無人島生活8話 ゴリラゴリラゴリラvsジョーズ 南海の決闘★
潤弥が森で悪〇の実や蛍光色のキノコ何かを集めていたとき、ゴリッチは海の中にダイビングッ!
元十種競技のチャンピオンであるゴリッチの肺活量はゴリラゴリラゴリラ(ニシローランドゴリラというゴリラの学名が、ゴリラゴリラゴリラなのであるッ)並みにある。
一度の呼吸で五分近く潜ることができる、人間を辞めたゴリラと人間のハイブリットがゴリッチなのである。
ゴリッチはその自慢の肺に空気を蓄えて、潜水した。
海中は澄み渡り、群れで泳ぐ魚の姿がハッキリと見えた。
素っ裸の姿は野性味に溢れ、正に海猿ならぬ、海ゴリラ。
ゴリッチはその自慢の筋力を駆使して、浮力にあらがい海底に転がる岩に隠れた魚を狙う。岩のすき間を捜していると、大きな魚を見つけた。
食べられるかどうかなど食べてみなければわからない、と言う考えのゴリッチは迷うことなく魚を木の枝で貫いた。
魚は激しい抵抗を見せたが、ゴリッチは木の枝で動きを封じた魚を両手で捕らえて、海面に浮上した。
「とったどッ―――――!」
魚は往生際が悪くジタバタと暴れて、傷口から血を吹き出した。
速くこの魚を陸に上げなければ、奴が来るッ!
ゴリッチの野生の勘がそう告げる。
ゴリッチはオリンピック金メダリストもビックリな速度で泳いだ。この速さなら難なく世界を取れる速さだ。
ゴリッチのその超人的な肺活量が不幸を招いた。あまりに長く潜り気付かぬうちに沖の方に出てしまっていた。陸地との距離が三百メートルほど開いている。
そのときだった。背後で、ダダダッ、ダダダッ、ダダダダダダダ~♪ というミュージックが聴こえはじめた。
このミュージックは奴の接近を知らせるときに流れるあれだッ。ゴリッチは顔を水中に浸して振り返った。もう三十メートルほどの距離まで奴が迫っていた。
人間を辞めたゴリッチをしても、奴に泳ぎで敵うはずもない。
海の王者である奴に、泳ぎで敵うはずなどない。
こうなったら覚悟を決めなければ。
奴と闘うしかないッ!
「魚は渡さんッ!」
全身の力を解放し、ゴリッチは戦闘モードに入った。
リングは完全アウェイの水中。だが、負ける気はしない。
体の内側から湧き水のように力が溢れてくる。
「フフフフフ、俺様に喧嘩を売ったのが運のつきだったな。見せてやろう、この溢れ出るパワーをッ!」
ゴリッチの一人称が僕から俺様へと転じていた。まるで、ド〇ゴン〇ールのツンツン頭が超〇イヤ人に変身したときに一人称がオラからオレに変わるのに似ていた。
ゴリッチは捕らえた魚を口に加え、海中に潜った。
ダダダッ、ダダダッ、ダダダダダダダ~♪ とミュージックを響かせながら目と鼻の先に奴、そうジョーズが迫っていた。
ジョーズはゴリッチの周囲をけん制するようにグルグルと回り、出方をうかがっている。体長三メートルはあろうかと言うほど巨大なジョーズだった(ホホジロザメ)。
ゴリッチが捕まえた魚の血のにおいを察知して、ここまでやって来たのだろう(サメが何キロ先の血のにおいを嗅ぎ取る、というのはかなりの誇張らしい)。
ゴリッチは木の枝を構えて、近づいてくるジョーズを追い払う。もたもたしていると、仲間が来てしまうかもしれない。早く決着をつけなければ。
先に動いたのはジョーズだった。
ジョーズは方向転換すると、ギザギザのナイフよりも鋭い牙をむき出しにしてゴリッチに襲い掛かった。今ゴリラとジョーズの命を懸けた闘いの火ぶたが切られた。
ゴリッチは巧みな潜水技術でジョーズの攻撃を紙一重でかわし、続けざまに木の枝をその横腹に突き刺した。
だが、木の枝はジョーズの鋼鉄の体に傷一つつけることができなかった(当然だッ)。
(クッ……やはり固いな。だが、図に乗るなよッ!)
