まずは免許から
「ああ……世界は音で溢れってる」
パチパチと音を立ておどる油に、ハンバーグが焼け、ポテトが揚がるかる。
そして、誰もが唾をのむ油の焼ける匂い漂う厨房を、横ステップで交差する従業員の軽快な足音。
あうんの呼吸で次々と運び出されるメニューたち、それに追われ、騒がしくなるカウンター
そうここは、とある町のバーガー屋だ。
口数少なく不愛想だから、接客も手先も下手な、バイトの僕はただ黙々と毎日、大量のポテトと少しのナゲットを挙げている。
(まるで機械だ)
そうこうしている間に、午後8時。
店外に出て通りを確認した店長が号令を出す……閉店の時間だ。
今(え?)と思った人のため説明しよう。
ここ『おきらくバーガー』は、個人店なのだ……だから
「捨てるよりはましだろう」
という店長のはからいで、今回も数百円という破格で入手した、紙袋一杯のポテトを自転車のかごに入れ、帰路に着く。
商店街で流れる流行の曲に、行き交う人々の話声。
まったく、世界は音で溢れている。
数分後……今度は打って変わって、静かで街灯少ない住宅街。
その一角……空き地の中心に、一際目を引く全面トタン張りの家。
僕が生まれる前、日曜大工好きな親父が職場の仲間数人で、十日程で建てたと自慢する……文字どおり自慢の我が家だ。
何度見ても……表札代わりに外壁にスプレーで書かれた名字『大出尾』のセンスには思わず「昭和の暴走族かい」とツッコまずにはいられない。
きしむ木戸を開閉するたび、ボロイと実感できる。
(これで台風や地震に耐えているのだから、不思議だ)
僕が知らないだけで『町内七不思議』に数えられていのかもしれない。
「おかえり~」
「ただいま」を言う前に聞こえる親父の声。
狭いながらも自室が有るのはうれしいもの……これから僕のリラックスタイムだと、無性に湧き上がる開放感
万歳をするように伸びを一回、椅子に座り、制服購入の粗品で中学時代から愛用しているCDラジカセの再生ボタンを押し、
漫画本を左手に、本が汚れないように爪楊枝でポテトを食べる。
さあ、至福の時間の始まりといこうか!
好きなアニメソングを大音量で楽しみたい
だが残念、先にも言ったとおり我が家はボロく、トタンと数センチのベニヤ板という、通気性は最高だけど、防音性ゼロの壁では、夜に音量を上げて音楽を聞くなど
怒られた挙句、音楽鑑賞禁止の運命が容易に想像出来……到底不可能だ。
ゆえに我が家同様、使いこまれたボロボロのヘッドホンを着けなければいけない。
しかしメリットも有り、そこから聞こえるかなりノイズだらけの音は……どこかレトロで味があり、この狭い部屋を、レコード音楽流れる喫茶店に変えてくれる。
残念ながら世の中、盛り上がって来た時にかぎって、邪魔が入るがお約束で……
今回は親父が当番らしいく。
音楽も漫画も盛り上がった来た時。
ノックもせず入ってきたうえ、いきなりヘッドホンを外された。
「親父、いきなり何」
不機嫌ににらみ反論する僕なんかお構いなしと、親父が話し出す。
「ヘッドホンのふた(イヤーカップ)たたいた方が良かったか?」
「いや……」
(密閉型のヘッドホン……そんな事されたらかるく悶絶してしまう)
反論出来ずだまる僕の目を見ながら、親父が提案する。
「元お前も十八歳になったんだから……ま、とりあえず免許を取ったらどうだ? 就職するなら履歴で有利になると聞いたし……都会に行かないなら、どうせ必要になるぞ」
「昨日、学校でも聞いたよ……確かに行くべきだと思うけど、自動車学校って、授業料が高そうだし……バイト代あまり使いたくないんだよな」
ため息に、眉をひそめ、あからさまに嫌がる僕に親父がくいさがる。
「だったら、わしが全額出してやるし……さらに、免許取った祝いに中古車をプレゼントしてやる、と言ったらどうだ⁈」「うっ」
庶民派の僕の心が『タダ』と言う意味になびき……口を開かせた。
「……タダで行けるうえ、車も持てるか……うん早速明日、学校で許可書もらってくるから『でも、よく考えればやはり』なんて撤回しないでよ!」
早口で返事する僕に、親父がため息混じりに苦笑する。
「相変わらず、げんきんな奴め……おう、明日じゅうに『住民票』と『印鑑』ついでに金も(授業料など、約三十万)テーブルに置いとくから……それこそ俺の気が変わらないうちに手続きしてこいよ」
と言うなり親父は、(何と不用心な)呆れる僕をよそに、満足げに部屋を出て行った。
読んでいただき、ありがとうございます。
『車に興味ない僕が、カーオーディオ、はじめました。』
第一部『まずは免許から』
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by.メガネ君(作者)