現実世界はバグります
現実世界に、バグがある。
そう言われて思いついたのは、とあるRPGの、なぞのばしょ、だった。
「はい、ということで、今からお時間はありますか?」
目の前にいる眼鏡をかけた、180センチはくだらないであろう優男。
最近不思議なことが家で起こっている、という話から、そういうことならここを頼るといい、という知人からの紹介で、私はとある事務所に来た。
事前に連絡を取っていたこともあり、軽い自己紹介のあと、話はするすると進んだ。
すると、てっきり心霊現象や病気だとか思っていた私の体験した不思議な現象は、現実世界に存在するバグのせいだと、説明された。
あぁ、とはならないし、何言ってんだ、ともならない。
妙に、飲み込めてしまった。
まるで簡単な問題なのに、問題自体を読み間違えていたのに気づいたかのような感覚。
そんな不思議な感覚を味わいながらも、妙な運命を感じていた。
とりあえず、知り合いからの紹介ということもあり、信頼はしていたので、説明するだけ説明していたのだが、こうなるとは予想もしていなかった。
「それでは、行きましょうか」
優男さんに促されるまま、私はいつもいっている公園に彼を連れていった。
「ここが…………」
彼はいつも来ている公園……子供たちは赤公園、と呼んでいる公園は、今の時間帯は誰もいなかった。
まぁ、平日に有給まで使って昼頃に彼の元を尋ねたのだ。
いたらいたで、そのいた人の方を不安になる。
「うん、これはやばいな」
目の前の彼は背中を見せながらそう呟いて、私の方を向く。
「それじゃあ、すいませんが、その不思議な現象って、実演していただくことって、できませんか?」
「あ…………はい」
私は、申し訳なさそうにしている彼の顔を見て、嫌々だったが、仕方がなく再現することにした。
公園の入口から2番目に位置するベンチ。
3人がけくらいの大きさのそれの、左端に座り、肘掛に肘をかける。
その後、右手で頬二回を触る。
すると、
「うっ…………」
色相が、反転した。
赤公園と言われる所以である赤いブランコは青色になり地面は黒い色になる。
いつも会社終わりとか、休日にここに来てのんびりするのが好きなのに……。
たまにこうなることがあり、何回か試していったら、この行動でなってしまうことに気づいた。
以外に気持ち悪くなるんだよね……これ。
そう思っていると、急に視界の色相が戻った。
いつもなら30分かかる症状が、こんなにすんなり治ったことに思考が止まりながらも、顔を上げる。
「あ…………れ?」
「はい、ありがとうございました」
そこにいたのは眼鏡を外した優男さん。
眼鏡がない方がイケメンなのに……と思ってしまったが、それより気になることが出来てしまったため、質問する。
「どうやって…………」
「一応、バグった状態を正常に戻しただけです」
そういうと、彼は空中に黒い平面を出した。
そう、あれだ、ゲームとかの左上とかに出てくる、あれ。
「これで、人払いはできました」
私は彼からの話が耳に入ってこなくて、ぼーっとしていると、
「あぁ、これが気になるんですか?」
「あぁ、はい」
私の呆然としている姿に何か笑うポイントがあったのだろう、ふふふ、と笑った彼は、黒い平面をひっくり返して、私に見せる。
「これはですね、実はウィンドウ、と言うんですよ」
「ウィンドウ?」
ウィンドウというと、さっきまで私の考えていた、あのゲームの?
