七行詩 601.~610.
『七行詩』
601.
車輪は私の足となり
砂利道の上を 転がるでしょう
次の嵐が来る前に
雨雲よりも 速く駆け抜けて
貴方のもとに 傘を届けたい
喜び溢れる この知らせを
貴方のもとに 届けたい
602.
貴方に出会うことのない炎は
燃え上がることはできずとも
静かに照らし続けるでしょう
私の影を 映し出すでしょう
バチバチバチと 音を立てて
差し出した薪が 崩れるのを
私は見つめ 消えないようにと 願うでしょう
603.
来る日も来る日も 私は言葉で
千羽の鶴を折りました
一夜に一羽 千の夜を数え
ようやく貴方を見つけました
あの夏を越え 冬を越え
言葉を届けに行くためには
その翼で 羽ばたいてもらわねばなりませんから
604.
眠れぬ夜は 歌いましょう
幼い頃に 覚えた歌を
私は貴方に 語りかける
肩を抱き 子守唄のように 聴かせては
疲れた私も 眠るでしょう
同じ夢を見られたならば
得がたい温もりを 分かち合うことも叶うでしょう
605.
「ただいま帰りました」
明かりのついた玄関から
安心の香りを求めて向かう
私は我慢ができなくなってしまったのでしょうか
私達の時計は古く
何度も電池を入れ換えては
少し遅れて 再び動き始めるのです
606.
真冬の夜道を歩いている
凍えて一歩が出なくなったら
その先へ 私を運ぶものは何か
それは私を ここまで連れてきたもの
小さな 小さな 情熱です
明かりは要らない 私には道が見えているから
時計は要らない 時間は長く残っているから
607.
私は一つの花瓶です
貴方が受け取った花束を
部屋に飾っておくための
そしてその花達とともに
傍で貴方を 見守るための
貴方の栄光の余韻となり
ひととき その羽を 休めるための
608.
眠れぬ夜は いっそ眠らず
私は思い浮かべるのです
叶うことのない 素敵な夢を
貴方も 思い浮かべてみてください
貴方が叶える 素敵な夢を
二つの夢は 出会うでしょう
境界のない星空に 肩を並べて 座るでしょう
609.
手紙を書いたら 先に封をしてしまいましょう
タイムカプセルと同じように
二人が変わってしまっても
感じたことを 書き換えてしまわないように
ただ一人が大切なのに
ただ一人を傷つけてしまうなら
神は幸運の代償に 私に罰を与えるのでしょうか
610.
私はいつも 浜辺にいて
一人の時間を見計らい
ここが世界の最果てのように
呼吸し 風を浴びている
私こそ 世界中で 誰より長く
貴方のことを 待ち続けられると
いつか証明してみせたい