はち
真子…23歳。3年間魔王討伐の旅をしたのに、元の世界に帰ってまた23歳。
焦げる匂いとバチバチと何かが焼ける音がする。
体の表面から熱くなり違和感を感じて私は目を開けると周りは火の海だった。
自宅が火事になったと思い、急いで起き上がると周りの雰囲気が自宅ではない。
そして一番に目についたのが倒れている男の人だ。
お腹から血を流してうつぶせに倒れている人は一緒に眠りについたはずの蒼斗ではなく、知らない人。
急いでかけ寄り起こすとその男は薄らと目を開けた。
「よ…かた…成功…」
「しっかりして!早くここから出ないと!」
「えい…ゆ…さま…どうか…世界を」
そういうとグッタリとなった。
英雄さま…私はぞわっと鳥肌がたち男をかかえて何とか火の海の家の中から脱出をした。
まわりはどうやら森のようで、空はまだ薄暗い。
森の所々から煙が上がっているようで遠くで悲鳴の様な声が聞こえる。
この空気、この感触…
間違いないココは異世界だ。
お腹から血を流している男はもう息をしていなかった。
私はそっと木の側に寝かせて手を合わせ、ポケットからなにかヒントがないかを調べた。
前に来たときはレケがいたけど、今回はひとりぼっち…
しかし、前回と違ってこの世界を生き抜く力は備わっている。
男の腰に着いていた短剣と身分証明らしいものを拝借して私はとりあえず人が集まりそうな街を目指して、そこで情報収集をすることにした。
状況から考えると、おそらく魔族かそれに属するモノがこの男を襲ったと思われる。
すると…魔王が復活してる可能性が高い。
さらに、この男の身分証明を見て私は顔を歪めた。
王族策士 シュル・サイダー
どうして王族が?
英雄の召喚は伝承された一族にしかできないとなっていたはず。
まーその一族はレケひとりになってしまったから、その子孫だろうか?
ここは何年、何十年、何百年後かもしれない。
そうなると知り合いを頼りにも出来ず、ひとりで勇者と合流!?
前途多難だ…てか、なんでまた私、強制召喚されてるわけ?
いろいろ文句はあるが今は命を大事に暗闇の森に身を潜めて明るくなるのを待つことにした。
日が昇り明るくなると森を降りて河を見つける。
川沿いには大なり小なり町があるのでそこで村人に街を聞けば何とか街までは行けるだろう。
これもレケから教わった事だけど、私はそれを信じて行動した。
しかし、街にたどり着いても人影がなく、静まり返っている。
家を訪ねても誰も出てこない。
生活をしている様子がないのだ。
古びた布や鎌などがあったのでここでもちょっと拝借。
畑は荒れているが所々作物が育って放置されているのを幸いに食糧が調達できた。
鍋や薪もあるのでお湯を沸かして芋など茹でられる食材は茹で常備食にする。
これもレケに教わった知恵だ。
こう考えると一家に一台レケがあればいいと思う。
あまり無茶な行動はせず、ここで一晩過ごして次の日また別の街を探すと同じような光景が続いて少し心が折れそうになりながらも数日間、人をさがした。
海に近づきやっと人がいる街にたどり着いたが酷い有様だった。
路上に死体は転がり、生きる希望がないといった人々がぽつりぽつりと暮らしている。
そして、何処を見ても女がいない。
私は女だとバレると危険と感じ急いで男装して村人に話を聞く。
「あんたそんなことも知りないのか?あぁもう終わりだよ。生きててもしょうがない。昔はここも栄えた港町だったんだがなぁ…あぁなんでこんなことに…」
「ここは…」
「エルダル港だよ、あんた、どこから来たんだい?」
「ま、魔物に襲われて記憶が…」
「そりゃ気の毒に、まぁ嫌な事も忘れれていいかもなぁ。魔王に勇者も英雄も皆やられちまって…希望なんてねぇ」
「勇者が!?あの、いま時代は何年ですか?」
「えっと4536かな」
え!私がいた時からたった10年しか経ってない…
という事は勇者はゼロ!?