ゴリッチの攻撃に怒り狂ったジョーズは尾びれを激しくバタつかせて、ゴリッチに鋼鉄の尾びれを放った。
ロードローラーのような衝撃を耐えて、ゴリッチは怯むことなくもう一度木の枝をサメの鰓目掛けて放った。
木の枝は一直線に水を切り裂き、ジョーズの鰓に突き刺さった。ジョーズは陸に釣り上げられた魚のように、苦しそうにバタバタと暴れた。
だが、木の枝ではサメを殺すまではいかない。
ジョーズは怒りに我を失い、怒り喰らう〇ビル〇ョー並みに再びゴリッチに襲い掛かるッ。
(俺が憎いかッ! かかってこいッ! 返り討ちにしてくれるわッ!)
ゴリラとジョーズは真正面から対峙した。
ジョーズはロケットのような速さで一直線にゴリッチに喰らいかかる。
(隙だらけなんだよッ!)
ゴリッチは渾身の力を右手に集中させた。
〇U〇TER×〇U〇TERのゴ〇が恩師の復讐のために覚醒したときのような筋肉の盛り上がり方を見せた。
その様相はもはやバトル漫画ッ!
ゴリッチは一人称だけでなく、姿も変化する。
ゴリッチの髪の毛が急激に伸びたッ。
その変化はゴリッチの保有スキル、ゴリラゴリラゴリラによる変化だったッ!
大口を開けたジョーズの鼻っぷしに、ゴリッチはじゃんけんグーを叩き込んだ。ゴリッチの拳とサメが激突したとき、水中だというのに爆発音に似た音が鳴り響いた。
拳の衝撃でトラック同士の衝突で発生するような波紋が広がり、ジョーズは背後に吹っ飛んだ。
サメの神経は鼻に多く集まっているという(サメの鼻が弱点だという説と、効果がないという説の二つが存在するらしい)。
ゴリッチ渾身のじゃんけんグーを叩き込んだが、サメは体勢を立て直すと再び突っ込んで来た。ゴリラのパンチだといえど、一撃でジョーズを倒すことは難しい。
ゴリッチはもう一度右手に力を込めて、じゃんけんグーの構えをとった。馬鹿の一つ覚えで突っ込んで来たジョーズの鼻に、もう一度じゃんけんグーを叩き込んだッ!
とんでない衝撃が海中を核爆発のように広がり、ジョーズは動きを止めた。
(勝ったのか……? 勝った……)
十秒が経過しても、サメがぐったりとしたまま動かないのを見て、ゴリッチは今度こそ確信したッ!
(勝ったッ!)
ゴリッチがそう確信したときだった。
動きを止めていたジョーズは最期の力を奮い起こし、ただゴリッチを殺すことだけを目的とした殺戮人形へと化した。
ジョーズは大口を開けて、目の前にいるゴリッチに喰らいつこうとする。タガが外れたジョーズは、常識では考えられない速さだった。
ゴリッチの野生の勘と、幾多もの戦闘経験がその危機を脳が体に動きの指令を出すよりも早く理解し、体は動いていた。
後0,4~5秒遅れていれば、ゴリッチの命はなかっただろう。
ゴリッチはかわし際に足に力を溜めて、ジョーズの腹を蹴り上げた。
ジョーズは海面目掛けてグルグル、ジャイロ回転しながら浮上する。
ゴリッチはすぐさま追随し、最後の力を振り絞りじゃんけんグーをジョーズの腹目掛けて二発叩き込んだ。一発目で海面に叩きあげ、二発目で空を舞った。
ジョーズは十メートル近く宙を飛んだのだった。
海面に叩きつけられ、殺戮人形と化していたジョーズは腹を上にして、海面にたゆたった。
「勝ったどッ――――――!」
ゴリッチは喜びの雄たけびを上げた。
達人同士の闘いは数秒で決着がつくという。
ゴリッチとジョーズの闘いも時間にしてわずか二分ほどのことだった。地上のゴリラと海中のサメの勝負は、ゴリラの勝利で決着がついた――。