「そうですねぇ……ゲームとかだと、メニューとか呼ばれるものですか」
「あ、それでいいんですか?」
「正確には違うんですけどね……」
苦笑いを浮かべながらこちらを向く姿に、なんだかこれ以上呆然としていることがなんだか恥ずかしくなって、私は立ち上がり、
「それで、私のこれは治るんですか?」
「はい、しばらく時間をくだされば」
正直、治してもらわなくても生活に支障はないことは、分かっている。
しかし、気になることがあるのに、それを無視するのは、なんだか性にあわないし、
「な、何をするんですか?」
目の前に転がっている日常と掛け離れたものに、私は胸の鼓動が跳ね上がるのを隠せなかった。
彼は私をしばらく見る。
なんだかその目は、見たことがあった……。
「じゃあ、少しだけ」
あ、ペットを亡くした時の私の瞳だ。
抗えない何かに対してする瞳。
諦めた、だけど、諦められない。
そんな瞳だった。
「まず、ここに書かれている情報は、ゲームで云うプログラム、です」
私の思考の脱線を彼の言葉が強制的に現実に戻した。
そして改めて彼の手元にある黒いウィンドウを見せてもらうと、そこには白い文字……のような何かが、一面に敷き詰められていた。
「えっと……これは……」
「あぁ、当然ですけど、ここに書かれている言語は、この世界にはない言語です。
読めないのが普通ですね」
見れば見るほど、パソコンを友達に直してもらった時の画面に似ている。
全く読めない、けどそこには確かに手がかりがある、そんな感じのするウィンドウ。
「ここには、世界がどうして世界たり得るのか、ということについて、事細かに、全て書かれています」
なんだかファンタジーの世界のような彼の話に、さっきまでの思考の脱線を忘れてしまうくらいに、ウキウキしてしまう。
「…………そういえば、バグ、といえばどんな状態を思い浮かべますか?」
「えっと…………なんかちょちょっと不思議なことをすれば、強くなれたりアイテムを貰えたりする、みたいな」
「そういう認識で結構です。
あれは、ゲームと世界の中での、許された誤情報なのです」
「許された誤情報?」
「えぇ、ゲームの世界は完璧ではありません。
それこそ、何百人という人数がアップデートや修復をしても、バグは完全にはなくならない」
「…………それが、現実世界にあると?」
「えぇ、世界は時を重ねるにつれ、その情報量も膨大になり、整合性のみを優先した結果、このような不思議な現象が現れます」
彼はウィンドウを少し操作したと思うと、ウィンドウ1面の文字が、整理されていく。
「今回の騒動は……わかりやすい風に言うと…………」
すると、彼はしばらく黙り込んでウィンドウを見つめる。
私は彼の後に周り、ウィンドウを覗いてみると、そこにはさっきよりかなり見やすくなったウィンドウがあったが、依然文字が何なのかは分からない。
「これは、まずこのマップ……この公園内での、色相の数値が存在するんですよ。
そして、さっきやった行動を、あなたがすると、顔がなぜか世界の裏側を見る、という認識をします。
それによって、色相の数値が反転してしまい、色の変わった気持ちの悪い風景を見ることになります」
説明を聞いたが、半分くらいしか理解することが出来なかった。
まぁ、別にわからなければいけないことでもなさそうだったので、スルーしたのだが、彼はは説明を終えてからぼそっと、
「うーん、これは……なんでだ?」
「……っていうのは?」
「いや、バグって結構理由があるんですよね。
たとえば、今回の内容が、このベンチからの風景が、あそこの反対側のベンチからの風景に変わった、とかだと、行動によって位置がずれたと間違えた、とかなんですけど……」
しばらく真剣に考えた彼は、唐突に頭を振り、ウィンドウに手をかざした。
「それじゃあ、直していくんで、しばらく休んでいてください」
その瞬間、1枚だけだったウィンドウが、数十枚と現れる。
そこに次々と書き込まれていく文字。
私は彼の横顔をちらりと見て、これ以上は話しかけない方がいい、と思い、ベンチに座って結果を待った。
「これで終わりました」
「意外に早かったですね」
人払いとか言っていたので、迂闊に動くと迷惑をかけるかと思ったので、黙っていると、1時間くらいで作業は終わったようだ。
「一応、シュミレーションもやっておいたので、万が一はないとは思うんですが……」
と言われたので、私はすぐさま実演すると、
「何も起こらない……」
私は何も起こらないという不思議な感覚に浸ることになった。
「これで、今回の依頼に関しては、完了です」
「あ、はい」
またした、あの目だ。
私は、その後彼に言われて一旦家に帰ることになった。
何故か、彼の見送る姿は、実際の距離より遠く見えた。
世界には、修正力というものがある。
世界が壊れても、直すことが出来る力。
しかし、修正力は少々強引である。
なので、世界にはバグができる。
バグは修正力の生み出した歪な世界。
しかし、それを直すということは、正常な世界に戻るということだ。
当然、世界の構成なんてものも、’知らない’というふうに、修正される。
修正力の効かないもの。
修正が生み出した世界のバグを直す人達。
その人達は、自分たちのことを、世界の妖精……ワールドフェアリー、そう呼んだ