「おじさん!もう少し詳しく聞かせて!この蒸し芋あげるから!!」
「おお、助かる」
お腹が空いていたのか、村人のおじさんは芋を皮ごとむしゃむしゃ食べながら教えてくれた。
10年前魔王を倒したがその後すぐに復活した。
それを止めるために再び勇者が挑んだが負けて世界は荒れ放題。
簡単に言えば、そういう事らしい。
なんてこった…私のせいだ…
勇者は死んだと噂になっている。
私は確かめる為にも王都に向かうしかないと思ったがおじさんに止められた。
「いま、王都にいけば死にいくようなもんだ。あそこは魔王の手下が征服している。噂じゃ南のラジャに王族が避難しているらしいが本当かどうか…」
「そうか…ありがとうおいじさん、色々教えてくれて。お礼にこの種芋と豆の種をあげる」
「種芋と豆の種?」
「沢山水をあげて大事に育てれは3倍以上になる、その次は9倍、みんなで育ててお腹いっぱい食べると力も湧いてくる。希望を捨てないで。ね」
私の盗んだ芋と種だがおじさんに託した。
おじさんは少し涙目になり、私に一枚の紙をくれた。
「コレは船の乗船許可書だ、お嬢ちゃんも頑張れよ!」
女だと気が付いていたのか…変装はもう少しシッカリした方が良さそうだ。
私は有難く船の乗船許可書を使い一日一本しかないラジャへの船に乗った。
ラジャはエルダル港よりは少しまともといったぐらいだったが、やはり活気はなかった。
船から降りて街に行くと武装した人が多く、ガラが悪い人々が目につく。
さて、どこから探せばいいのか悩んでいると子供が私にぶつかって来た。
「あ、ごめんなさい」
「…いいけど、それ豆だよ?」
「え?」
薄汚れた服装の子供は蒼い瞳をして驚いた顔をする。
隠している右手に小さな袋を持っており、それは私の腰に掛けていた小銭袋ならぬ豆袋だ。
子供はしまったという顔をして猛ダッシュで逃げて行くのを眺めて私は声をかけた。
「その豆めずらしい豆だから、育ててみなー」
そういえば前の旅の時私は大金をスられた前科がある。
それはもーレケに大叱られして1週間口をきいてくれなかった。
その分、私はお店の皿洗いをして償ったのを思います。
あんな小さな子供もまともに生きていけない世界になるなんて…
10年しか経っていないのなら、ラジャに心強い知り合いがひとりいるので彼を訪ねることにした。
路地裏をぬけ、人通りがすくない通路の小さな店を私は尋ねた。
「こんばんは、誰かいませんか?」
店の中には草や茎、動物の骨などが埃をかぶって並び、もともと汚い店だったので10年前とあまり変わっていなかった。
店の中に数歩進むと天井から大きな箱が私の頭の上に降ってきて直撃を喰らうと私は床に膝をつけて倒れ込んだ。
ウエルカム頭から箱なんて、聞いたことない。
「泥棒め!ここには金目のもんはないぞ!!」
髭を生やしたボロボロのローブを姿のおじいさんはしてやったりと喜び私にひと蹴りを入れる。
私は頭に出来た物珍しタンコブを触り、ついでにフードを下ろす。
「ゲンじーさん…相変わらず元気でよかったよ」
「…は?はぁーーー?はぁぁぁーーー!?」
目が飛び出るのではないかというぐらいの驚いた顔をみせたゲンじーさんは前回旅をしたとき、魔物に襲われていた時に助け、レケが毒で死にそうな時を助けられ、最終決戦前には最高級の回復薬を準備してくれた戦友だ。
ゲンじーさんは私の顔をみてワラワラとふるえて腰をぬかした。
「おまえ…帰ったって、手紙で…お前…」
「帰ったんだけど、また呼び戻されたんだよーまったく誰に文句言ったらいいのコレ?」
「そうかぁ…そうだな…英雄が戻ったのか」
「ゲンじーさん、色々教えて欲しいんだけど」
私は頭を押さえながら立ち上がり、ゲンじーさんを起こすとゲンじーさんは目から涙を流していた。
「神様は我々を見捨ててなかったんじゃな」
「私はその神様に盛大に文句を言いたい」
「はっはっは!!おお、言ってやれ!ここじゃ危険じゃ中に入れ」
いそいそと部屋の奥に連れて行かれるとクスリの調合機器にも埃が溜まっている事に気が付いた。
以前はそこだけは綺麗だったのに…
「…ひどい世界になってるじゃろう?せっかくお前がやってくれたのに…」
「そんな…」
これは私のせいかもしれないなんて言えなかった。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
異世界に突然戻されました。ちなみに補足ですが、英雄召喚の魔方陣は別に一族じゃなくても出来ます。知識を伝書にて受け継がれている設定です。(*´・ω・`)b