「と、いうわけでや。前回の続きやで。え~っと、何やったっけか?」
「そうやったそうやった。で、どこのホストクラブで付けてもらったん?」
「何でそうなるんだよッ。おまえはいちいちボケないと、話できねえのかッ。それに俺っちはホストじゃねえッ。れっきとした俳優だよ」
「はい、それじゃあ、色々と訊くわよ。まあ、色々じゃないけど。あなたはどうして潤弥って名前なの?」
「事務所の社長が俺を一目見て、『you、今日から潤弥ね』ってことでなぜかわかんねえけど、潤弥になったんだよ」
「つまり事務所の社長も、ホストみたいな男やから潤弥って名前がパッと思いついたんやろ」
「おまえはホストにどんな偏見持ってんだよッ! ホストだってな……ホストだってな……大変だんだよッ。華やかそうに見えるだろうけど、売り上げとか、上下関係とか、酒の飲み過ぎで肝臓悪くなるし……ホストも大変だんだよッ!」
「考えればわかることだろうがッ。それにホスト役やるにあたって、それなりに勉強したんだよッ」
「どうして、おまえらは俺っちを怒らせるようなことばかり言うんだよッ!」
潤弥は涙目になっていた。
まるでいじめられっ子のようである。
「ごめんごめん……あたし達が悪かったわ。だから泣かないで……」
モーリアンはソファーを立ち上がると、潤弥の目の前に立ち彼を抱きしめて頭をなでなでした。
それは赤ちゃんをあやすお母さんのようであった。
潤弥はゆでだこのように耳まで真っ赤にしてモーリアンを突き放した。
潤弥は堪忍袋の緒が切れて、モーリアンとの追いかけっこをはじめた。
運動会と化すスタジオ。
追いかけっこは約10分は続いたそうな。
追いかけっこの終わった潤弥に訊ねた。
「男が秘密なんて持ってても意味ないわ。きしょいねん。秘密は女の武器なんやからなッ」
「まあ、確かに秘密要素があった方が、魅力あるかもな。うちも名前言わんかったらよかったわ」
押し黙るエリー。
「あ、思い出したわ。そう言えば、評価もらったんやった。ありがとうな」
意味がわからず固まる潤弥。
「どういうことだよ……? 何で土下座なんてしなきゃいけねえんだよ?」
「わけわかんねえよ……? どうして誠意で土下座しなきゃなんねえんだ?」
「ジャパニーズ土下座は世界でも通用する、日本の文化なんやでッ。スゥシ、テンプゥラ、ニンジャ、ドォゲェザ、ハラキィーリは日本の文化やねんッ。頭は低く、感謝の気持ちを伝えるには土下座やねんッ。だから早く土下座をしろと言ってるんだッ。感謝、感謝、感謝、感謝、感謝、感謝、感謝、感謝ッ!」
モーリアンは潤弥を引っ張り出して、地面に手を無理やりつかせた。
モーリアンは潤弥の上に覆いかぶさり、強引に頭を押す。
「早く土下座をしろッ。土下座、土下座、土下座、土下座、土下座、土下座、土下座ッ!」
「まだ引き連れるとは言ったけど、さすがにもうブーム過ぎたから受け薄いでしょ? 見てて馬鹿らしく見えるんですけど」
だが、モーリアンには聞こえていなかった。
抵抗する潤弥を土下座させることに必死だ。
ルルル♪ ルルル♪ ルルル♪ ルルル♪ ル・ル・ル・ル・ルール♪ ラララ♪ ラララ♪ ラララ♪ ラララ♪ ラ・ラ・ラ・ラ・ラ―ラ♪
ルルル♪ ルルル♪ ルルル♪ ルルル♪ ル・ル・ル・ル・ルール♪ ラララ♪ ラララ♪ ラララ♪ ラララ♪ ラ・ラ・ラ・ラ・ラ―ラ♪