶叫ねえ」
「あれ。もしかして怖いんですか? 『青の聖女』なんて呼ばれてる人が……これじゃジョニーさんに勝つなんて夢また夢だな」
今時、小学生でも引っかからない見え見えの挑発……だけど
「は! この私が怖がってるですって……乗ってやろうじゃない」
なぜ減速やドリフトもせず、あんな速度で曲がれるの? まるでレールの上を走ってるみたい
と青ざめていた彼女も、僕がよってベンチで休んでるうちに……苦手を克服した。
「また乗ってくる(十五周目)」「復活したから、もうそろそろお昼にしない?」
そしてフードコートでかるく昼食を取った僕達は、食べ立ちきゅうに体を揺らさないよう、胃にやさしい『草食動物ふれあい広場』に向かうと……彼等の一足遅い食事タイムにあった。
(葉をかむたびヒクヒク動く鼻に、お尻としっぽがなんとも愛らしい)
しゃがんで様子をじっくり見ていると不意に彼女が話しかけてきた。
「可愛いよね」
「え?」
「ウサギ、可愛いよね。あたし草食動物が好きなんだよね」
「またもや意外……零さんて、僕と同じく肉食の雄ライオンが好きだと思ってた」
「あたしを何だと思ってんの? ライオンだったら、牝が好き。オスなんて『ハーレム守るために本気出す』以外、ぐうたらして……それで『百獣の王』なんて」
ゲームコーナーではチカチカ点滅する画面が並んでいるが
(こんなテレビアーケードゲームは、町のゲームセンターに行けばいつでも遊べる……他に、ここでしか遊べないような)
隅の方に数台並ぶ筐体に目が行く
(あれはバスケットシュート)
「懐かしい……小学校の頃近所のスーパーで数回やって以来だ……でもいつの間にか無くなってた」
「あたしもこれ、したことある……そうだ……これで勝負しない」
『さっきからバカにされたお返しだ』と言わんばかりの不敵な笑みを浮かべる彼女……だが。
力いっぱい投げたり、狙ったり、様々な投げ方を(試行錯誤)する彼女をよそに僕は、まるでジャグリングのように休みなくボールを入れつづけた……結果。
「勝った」
「うそ。なんで」
負けず嫌いな彼女ですら『もう一回』と再戦をあきらめるほどの大差が表示されている。
「試合みたいにボールを取られる心配がないから。ただ無心で下に転がってきたボールをゴールに入れ続けるだけ……単純作業なら任せてよ」
そして……肉食動物などを乗り物の中から見る『サファリ号』受付けん乗り口に向かう途中、ふと彼女が立ち止まり僕の肩を叩き、指さし自信満々に胸を張る。
「今度こそ、あたしの勝ちね」
「う。確かに……すでに勝つ気がしないけど……乗ってみたい」
この会話から予想がつく読者もいるだろう……そう、彼女が指さしたのは『レーシング・ゴーカート乗り場』だ
レーシング、と言っても対象年齢は十歳以上と、派手な外見と音を出すだけで、目の前を通過するそれは、時速三十キロも出ていないだろう。
(まるで子供だまし……これなら彼女といい勝負が出来そう)
鼻で笑いあらためてマシンを見る
「これ、ゴムで囲まれてるってことは、体当たりもありってこと」
「常識的に考えて(非常用クッション)無しでしょ……もしかして」
「……うん」
うなずいた僕に向けられる怒りをないほうした冷めた視線
「は、あきれた……良いわよ、体当たりして妨害いても」
「え」
「その代わり『リミッターカットのスペシャルマシーン』にして十五周勝負にするから」
「ちなみに何キロ出るの?」
「百キロ前後かしらね……足りない? だったら追加料金で」
「なにか分からないけど、ごめん! スペシャルマシーンでお願いします」
受付の男性店員(実は旧空港のメンバー)
「え『青の聖女』なぜここに⁈」
「プライベートよ。彼と」
『え』ぼうぜんと僕を見る店員に
「勝負するから……スペシャルマシーン、二台よろしく」
彼女の一言に『えっ、マジで?』『なんの冗談?』視線で返す店員だが……すぐ『こうしちゃいられない』と入り口を閉め、マシンを用意しヘルメットと手袋を渡す。
「聖女はいいとして、君。このマシンの操縦法知ってる?」
首を振る僕に、一般客がはけるまで、操縦方法やルールを説明してくれた。
数分後……フリーになったコースに店員の放送が響く
『ただいまよりスパシャルマシンタイム』など
結果は当然彼女の圧勝……僕を周回遅れにして、勝利を確実なものにした彼女は、僕をからかうように遊び始めた……だがその操縦技術には目を見張るものがあり……(ひとつの美を見ていいるようで)負けても不思議と悔しくはなかった。
(勝負の詳細、駆け引き……考え中)
そして『サファリ号』受付けん乗り口は木製
小学校の町内会で来た時から一つも変わらないデザインと、ディーゼルエンジン独特の小気味いい音
「どこの誰が整備してるか分からないけど、良い音してる」
関心する彼女だが……発車し……動物が目の前にきたとたん、少し引いてしまうくらいに大興奮
読んでいただき、ありがとうございます。
『車に興味ない僕が、カーオーディオ、はじめました。』
第十六部『彼女へのクリスマスプレゼントは、僕の人生初デート(なんて、おかしいかな?)』
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by.メガネ君(作者)